疾きこと風の如く   作:白華虚

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幕間・弐ですね。私、轟君アンチという訳ではなくキャラクターとして彼が1番好きです。ただ、今回のお話では轟君が人によっては情けない、あまりにも未熟と思われるようなムーブを見せているかと思います。

そんな轟君は見たくない。轟君のそんな姿を描写することは許さん。そういう方々は回れ右をお願いします。それでも構わないという方々だけお楽しみください。


幕間・弐 騎馬戦の動向・轟焦凍編

『さあ!常闇チーム、鱗チームによる足止めを突破だ!その勢いのまま、不死川チームに向かっていく!上位陣のチームが次々とリベンジマッチを挑みにいくが……未だに足止めを喰らっている轟チームはどうする!?』

 

「くそっ……!」

 

 プレゼントマイクの実況が、轟の中に焦りを生じさせた。

 常闇チームと言えば、轟が宣戦布告した相手である緑谷がいる。目の(かたき)にした相手が大きな試練を乗り越えたというのに、自分はいつまで手を焼いているのか。

 これでは、父親を見返すことなど到底出来ない。呆れられて、炎の力を使うようにより強く催促されるだけだ。

 

「……退()け!」

 

 苛立ちのままに冷気を発し、右腕を振るわんとするが……。

 

「全員を凍らせる気?させないよ!」

 

「ぐっ……!」

 

 轟が行動するよりも前に取蔭のパーツ化した身体がいくつもぶつけられて、その動きを阻害する。

 

 彼女の"個性"は、"トカゲのしっぽ切り"。全身を細かく分割し、自在に動かすことができる。分割させたパーツで何故だか空中に浮くことも可能なようで、他にも身体を小さく分解して物陰に潜んだり、目の周り部分を上空にあげて状況把握・索敵、パーツ化した身体を相手にぶつけて行動阻害・物音を立てて索敵阻害など、多彩な戦法を組み立てることも可能だ。

 

 パーツが轟の身体を乱打している間に、その背後から空中を漂う取蔭の手がそっと忍び寄る。こうして目の前を飛び交う無数のパーツすらも、鉢巻奪取の為に用意された囮だった。

 忍び寄る魔の手。轟はパーツを防ぐのに夢中で気がついていない。このままでは、間違いなく鉢巻を獲られるだろう。しかし、彼は1人ではない。

 

「轟さん!後ろです!」

 

「ッ!」

 

 轟は八百万の呼びかけに応じ、冷気を発した右腕を後方へ向けて振り払う。それに触れて凍らされるのを避ける為に、取蔭は手を退かざるを得ない。

 

「轟さん、しっかりしてくださいまし!」

 

「轟君!君の気持ちはよく分かるが、焦っては相手の思う壺……!俺達は俺達、緑谷君は緑谷君だ!まずは目の前の相手に集中しよう!」

 

「めっちゃイラついてるっぽいけど、一旦落ち着こ?騎手である以上、お前がリーダーだからな。しっかり頼むぜ!……俺達は轟のこと信頼してるからな!」

 

「……ッ、すまねえ……」

 

『同じチームのメンバーのおかげもあって、何とか持ち堪えてる様子だが……B組の怒涛の攻めが止まらねえ!!!轟チーム、凌ぎ切れるか!?』

 

 焦りと苛立ちでミスを見せつつある轟に、八百万、飯田、上鳴が声を掛け合いながら彼をフォローする。

 失態を見せてばかりの自分が情けなく、グッと奥歯を噛み締める轟。その様を目にし、使わない体の部位を引き戻しながら、取蔭は考えた。

 

(周りのフォローで、轟がいつ本調子に戻るか分かったもんじゃない……。崩れてるうちに攻める他ないっしょ……!隙を見せる暇なく、徹底的に攻め続ける!)

 

 考える暇も動く暇も与えることなく攻め続けて、体力と精神力を擦り減らす。そうして生じた隙を突き、あわよくば鉢巻を奪い取る……。

 やるべきことを見定めた取蔭は指示を飛ばす。

 

「皆!畳み掛けるよ!!!」

 

「よしきた!」

 

「おっしゃあッ!この時を待ってたぜェ!」

 

 取蔭の声に、ここぞとばかりに答えるB組の一同。

 

「角取ィ!」

 

「任せて下サイ、鎌切さん!」

 

 緑色のモヒカンと両上顎から突き出した巨大な牙の様な刃が特徴的な蟷螂(かまきり)を彷彿とさせる見た目をした少年――鎌切尖の声に、ブロンドのロングヘアーと頭部にある2本の巨大な角が特徴的な少女――角取ポニーが答える。

 そのまま、彼女は頭部の2本の角を轟達に向けて射出した。

 

「つ、角が飛んできたぞ!?」

 

「……分かってる……!」

 

 射出された角は、一直線に向かいくる。角だけが空中を突き進む光景に驚きを見せる上鳴は、暗に何とかしてくれと訴え、轟は一言だけ返して右腕を構えた。

 迫る角を防ぐ為に右腕を振るい、氷を形成する轟。氷壁で角取の放った角を防ぐことを画策するが……。

 

「ッ!?」

 

 ――突如、角が軌道を変えて、轟の右側と左側に回り込んできた。

 角取の"個性"は、"角砲(ホーンホウ)"。角を最大4本まで飛ばし、自由自在に操作出来るというもの。単純に放つだけでなく、自分の思うままに操作出来るところに彼女の"個性"の強みがあった。

 

「お使いください、轟さん!」

 

「!……(わり)ィ、助かる……!」

 

 反射的に右腕を振り上げて氷を突き立て、右側から迫る角を防ぐ。そして、八百万が創造し、手渡してきた金属の盾で左側から迫る角を防ぎ、弾き落とす。

 角の軌道を操作出来るとなれば、どこから攻撃がくるのか定かではない。周囲の状況に対して警戒を強めていると、今度は彼の正面に形成されていた氷壁が粉々に崩れ落ちた。

 

「ヒャヒャヒャッ!!なかなか切り刻みがいのある氷だったぜェ!」

 

 崩れ落ちた氷の先から姿を現したのは、鎌切。"個性"である"刃鋭"で全身のあらゆるところから刃物を出すことができ、腕から生やした刃で轟の目の前の氷壁を切り刻んだのだ。

 空中にいる様子を見る限り、騎馬から跳躍して攻撃を仕掛けてきたらしい。

 

 居場所が空中である以上は自由に身動きを取れない。轟はそれを利用して彼を足元から凍り付かせようと試み、横一文字に薙ぎ払うように腕を振り払って氷を形成する。

 

「そうこなくちゃあ面白くねェ!!!」

 

『とんでもねえ反射神経で轟の形成した氷を切り刻みやがった!なかなか恐ろしいやつだぞ、B組鎌切!そのまま至近距離に迫った轟の鉢巻を狙っていく!!!』

 

 しかし、鎌切はその場で身を(ひるがえ)し、真横から迫りつつあった氷の波を切り裂いた。

 一時は凌いだが、空中にいることは変わりない。しかも、体勢も不安定。彼を封じるタイミングはここしかないと考え、轟は鎌切の反射神経の良さに固唾を呑みながらも、今度は彼の居場所の真下の地面から氷柱を突き立てることを画策。

 轟が右腕を振り上げると同時に、空気を押し上げるような勢いで氷柱が突き立った。

 

「うおっ!?」

 

 流石に地面の下から氷が形成されるのは予想外だったのか、鎌切は反応が出来なかった。

 このまま氷に飲み込まれ、全身が一気に凍りつくかと思われたが、角取の操作する角が鎌切の下に潜り込み、彼を攻撃の範囲外へと逃れさせる。

 

