皆様、お久しぶりです。約1年ぶりという久々な投稿になってしまい申し訳ありません。
小説を書いて更新することに割く精神的な余裕がなかったり、小説書くこと自体がキツイってなってたり、お気に入り増減するわ、評価が赤を保てなくなったことにショックを受けたりで色々ありまして、こちらに手がつけられませんでした。
小説書くのキツイなあってなってるのが解消しきれてなかったり、今もどこか精神的な余裕がなかったりと原因は色々なんですが、ちょっと以前通りの更新ペースには戻せそうにないです。楽しみにしてくださっている方々、ごめんなさい。
不定期亀更新でも良ければ、今後とも宜しくお願いします。
今回はいい加減騎馬戦終わらせようぜってことで幕間・壱、幕間・弐とこちらの第四十一話の三話を一挙更新です。幕間読みたくないという方は読まなくても大丈夫だとは思いますが、読んでいただいた方が色々と辻褄が合ったりもすると思います。良ければご覧ください。
そしてこちら、第四十一話。滅茶苦茶長いです。暇のある時にでもゆっくりお読みください。
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2023/5/9
(AM1:35時点)
終盤の取蔭さんの妨害を耐える轟君に関して、今まで通り氷を新たに生成しながら移動する方法で逃げ延びているというふうにしれっと変更してます。
(PM19:30時点)
読者の方の指摘もあり、終盤の争奪戦の一部を修正しています。まだ修正途中なので、文章がおかしくなっているところがありますがご了承ください。修正が終わり次第お知らせします。
(PM23:32時点)
修正が完了しました。心操君の洗脳にかかった爆豪君ですが、彼の爆破にはそれなりの衝撃があるので移動や攻撃の最中に解けるのではないかとの指摘をいただき、展開を大きく修正しました。
具体的には、洗脳直後の1発目の爆破の衝撃で即座に爆豪君の洗脳解除→正気のまま、実弥さんのところへ向かおうとしたのを妨害してきた轟君と衝突って感じです。なので、ところどころで大きく変化が生じております。
正気なままの爆豪君と轟君の衝突。こちらも楽しんでいただければと思います。
2023/5/18
実弥さんの攻撃を回避した爆豪君に対する瀬呂君のセリフの中で実弥さんの攻撃の技名を明言してましたが、大雑把な「獣の爪みたいな斬撃」という表現に変えました。
2023/5/29
拳藤さんの二人称が原作と違ったようなので、これ以前の話も含めてところどころ修正してます。
『さあさあ、常闇チームと轟チームが妨害を突破しきって1000万の元へ向かうのを見届けたところで……不死川チームVS爆豪チームの実況に戻ろうか!A組爆豪、ここまで鉢巻を狙ってしつこく攻め続けているが、不死川は見事に守り切っている!こっちもこっちで、正直言うと状況の変化がねえからパッとしねえな!実況者泣かせだ!』
実弥チームと爆豪チームが再び衝突してから、3分が経過していた。
単騎で突撃し、激しい攻撃で攻め続ける爆豪。しかし、実弥はいとも簡単に彼の攻撃を防ぎ切る。更に悪質な崩し目的の攻撃や騎手の落下を狙ってやるような攻撃はNGである為、実弥も実弥で爆豪が脱落にならない範囲で加減しながら彼を退け続けるのみ。
加えて、1000万を所持する実弥からすれば爆豪チームの鉢巻を狙って攻めるよりも守りに徹底する方が確実である。
故に、見事なまでの膠着状態が出来上がっていた。
「向こうは随分と凄ェことになってたらしいなァ」
「……ッ、クソデクとモブ共のこと気にするなんざ余裕だなァ!?殺すぞ!!!」
プレゼントマイクの声が響き渡る中、余裕そうに笑みを浮かべながら緑谷達のことを言及する実弥を見た爆豪の掌から、火花が激しく弾ける。そして、彼は怒りのままに右腕を振るった。
鉢巻を狙うついでに顔面に叩き込んでやろうとした爆破は、その場で仰け反った実弥にあっさりと
彼は仰け反ると同時に両手で刀を握り込み、足に踏ん張りをきかせ――
「ッ!クソが!!!」
体勢を戻す勢いを利用して、縦方向に四つの斬撃を同時に打ち下ろした。斬撃は、鋭い獣の爪の如く獲物を斬り裂かんとして襲いかかる。しかし、爆豪は実弥が攻撃態勢に突入したのを視認した瞬間に前方に爆破を放ち、自分の体を後方かつ空中へと押し出して攻撃を避けた。
「ッ!?やべえ!芦戸、瀬呂!一旦騎馬崩せ!!!」
「えっ!?ちょっ、切島!?」
「おわっ!?」
行き先をなくした爪は、そのまま振り下ろされて下方へと振るわれる。攻撃の向く方向を悟った切島は、咄嗟に騎馬を崩して芦戸と瀬呂を突き飛ばして防御態勢をとり、現在の彼の中での最大硬度まで全身を硬化させた。
「ぐうっ!?」
着用している体操服の上着ごと、鋭利な爪が切島を斬り裂く。斬撃の勢いに押し負けた切島は、地面を滑るようにして大きく押し出された。
「切島!大丈夫!?」
突き飛ばされた芦戸と瀬呂が、押し出された切島を受け止める。彼の硬化している腕を見て、2人は驚愕した。普段の皮膚より遥かに硬くなっているはずの彼の肌に亀裂が生じていたのだ。
「……くっそ……!斬撃で俺の"硬化"を貫いてきやがった……!多分、加減してこれだ……。俺の"硬化"もアイツには通用しねえかも……」
切島は亀裂の生じた自分の両腕を見て、思わず乾いた笑いを浮かべてしまう。
「……よくそんな体勢から技を放てるね……」
「昔から体幹には自信があるからなァ」
拳藤と戦いの渦中であることを忘れさせるようなやりとりを交わす実弥と切島の腕を交互に見て、加減してこれならば本気でやったら切島の腕はどうなっていたのだろうかと想像し、瀬呂と芦戸は肝を冷やした。
「チンタラすんな!とっとと騎馬組み直せ!!」
「お、おう!」
切島の"硬化"も通用しないことを知り、動きを止めていた3人に騎馬を組み直すよう催促しつつ、爆豪は空中を突き進んでいく。
あまりの壁の高さに普通であれば弱気になりそうなものだが、爆豪は違う。彼は壁が高ければ高いほど、超えるのが難しければ難しいほどに燃える男だった。これから登る山がそうするのが難しければ難しいほどに達成感が増すのと同じように。――余談だが、爆豪の趣味は登山である――
(そうこなくちゃな……!俺はオールマイトをも超えるNo.1ヒーローになる男!これくらい
口角を上げて不敵に笑い、爆豪は空中で爆破を起こしながら四方八方を飛び回る。夜空に弾ける花火のように、周囲に火花が弾けた。
「あ、あちこち飛び回りやがって……!目が回りそうだ……!」
『爆豪、不死川チームの周囲を目まぐるしく飛び回る!狙いを定められないように動き続ける算段か!通用するかはさておき、いい作戦だ!』
鉄哲、発目は爆豪の動きを目で追うのすら苦戦し、拳藤は何とか目で追えているという状況の中で、実弥は彼の一挙一動を確実に目で追って捉え、放たれる爆破を最低限の動作で避け続けている。
実弥が万全な状況ではキリがないことを悟った爆豪は、悔しげに歯を食いしばった。
(心底ムカつくが……出し惜しみしてる場合じゃねェ!)
