疾きこと風の如く   作:白華虚

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1年以上ぶり。お久しぶりでございます、皆様。

小説を書いて更新することに割くほど精神的な余裕がなかったり、小説書くこと自体がキツイってなってたり、お気に入り増減するわ、評価が赤を保てなくなったことにショックを受けるわで情緒がボロッボロで、全く手をつけられてませんでした。

正直、小説書くのキツイなあ〜ってなってるのは今でも解消しきれてないし、色々と考えながら制作してる上に精神的な余裕がないというのも変わりないので以前の更新ペースには戻せないと思います。申し訳ありません。
不定期な亀更新でもよければこれからもご愛読よろしくお願いします。

今回はいい加減騎馬戦を終わらせろってことで3話一挙更新です。滅茶苦茶長いし、若干グダついてるかもしれませんが楽しんでいただければ嬉しいです。また、これまでのお話もしれっと修正してたりするところがあるので、暇な方は読み直したりでもしていただけたらもっと喜びます。


幕間・壱 騎馬戦の動向・緑谷出久編

『爆豪チーム、不死川チームへのリベンジマッチだ!他の2チーム……常闇チームと轟チームは如何に!?このまま現状維持に甘んじるか、上を求めて目の前の壁を叩き壊すか!!!お前らはどっちだ!?』

 

 プレゼントマイクの実況が、(りん)チームと対峙していた常闇チームの面々に火をつけた。

 困難な状況を前にして冷え始めていたものが、再び熱を帯びていくのを感じる。

 

「言ってくれるやん、マイク先生……!」

 

「このままで終わるなんてロックじゃないよね!」

 

「ああ、言われるまでもない。我らの意思はただ一つ……!」

 

「――ここを突破して、もう一度不死川君に挑む!!」

 

 彼に煽られるような形で、彼らの中に宿る実弥に対する挑戦心が激しく燃えあがった。

 

 少しここまでの戦況を振り返ろう。試合開始早々に実弥チームに攻撃を仕掛けた常闇チームは、引き続き拳藤のいる右翼からの攻撃で攻め続けることを試みた。

 しかし、彼らに続いて猛攻を仕掛けた爆豪チーム、轟チームと実弥チームとの激しい攻防の渦中に飛び込むのはリスクが高いと判断。隙を(うかが)いつつ、自分達に寄り付くチームを迎撃して機会を待つことに決めたのだった。

 虎視眈々と様子見に徹するのも束の間のことで、轟チームと実弥チームが攻防戦を繰り広げている間に(りん)チームの足止めを喰らってしまった。しかし、再び実弥に挑まずして終わることは出来ない。その思いを胸に耐え凌ぎ続け、今に至る。

 

「自分から作戦立案しといて、実質リタイアはないだろ……!物間……!」

 

 常闇チームと向かい合いながら、(りん)は強く歯を食いしばって呟いた。物間の煽りがエスカレートして余計なことを口走った結果、実弥の怒りを買ったのだろうと予想はついている。

 B組全員でA組を出し抜く。その中に、作戦立案者の彼自身がいなくては何の意味もないというのに。

 

「……(りん)氏。私達に、また一つ退けぬ理由が出来ましたな。常闇氏ご一行を何としても足止めしますぞ!」

 

「……おう!」

 

 だが、やるべきことは彼らのリタイアを悔やむことではない。彼らの想いを背負い、B組が勝ち抜く為に貢献することだ。

 毛に覆われた肉体と下顎から突き出た2本の牙が特徴的な荒々しい獣人のようなルックスの少年――宍田獣郎太の声に、(りん)は力強く頷いた。

 

「行きますぞ、常闇氏ぃぃぃ!!!」

 

 宍田が叫ぶと同時に全身に力を入れた。すると、その体格が2倍近くのものへとみるみると膨れ上がっていく。常に体を覆う体毛はより厚く、下顎から突き出た牙はより長く鋭く発達する。

 そして、彼は巨大な獣と化し、常闇チームに猛然と襲いかかった。

 宍田獣郎太。彼の"個性"は――"ビースト"。元の体格の二倍ほどの巨大な獣になり、筋力・聴覚・嗅覚・視力が大幅にアップするというもの。

 ''個性''発動後の彼は高い防御力、攻撃力、機動力を兼ね備えており、かなり強力だ。

 

「猛き巨獣……!奴らめ、秘めし力を解放してきたか!」

 

「要するに、本気になったってことね……!」

 

 百獣の王さながらの闘志を(みなぎ)らせて真っ直ぐ突き進む宍田を見て、思わず息を呑む一同。

 