「ありがとよォ、角取!助かったぜェ!」

 

 まさに間一髪。危機を脱した鎌切は、ホッとしながら角取に礼を言った。

 

『行動不能になりかけたところを角取が救出!ナイスタイミングだったな。こりゃ心強えサポートだ!角だけで人1人を軽く持ち上げちまうなんざ、意外とパワーあんのな!』

 

No problem(お安いごようです)!鎌切さん、どんどんアタックしちゃって下サイ!私達がサポートしマス!」

 

 笑みを浮かべて自分に構わず攻めてほしいという意思を見せる彼女に、不敵な笑みを浮かべて頷き、鎌切は再び攻撃を仕掛けていった。

 そして、他の2チームも彼に続く。

 

「レイ子!」

 

「任せて」

 

「希乃子!」

 

「ここで1人だけ何もしないのはダメキノコだもんね……!やるノコ!」

 

 まずは、取蔭チーム。取蔭の指示に従い、左目が隠れた灰色の髪と目の下の隈が特徴の少女――柳レイ子が"ポルターガイスト"を発動。

 柳は、最大で人1人分ほどの重量の身近にあるものを操れるという心霊現象さながらな"個性"によって、肩に届かない程度の茶色のロングボブの髪と目が隠れているのが特徴の少女――小森希乃子を空中に浮かせ、彼女を自由自在に動かし始めた。

 

「B組の皆も巻き込んじゃうかもしれないけどごめんね……!轟チームをキノコまみれにしちゃいノコ!」

 

 そして、小森は空中を漂いながら"個性"によって、多種多様のキノコを生やせる胞子を撒き散らしていく。これこそが彼女の"個性"、"キノコ"だ。

 撒き散らされた胞子は轟達に降り注ぎ……彼らの体の表面からは次々とキノコが生えてきた。

 

『今度は轟チームの体にキノコが生えてきた!空中を漂う小森に、止めどないキノコの増殖!精神的にも揺さぶりにきてやがる!B組の奴らも何人か巻き込まれちまってるが、お構いなしって様子だ!徹底的に足止めする気だな!?組ぐるみってのは恐ろしいぜ!!!』

 

「キ、キノコォ!?どうなってんだ、これ!」

 

「空中にいる小森君の"個性"ではないか!?そして、空中に浮けるのも誰かの"個性"の影響か……!」

 

「気が散らされる……。放っておく訳にはいかねえか……」

 

「恐らくですが、空中からキノコを生やす為の胞子を降らせていらっしゃるのですわ!……少々お待ちください!殺菌処理が出来るものを創造いたします!」

 

 突拍子もなくキノコが生えるという謎の現象は、轟達に動揺を誘う。胞子が及ぶ範囲は広く、刃物で牽制を続ける鎌切の体や辺りを飛び交う角取の角にもキノコが生えるが、彼らはお構いなく攻め続ける。

 更には、創造を試みる八百万の邪魔をしようと取蔭の腕が彼女を襲わんとする。冷気を発する右腕を振るうことで牽制し、取蔭の腕を遠ざけながら、轟は考えた。

 

(切り抜けるには全員を凍らせる他ないが……障害物競走の時は思ったよりも避けられた。確実にやらねえと、返り討ちに遭う可能性もある。隙を作る他ねえ……!)

 

 今のチームであれば、確実に相手の動きを止められる。八百万と上鳴に加え、自分自身。この3人で相手の動きを止めることは不可能ではないが……いくつか手順を踏まねばならない。その為には、時間が必要なのだ。

 

「……出来ましたわ、皆様!」

 

「ナ、ナイス、八百万!」

 

「これで、キノコの方はなんとか対策出来る……!」

 

 殺菌用のエタノールの創造を終えたことを知らせる八百万の声に喜びを見せる一同。軽く殺菌処理を施している間に、白い液体が彼らの足元に向かって飛んできた。

 

「!飯田、避けろ」

 

「うむ、了解した!」

 

 液体を見るや、飯田のスピードに乗せて、予め履いていたローラースケートのシューズで滑り抜くことでスムーズにそれを避けた轟達。

 

「飯田君のスピードに合わせて移動出来るように工夫してるんだねぇ。ちくしょう、爆豪君のチームには命中したのに……」

 

 それを見た、黄土色の肌と大きい手とがっちりとした体格が特徴的で、顔にある無数の穴から少し液体が垂れた様子を見せる少年――凡戸固次郎は、悔しそうに声を上げた。

 "個性"である"セメダイン"で接着剤のような液体を轟達に浴びせて動きを止めようとしたが、狙いは外れてしまった。

 

 そんな彼にフォローを入れるのは、首元から漫画の吹き出しのようなものが飛び出しているのが特徴の少年――吹出漫我だ。

 

「大丈夫、まだやれることはある!凡戸の策が通じなかったなら、ドドンともう一つの策をぶつけてやればいいんだ!頼んだぜ、小大!」

 

「ん……!」

 

 頷きながら答えた小大は、懐から小さい何かを取り出して轟チームに向けて投げつけた。

 何が投げつけられたのか判別は不可能で、油断なく警戒する轟チーム。その直後――

 

「……大」

 

 小大が一言呟くと同時に、投げつけられたものの正体が露わになった。迫り来るのは、「ズンッ」という超巨大な文字群。トラック並みのサイズを誇るそれが、風を切りながら轟達に容赦なく襲いかかってくる。

 小大の"個性"は、"サイズ"。生物以外の触れたものの大きさを自在に変えることが出来るというもので、予め用意されていた小さな擬音を巨大化させて轟達にけしかけたという訳だ。

 因みに、擬音は吹出の"コミック"によって具現化されたもので、彼は自分の声で発した擬音を具現化出来る能力(ちから)の持ち主である。具現化された擬音は、彼が試合開始前に用意したものだ。

 

「ま、漫画の擬音!?何をどうすりゃ、あんなもんを用意出来んだ!?」

 

「……ッ、チィッ!」

 

 迫り来る擬音を前に、右腕を振り上げて巨大な氷塊をつき立てる轟。重々しい地鳴りのような音を立てながら投げつけられた擬音が氷塊に衝突する。

 結果的には投げつけられた擬音を防ぎ切ることが出来たが、衝撃音は二度、三度と鳴り響いている。氷が砕かれるのは時間の問題だろう。

 とは言え、この間もB組の攻めが途切れることはなく、轟達には一息置く暇すらも与えられなかった。

 

「吹出!あんたらも来たんだ!峰田チームと葉隠チームの方は!?」

 

「ズンッ!って感じの、カッチカチな壁になりそうな擬音を適当に置いてきた!多分、突破には時間かかるから、今のうちにズドドドドって攻めようぜ!」

 

「オッケー……足止めだけでも十分!」

 

 取蔭は、体のパーツを自分の体に戻しつつ、またも射出して……の繰り返しで攻めつつ、状況を確認する。

 小大チームは、数分前まで峰田チームと葉隠チームの足止めを行っていたが、硬質な擬音を壁として配置することで彼らの足止めをそこそこに切り上げ、A組の中でも高戦力になり得る轟チームの足止めに駆けつけてきたのだった。

 人員が増えるだけで、組ぐるみで轟チームを足止めする取蔭チーム一行からすれば儲け物である。

 

『おっと、小大チームまでもが加勢に駆けつけた!足止めを喰らってた峰田チームと葉隠チームは……?』

 

「何これぇ!?漫画の擬音!?しかもめっちゃデカくて分厚いんだけど!?」

 

「ケロ……この足止めは痛いわね……!不死川ちゃんのところにも向かいたいのは山々だけれど……轟ちゃんのチームは大丈夫かしら……?」

 