そして、その胸中で最終種目で使用するはずだった技を早めに披露するという苦渋の決断をすると、爆破の遠心力で実弥の真正面に飛び込んだ。
直後――
「――喰らいやがれ!」
「ッ……!」
「うおっ!?ま、眩しっ!?」
掌同士を重ねるようにして構えられた両手から、強烈な光が解き放たれた。両腕を突き出し、構えた両掌の間でそれを伴う爆発を引き起こしたのだ。
実弥だけは咄嗟に目を閉じるも、それでも光を遮断することは叶わず。実弥チームの全員が目を潰されることになってしまった。
『爆豪、光を伴う爆破を放った!ここで目潰しときたか!流石の不死川もこればかりはどうしようもなかったらしい!まともに喰らって目を潰された!!!』
(テメェの鉢巻、今度こそ奪ってやらァ!)
視覚を絶った今であれば、鉢巻を奪取可能なはず。確信を胸に爆豪は体勢を立て直して腕を伸ばすが……。
彼が実弥との距離を詰めた瞬間、その周囲で風の渦が激しく逆巻いた。
「っ!?」
常人と比べて桁外れな反射神経を有する爆豪でも回避が間に合わなかった。咄嗟に腕を交差させ、身を守らんとする。その瞬間、体がぐんっと後ろに引き寄せられた。
「!?」
その感覚に戸惑うのも束の間、爆豪の体はぐんぐん後ろへと引き寄せられていく。視線を下ろすと、体に細長く白い何かが巻き付いているのが分かった。
その正体は……瀬呂のテープだった。
『あっぶねえ!爆豪、あとちょっとで不死川の反撃が直撃してたぞ!ナイスタイミングじゃねえか、瀬呂!地味に優秀!』
「何とか間に合った……!ギリギリセーフ!危ないところだったな、爆豪!」
「おお……!ナイス、瀬呂!つか、よく間に合ったな!」
「へへっ、こんなこともあろうかと準備しといたのよ」
瀬呂は語る。実弥には迎撃を行う際、ギリギリまで相手を引き寄せて「確実に鉢巻を
実際、瀬呂の分析は正解だ。前世から本当の命の奪い合いを経験してきたからこそ、実弥には確実に勝負を決することが出来る一撃を叩き込む癖がある。
人間は日常で情報を仕入れる際、その8割を視覚に頼っているという。その為、目を潰されれば誰でも焦るはずだ。周りから誰かに攻撃される恐れがあることが明確であるのなら、無闇矢鱈に暴れ回ってもおかしくない。
しかし、実弥は視覚を絶たれてもなお冷静で不動だった。
故に、彼であれば視覚を絶たれた状況下でもこの状況に対処可能なのではないかと疑った。もしもの時を考えていつでもテープを射出出来るように備えていたのだ。その話を聞き、よく見てよく考えている瀬呂に感心した切島と芦戸であった。
こうして、テープを射出した瀬呂に拾われ、何とか騎馬の元に帰還した爆豪。やはり他人の手で救われたことが屈辱なのか、瀬呂を睨みつける。
「余計なことすんな!俺はまだやれる!あの程度どうってことねェ!」
睨みつけてくる彼に怯むことなく、瀬呂はいたずらっぽい笑みで言った。
「へえ〜、あの程度どうってことなかったかあ……。んじゃさ、何で咄嗟に防ごうとしたんだ?獣の爪みたいな斬撃を避けた時と同じように後ろに下がりゃ良かったじゃん」
「……何が言いてェんだ」
「要するに……お前が一番解ってたんじゃねーのって話よ。回避が間に合わねえってこと」
「……」
瀬呂の指摘は図星で、爆豪は返事することなく不機嫌そうにそっぽを向くだけだった。
それはそれとして、視覚を絶った状況下で突撃してきた自分に対し、さも目が見えているかのようにタイミングがぴったりの反撃を繰り出してきたことは疑問ではある。
……彼の疑問が解決するのに時間はかからなかった。
『にしても、不死川は目が潰れてる状況でよく反撃出来たな……』
『……簡単な話だ。爆発を起こして移動する以上、どう足掻こうが音は出る。音で爆豪とのおおよその距離を測った上で、全方位を防御出来る技を放ったんだろう』
『ええ……?音だけで相手との距離をほぼ正確に測るってマジかよ!大方、普通の人間が出来る芸当じゃねえと思うんだが!?事ある度に超人的な芸当が露わになっていくな……。マジで何者なんだよ、不死川の奴!』
「……ハッ、そういうことかよ……!」
相澤の解説を耳にした爆豪は頬を伝う汗を手の甲で拭いながら、やはり不敵に笑った。そのくらいの強敵でなければ、超える意味などどこにもないと言わんばかりに。
「……テメェの爆破が煩ェおかげで助かったぜェ」
光で一時的に失っていた視力を取り戻した実弥は、不敵に笑いながら目を開き、爆豪を挑発する。
「っるせェ口だな……!すぐに塞いでやらァ!」
挑発を受けて青筋を浮かべつつ、再び実弥に攻撃を仕掛けようとしたその時……黒い影と、
迫る黒い影に斬撃を放って牽制しつつ、氷棘を斬り刻みながら、実弥は戦闘狂のように不敵に笑った。
「……来たかァ!」
「