「どないする!?デク君!」

 

 声を上げた麗日に釣られて、常闇と耳郎も緑谷に視線を送り、彼の指示を仰いだ。

 3人の視線を受け、緑谷は……口角を上げて笑った。額から汗が垂れ、無理矢理に笑顔を作っているようだったが、確かに笑っていた。

 

「大っ……丈夫!何とかする……!してみせる!」

 

 無理矢理な笑顔のまま振り返った彼を見て、3人は顔を見合わせる。苦難を前にしてでも笑おうとするその姿が、少しだけオールマイトに重なる。

 それを自覚した瞬間、瞬く間にきっと何とかなるという不思議な予感が彼らの中に湧き上がってきた。

 

 緑谷を信じて、最後まで全力でやろう。そう心に決めて頷いた直後、即座に指示が飛ばされた。

 

「常闇君、牽制!宍田君を間合いの内側に入らせちゃダメだ!」

 

「……御意!行け、黒影(ダークシャドウ)!!」

 

「アイヨ!」

 

 緑谷の声に従い、常闇は黒影(ダークシャドウ)を己の身から抜き放つ。

 黒影(ダークシャドウ)は、その伸縮自在な影の肉体をフルに活用し、猛進する宍田を迎え打つ為に肉薄した。

 自身の得意とする中距離戦の間合いにターゲットを捉え、漆黒の爪を振わんとするが……。

 

「遅い!遅いですぞォォォ!!!」

 

 迫る黒影(ダークシャドウ)に反応し、宍田は力強く地面を踏みつけた。土煙が舞い上がるほどの踏み込みで、速度が更に上昇する。

 その結果、黒影(ダークシャドウ)の爪は虚しくも空を切った。

 

「ナニッ!?」

 

「ッ、速度が上がった!?」

 

 攻撃を外して硬直する、常闇と黒影(ダークシャドウ)。そして、防御役を兼ねる常闇が動きを止めた。この瞬間を最大の好機として、宍田が迫る。

 

「なら……ウチが!」

 

 無論、宍田の行動を黙って見ている道理はない。その行く手を阻む為に耳郎が仕掛けた。

 条件さえ整えば、鞭の最先端の速度は軽く音速を超えると言うが、彼女はまさに鞭打を繰り出すかの如くコードを振るった。

 

「ぬうっ!?」

 

 車は急に止まれないと言うが、それは加速した宍田に関しても同じことだった。

 地面に向けて爪を立てながらスピードを殺そうと試みるが……彼が停止するよりも耳郎の振るったコードの方が遥かに速度が速く、宍田の顔面に鞭打さながらの一撃が炸裂。

 乾いた破裂音が辺りに鳴り響いた。

 

「し、宍田!?」

 

『耳郎の一撃が宍田の顔面に炸裂だ!……うっわ、痛そう……』

 

 (りん)もプレゼントマイクも、痛々しい破裂音に思わず顔を真っ青にしているようだ。

 鞭、もしくはそれに近しい物の一撃は、人の想像よりも痛みが生じる。物理的な痛みのみならず、精神的苦痛が生じて心が折られるのも不思議ではない。

 流石の宍田もこの痛みは身に(こた)えるのではないかと恐る恐る顔を覗き込む(りん)だったが、その不安は杞憂に終わった。

 

「……中々の威力でしたな。しかし、これしきで倒れるほど、私はやわではありませんぞ!!!」

 

「おおっ……!流石だな、頼りになる!」

 

「き、効いてない……!?」

 

 薄らと顔面にコードを打ち付けられた跡が残ってはいるものの、宍田は平然とした様子で鋭い牙を見せつけるように笑ってみせた。

 平気な様子の宍田を見て、(りん)は笑みを浮かべつつガッツポーズをとり、逆に耳郎は動揺した様子を見せる。

 2倍近くに巨大化したことで発達しているであろう筋肉や厚い体毛に比例し、宍田自身の防御力も高まっているらしい。

 

 ……いや。今回の場合、攻撃を喰らった箇所は顔面で、大した変化は見られない。指摘すべきは、宍田自身の攻撃を耐え得るタフネスだろう。

 本来なら、顔面に攻撃を喰らっただけでも精神的にダメージを受けるはずなのだが……。

 

(こうなったら、肌に挿して直接音波を叩き込むしか……!)

 

(あの様子だと、中の下ほどの火力しか持たぬ黒影(ダークシャドウ)の一撃も通用するとは言い切れない……!どうする……!?)