「他人の心配してる場合じゃねえって!このままじゃ、オイラ達は0Pで脱落だぞ!」

 

「しかも、見るからに硬そうだぞこれ……。どうする……?」

 

 一方で、直前まで小大チームの足止めを喰らっていた、肝心の峰田チームと葉隠チームは、大岩のようなサイズと硬さをした擬音の壁を前に苦戦を強いられているようだった。

 

『……なんか、目の前に置かれた滅茶苦茶でけえ擬音の壁を突破するのに苦戦しているらしい!ありゃあ手強い足止めだぞ!……んでもって轟チーム、周りは敵だらけだ!こりゃあどっちも厳しい状況だ……!残り時間も3分を切りつつあるが、1000万の元へ辿り着けるか!?』

 

「くっそー……戦術が多彩だな……!マジで俺らを不死川のところに行かせねえ気じゃん……!」

 

「プレゼントマイク先生の実況を聞く限り、A組が全体的にB組の足止めを喰らっているようだ……。何とかして突破したいが、助力も期待出来そうにないか……!」

 

「ええ……。この状況、正直に申し上げますと一時休戦してクラスメイトの方々の力もお借りしたいところではありますが……。ともかく、今の私達に残されている道は耐えることだけですわ!」

 

 取蔭と吹出の会話を聞き、思った以上に危機的な状況に置かれていることを認識した轟一行。それはその通りなのだが、轟は飯田達以上に危機感を感じていた。

 

(……ッ、くそッ……!体が思い通りに動かねえ……!こんな時に……!)

 

 体が上手く動かないことを嘆く中、不快な寒さに襲われ、思わず右手に目を落とす。目にした右手は――小刻みに震えていた。

 この短時間で氷撃を連発している影響で彼の右手には霜が降りており、しかも、低体温症を引き起こして寒さで体が震えていた。

 

 普段、クールな一匹狼でさほど感情を表に出さない印象が強いこともあって、簡単に"個性"を連発出来ると思われがちな轟だが、氷撃をデメリット無しで放てる訳ではない。

 実は、"個性"を発動する度に彼の体温が奪われていくようになっている。

 

 判断力も徐々に鈍り始め、はっきり言って轟には限界が近づきつつあった。

 それをなるべく隠そうとしていた彼ではあったがもう隠せるレベルではなく、その震えは騎馬の3人にも伝わる。とうとう、飯田達は彼が震えていることに気付いてしまった。

 

「……と、轟?さっきから震えてね……?どした?寒いのか?」

 

 轟の状況が把握しきれず、心配そうに尋ねる上鳴。彼の震えが寒さ故のものだと仮定し、飯田と八百万は考えた。

 今は5月で人の解釈にもよるが、季節は春にあたる。明らかに寒さで震えるほどの気温ではない。そんな状況で寒さに震えるなど、普通ではないことは確かだ。

 気温で寒さが生じている訳ではないとすれば……?元より頭の良い2人が答えに辿り着くのは簡単だった。

 

「もしや、轟さん……氷を扱う度に体温が低下してしまうのでは……!?」

 

 八百万の問いに知られたくない弱みを知られてしまったかのような表情になって肩を跳ねさせる轟。……図星なのは、(はた)から見ても分かった。

 

「……そうだったのか……。いや、"個性"は身体機能……。筋肉を酷使すれば筋繊維が千切れてしまうのと同じで、酷使によって悪影響が出るのも自然な話だ……!」

 

 飯田の発言に上鳴も納得したような表情を見せた。

 轟のことを何の隙もないエリート中のエリートだと認識していたが、彼とて人間だ。人間には誰しも隙や弱みがあるもの。その弱みや隙をチームである自分達が補い、支えなければならないのだ。

 どうしてもっと早く気付けなかったのかと自分達の考えの浅さを責めつつも、飯田達はそれを再認識した。

 

「……なら、この状態で"個性"連発するのは危なくね!?」

 

「ああ……!八百万君、体を温めるものを創れないか?」

 

「お任せください!……轟さん、気付くのが遅れて申し訳ありません!状況が状況ですので、大したものは創れませんが…………これだけでも多少は寒さを緩和出来るはずですわ!」

 

「……すまねえ……」

 

 轟が騎馬戦前にした「戦闘において、左側の力は絶対に使わない」という宣言を尊重し、使い捨てのカイロを創造した八百万。

 轟は、か細い声で礼を言いながらもカイロを受け取り、上鳴の手も借りつつ、首の後ろ、腹部、背中、腰、足首の五箇所に貼り付けた。――因みに、この五箇所はカイロを貼り付けるのに最も効果的とされている部位である――

 右の力だけで勝ち上がることを誓っておきながら、ここに至るまでミスを連発してきた上にこんな状況に陥っている。他人の手を借りなければ何も出来なくなりつつある自分が情けなさすぎて、その重圧に押し潰されてしまいそうになっていた。

 

 その時……取蔭は、空中に滞在させていた耳を体に戻しながらほくそ笑んだ。

 彼女は、この一連の会話を分離させた耳で全て聞いていたのだ。

 

「……切奈ーっ!轟達にキノコちゃんが生えなくなっちゃった!多分対策されたノコ!」

 

 空中を漂う小森の声が耳に届く。そろそろ、戦術を切り替える頃合いだと判断した取蔭は、声を張り上げて次の指示を下した。

 

「オッケー、報告ありがとう!レイ子、希乃子を騎馬に戻して!それと、鎌切!轟が形成した氷、適当にぶった切りまくって!小石くらいの滅茶苦茶小さいサイズに!ポニー!ある程度のところで鎌切を背中に戻して!んでもって……吹出!擬音で轟の大氷塊を切り刻んで!サイズは鎌切に指示したのと同じくらいね!!」

 

「分かった」「おうよォ!」「分かりマシた!」「任せといて!」

 

「お疲れ、希乃子」

 

「ありがとね、レイ子。空を飛ぶの結構楽しかったノコ!でも……キノコが通用しなくなったのは悔しい!」

 

「いや、轟達を翻弄するには十分だったよ」

 

 取蔭の指示に答える4人。柳は器用に小森を操作して自分達の騎馬まで戻し……。

 

「ヒャハハハハハ!!!こんなに楽しいことはねェぜェ!!!」

 

『鎌切のやつ、角取の角に乗っかってサーフィンしてやがるぞ!お前の体幹の良さにもびっくりだが、なんか楽しそうだな!……絵面はやべえけど!』

 

 鎌切は器用なことにサーフィンボードに立つかのようにして角取の操作角の上に乗り、狂喜的な笑い声を上げながら轟の形成した氷を切り刻んでいく。

 そして、吹出は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ズバババババババァッ!!!!!」

 

 空に響き渡るほどの大声で擬音を叫んだ。すると……その擬音が無数の剣のような形で具現化され、轟の形成した大氷塊をめった斬りにした。細切れにされた氷塊は小さな礫となり、重力に従って轟達に向けて落下してくる。

 

「おわっ!?何だ何だ!?」

 

「……新しい攻撃を仕掛けてくる気か!」

 

「轟さん!盾で頭部を保護してくださいまし!」

 

「あ、ああ……!」

 

 落下してくる小さな氷の礫を避けつつ、地面を滑り抜いてB組一同から距離を取り、轟の様子に目を配りながらも警戒を怠らぬ様子の轟チーム。巨大な氷塊が崩れて状況が大きく動いた為、誰もが彼らの戦況に注目した。

 

『おおっと!?吹出が大声で擬音を作り出して、轟の巨大な氷塊を粉々に斬り刻んだ!よくもまあそんな声量で叫べたな!こりゃあ状況が大きく動きそうだぜ!』

 