「これより……我々も参戦する!」
その二つを放ったのは轟と常闇。立ち塞がり続けた妨害をくぐり抜け、彼らも遂に1000万Pの争奪戦に参戦したのだ。
『ここで轟チームと常闇チームも参戦だ!!!見逃すなよ、オーディエンス共!これが最終決戦になる!騎馬戦もいよいよ大詰めだ!』
ようやく始まる本当の決戦に、観客のテンションが最高潮まで引き上がる。新たな乱入者を嬉しく思うのは実弥も同じだが、爆豪だけは舌打ちで苛立ちを露わにしていた。
「デクに半分野郎……!1000万は俺のもんだ……!邪魔すんなァ!!!」
「抜け駆けはさせん!」
「させねえ……!」
爆豪が爆発による遠心力を利用した高速移動で突撃し、常闇は
しかし、実弥は爆豪の爆破と腕を避け、常闇の
そして、目を閉じる間もなく
「おっしゃ、見えるようになってきた……!って、相手増えてんな!?取り敢えず、不死川ばかりに任せちゃいられねえ!轟の氷は俺が砕く!金属になれる俺なら、氷に対してもある程度だが耐性あるからな!」
「そういうことなら両手も使え、鉄哲!不死川の足場は私がやる!」
「え!?け、けど……」
轟の攻撃を引き受けることを進言した鉄哲に拳藤が彼の分も足場を担当すると申し出たが、鉄哲は彼女1人に任せてしまってもいいものかと迷いをみせる。
すると、拳藤は片方の手を巨大化させつつ答えた。
「大丈夫だって。私も鍛えてる。それに、人1人抱えるくらいは朝飯前だ。人を上に乗せるのも……問題ない!」
拳藤自身、こうでもして自らも体を張らなければ、同じくして体を張り続けている実弥の頑張りに釣り合わないと思っている。
不死川の頑張りを無駄にしたくない。その信頼に応えたい。そう思うだけで不思議と何でも出来るような気がして、力が湧いてくるのだ。
「……分かった!そういうことなら任せるぜ!」
迷いなく言い切った彼女を見て、鉄哲は男である自分がクヨクヨ悩んでいる場合ではないと迷いを振り切り、チームの盾になれるように前へと歩み出た。
「え、えっと……!わ、私は何をすればよろしいでしょうか!?」
「発目は……周囲を警戒!右側は私がやるから、左側と後方を任せた!何かあったら、なるべく詳しく報告して!前方からの攻撃を凌いでる不死川が他の方向の状況を把握する時間を少しでも省きたい!」
「……分かりました!そういうことであれば……不死川君!捕縛銃は私に任せて迎撃に集中してください!」
「そいつは助かるぜェ。頼んだぞ、発目ェ!」
「はい、任されました!」
何をすべきか判断しかねていた発目にも指示を出し、チーム全員が一丸となって、1000万をつけ狙う強敵達に立ち向かっていく。
実弥が爆豪を退け、鉄哲が氷を砕き、拳藤が常闇を牽制して、発目が周囲に気を配る。
『轟、爆豪、常闇が同時に攻め続けるが、対する不死川チームは凌ぎ続ける!鉄壁つっても過言じゃねえこの防御を打ち破れる奴は現れるのか!?』
どれだけ攻撃を通そうとしても、あっさりと防がれる。何度もやってもその繰り返しだ。攻撃側である轟達は歯痒い思いを味わい続けていた。
やはり、万全な状態の実弥に何らかの負担をかけて全力が引き出せないようにするしかない。その為にも――
(まずは……動きを止める!)
最初に動いたのは轟だった。
「上鳴!!」
「おっしゃ、任された!本命の不死川相手だ……!今度は思い切りいくぜ!!!」
彼が上鳴の名を叫ぶだけで、その意図は完璧に伝わっている。
轟が耐電シートで身を覆うのと同時に、上鳴の周囲に小さな稲妻が舞った。
「ッ、常闇君!」
「御意!」
「爆豪、そのまま空中にいろ!やべえの来るぞ!」
「……俺に指図すんじゃねェ!!!」
「鉄哲ゥ、一旦"個性"を解けェ!!!」
「お、おう!分かった!」
轟の企みを察した一同が行動を起こすのと同時に、上鳴は不敵に笑いつつ全力を解き放つ。
上鳴の纏った電気が強烈な一撃と化し、周囲に迸った。電撃が自分の周囲全てを薙ぎ払うかのように襲いかかり、電光が辺りを明るく照らし出す。
「ぐっ……!」
「うおおっ……!し、痺れるっ……!」
『上鳴の電撃が炸裂だ!常闇チームは
常闇チームは
そして、肝心の実弥チームの対処法は……常識を逸脱したものだった。
迫る電撃に対し、四つの斬撃を打ち下ろす。すると、風の獣の爪が上鳴の解き放った電撃を叩き斬った。
「……は!?」
『ぶ、ぶった斬りやがったァァァ!!!なんて野郎だ!電撃をぶった斬るなんぞ誰が想像した!?本当にお前は規格外すぎるぜ!』
上鳴の電撃は定まった形を持たないもので、素手で触れて掴んだり出来るものでもない。そんな形状の定まらないものを実弥は斬撃で対処したのだ。
これで驚くなという方が無理な話である。
(相殺されたか……。だが、退く訳にはいかねえ!)