 

「悪いが、次の手は打たせない!」

 

 攻撃手段をいくつか潰されたことに動揺する常闇チームを他所に、(りん)チームが動き出す。

 宍田が猪の如き勢いで突進する最中、(りん)は露出した両腕に龍を彷彿とさせる緑色の硬い鱗を生成した。

 彼の"個性"は"鱗"。体中に硬い鱗を生成し、それを鎧のように纏わせるだけでなく、弾丸として射出することも出来るというもの。

 

 今回の彼が選び取った戦術は後者。その腕から鱗が弾丸の如く射出された。

 

(鱗による射撃か……!だが、この程度――)

 

「弾き落とせ、黒影(ダークシャドウ)!」

 

 迫り来る鱗の嵐を見るや、常闇は黒影(ダークシャドウ)を使役して爪を振るい、それを弾き落とした。

 攻撃を防ぎ、一安心だと思いきや――

 

「グルォォォオオオ!!!!!」

 

 獅子の如く猛き雄叫びを上げ、宍田が間髪入れず突撃してきた。

 

「何っ……!?」

 

 隙を与えぬ突撃が常闇の動揺を誘う。故に思考が一時的に停止し、咄嗟に反応が出来なかった。

 

「フンッ!!!」

 

「ギャアッ!?」

 

「ッ、黒影(ダークシャドウ)!?」

 

 そして、宍田は常闇が指示を出すよりも前に厚い体毛に覆われた剛腕を振るう。黒影(ダークシャドウ)自身も反応が遅れ、短い悲鳴と共に呆気なく地面に叩きつけられてしまった。

 

『おっと!?常闇の黒影(ダークシャドウ)が地面に叩きつけられ、そのまま押さえつけられた!防御手段が無くなった常闇チーム!無防備も同然だぞ!!』

 

(まずい……!日光の下の黒影(ダークシャドウ)じゃ、単純な増強系の"個性"を持った宍田君のパワーに勝てない……!)

 

 プレゼントマイクの実況を耳に入れつつ、宍田に押さえつけられながらも必死でもがいて拘束から脱することを試みる黒影(ダークシャドウ)を一瞥する緑谷の頬を冷や汗が伝った。

 

 騎馬戦開始前に常闇から聞いた話によれば、黒影(ダークシャドウ)は闇が深ければ深いほど力を増す代わりに制御性を失い、逆に日の光の下であればあるほど力が弱まる代わりに制御性が増すらしい。

 

 時間帯が夜であればともかく、太陽の光が燦々と地面を照らす今は中の下ほどのパワーしか持たないとのことだった。生身の人間と大差ないパワーの黒影(ダークシャドウ)では、生身の人間を遥かに凌ぐパワーを有する宍田の拘束から抜け出すのは不可能と言っても過言ではない。

 

「さあ、これで常闇氏のチームは無防備!今のうちに奪ってしまいましょうぞ、(りん)氏!」

 

「ああ!……悪く思うなよ、A組!俺らも負けられねえんだ!」

 

『B組(りん)、宍田の背中を足場にして跳躍!大胆に攻撃を仕掛けた!』

 

 今こそが好機。最強と言っても過言ではない防御手段を失った常闇チームに(りん)は空中から攻撃を仕掛けた。

 彼が腕に鱗を纏ったのを目にした瞬間、このまま鉢巻を獲られる訳にはいくまいと、緑谷は咄嗟に指示を飛ばした。

 

「麗日さん!僕が出て引きつけるから、常闇君を浮かして!それと、耳郎さんと二人で手を握ってて!そのまま空まで浮いてしまうことがないように!」

 

「わ、分かった!」

 

 そして、間髪入れず耳郎と常闇にも意味ありげな目配せをしつつ「サポートお願い」と小声で呟くと、緑色の稲妻を纏って地面を蹴り、空中に飛び出した。

 普通に騎馬戦をやっていては出てこない発想を実行してのける目の前のライバルに、(りん)は驚愕した。

 

「ッ、騎馬を放ったらかしにして突っこんできやがったっ!?」

 

『常闇を無重力状態にすることで地面に足がつくのを防止するって訳か!わざわざ騎馬の配置を崩すなんざ、普通の騎馬戦じゃあり得ねえが……これはどうだ!?ありなのか!?』

 

「本来ならダメだけれど、雄英の騎馬戦は騎馬が崩れても競技が続行可能!それに、雄英(ウチ)は自由が校風だもの。これくらい受け入れてやらなくちゃ、その名が廃るでしょう!だから、この戦法も……ありよ!緑谷君、中々面白い戦術を見せてくれるじゃない!」