『……お前が言うのか。お前の声量も大概だぞ』

 

『確かに!……つか、さっきから何かを殴るような音が聞こえてんだが……何の音だ?まあ良いか!実況に集中だ!』

 

『いや良くねえだろ。スルーしてんじゃねえ』

 

 プレゼントマイクの実況が響き渡る中、取蔭チームは地面に落下した氷の礫のすぐ近くに向けて移動を開始した。

 

「4人ともお疲れ!これで事実上リタイアになった物間も報われるってもんだよ!今は轟が満足に動けない状態っぽいから一気に畳み掛けてくる!」

 

「ゲホッ、ゲホッ……任せた……!ごめん、さっきので喉痛めたかも……。もうドーンとどデカい擬音は無理……」

 

「あんたは良くやったよ、吹出。後は私達に任せて喉を休めてて。……別に恨みはないけど、容赦なくいくからね。レイ子、小さくなった氷を浮かして!轟達が大怪我しないレベルの数でよろしく!角取も角を用意して!」

 

「……任された。ウラメシい一撃、ぶつけてあげて」

 

 そして、轟チームの真正面に立つ位置に移動すると、柳の"ポルターガイスト"を駆使して地面に落下した無数の氷の礫を浮かした。更に、角取の操作する二つの角がそれらに追従するようにして配置されていく。

 彼女達が何を企んでいるか……何も言われずとも理解した。

 

「まさか……あれを全部俺達に向けて撃ってくる気かよ!?」

 

「あの数……耐え切れるのか……!?」

 

 思わず怯む轟チーム一行。いくら氷塊が小石並みのサイズになっているとは言え、投げつけられた小石が命中すれば当然痛みは生じるし、当たりどころが悪ければ致命傷になり得るものだ。

 20は超えているであろう礫がいくつも用意されているのだから、思わずたじろぐのも無理はなかった。

 

「ちょっと怪我するかもしれないけど恨まないでよ!大怪我しないようにするし、当たりどころ悪い所には当てないようにするから……さっ!!」

 

 その言葉と共にギザギザした歯を見せつけるようにして不敵な笑みを浮かべた取蔭は、柳が浮かした氷の礫に自分の体のパーツをぶつけることで、おはじきのようにそれらを射出した。それに合わせ、角取も浮かした角を操作して轟達に狙いを定めて飛ばす。

 

『大量の氷の礫と角取の角が轟チームに向けて騎馬を剥いてきた!安易に氷結を連発したのが、ここにきて仇になったか!?果たして凌ぎきれるのか、轟チーム!!!』

 

 迫る礫を全て捌ききれる訳もなく、せめて視界は潰されまいとして目を瞑る飯田と上鳴。八百万は咄嗟に腕から金属の板を創造し、轟は八百万の創造した盾を構えて身を守らんとするが――

 

「ウオラァァァッ!!!」

 

「いだだだだっ!?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が聞こえた。

 

『!?あ、あれは……!葉隠チーム!?まさかの身を挺して轟チームを守った!?』

 

「う、嘘でしょ!?」

 

「「「!?」」」

 

 なんと……葉隠チームが轟チームの前に立ち塞がり、氷の礫を代わりに受けたのだ。

 

「お、思ったよりも痛かった……」

 

「は、葉隠さん!?大丈夫なのですか!?」

 

 葉隠の状況を見て、慌てた様子で声を掛ける八百万。それもそのはず。葉隠は半分本気を出した状態で上着を脱ぎ捨てている。つまり、服を着ていない素肌の状態であの礫を受けきったのだから。

 自分を気にかける彼女の言葉に、葉隠は他の誰にも視認出来ない顔で満面の笑みを浮かべながら答えた。

 

「大丈夫!砂藤君が頑張って大半を弾き落としてくれたし!それに……皆が本気で頑張ってるんだしさ、これくらい体張らないと!私だってヒーロー志望だもん!」

 

「そういうこった。俺達だって立派なヒーロー志望。甘く見てもらっちゃ困るぜ!」

 

 そして、砂藤が屈託のない笑みを浮かべると同時に、彼女はむんっと胸を張ってみせた。口田も「心配ないよ」と言いたげにコクコクと頷いてみせる。

 

 更に――

 

 

 

テンタコルパンチッ!!!

 

 

 

『み、峰田チームの障子まで参戦!?小大チームの妨害を突破して、ここまで駆けつけてきたのか!?つか、角取の角を拳で砕きやがった!なんつーパワーだ!』

 

 触手の先に腕を複製し、まるで阿修羅のような形相になった障子も現れ、片側ずつ……計3本の腕をタコの触手の如く振るい抜き、角取が操作していた2本の角を両方とも殴り砕いた。

 

「Oh!?私の角が!?タコは苦手デース!!」

 

「よっしゃあ!流石だぜ、障子フルアタックモード!」

 

「……勝手に名付けるな」

 

 突然のことで思わず悲鳴を上げる角取と、気の抜けたやり取りを交わす障子と峰田。

 動揺しているのは誰もが同じことで、上鳴が尋ねた。

 

「障子に梅雨ちゃん、峰田まで!?すっげえ助かったんだけど……お前ら、妨害喰らってたはずじゃねえの!?てか、鉢巻ねーじゃん!どうした!?」

 

「驚いてるのね、上鳴ちゃん。けれど、私達のやったことはとてもシンプルよ。それと、鉢巻に関してはいつの間にか奪われちゃったわ。峰田ちゃんにしてはいい作戦だと思ったから組んだのに……」

 

「し、仕方ねえだろ!オイラもよく分かってねえんだから!」

 

 上鳴の問いに答えた蛙吹曰く、吹出が具現化させた擬音を文字通り、殴り壊してきたらしい。

 砂藤の"個性"は"シュガードープ"。糖分10gの摂取につき、3分間だけ通常時の5倍の身体能力を発揮出来るというもの。――勿論、個性発動時に必要になる糖分はその場で摂取が必要になる為、角砂糖を持ち込めるように事前に申請しておいた――

 彼が"個性"を発動することで得た超パワーに加え、障子が腕を複製することで得たパワーを利用し、擬音の一点を連続で殴りつけて風穴を開け、何とかここまで辿り着いたのだとか。

 実況の途中でプレゼントマイクが耳にした何かを殴るような音は2人の行動が原因だったという訳だ。

 因みに本人達は知らないが、峰田チームの鉢巻に関しては不意を突いて泡瀬チームの塩崎が奪った。

 

 閑話休題。

 どうやって妨害を突破してきたのかを聞き、轟達は、障子が個性把握テストの種目の一つ、握力の測定で3番目に高い数値を叩き出したことを思い出した。

 普段は索敵で味方のサポートをするイメージが強いが、彼とてその種目で540kgというゴリラ並みの数値を叩き出した男。彼もまたA組屈指のパワーファイターであることに違いはないのだ。

 

「……俺もパワーには自信があってな。使い方によっては増強系にも負けはしないと自負している」

 

「……ああもう……!完全に見落としてた……!」

 

 障子の発言に冷や汗を流し、思わず悔しげに歯軋りをする取蔭は、浅はかな考えをした自分を呪った。彼女……いや、B組の中では逸脱した超パワーの持ち主は緑谷と実弥の2人だけであるという認識だった。

 

 それもそのはずで、B組は障害物競走の中で後ろの順位に留まり、A組の面々を観察することでようやく彼らの"個性"を知った。障害物競走の中で砂藤は"個性"を発動する様子を見せなかったし、障子も"個性"の使用を見せたのは最終関門のみで使用用途は主に地雷を探ることだった。

 

 砂藤には、"個性"の使用時間が3分を超えたり、それ自体の過度な使用が原因で脳機能が低下して凄まじい眠気や倦怠感に襲われるという大きなデメリットがあるし、障子も障子で第一関門の0P以外の仮想(ヴィラン)達を腕の複製がない生身の状態でも撃破出来るほどのパワーの持ち主である為、前者はあの段階で"個性"を使用するメリットが全くなく、後者は戦闘の方面に"個性"を使用する必要がなかった。

 

 見てもいないことから正確な答えを掴み取るというのは到底出来ないことである為、B組がこの2人も常軌を逸したパワーの持ち主だということを見落としてしまうのは無理もない話。

 

(やばい、A組がどんどん集まってきてる……!孤立した轟を徹底的に足止めするつもりだったのにこれじゃ……!)