「八百万、頼む」
「はい!」
八百万の"創造"で創られた硬質の棒のような物体を手にした轟はそれを地面に掠らせ、棒伝いに地面を氷結させていく。
すると、地面から次々と氷棘が生え、荒んだ波の如く常闇チームと爆豪チームに迫った。
「やっべえ、凍らされる!」
「テメェの好きにはさせてたまるかってんだ、半分野郎が!おい、醤油顔!とっとと俺を騎馬に戻せ!」
「えっ!?ど、どうしたんだよ、急に!」
「早よしろ!空中じゃ踏ん張りきかねェ!!」
「上鳴の電撃喰らった後になかなか無茶なことを……。まあ、任せとけよっと!それと、瀬呂な!」
独断専行で攻め続けていたはずの爆豪がここにきて改めて指示をしてきたことに驚く瀬呂だったが、何か考えがあってのことだろうと思い直した。
すぐさま、電撃を喰らって動きにくい自分の体に鞭を打ち、肘からテープを射出する。そして、爆豪の体に器用にテープを巻きつけて彼を回収した。回収された爆豪もまた、騎馬の上に器用に着地すると――
「オラァァァ!!!」
「動けねえ状態だったから助かったぜ、爆豪!」
迫り来る氷棘に連続で爆破を叩きつけた。火花が弾ける度に波の如く迫る氷棘が次々と砕け散り、小さな礫となって地面に落下していく。
「速っ……!?」
「逃げられへん!」
「背後は戦場の境目……。後退は出来ないな……!どうする、緑谷!」
「答えは一択!……迎え撃つ!!!」
(片足に"ワン・フォー・オール"を集中させて……ッ!)
「だあっ!」
一方、常闇チームもまた轟の放った氷棘群から逃れられないことを悟った。
耐え凌ぐ為に、緑谷は片足一点に"ワン・フォー・オール"を集中させ、8%の出力を引き出した状態で怒涛の百烈脚を繰り出す。彼の繰り出した蹴りは轟が発生させた氷棘を次々と砕いていった。
簡単に砕けはするが、瞬きする間に展開し、あっという間に目前まで迫る速度だ。厄介なことに変わりはない。
「轟君の左側にポジション変えるよ!そこなら、轟君も安易に攻撃出来ないはず!」
常闇チームは、轟が騎馬戦の中で左側の
『轟チーム、B組の騎馬を一蹴した攻撃の組み合わせで爆豪チームと常闇チームを妨害!爆豪チームは爆豪自らが爆破で氷を砕き、常闇チームの方は緑谷が氷を蹴り砕いた!んでもって、その轟チームは一足先に不死川目掛けて進行している!何だかんだと言いつつ、残り時間は約1分!誰か不死川から1000万を奪取する奴は現れるのか!?』
そして、他の2チームが轟の妨害に手をこまねいている間に、当の本人達は迷わず突き進む。
如何にして実弥に攻撃を仕掛けるべきか、轟は頭を悩ませていた。というのも……ここまで彼の仕掛けた氷による攻撃は完全に通用していない。
馬鹿の一つ覚えのように氷結を引き起こしたところで、同じように防がれるのはもう分かりきったことなのだ。
「……轟君」
「……ッ、何だ?」
思考に没頭していた轟に声を掛けたのは、飯田だった。思考を中断し、彼の言葉に耳を傾ける。
「……皆も聞いてくれ。残り1分弱、俺はまともに使えなくなる。後は頼んだぞ……!」
「飯田さん?何をなさるおつもりで……?」
「俺を信じて、しっかり掴まっていてくれ」
意図を理解しきれず、八百万が尋ねるが……飯田は自分に掴まるように促し、ただ前を見据えるのみだった。
取り敢えず、チーム全員で飯田を信じてしっかりと掴まることにした。
「お、おい!飯田の奴がなんか仕掛けてきそうだぞ!?」
「どうする!?ポジション変える!?」
「不死川君、どうしますか!?」
轟チームの異変を察知し、実弥の指示を仰ぐ3人。飯田の速度がいかほどかは、彼らもよく知っている。故にこのまま棒立ちであれば、鉢巻を奪われる可能性が高いのだが……。
実弥の指示は、彼らの考えに反していた。
「このまま待機だァ!こっちが動くよりも向こうが速い!一瞬で詰められる!」
「ええっ!?け、けどよ……」
実弥の指示を聞き、言い淀む鉄哲。拳藤と発目もどこか心配そうだ。そんな3人に対して、実弥はたった一言。
「……俺を信じろォ!」
目の前にいる男は、これまでに何度もどうしようもない局面をひっくり返してきた。彼は間違いなく信頼に足る男。
真っ直ぐな瞳で力強く言われては……彼の指示に反する選択肢など思い浮かぶ訳がなかった。
力強く頷く3人を見て、実弥は薄く笑みを浮かべた。
「……行くぞ!絶対に
そして、遂にその時がやってくる。
轟に全てを託し、飯田が叫んだ――次の瞬間。
「トルクオーバー!!!」
レシプロバースト!!!