 

『ほ……本当に何でもありだな、おい!しかも好評じゃねえか!だが、主審が言うなら俺達から言うことは何もねえ!!クレバーかつ独特なやり方を思いついた緑谷、(りん)の迎撃に向かったぜ!』

 

 驚愕しつつプレゼントマイクの実況やミッドナイトの判断を聞いた(りん)は、「それもありなのかよ……!」と思わず悪態を()いた。

 

 緑谷は想像を遥かに凌ぐ速度で、閃光の如く(りん)に迫る。一方、鱗を撃ち放って攻めることを画策していたものの、攻撃が間に合わないことを悟った(りん)は、もう片方の腕にも鱗を纏わせ、交差させた両腕で咄嗟に防御の構えを取った。

 

 鱗を纏った(りん)の腕は鎧にもなり、素手で殴りつければ逆に殴った側が怪我をする程の強度を持つ。故に、攻撃するには多少躊躇せざるを得ないものだ。

 

 それで生じた隙を突き、緑谷を叩き落とそうと考えていた(りん)であったが……緑谷は、想定外の行動をやってのけた。

 

(多用は出来ないけど……!このまま足踏みしている訳にはいかないんだ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間出力(しゅんかんしゅつりょく)――15(パーセント)

New(ニュー) Hampshire(ハンプシャー) SMASH(スマッシュ)!!!

 

 

 

 8%の更なる先。瞬間的とはいえ、とうとう2桁に到達した"ワン・フォー・オール"の威力は凄まじく……緑谷が空中を踏みつけると同時に風圧を巻き起こし、彼の小柄な体躯を更に上空へと打ち上げた。

 

「なっ!?」

 

「「「「「おおおおおっ!?」」」」」

 

『緑谷、大気を踏みつけて更に跳ぶ!あっさりと(りん)の上を取った!!!つか……New(ニュー) Hampshire(ハンプシャー) SMASH(スマッシュ)っつったよな!?オールマイトリスペクトか!そもそもお前、いつそんなこと出来るようになった!?』

 

「大気を踏みつけた余波で風圧を!?緑谷少年、いつの間にその域まで……!?」

 

『……ここまでの1ヶ月足らずの様子からは考えられない成長速度だ。あまりにも凄まじすぎるな……』

 

 巻き起こった風圧でガードと体勢が崩され、(りん)は驚愕する。

 それと同時に、オールマイトさながらの芸当をやってのけた緑谷の姿に観客やプレゼントマイクが歓喜に打ち震える。また、オールマイト本人も喜びを感じながら驚きを露わにし、相澤もまた声色だけでは平然とした様子だったが、顔面にぐるぐる巻きついた包帯の下では目を見開き、驚きを露わにしていた。

 

「ぬうっ……上を取られましたか!これはいけませんな……!(りん)氏!すぐにフォローしますぞ――ッ!?」

 

 体勢を崩し、このままでは地面に落下する他ない(りん)の状況を見て即座にフォローに回らんとした宍田。力強く地面を蹴り、空中に飛び出さんとしたが……足が動かない。

 何が起こっているのかと足元に目線を見遣ると、黒く細長い何かが螺旋を巻き、バネのように両足に巻きついていた。その正体は――

 

「こ、これは……!常闇氏の黒影(ダークシャドウ)!?」

 

「その通りだ、猛き獣よ。黒影(ダークシャドウ)を完全に封じたくば……指一本たりとも動かせぬよう鷲掴みにでもすべきだった」

 

「ヘヘッ、ザマァミヤガレ!」

 

 そう、宍田に押さえつけられていたはずの黒影(ダークシャドウ)の腕だ。黒影(ダークシャドウ)は影で生成されているが故に変幻自在かつ伸縮自在で定まった形を持たない。

 そのおかげで体の一部だけでも動かせるのであれば、ある程度の行動は可能になる。その両腕を伸ばして宍田の足に巻きつけ、その動きを封じたのだ。

 

「しかし、この程度の拘束……!私のパワーの前では、大した障害にもなりませんぞ!」

 

「フ……そうだろうな。確かに今の黒影(ダークシャドウ)では、長時間お前を抑え込むのは無理だ。だが……この僅かな時間でも事足りる」

 

「何ですと……?」

 

 不敵な笑みを浮かべた常闇の言葉に宍田が訝しげな様子を見せている一方で、体勢を崩された(りん)は単にこのまま落下しまいと足掻いていた。

 