 

 取蔭は、試合開始前……拳藤を誘いにきた実弥の発言から、A組は全体的に上昇志向が強い傾向にあると考え、間違いなく高みを目指して真っ直ぐに突き進み、例え級友が孤立していたとしてもわざわざ手助けするようなことはしないと思っていた。

 

 しかし、蓋を開けてみればどうだ。全然そんなことはなく、轟チームのピンチに対して迷いなく駆けつけてきたではないか。考えから根底が崩れ去り、取蔭は尋常じゃない焦りを感じ始めた。

 B組の面々は搦め手の"個性"が多めな光景にある。純粋なパワーや驚異的な身体能力に真っ向から対抗出来る"個性"の持ち主はそういない。

 強いて、希望があるのだとしたら……。

 

「取蔭氏!皆様方ァァァ!!助太刀に参りましたぞォォォ!!!」

 

「悪い!鉢巻は()られた……!だが、俺達は最後までB組の為に貢献する!」

 

「宍田!」

 

『宍田と(りん)が再び参戦!鉢巻取られて絶望的だってのに、立ち直りが早えな!だが前向きなのは良いことだ!』

 

 まさに噂をすれば……というやつで、声を張り上げながら(りん)を背中に乗せた宍田がやってきた。

 宍田もまた、シンプルな増強系の持ち主。彼ならば砂藤や障子の超パワーに対抗出来るはず。ほんの少しだけ希望が見えてきた……そう思った瞬間だった。

 

「――SMASH!!!」

 

「……え?」

 

 戦場に飛び込んできた緑色の閃光と、平和の象徴を彷彿とさせる気合の一声によって、消え去りつつあった取蔭の焦りはあっという間に復活してしまった。

 

「み、緑谷氏!?」

 

「……は!?何で!?お前ら、不死川のところに行ったはずじゃ!?」

 

「……み、緑谷……!?」

 

『……ん?あれぇ!?緑谷!?お、お前……なんでここにいるんだ!?俺の記憶が確かなら、不死川チームのところに向かってたはず……』

 

 B組の面々に駆けつけた宍田と(りん)にとっては完全に想定外の事態で、2人は目をひん剥かんばかりの驚きを見せた。クラスメイト達が次々駆けつける状況に呆然としていた轟も緑谷の名前を聞くや、すぐさま意識を揺り起こし、プレゼントマイクは困惑した。

 

『ったく……非合理的な奴らだ』

 

 ため息混じりに言った相澤に「どゆこと?」と尋ねるプレゼントマイク。彼は、分かりきった様子で答えた。

 

『大方……孤立してピンチに陥っていた轟チームを見捨てられなかったんだろ。駆けつけてきた奴ら全員そうだ』

 

 呆れるように呟いているものの……その声色はほんの少しだけ嬉しそうだった。

 

「デクくーん!轟君達は無事!?」

 

「もう!勝手に1人で行かないでよ!びっくりするじゃん!」

 

「しかし……これでこそヒーローたり得るというものだ」

 

「うん!大丈夫!無事だよ!!勝手な行動して本当にごめん!!!それと、僕の我儘に付き合ってくれてありがとう!!!」

 

 真っ先に1人飛び出してきたのか、後から駆けつけてきた麗日達に手を振りつつ緑谷は答える。

 何故、こうまでして孤立した自分を救けにきたのか。訳も分からぬまま、轟は尋ねた。

 

「お前ら……何で……?」

 

 数秒の沈黙の後、きょとんとしていた葉隠が笑みを浮かべ、当然のように答えた。――勿論、彼女の表情は他人から見えないのだが――

 

「だって……轟君、1000万()りたいんでしょ?なら、誰かが囮にならなきゃ!」

 

 当然のように答える彼女に、轟は唖然とする。続けて障子が答えた。

 

「……余計なお世話かもしれないが、お前達が孤立しているのを見ていられなくてな。無性に手を差し伸べたくなった。……境遇、経緯こそ違うが、孤立する痛みは俺もよく知っている」

 

 憂いを帯びた瞳になりつつ、彼はグッと拳を握った。更に緑谷も続く。

 

「……たった1人でB組の人達に囲まれてる君を見てたら、勝手に体が動いてた。どうしても救けたくなっちゃったんだ」

 

 彼に続き、耳郎が苦笑いを浮かべつつ言った。

 

「聞いてよ。緑谷さ、自分も勝ちたい上に1000万を狙ってるくせに、轟達のこと救けたいって言って飛び出していってさ……自分からライバル増やすようなことしてんの」

 

「とは言いつつ、耳郎さんも迷わずついてきてくれたもんね!」

 

「う、麗日!余計なこと言わなくて良いから!」

 

「つまり……俺達3人も己の意思でここに来たという訳だ」

 

 少し申し訳なさそうな緑谷を見てクスッと笑いつつ、今度は蛙吹が言った。

 

「あら?それを言ったら、障子ちゃんだって必死だったわ。『どうしても見捨てたくないから』って」

 

「しかも、脱落覚悟の上でオイラ達に『付き合ってくれ』って言ってきたんだぜ?」

 

 当の本人は、峰田のわざとらしく呆れ返ったかのような発言に言葉に詰まったかのような様子を見せ、少々気恥ずかしそうな様子だった。

 そして、砂藤が笑みを浮かべつつ言った。

 

「葉隠も『轟君はこんなところで脱落して良いような人じゃない』だってよ。まあ……俺達だってライバルとは言え、クラスメイト見捨てる訳にはいかないしな!……峰田に関しちゃ、多少下心ありそうだけどな」

 

「ちょっ!?ひでーな、おい!」

 

 砂藤の発言に「えへへ……」と小声で呟きつつ、照れた様子を見せる葉隠。

 もはや、理屈じゃなかった。自分達の状況を捨て置いて困っている人に手を差し伸べてしまうお人好し故の行動だった。

 直後、緑谷はその力強い双眸で轟の瞳を射抜きながら語りかけた。

 

「……轟君。僕や不死川君に勝つんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……諦めるなよ!まだ勝負は終わってない!」

 

「ッ……!」

 

 緑谷の喝に、轟はハッとしながら俯き気味になっていた顔を上げた。……目の敵にしている相手にまで発破をかけられた。

 

 ――情けない。本当に情けない。だからこそ……こんなところで立ち止まっている訳にはいかない。今まで見せてきた失態の数の分、取り返さなくては。

 

(敵に塩を送って……何がしてえんだ、お前は……!だが――)

 

「……言われるまでもねえ!俺は……お前にも、不死川にも……勝つ!!!」

 

 情けなさに押し潰されかけていた轟の目に、闘志が戻った。

 心に募っていた暗いものを拭い去り、やる気を漲らせた轟を見て、飯田達も安心した様子だ。

 