飯田のふくらはぎにあるレースカーを彷彿とさせるマフラーから、蒼い炎がジェットの如く凄まじい勢いで噴き出す。無理矢理生じさせた爆発力は、常人では視認出来ないレベルの凄絶なスピードを引き出し、普段の彼の数倍のスピードで実弥の元へと肉薄した。
(中々速えな……やるじゃねェか、飯田)
想像以上の速度に、彼はほんの一瞬だけ笑みを浮かべた。
そのまま、1000万Pの鉢巻に伸びていた轟の左手をあっさり払いのける。
それどころか、逆に彼の額に巻きつけられた鉢巻に手を伸ばした。
「ッ!?」
その瞬間、轟を襲ったのはそれを殺意だと錯覚する程の凄まじい威圧感だった。本能的に「ヤバさ」を感じ取り、無意識のうちに彼の左半身から紅の炎が立ち昇っていた。
そのおかげで実弥が反射的に鉢巻に伸びかけていた手を引っ込めた為、轟チームのポイントが奪取されることはなかったが……。
一瞬の攻防で勝利を手にしたのは――実弥だった。
「……は?」
(い、今……何が起こって……!?)
(す、凄まじいスピード……!目で追えませんでしたけど!?)
実弥を除いた3人は飯田達が加速した瞬間を視認することは出来ず。無論、それは轟チームの本人を含む飯田以外の3人も同じだ。気がつけば、自分達の横を通り過ぎていた彼らが後方にいた。
嫌な予感が脳裏を
一方、実弥本人の他でただ1人攻防の結果を知っている轟は、呆然と自分の左手を見つめていた。
(俺は……何を……!?左を無意識のうちに使っちまうなんて……!)
意識的ではなく反射的に行った行為だった為、彼自身が一番困惑していた。絶対に使わないと決めていた左を使わされたことに悔しさを覚え、口元を歪めて拳を握りしめる。
……会場中のほとんどが状況の認識に遅れ、沈黙が流れていた。
『ちょっ!?は、速っ!?何が起きた!?何だよ、今の超加速!?あんなのあるなら予選で見せろってんだ飯田!』
その沈黙を破ったのは、プレゼントマイクの声だった。
同時に、会場中が轟チームの見せた視認出来ないほどの速度による突撃という超人的な芸当に盛り上がりを見せる。
『俺にも全く見えなかったんだけど!?待て待て、ポイントはどうなった!?不死川チームのポイントは!!?』
『あの速度で距離を詰められたら、常人には対応出来ん。そこらのプロヒーローでも対応は難しいだろう。だが……目の前にいるのは、その辺のレベルで収まるような男じゃない』
チームの得点が表示された電子モニターに目線をやりながら意味深な発言をした相澤に釣られるようにそこを見て……彼は目をひん剥いた。
『――おいおいおい!?不死川!?えっ?あの飯田の超加速を見切ったの?マジで?……ま、まさかの展開!不死川チーム、1000万を守りきったァァァ!!!!!』
「……っ!?」
飯田の超加速を目撃した時以上に会場中が沸き上がっている。信じられない現象が次々と目の前で形になっている。そんな夢のような展開が連続して繰り広げられているからこそ、人の興奮はより高まるもの。
まさかと思い、飯田も振り返る。彼に視線を向けられると、自分の左手を呆然と見つめていた轟はハッとして、握りしめていた拳を震わせながら申し訳なさそうに告げた。
「…………すまねえ、鉢巻を
(あの速度を……視認したのか……!?)
まだクラスメイトの誰にも教えていなかった裏技だった。自分にとってのこれ以上ない切り札だった。
「……っ、そんな……!」
自惚れていた訳ではないが、この技であればもしかすると実弥相手でも通用するかもしれない……と希望を持っていた自分がいた。
あっさりと希望を打ち砕かれたことに、飯田は愕然とする他なかった。
「……さっきのは悪くなかったぜ、飯田ァ。だが……俺に並びたきゃ、もっと速くなりなァ」
「……っ……!」
不敵に笑いつつ、挑発するように言ってみせた実弥を見て自分との差を実感した飯田は、悔しげに歯を食いしばっていた。
「……あっぶねぇぇぇ!流石に今のは
「今度ばかりはダメかと思いました……」
「はあ……騎馬戦で肝を冷やしてばかりだな……。本当、心臓に悪い……」
嫌な予感が外れた3人は、心底ホッとして脱力した。……未だに心臓がバクバクと激しく脈を打っている。緊張はおさまりきっていなかった。
だが、気を抜いてばかりはいられない。まだ騎馬戦は終わっていないのだから。
「クソメガネ退けたからって……気ィ抜いてんじゃねェ!!!」
当然休む暇も与えず、爆豪が追撃を仕掛けてきた。
爆破を叩き込もうと振るわれた彼の右腕をあっさりと避け、実弥は罵倒を返しつつ反撃を繰り出す。
「抜いてねェよ、馬鹿がァ」
繰り出されたのは、砂塵を巻き上げて空をも暗く染める風の一撃だった。木刀を斜め下から掬い上げるようにして振るったことによって発生した一陣の風が爆豪を上空へと吹き飛ばす。
「ぐっ!?」
『隙を突かんとした爆豪、空高くに吹き飛ばされた!いくら攻めても攻撃が防がれ続けている!これは歯痒い!!!』
吹き上げた風に体を押し出され、ジャンプボールの際に審判が投げ上げたバスケットボールの如く彼は吹き飛んでいく。
「……ッ、クソがッ……!」
爆破の遠心力で宙返りすると共に空中で受け身を取り、歯を食いしばる。
何度やっても突破口を開けない悔しさと他人に頼らなければならない屈辱故の行動だった。
しかし、やらなければならない。完膚なきまでの1位を手にする為に。