「くっ……!空中なら、簡単には避けられないだろ!それに、あんな芸当をぽんぽんと連続でやれるとは思えない!せめて、お前を地面に落とす!」

 

 僅かな時間でも良い。それだけでも稼げば、宍田のパワーなら拘束から抜け出せるはず。

 そう信じて、鱗を纏わせた両腕を空中にいる緑谷に向けて構えたその時。

 

「――むっ、(りん)氏!後ろです!」

 

「もう遅いっての!」

 

 耳郎と宍田の声が耳に届くと同時に、頭にあった感覚がするりと無くなった。

 冷や汗がドッと溢れ出し、心臓を鷲掴みにされた気分になった。まるで、自分の大事なものを失ってしまったかのような……。

 

 もっと正確に言えば、頭に何かを巻き付けている感覚が失われた。

 

 そこから答えに辿り着くのは一瞬だった。慌てて頭に手をやり、あるべきものがそこにあるのかを確かめる。

 その結果――やはり、あるべきものはそこになかったと気付いた。

 

「ま、まさか……!?」

 

『常闇が宍田を拘束してフィジカル担当を封じ、耳郎が早業で(りん)チームのポイントを奪取!ナイスコンビネーション!』

 

『緑谷が空中に飛び出し、オールマイト並みの派手な芸当をやってのけたのも、耳郎と常闇から注意を逸らし、自分に向けさせる為だったって訳か。気配感知に優れてでもいない限り、上を取られりゃ背後を取られることを連想するもんだ。そうなると、隙を作らない為に目で追う他ないからな』

 

「アイヤー……鉢巻が狙いだったか……!やらかした……!」

 

 言うまでもない。奪われたものは、自分達の唯一の持ち点である125P。頼みの綱が呆気なく奪われてしまった。(りん)の意識が緑谷に向いているうちに耳郎が背後からこっそりとコードを忍ばせ、目にも止まらぬ早業で頭に巻きつけられた鉢巻を掠め取ったのだ。

 自分があっさり掌の上で転がされたことに(りん)は悔しさを覚え、緑谷のみに意識を集中させてしまったことを後悔した。

 うさぎは目が顔に対して横についている為、360度に近い視野を持っているという。うさぎであれば、自分の背後で起こっていたことにも気がつけたのだろうか。

 

(りん)氏ぃ!!!今救出いたしますぞ!!!」

 

「!」

 

 このまま落下すれば地面に触れて脱落確定だ。事態を避ける為に宍田が行動を開始する。彼が大きく体をねじったのを見た瞬間、意図を察した緑谷は声を張り上げた。

 

「麗日さん、耳郎さん!常闇君から手を離して!()()()()()()()!」

 

「!?ど、どういうこと!?」

 

「デク君が言うんだし、きっと何かあるんだよ!今は指示に従おう!!」

 

「……分かった!」

 

 緑谷の指示を聞くと、麗日は緑谷に意図があると察知し、耳郎は状況を飲み込みきれてはいないものの、とにかく緑谷を信じ、慌てて常闇から手を離す。その直後、宍田は力強く地面を踏みしめると、その場でこまの如く回転し始めた。

 

「ッ!?俺達を……っ、振り払う気か!?」

 

「ウオオオッ!?メ、目ガ回ルゥゥゥ!!?」

 

『何だ何だ!?B組宍田、こまみてえに大回転を始めたぞ!』

 

 麗日の"個性"で自分の服のみの重さになっている常闇は、宍田の回転に乗せて黒影(ダークシャドウ)ごと振り回される。抗う術はなく、されるがままでいる他なかった。

 

 宍田が回転を加えるにつれ、彼の足元に巻き付いていた黒影(ダークシャドウ)の腕がほどけ、拘束が緩んでいく。

 何度も回転を重ねた末に腕を振り抜くと、常闇の体は軽々と吹き飛ばされてしまった。

 

 麗日の"個性"で無重力状態である影響もあって必要以上に体が軽く、吹き飛ぶ彼の状況を例えるなら、空気の抜けた風船のようだった。

 

「ぐああっ!?」

 

「常闇!?」「常闇君!?」

 

『おおっと、宍田が回転を終えると同時に常闇が派手に吹っ飛んだ!』

 

黒影(ダークシャドウ)の腕が巻き付いている方向と同じ方向に動くことで巻き取り、拘束から脱したか。……考えたな』

 

『単なる荒技かと思いきや、しっかり考えてんだな……!常闇チームに負けず劣らず、立派な戦術を立ててるじゃねえか!』

 