『これは……A組とB組の大激闘になるか!?喜べ、オーディエンス!お前ら好みの展開だ!!!』

 

 対峙するA組とB組。互いに一歩も譲らないと言わんばかりの状況に、会場は沸き立った。青空の下、天高く観客の歓声が響き渡る。

 

「ッッ……もう!私ら、しっかり敵として見られてんじゃん!必要以上に目の敵にしてた自分達が恥ずかしいんだけど!?……やるよ、皆!!!」

 

「「「「おう!」」」」

 

『取蔭の声を合図にB組、総攻撃を仕掛ける!対するA組はどう出る!?』

 

 物間の作戦に乗っかってA組を必要以上に恨めしく思っていたことが恥ずかしくなった取蔭は、ヤケクソ気味に声を張り上げて叫ぶ。

 彼女の叫びに答え、B組の面々が一気に押し寄せてきた。

 

「一気に敵さんが来やがったぜ……!」

 

「とは言え……この数だ。数による不利な状況は緩和したが、これを突破するのは簡単じゃないぞ」

 

 飯田の言葉に息を呑む一同。真っ先に沈黙を破ったのは……緑谷だった。

 

「いや……準備さえ出来れば簡単だよ」

 

 緑谷の発言に思わず振り返る一同。周囲の視線を受けながら、彼は続けた。

 

「僕らは何とかして時間を稼げば良い。八百万さんが創造する為の時間を。その為に揃えたメンバーでしょ?……轟君!」

 

 緑谷の問いに無言で頷く轟。その意味を数秒考えるが、彼の騎馬のメンツを見れば答えは明白だった。

 

「……成る程な。お前の言いたいことは理解したぞ、緑谷。だが、一つだけ訂正させてくれ」

 

 歩み出る障子の発言に疑問符を浮かべる緑谷。彼の意図を察し、砂藤が言った。

 

「お前の言いたいことは分かったぜ、障子。……足止めをすんのは、俺らと障子のチームに任せとけ。お前も轟達と一緒に()りに行ってこいよ、1000万!」

 

「え……!?で、でも……!」

 

 砂藤の提案に緑谷は思わず言い淀む。轟チームと常闇チームが離脱するとなると、こちらが2チームになるのに対し、向こうは4チームで2倍のチーム数。A組側が圧倒的に不利になることに違いはないのだが……。

 クラスメイトを見捨てるような選択を取りたくなくて迷う緑谷に、どこか邪な笑みを浮かべた峰田が言った。

 

「心配すんなよ、緑谷ぁ……!足止めだけに関しちゃ、オイラの"もぎもぎ"は役に立つぜぇ……!」

 

 峰田の"個性"、"もぎもぎ"は他人や物にくっつき、自分に対してはくっつくことなくブヨブヨと跳ねる特殊な性質の髪の毛にこそ真価がある。その髪の毛を投げつけて適当に地面にくっつけてトラップにしておけば、確かにその脅威性は凄まじい。

 それでも、この場を任せて実弥の元へ向かうか、加勢を続けるか。二つの葛藤に苛まれる緑谷。邪な笑みを浮かべた峰田にジト目を向けつつ、蛙吹が言った。

 

「緑谷ちゃん、『本気で獲りにいく』んでしょう?こんなところで立ち止まってほしくないわ。……轟ちゃんを前にして堂々とあんな風に言った貴方は……かっこよかったわよ。だから、見せてほしいの。本気で獲りにいく緑谷ちゃんを」

 

「不本意だけど……オイラもお前のこと応援してるぞ、緑谷!オイラ達の分までお前に託すぜ!」

 

 そう言って微笑んでみせる蛙吹と、ウインクしつつ白い歯を見せて笑いながら、サムズアップしてみせる峰田。

 彼らに続いたのは、葉隠だった。

 

「それにさ、緑谷君。私達は()()()()()()()()()から怖くない!緑谷君達が鉢巻を()られるリスクを冒すよりはずっと良いよ!」

 

 状況や戦況的に言えば、葉隠の言うことは妥当だった。しかし、緑谷は理屈を抜きにしてどうしても迷いを捨てきれない様子だ。

 そんな彼の背中を押したのは――

 

「……ここは梅雨ちゃん達に任せて、私達も行こう!デク君!」

 

 麗日だった。覚悟を決めたかのような表情で、彼女は続ける。

 

「みんなの託してくれた気持ちを無駄にしない為に……私達が勝たなきゃ!みんなの思いを背負って、私達が先に進まなきゃ!!」

 

 彼女の言葉に緑谷はハッとした。

 

 ……託されたものを胸に前へと進む。その様はまるで想いと力を託し、後世へと繋いできた"ワン・フォー・オール"のようだった。

 自分は何があっても前に進まなければならない。峰田チームと葉隠チームの思いだけでなく、前提として同じチームを組んだ3人の思いも背負っているのだから。

 

「…………うん!みんな、ここはお願い!!!」

 

「……飯田、前進。俺達も行くぞ」

 

「……ああ!!」

 

 ようやく覚悟が決まったのか、緑谷は振り返らずに駆け出した。そのままチームに合流して騎馬を組み直し、突き進んでいく。

 轟チームも同じくして実弥の元へと突き進む。

 

『これは……常闇チームと轟チームが背中を任せ、葉隠チームと峰田チームが足止め担当!?数的には圧倒的に不利だぞ……!これはまずいんじゃないか!?』

 

 状況的に言って、不安がある様子のプレゼントマイクだが……。

 

『……いや、そうでもないぞ』

 

 相澤は彼の意見を否定した。プレゼントマイクは彼の発言に疑問符を浮かべるが、相澤は淡々と続けた。

 

『失うものがない奴ってのは……ある意味強いからな』

 

『……!そういうことか……!』

 

 騎馬ごと距離を詰めながら、B組側が再び数の有利を取れたことでほんの少し希望を取り戻し、取蔭は薄く口角を上げた。

 

「こっち側は4チーム!あんた達は2チーム!数的にはそっちが圧倒的に不利だけど……止められるの!?」

 

 そして、A組側の不安を煽るかのように取蔭は言い、分離させた体のパーツを一気にけしかけた。それらを振り払った腕でパーツを次々とはたき落としつつ、障子が言った。

 

「……忘れていないか?俺達には失うものなどないことを!」

 

「……つまり、何も恐れることなく立ち回れるってこった!!行くぜ、口田!ついてこい!」

 

 障子の発言を引き継ぐようにして砂藤が闘志全開な様子で叫ぶ。彼の呼びかけに口田も頷いて答え、走り出した。

 

「おりゃぁぁぁあああ!!!」

 

『葉隠が滅茶苦茶叫んでる!そして、砂藤と口田が足となってB組の道を遮るように駆け回る!!葉隠に関しては、絵面だけじゃ何やってるか分かんねえな!何せ見えねえし!実況者泣かせだぜ!』

 

「くっそ……邪魔すんじゃねェ!こうなったら俺が――」

 

 葉隠が透明人間であるが故に目で見て行動を確認出来ないが、彼女はがむしゃらに腕を振り回しているだけである。道を遮るように駆け回る葉隠チームが煩わしく、鎌切が飛び出そうとするが……。

 

「……待った!下手に手を出さない方がいい!A組の方も私らも葉隠が何をしてるかはまったく把握出来ないんだから!」

 

 取蔭はすかさずそれを制した。上着を脱ぎ捨てているが故に彼女のリーチは全く不明。仮に彼女が攻撃を仕掛けてきたとして、どう考えても対処は不可能だし、これが鉢巻を奪い取りに来ようものならたまったものじゃない。

 本人もそれを自覚しているのか、すかさずB組を煽るようにして言ってのけた。

 