「黒目に醤油顔!テメェら手ェ貸せ!!!」
「お、早速出番か?」
「なになに?なんか作戦あるの?」
「いいか……一度しか言わねェ。耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ!」
足を止めぬよう移動を続けつつ、密かに作戦を共有していく爆豪チーム。そうしている間も実弥に対する攻撃が止むことはなく、次々と刺客が押し寄せる。
今度は、実弥が振り上げた木刀にどこからか体操服の上着が絡み付いてきた。
巻きついた上着の先に視線を移すと……。
「へへへ……コノママ、オ前ノ武器ヲブンドッテヤルゼ!」
『これは……常闇、不死川の武器を奪う気か!?器用なことしやがるぜ!』
常闇の体操服の上着を手にして不敵に笑う
だが、力比べであれば実弥の得意分野。陽光の下にいる影響で元から人並みの力しかない上に、上鳴の電撃を喰らってより弱体化している
木刀を握る手に軽く力を込め、片腕を自分の方向に軽く引っ張るだけで十分だった。
「……ア、アレッ?木刀ガ引ッコ抜ケル気配スラネエンダケド!?」
「……ほら、どうしたァ?折角のチャンスだろ?頑張れェ」
想定外の事態に動揺し、歯を食いしばるようにして表情を歪めながら両手で懸命に木刀を手繰り寄せようとするが、ほんの少しも動く気配がない。必死な
『相手の武器を奪うって考えは合理的だが……単純にパワー負けしているな。不死川の手から木刀が引っこ抜ける気配が全く見えん』
『これは辛辣な評価!だが、不死川は腕を空気中に叩きつけて風圧巻き起こすようなような奴だからな……。現実的な話を言えば厳しいのは確かだ!踏ん張れるのか!?』
木刀を強奪しようにも出来そうにない現状に、常闇は眉間に皺を寄せ、歯を食いしばった。
「やはり、そう上手くはいかないな……!武器を強奪出来れば、不死川の戦力を削げるかと思ったのだが……」
自分の認識の甘さを悔やむ彼を励ますように声をかけたのは、緑谷だった。
「いや、奪う必要性はないよ……!今のこの状況、不死川君の片腕を封じてるのも同然。片腕が全く使えなくなっただけでも、戦い方は大きく変えなきゃいけないはず!」
前提として、自分達は真正面からぶつかっても実弥に勝てる見込みはない。故に、何としても実弥が全力で戦えない状況を作るしかないのだと付け加えた。
「……全力を引き出せぬ状況か……!ならば……!
「ワ、分カッタゼ!」
緑谷の発言で今の自分がやるべきことに気がついた常闇は、方向を転換して実弥の拘束に動き出した。彼の指示に従い、器用なことにも
(戦法変えてきたか……!発端は緑谷だな?相変わらず頭がキレやがる!)
それを見て狙いを悟った実弥は木刀を握る腕に力を込めた。そのまま、常人離れした怪力で思い切り腕を引き、木刀に巻き付いている体操服の上着を無理矢理引きちぎる。
「ッ!
「アイヨォッ!!」
常闇は怯むことなく
しかし、接近する
「ツ、ツカマレタ!?コノッ……!」
「これ以上好きにはさせない!」
「くっ……阻まれたか……!」
腕を振り回して足掻こうとする
不死川が散々体を張ってきたんだから、このくらい出来なくてどうする!
そんな気持ちを胸に、拳藤は踏ん張っていた。
「
そこに迫る耳郎のコード。大人しく
それを目撃した瞬間、すかさず実弥が行動を起こし、大気を押し潰す勢いで手を打ち合わせた。直後――
「うあっ!!!?」
辺り一帯に風船が破裂した音を何百倍にも膨れ上がらせたかのような大音量の破裂音が鳴り響いた。
その場にいる全員が思わず肩を跳ねさせてビクッとしてしまうほどの音量で、常人よりも優れた聴覚を持つ上に至近距離でその音を聞かされた耳郎は、攻撃を中断せざるを得ない上に耳から出血を起こしてしまう。
『おわっ!?びっくりしたぁ!ガラス越しにいるこっちまでビビらせられたぜ……!つか、何した!?』
『手を打ち鳴らすことで拳藤に迫っていた耳郎の攻撃を潰したというところか』
「ご、ごめん……やられた……!」
「じ、耳郎さん!耳から血が……!だ、大丈夫!?」
耳から血を、額からは脂汗を流す彼女を顔を青ざめさせながら心配する麗日。
怪我をした耳郎に無理をさせる訳にはいかない。思わず冷や汗を流しながら、緑谷は考える。
(耳郎さんが潰された……!常闇君も、
やれるだけのことをやり尽くす決意の下に、緑谷は呼びかけた。
「耳郎さん、常闇君を背負うのは任せる!」
「っ、任せて!」
「それと、麗日さん!僕に付き合って!」
「え!?わ、私!?……分かった!!!」
突然の指名に目を白黒させて戸惑う麗日だったが、それも一瞬のこと。すぐさま力強く頷き、緑谷の思いついた新たなる策の為に動き出した。
『緑谷、麗日を背負って移動を開始した!ここから如何にして攻めるのか!?そして、残り時間は1分切ってるぞ!この攻防を制するのは誰だ!全く予想がつかねえ!』
いよいよ、残り時間は1分を切った。それを告げられたことで八百万はハッとした様子で呼びかける。
「轟さん、飯田さん!まだ終わってはいませんわ!しっかりしてくださいまし!!!」
彼女に必死で声をかけられ、必死に闘志を揺り起こした2人。
かぶりを振って、目の前にいる敵を見据える。
「そ、そうだな、八百万君……!すまない!」
「ッ、
(くそっ、さっきから何回こうして折れかけてる……!?いい加減にしろ……!俺はこんなところで立ち止まる訳にはいかねえんだ!)