 より獣に近づいたからと言って、理性が消える訳でもない。どちらかと言えば、宍田は頭がキレる方だと考えて良さそうだった。

 

「っぐっ!?……すまん、緑谷……!」

 

「気にしないで。……間に合って良かった。大丈夫?」

 

「少々平衡感覚が狂ったが……案ずるな。支障はない……!しかし、凄まじい荒技だった……」

 

「……いや、一見するとそうかもしれないけど……プレゼントマイクも言った通り、しっかり考えられてるよ。やるな、宍田君……!」

 

 常闇が吹っ飛んでいく先に素早く回り込み、彼を咄嗟に受け止めた緑谷は、相澤の解説を耳に入れつつ、目の前に立ち塞がった相手のレベルの高さを改めて認識した。

 

「悪い、宍田……!助かった……!それと、鉢巻()られた……。……すまん!」

 

「お気になさらず!失格にならなければ、いくらでも取り返せますぞ!」

 

 拘束を振りほどいた宍田は、地面を蹴って空中に飛び出し、すかさず(りん)を受け止めて背中に背負った。

 自分の視野の狭さのせいで鉢巻を奪われたことを悔やみ、謝罪する彼を励ましつつ、強靭な足腰で地面に着地する。

 

 すると、その巨体と体重故か、着地と同時に砂煙が舞い上がった。

 それを目にした瞬間、緑谷の脳裏に閃光が迸った。目の前にある壁を乗り越え、更に高い壁に挑む為に思いついた策を実行に移す。もはや、彼の中に迷いはない。

 黒影(ダークシャドウ)の手も借りながら常闇を背中に背負うと、声を上げた。

 

「……常闇君!しっかり掴まってて!」

 

「承知!……何かを思いついた顔だな。お前の選択に委ねよう!」

 

 宍田と(りん)を見据え、覚悟を決めた表情で足元に力を込める。弾け飛ぶ稲妻と共に、緑谷は飛び出した。

 

「……!来ましたな、緑谷氏!」

 

『緑谷が飛び出した!宍田に向けて一直線に向かっていく!』

 

 襲来する緑谷を警戒し、身を低くして構える宍田。剛腕と鋭い爪を振るい、真正面から迎撃せんと試みるが……宍田の剛腕に対し、緑谷は風圧を伴う突きを放った。

 

「ぬうっ!?」

 

 巻き起こった風圧は宍田にとって逆風となり、振るわれた腕の進行を阻むとまではいかずとも、その速度を落とす。

 そして――

 

 

 

DETROIT(デトロイト) SMASH(スマッシュ)!!!

 

 

 

 その拳ですかさず地面を殴りつけ、激しく砂煙を巻き上げた。巻き上がった砂煙が(りん)チームを覆い尽くし、彼らの視界をたちまち塞いでいく。

 

『おいおい、今度はDETROIT(デトロイト) SMASH(スマッシュ)か!盛り上げ上手だな!緑谷、必殺の一撃で地面を殴りつけ、砂煙を巻き上げた!これは……目眩しか!?』

 

「くっそ……!周りがよく見えねえ……!」

 

 辺りを見回すが、視界が不明瞭なことに変わりはない。このままだと常闇チームを逃がすことになってしまう。最悪の事態が頭に浮かび、慌てて周囲を見回す(りん)だったが、対する宍田は冷静だった。

 鋭く尖った牙を見せつけつつ、不敵に笑って(りん)を落ち着かせる。

 

「落ち着くのです、(りん)氏。視覚が働かぬのであれば、別のものを利用すれば良いだけのこと!」

 

「!そうか、その手があった!」

 

 現在の宍田は、"個性"によって様々な感覚が鋭くなっている状況にある。土煙によって視界が働かないのであれば、それ以外の感覚を利用するだけのこと。

 宍田が選び取ったのは嗅覚。犬にも引けをとらぬ自慢の嗅覚で姿を隠した緑谷と常闇の位置を特定しようと考えた。

 

 感覚を研ぎ澄まし、鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ分ける。彼の優れた嗅覚が匂いを捉えるまでに時間はかからなかった。

 二つの匂いが渦を巻くようにして周囲を移動している……。

 

(……捉えた!我々の周囲をぐるぐると回るように移動しているようだが……匂いで貴方達の位置は丸分かりですぞ!緑谷氏、常闇氏!)