「ふっふっふー……!どうしよっかなー?このまま皆の鉢巻も奪っちゃおうかなー!」

 

 鉢巻を持っている以上、それを守ろうとする心理が働くのは当然のこと。かと言って、こちらから攻撃を仕掛けて葉隠チームを撃退しようとしても手が出しにくい。歯痒い思いをして、攻めあぐねる他なかった。

 

「言ってくれますな……!しかし、じっとしていても状況は動かない!仕掛けさせてもらいますぞ!!!」

 

「ちょっと宍田!?もうちょっと慎重に――」

 

「あれはテンション高くなっちゃってるから、もう止められないノコ……」

 

 取蔭が宍田を止めようと試みるが、その声も聞かずに彼は背中に乗せた(りん)と共に攻撃を仕掛けんとして飛び出していってしまった。ここにきて、彼の"個性"発動による気分の高揚がデメリットとして表れてしまう。

 

「宍田君が来た!」

 

「ここは迎撃するしかねえ!ウオラァッ!!」

 

「ぐうっ!?」

 

『攻撃を仕掛けてきた宍田を砂藤が蹴りで迎撃!宍田、たまらず後退させられた!』

 

 突進してきた宍田に対し、5倍に増した身体能力で蹴りを放つ砂藤。身体能力が5倍に跳ね上がっているだけあって、その威力は凄まじく、"個性"を発動している影響で彼を上回るほどの巨体になっている宍田を後退させた。

 交差させた両腕で蹴りを防ぎ切ったものの、宍田は土煙を上げながら地面を滑るようにして後退させられてしまう。その腕には確かな打撃の重みと痺れが残っていた。

 

 宍田が動いたのを確認すると、障子は駆け出した。計6本の腕を触手の如く振り払い、未だに自分の周囲を飛び交う取蔭のパーツを叩き落としながら宍田の元へと肉薄する。

 

「オイラの髪の毛はよくくっつくぜ!こっち側に来れるもんなら来てみろよぉ!」

 

『峰田が髪の毛を次々と地面に向けて投げつけていく!峰田の髪の毛はアイツ自身以外にはとんでもねえ粘着力を発揮してくっつくぞ!これは、流石のB組も下手に動けない!』

 

 駆ける障子の背中の上で峰田が髪の毛をもぎ取っては投げ、もぎ取っては投げてを繰り返し、B組の行く手を阻むかのように地面に大量のそれをくっつけていく。これで足と地面がくっついて行動不能になろうものなら、確実に詰みだ。

 それを理解しているが故、下手な行動はしたくない。B組の足が止まるのも当然の心理。

 更に、蛙吹が砂藤と障子に声を掛けた。

 

「砂藤ちゃん!そのまま宍田ちゃん達を引きつけて!……作戦通り行きましょう、障子ちゃん」

 

「任されたっ!」

 

「ああ!」

 

 蛙吹の指示に答え、引き続き攻撃を仕掛けてくる宍田を蹴りで相手する砂藤。宍田が彼に手をこまねいているうちに、障子は自分の拳の届く距離に彼を捉え――

 

「フンッ!!!」

 

「どりゃあっ!!!」

 

 砂藤が蹴りを繰り出すタイミングに合わせて、己も拳を繰り出した。

 

「っ!?」

 

 流石の宍田も同時に攻撃を繰り出されては対処のしようがないらしく、2人の打撃を受け止める他なかった。

 攻撃を受け止めて宍田の動きが止まった隙に、蛙吹がすかさず動く。

 

「砂藤ちゃん達はB組の皆の妨害に戻ってちょうだい。峰田ちゃんの罠を乗り越えてくる可能性はゼロじゃないから」

 

「分かった!もうひと暴れしてくるぜ!」

 

「こっちは頼んだよ、梅雨ちゃん!」

 

「ええ、任せて。……それと(りん)ちゃん!ごめんなさいね!」

 

「へ!?……うおっ!?」

 

 葉隠チームに指示を出して彼らを送り出すと、蛙吹は(りん)に舌を巻きつけて拘束した。

 すると、彼女の突然の行動に、(りん)は肩を跳ねさせてギョッとし、思わず頬を紅潮させてしまった。

 

(あ、蛙吹の舌が……!)

 

『障子が宍田の足止めを引き続き担当し、蛙吹がご自慢の舌で(りん)の動きを封じた!てか、(りん)の奴、顔を赤くしてドギマギしてんだけど!ウケる!』

 

 プレゼントマイクが(りん)揶揄(からか)っているが、仕方のない話ではある。舌を巻きつけてきたのは単なる蛙ではなく、蛙吹梅雨という蛙の"個性"を持った1人の少女なのだから。

 舌を巻きつけられている当の本人の鼓動は、激しく高鳴っていた。

 

「はあっ!!!」

 

「よっしゃ、命中だぜ!ナイスだ障子!」

 

『A組障子、腕を振り払って宍田に何かを浴びせた!何かの液体のようだが……何だありゃ!?』

 

 蛙吹が(りん)を硬直した直後、障子の振るった腕から何かの液体らしきものが飛び散り、宍田に浴びせられた。

 宍田が得体の知れない液体を交差させた腕で何とか防ぎ、反撃に移ろうとしたその時。

 

「っぐ!?体が、動かない……!?」

 

 体全体に痺れのようなものが走り、自分が指一本たりとも動かせない状況にあることに気がついた。

 

「宍田!?どうし……っ!?何だこれ……体が痺れて……!?」

 

 見る限り、次の動作に移ろうとしない宍田を疑問に思い、(りん)は拘束を振りほどこうとするも、彼もまた体が動かない状況にあることに気がついた。

 確かに蛙吹の舌を巻き付けられている為、動けないのは当然ではあるのだが、そんな状況で体の痺れが生じることはあり得ない。

 故に何らかの新たな要因で痺れが生じ、それが体の自由を更に奪っているのだと察するのは簡単だった。

 

 障子との距離が空いたことで、ここで初めて気がついた事がある。彼の腕……複製したものを含む全てが、ぬらりとした不気味な輝きを放っていた。

 動きを封じた要因がそのヌメヌメした液体であることは簡単に察しがついた。

 

「……蛙吹の粘液だ。それを浴びせることでお前達の行動を封じさせてもらった」

 

「そういうことよ。毒性だから、ちょっとピリッとするでしょうけど……ごめんなさいね」

 

 「蛙吹の粘液を浴びられるなんて……!ズリィぞ、お前ら!」などという欲望の声を発するも、すぐさま蛙吹の舌によるビンタを喰らった峰田はさておき。緑谷達に引き続き、自分達はまたしてもしてやられたのだと思うと、悔しくて仕方がなかった。

 

『奮闘虚しく、呆気なく制圧……なんて思ってたよ、さっきまでは!葉隠チームと峰田チームの奮闘っぷり凄えな!失うものがない奴が強えってのは本当らしい!!』

 

 たった2チームに4チーム分のメンツが足止めされているというのは、にわかには信じがたい事実なのだが、彼らは確かに十分な足止めを担ってくれている。まさに、彼らの意外性と秘めた底力が発揮されている状況で誰しもが驚いていた。

 

 そして、彼らの奮闘の甲斐あって、轟チームの準備が整った。

 

「……いつでもいけますわ、轟さん!」

 

「……分かった。引き続き伝導の準備を頼む」

 

 八百万の腕から何かが顔を覗かせ、轟はそれを引き抜く。彼の手に握られていたのは、人1人を覆えてしまうほどの大きさをしたシートだった。

 引き続き、轟は上鳴に対して指示を飛ばしていく。

 

「上鳴」

 

「おっしゃあ!待ってましたァ!……しっかり防げよ!!!本命はこの後に控えてるから、1発目は抑えめにいくぜ!!!」

 

 果たして、策が成功するのか否か……。その緊張故に上鳴の頬に汗が伝うが、それを拭い去るようにして、白い歯を見せつけて不敵に笑う。

 彼の肉体から、微かな稲妻が弾けていた。

 

「……巻き込まれても文句言うなよ、緑谷。お前が何をしようと情けをかけるつもりはねえからな」

 

「……分かってる!それと、巻き込まれるつもりは毛頭ない!」

 

「その通りだ……!皆を守護する盾となる為に俺がいる!!!」

 

 そして、緑谷と常闇が轟の声に答えた直後。

 

 

 

無差別放電(むさべつほうでん)……100(まん)V(ボルト)!!!