己を奮い立たせ、轟は右腕を振るって凍てつく波を巻き起こす。
「させねえ!!!」
だが、巻き起こした波を全て金属化した鉄哲の拳が殴り砕いていく。
「どうだ、轟!俺は金属!氷なんざ効かねえ!!!俺を倒せるもんなら倒してみやがれ!!!」
『鉄哲、大胆に轟を挑発ゥ!轟の放った氷は、かき氷のように呆気なく打ち砕かれていくがどうする!?』
「くそっ……!」
急がなければならないこの状況で思わぬ障害が立ち塞がった。
轟は鉄哲が自分にとって強敵となることを想定していない。今の彼は、憎しみを向けている相手である己の父親と、宣戦布告した相手である緑谷と実弥にしか興味がないのだから、今になってどうしようもない状況になりつつあるのも自然なことだった。
他人に興味がないということは、必然的に他人からの意見や情報を受け取らないことになる。その結果、視野が狭くなって偏った考え方しか出来なくなるというのはよく言われることではあるが……。
もし、自分がこれまでにもっと他人に興味を持っていたのなら、関係を深めていたのなら、現状を打破する方法が見つかっていたのだろうか。
自分はこれまで、一体何をしてきたのだろう?今まで歩んできた道を今になって全面否定されているような状況に何度も遭遇していることに、轟の中に言い表しようもない程の悔しさ、情けなさ、やるせなさ……様々な負の感情が湧き上がってくる。
心がぐちゃぐちゃになって精神の不安定さを加速させる。苛立ちが募っていく。
苛立ちに身を任せ、有無を言わさず実弥のチーム諸共、鉄哲を凍らせてしまおうかと考えていたその時だった。
「轟さん!こちらを!!」
「!」
八百万が轟に向けて何かを手渡してきた。彼女の声に振り返り、手渡されたものを掴む。手にしたのは、細長い棒のような何かだった。
使用用途を考えるも即座に思い浮かばず、轟は考え込む。すると、八百万がすかさず声を上げた。
「そちらがあれば、上鳴さんが周りを気にすることなく"個性"を扱えますわ!」
直接的なことは言わなかった。だが……上鳴が周りを気にする必要があるのは、"帯電"の性質故。
彼の"個性"は電気を纏って放出するだけで、指向性を持たせて操作することは不可能だ。つまりは、如何なる時でも味方を巻き込む可能性を考慮しなければならない。
そこさえ分かっていれば、八百万の意図も、投げ渡された何かの役割も大体理解が出来た。
「……そういうことか」
納得した様子を見せ、轟は状況を整理する。
(前提として……前騎馬の鉄哲を潰さねえと俺の攻撃は通用しねえ。奴を確実に足止めする為には……!)
飯田がまともに使えなくなってしまった今、方法は一つしかない。
(リスク承知で俺が突っ込むしかねえ……!)
手にした棒状の何かを手にし、轟は覚悟を決めた瞳で告げた。
「……上鳴。俺が何とかしてコイツを鉄哲に掴ませる。その後は"個性"を発動し続けてくれ」
「……!詳しいことは分からねえけど、そういうことなら任せとけ!」
「……頼んだ」
上鳴が白い歯を見せつけながら笑顔でサムズアップしてみせるのを目にすると轟は頷き、自ら地面へと飛び降りた。
「と、轟君!?何を!?」
一同がギョッとした直後、彼は足が地面につくよりも前に足元に何層もの氷棘を形成し、それを自身の身体を前へと押し出すようにして重ね合わせながら一直線に滑り抜いていく。
『な、何だありゃ!?轟のやつ、氷で自分を押し出しながら猛スピードで突き進んでやがる!飯田だけじゃなくお前にも言えることだが、そんな器用なこと出来るならもっと早く見せろってんだ!……いや、待てよ?そういや、アイツ、推薦入試の時にあんなことやってたな!!!』
当然片足から氷を連続で形成し続ける状況にある為、足場は不安定だし、"個性"の連続使用は当然の如く体温の低下を
ほんの少しでも調整に失敗すれば、地面に落下して脱落する可能性もある。それでも、必死に1000万目掛けて喰らい付いている者達や自分如きの為に足止めをしてくれた皆を思うと、リスクを恐れて安全に攻めている場合ではない。
自然とそんな風に思えてしまったのだ。
もはや迷っている場合ではなく、轟はやられる前にやる決意を体現するようにして突き進む。
鉄哲は、何の疑いを持つこともなく、彼を真正面から迎え撃とうと拳を構え、力士のようにどっしりと待ち構えていた。
「はあっ!!!」
「ッ!」
棒らしき何かをグッと握りしめた轟は、一直線に鉄哲へと接近し、手にした何かを振りかぶる。
すると、轟が手にしている棒を武器の類だと判断した鉄哲は体を金属に変化させ、彼が振り下ろしてきた棒を鷲掴みにして受け止めた。
『いい反応だ、鉄哲!轟が振るった武器らしきものを見事に受け止めたぞ!』
正直に言ってしまうと、受け止めるのは非常に簡単だった。体温の低下で轟の動きが鈍っている影響で、簡単に動きを見切ることが出来たのだ。
しかし、彼からすれば、振り下ろした棒を鉄哲が受け止めてくれたことは利点にしかならない。逆にそうしてくれて良かったとさえ思えた。
(このまま……こいつを固定する!)