 

 彼が捉えたのは、緑谷と常闇の匂い。距離も近く、これなら追撃が可能だと宍田は確信した。

 

「そこですな……!緑谷氏、常闇氏ィィィ!!!」

 

 土煙を引き裂きながら、2人を押さえつける勢いで剛腕を叩きつける。

 しかし……攻撃は外れたようだった。土煙の先には誰もいない。

 

「……外れた!?」

 

(馬鹿な……匂いは正確に捉えたはず!)

 

 手応えが無かったことに動揺し、両腕を振り回して周囲の土煙全てを振り払う。土煙が晴れた先にいたのは――

 

「……引ッカカッタナ!」

 

「――なっ!?」

 

『――常闇の上着と……もう一つは緑谷のハンカチか!2人の持ち物を手にした黒影(ダークシャドウ)、宍田の攻撃を避けた途端、すぐさま撤退していった!』

 

 常闇の体操服の上着と緑谷のハンカチを手にし、悪戯好きの子供のようにニヤリと笑う黒影(ダークシャドウ)だった。(りん)と宍田が目の前に広がっている自分達の予想と違った景色に頭を混乱させ、動きを止めている間に逃げるが勝ちだと言わんばかりに撤退していく。

 

「ッ、アイツら……どこに行ったんだ!?」

 

「……!(りん)氏、あちらを!」

 

「……!?も、もうあんなに遠くにいるのか!?」

 

 慌てて正気を取り戻し、緑谷と常闇を探した。その末、さほど時間を要することもなく2人を見つけたが……彼らは既に耳郎、麗日と合流して騎馬を組み直し、自分達の手の届かない場所にいて、かつ次の獲物へと足を進めている様子だった。

 

「ところで緑谷!風圧出してたけど、大丈夫なの!?」

 

「大丈夫だよ、耳郎さん。今日までずっと低めの出力で体を慣らしてきたから。ちょっと体に痛みが生じるから、多用は出来ないけどね……。でも、まだまだ動ける!」

 

「そ、そうなの?取り敢えず"個性"を使ったらバキバキの大怪我だったのに……。化けたね、アンタ……」

 

「……それじゃ、行こう!不死川君のところに!」

 

「御意。……我らの全てを賭して、奪い取るぞ」

 

「「「おー!!!」」」

 

 次の標的に向けて会話を交わしつつ進んでいく常闇チームを見て、口を半開きにして唖然とする2人。そんな彼らが何も理解出来ていないままなのを哀れだと思ってか、それとも、観客の為を思ってか……。プレゼントマイクは、相澤に対して話を振った。

 

『何が起こったか理解しきれていないオーディエンスもいるだろうし、解説を頼むぜイレイザー!』

 

『……ああ』

 

 話を振られ、状況を見た上での憶測も交えながら淡々と解説を始める相澤。仕組み自体は、一度分かってしまえば単純なことだった。

 

 まずは、緑谷のDETROIT(デトロイト) SMASH(スマッシュ)によって巻き起こした土煙で宍田達の視界を封じることで、視覚以外の選択肢で索敵することを強要した。

 

 次に、緑谷が宍田の「視覚が働かぬのであれば、別のものを利用すればいい」という発言から、宍田が"個性"によって様々な感覚を強化していることを分析、及び五感のうち視覚以外のものを利用してくるであろうことを予測。更に状況を鑑みて、彼が利用するものは嗅覚と聴覚であろうと絞り込んだ。

 

 そして、宍田の嗅覚の鋭さをこちら側が利用することを前提にした上で、常闇と緑谷の匂いが付着している持ち物を黒影(ダークシャドウ)に持たせ、宍田達の周囲を漂わせることで2人がその場にいるのだと錯覚させる。

 

 後は、宍田が索敵に集中している間に撤退し、麗日と耳郎に合流。騎馬を組み直して常闇が黒影(ダークシャドウ)を操作しながらその場を離れてしまえば仕上げは完了だ。

 

『――それと、撤退する際の緑谷の走り方を見て立てた予想なんだが……アイツは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()を習得しているように思えた。他にも要因はあるかもしれんが、それが功を奏して撤退に成功した……といったところか』

 

『おお……!長々と解説お疲れさん。つーか、あの短時間でよくぞそこまで分析と予測が出来たな、緑谷……。頭の回転速度ハンパねえぜ!それに、足音を立てない歩き方ってのも、一体どこで学んだんだよ!?成長の幅がデカすぎる!ていうか、どっちの技術も喉から手が出るほど欲しい!!!』

 