 

 

 

 上鳴の体から全方位に電撃が迸った。動きが完全停止し、意識が飛びかける程の凄まじい威力のそれが足止めをしていたA組の騎馬諸共、B組の騎馬4チームに襲いかかった。

 無論、轟チームは、八百万が創造した耐電シートで上鳴に巻き込まれることを防いだし、常闇チームは、大半の攻撃を無効化出来る黒影(ダークシャドウ)を盾にして電撃を防ぎ切った。

 

「…………恨むなよ。後には引けねえんだ」

 

 そして、ただ一言だけ発すると八百万が新たに創造した硬質の棒のようなものを右手に握り込み、地面に掠らせた。そこから、すかさず右手を起点にして冷気を解き放つ。

 すると、地面に掠らせた棒を伝って、後方へと地を這う大蛇の如く氷の波が襲いかかり……これまたA組の騎馬諸共、後方にいた者達全員の足元を凍らせてしまった。

 

『おおっと!ここで轟がB組の騎馬を一蹴!!!葉隠チームと峰田チームも巻き込まれる形にはなっちまったが……アイツらはよく頑張ったよ、うん!!』

 

『上鳴の放電で確実に動きを止めてから凍らせた……か。障害物競走で結構な数に避けられたことを反省しての行動だな』

 

『おお、きっちり省みて次に活かした訳だな!大事だぞ!……何はともあれ!ここまで長かったが、轟チームも妨害を突破!!常闇チームと共に1000万めがけて突き進んでいく!!!』

 

 プレゼントマイクの声と観客の歓声を背に迷わず突き進んでいく轟チームと常闇チームに全てを託し、見送る形となった葉隠チームと峰田チーム。

 自分達諸共凍らせたことに、峰田がジト目で恨み言を吐き捨てる。

 

「ちぇっ、やっぱりオイラ達もまとめて凍らせやがったぜ。……あーあ、これで逆転のチャンス無くなっちまったな!」

 

 口ではそう言っているものの、分かり切っていたかのように吐き捨てるその様からは、あまり悔しさは感じ取れない。自分はやり切ったという達成感さえ感じ取れた。

 

「……そんなこと言っているけど、最終的に障子ちゃんについてきてくれてる時点で説得力無しよ」

 

「煩えやい!」

 

 蛙吹の発言に思わずそっぽを向く峰田。葉隠達も彼らのやりとりを見て笑みを溢しつつ、轟チームと常闇チームの背中を見送る。

 一方で、B組一同は悔しさを拭いきれない様子で何とか凍らされた地面から脱出出来ないかと足掻くものの……解決策は見つからず。

 

「足止め喰らって、上鳴の放電で動き止められて……轟の氷結で一蹴……か。ダサいことになっちゃったな……」

 

 結局のところ、敗北を喫することになってしまったことに取蔭は落ち込んだ。

 落ち込んだ気持ちを胸に、半ば自暴自棄になって彼女はA組の面々に尋ねた。

 

「……あのさあ!轟の奴、あんたら全員巻き込んじゃったけど……恨んでないの!?」

 

 半ば背中を預けていた仲間に裏切られたようなものだ。組ぐるみの作戦を企てていた取蔭からすれば、そんな行為をされて恨まないなんて考えられなかった。

 少し考えてから、葉隠が答えた。

 

「うーん……やられたなあって悔しくはあるけど、恨んだりはしないかな!だって、こうなることは想定済みだったしさ!」

 

 彼女の言葉に嘘は全くない。表情が見えなくとも、声色で察することが出来た。すると、砂藤が彼女に続いて言った。

 

「まあ……体育祭の前に『仲良しごっこじゃねえ』って言うような奴だもんなあ。クラスメイトだろうが容赦はしないって感じのやつだし。それに、アイツは本気で勝とうとしてやったことだろ。文句は言えねえよ」

 

 苦笑も交えながらそう言うと、今度は蛙吹が言った。

 

「私達が自分の判断で、轟ちゃんの意思関係無しに手を差し伸べた。けれど、轟ちゃんは最終的に私達を利用してその手を振り払った。……私達の手を取るか否かはその人次第。余計なお世話ってそういうものじゃないかしら」

 

 そう言って、彼女は微笑んだ。取蔭はA組と自分達との認識の違いを感じ取り、息を呑んでいた。

 組ぐるみでA組を引きずり下ろす選択をした自分達からすれば、クラスメイトは協力相手であって当然だった。

 しかし、彼らは違う。協力すべき相手である以前に競い合うライバル。それが彼らの認識らしい。

 

 やはり、彼らは先を見据えていた。蹴落とされることを覚悟の上でライバルを救けるなど、どう考えても出来ることではない。理屈抜きで他人に手を差し伸べられる彼らを尊敬する他なかった。

 

(……でも、まだ終わった訳じゃない……!私には、やれることがある!皆がダサいままで終わるなんて嫌だ……!最後までやれるだけのことをやってやる!)

 

 騎馬の足元が凍らせられ、行動不能になってしまった取蔭だが、全てを諦めた訳ではなかった。……彼女の心の奥底には不屈の炎が静かに燃え上がっていた。

 

 雄英体育祭第二種目、騎馬戦。残り時間は――2分。




幕間・弐は以上です。こちらも轟君及びB組一同の動きに大きく変化が生じてるので外せないなと思い、描写しました。

以前、別の作品でも述べたのですが、私は轟君に関して彼はメンタル面というか精神的な部分で他と比べて脆さや弱さを抱えていると思っています。

仮免でエンデヴァーのことを引き合いに出されてコンディションが崩れ、自力じゃ立ち直れなくて周りが見えなくなり、出久君に叱責されてようやく目が覚めたり。ヒーローズライジングの時も初遭遇時、撤退するキメラを後先考えずに追おうとして飯田君に止められたり。
特にこの体育祭時は1人でずっと父親に対する憎しみで苦しんでいて、誰かに救けを求めるような選択肢もない状況。轟君のメンタルはズタボロだと思います。
その結果、脆さや弱さの部分が露呈して悪目立ちしちゃってる感じですね。出久君が実弥さんやBIG3との特訓を経て精神的に大きく成長している分余計に。

今回のお話における出久君の余計なお世話に関しては、次のお話でまとめて解説をいれようかと思いますので少々お待ちを。

作者、原作ネタバレOKという変わった趣味のアニメ勢なので障子君の諸々に関してはそこまで詳しくは知りません。
ネットとかでよくあるお話の感想まとめみたいな記事を見てあらかた把握している程度でしかないです。もしかしたら、こちらを読んでいる方でアニメ勢の方もいるかもしれませんので、この辺で控えておきます。
因みに、テンタコルパンチは原作やアニメには存在しないんですが、アーケード版かなんかで存在する技らしいです。

長くなりましたが、お付き合いいただきありがとうございました。
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