 唖然とする他ない。相澤の解説で答えが判明してもなお、(りん)チームの動きは停止していた。緑谷がほぼ足音を立てない歩法を会得していることが事実だとしても、そうでないとしても関係ない。――因みに、緑谷がほぼ足音を立てない為の歩法を会得しているのは事実である。勿論、その発端は実弥だ――

 宍田には、間違いなく作戦を成功させることになったそれ以外の要因を掴み取られたのだという自覚があった。

 それは、緑谷が結果的に嗅覚を利用する為の策を企てたことと、宍田が嗅覚を利用して索敵するという予測に選択肢を絞ったこと。

 

 宍田自身、"個性"発動時の嗅覚の鋭さには自信があり、"個性"発動時に一番強化される感覚が嗅覚であることも知っている。故に視界が塞がれて索敵を行うことになった途端、迷いなく嗅覚を利用して索敵することを選んだ。

 これが聴覚を利用することを選んでいたのなら展開が変わったのかもしれないし、はたまた、緑谷が聴覚を利用する為の策を企てていても、嗅覚への対策を怠っていたとしても展開が変わっていたのかもしれない。

 

 特に宍田の選ぶ選択肢に賭けるということは、多少の運も必要だ。何せ、他人が他人を操作することなどそうそう出来ることではないのだから。

 勝負は時の運という言葉があるが、強ち間違っていないのかもしれない。間違いなく、緑谷にはそういうことに恵まれている部分もある。

 

「……なあ、宍田」

 

「……何でしょうか、(りん)氏」

 

 (りん)が最初に沈黙を破った。問いかける彼に答える宍田にも、問いかける当の本人にも、心地悪い感覚は微塵もなかった。無論、突破された上に鉢巻を奪われたことが全く悔しくない訳ではないのだが。ただ、その悔しさはとても心地良かった。

 

A組(アイツら)……全力だったよな」

 

「私もそう思いますぞ。緑谷氏、常闇氏、麗日氏、耳郎氏。彼らの必死さに嘘はなかった」

 

 A組の4人が自分達を侮らず、必死で策を絞り出し、ぶつかってくれたこと。それが分かっただけで十分だった。自分達が彼らに侮られてなどいないことが分かって、嬉しかった。

 

「……さて、騎馬戦はまだ終わっていませんぞ!最後まで足掻かねば皆様に申し訳が立たない!」

 

「……そうだな。よっしゃ!もうひと頑張りだ!」

 

 ほんの少しの嬉しさと心地良い悔しさを胸に抱いて常闇チームを見送った(りん)チームは、仕切り直す為に動き始めた。

 

 雄英体育祭第二種目、騎馬戦。残り時間は――4分。




はい。このお話と次の「幕間・弐」はいらないだろって思う方もいると思います。

ただ、これまでのお話で既にリタイアになった物間チーム以外のB組のメンツの動向もチラッとお見せした以上はちゃんと描写した方が良いだろうなと思ったのと、出久君がBIG3や実弥さんとの特訓を経て大幅に成長している上に原作と違って騎馬ポジションで試合中の動向に大きな変化が生じてるのでどうしても外せないなと思った結果がコレですね。
因みにこちらの話と次のお話をまとめて後編として描写しようとしていた馬鹿が私です。

ですが、それをやると信じられない長さになるので分割しました。その結果、実弥さんが全く顔を出さないお話が出来てしまったので幕間という形で投稿してます。

正直、全面戦争編以降で一気に最強クラスまで凄まじい化けっぷりを遂げてる出久君なので、相澤先生をして「俺が知る限り最もNo.1に近い男」と言わしめるミリオ先輩を含めたBIG3の面々と、オールマイト以上の死線を掻い潜り、彼以上の命のやり取りを経てると言っても過言ではない実弥さん相手にしごかれるとこうなるかなと私は解釈しました。
15%による風圧を伴う一撃は連発・多用は出来ませんがやれなくはないって感じ。インパクトの瞬間だけ出力を引き上げるという芸当が出来たり、それより下の出力で十分に身体を慣らしているのでそこまで酷いデメリットはないです。
ほとんど足音を立てない歩法に関しても実弥さん経由で、まあ持っておいて損はないだろってことで特訓中に会得したということで。

解釈違いの方は申し訳ありませんが、私の解釈に対して不快感を抱く前に回れ右をお願いします。この辺の解釈はどうしても人によって違いますし、解釈を述べ合っても平行線辿るままだと思うので。無理矢理私の解釈に合わせて不快になるくらいであれば、各々の解釈を大事にしてくださいね。
幕間・壱は以上となります。
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