「うおっ!?俺の手を凍らせて……!?くっそ……!」
轟はそのまま右手から冷気を発し、棒を握り込む鉄哲の手を氷で覆い尽くすようにして凍らせた。
氷に覆われたことで鉄哲の手は閉じたり開いたりすることも出来ないほどに動きが制限されてしまい、棒を手放すことは不可能になった。
棒を振り下ろすようにして腕を振るも、凍った部分が溶けたりする訳もなく……
「……今だ、上鳴!!!」
鉄哲を乗り越えるようにして足元から上空へと自身を押し上げるかのように氷を形成した轟。上空に逃れた彼の背中越しに姿を現したのは――
「おうよ!!お前が腹括って危ねえ橋を渡ってんだ!俺も……いっちょぶちかまさねえとなぁ!!!」
周囲に小さな稲妻を迸らせ、体に纏った電気で眩く発光する上鳴だった。
「やべっ!?」
その様を見た鉄哲が金属化を解くと同時に、不敵な笑みを浮かべた上鳴は体に纏ったありったけの電気を解き放った。
彼を中心にして全方位に広がるはずの電撃は鉄哲の方へと引き寄せられていく。
電撃が引き寄せられていくのを見て、実弥が木刀を振りかぶり、斬撃を放って対処しようとしたが……鉄哲が言い放った。
「待った、不死川!どっちにしろ、俺はもう逃げられねえ!俺を放っておいて、守備に集中してくれ!俺が盾になりゃ、お前の所に上鳴の電撃がくることはねえはず……!そういうことだから……後は、任せたぞ!!!」
「ッ、鉄哲ゥ!!!」「鉄哲!?」
呼び止めようとする実弥と拳藤の声に振り返ることもなく、チームの皆が巻き込まれないようにと前へ駆け出して距離を稼ぐ鉄哲。そんな彼の元へと上鳴の電撃が一直線に迫り――
「ぐうぉわぁぁぁ!?」
彼のいる地点に収束して炸裂した。生身で100万Vを超える電撃を受けるのは誰であろうとも
『鉄哲に上鳴の放電が収束して炸裂だぁぁぁ!しかし、明らかに上鳴が軌道を操作しているように見えたが……どういうこった!?』
『いや、上鳴は身体に電気を纏うことしか出来ない。こうなった理由は轟が鉄哲に固定させた物体にあるんだろう』
予め言っておくと、上鳴自身が電気に指向性を持たせた訳ではない。鉄哲の元に電撃が収束した理由は、相澤が推測している通り、彼が手放せずに終わった棒のようなものにある。
この棒は八百万が創造したもので、電気を引き寄せて一点に集めることが出来る性質を持っている。言わば……細かい部分こそ異なるが、簡易避雷針といったところだ。
己の宿敵となり得る鉄哲に簡易避雷針を持たせ、上鳴の"個性"を彼の元一点に集めることで確実に足止めする。それが轟の答えだった。
「ぐぅおおおっ……!これしきの電撃が……っ、何だってんだ……!
常人が一度でも喰らえば気絶に追い込まれる一撃であることには違いない。それでも、鉄哲は実弥の盾となる為に歯を食いしばり、倒れまいと地面を踏みしめてひたすらに耐える。
「ウ、ウェ〜〜〜イ……!?」
許容量を超える電撃を放ち続けていることで脳がショートし、喋ることすらもまともに出来なくなったアホ面状態の上鳴だが、鉄哲の尋常ならざる根性に困惑しているようだった。
『なんつータフネスだ、鉄哲!上鳴の電撃を必死に耐えている!しかし、防御役が1人潰れたも同然!1人メンバーが減った状態で不死川チームは如何にして迎え撃つのか!?』
「「……今だ!!!」」
鉄哲が行動不能になった状況を見ると、緑谷と爆豪の2人も遂に動き始めた。
「行くよ!」
轟がいくつも形成した氷塊の影に息を潜めていた緑谷は、背中に背負っていた何かを上空に打ち上げた。
そして、緑谷自身はムカデを彷彿とさせるジグザグな軌道の高速移動で実弥の元へと猛進する。
「黒目!」
「だから、芦戸三奈だって言ってるでしょ!いい加減覚えてよね!!」
一方で爆豪が芦戸に呼びかけると、彼女は未だにあだ名で呼ばれることに苦言を呈しつつも地面に弱めの酸をばら撒き、爆豪の手を掴んだ。
「そんじゃ……思いっきりいくよ!ふんぬぅぅぅ……!どぉぉぉりゃあああ!!!」
そのまま彼女はばら撒いた酸によって地面を滑りながら、その場を何度も回転して大きな遠心力を加え……ハンマー投げの要領で爆豪を投げ飛ばした。
『おっと!?緑谷がジグザグな軌道で不死川チームに迫り、芦戸は爆豪をぶん投げた!爆豪、これまでにないスピードで不死川チームに迫っていくぅ!!!』
加わった遠心力が爆豪の移動速度を増加させ、彼は如何なる時も実弥が自分の姿を視界に入れられる位置を爆進する。
背後の瀬呂達も頷き合い、作戦通りに先を突き進む爆豪の背中を追っていく。
(何としても……奪い取る!)
更には、轟が自身を上空へと押し上げていた氷から飛び降りて襲いかかってくる。
急降下しながら実弥に向けて振るった右腕は回避されるも、足場である拳藤の巨大化した手の上に着地するや、実弥の鉢巻を狙って腕を振るってきた。
しかし、実弥は拳藤の掌の上という限られた足場の中で上手く立ち回り、必要最低限の動きで轟の腕を
『あれだけ狭い足場で鉢巻を守り切っているぞ、不死川!だが、凄まじい執念で轟も喰らいつく!!!これは轟が1000万Pの奪取に一歩近づいたか!?』
「1000万は俺のモンだ、半分野郎ッ!!!」
「っ、させない!」
勿論1000万に対して強い執念を抱いているのは轟だけではない。
轟が1000万奪取に一番近い立ち位置であることを知るや、爆豪は爆破の勢いを増して速度を引き上げ、緑谷はジグザグの軌道から直線の軌道へと切り替えて地面を蹴り、最短距離で実弥を急襲する。
(くっそ……!轟だけじゃなく、爆豪と緑谷まで!)
(両手塞がってるんじゃ、何も出来ない……!)
鉄哲は上鳴の電撃によって一歩たりとも動けず、拳藤は常闇の無力化と実弥の足場を担当している為、両腕が使えない。
『こ、これは!!!緑谷と爆豪が同時に攻撃を仕掛けた!偶然か必然か……千載一遇の大チャンスだ!!!』
勿論、この構図になったのは偶然。
策を講じた上でこうして同時に攻撃を仕掛けた訳ではなく、互いが頂点を必死に狙おうとした結果だ。
幼馴染とは言え、彼らはあまりにも複雑すぎる関係性である為、現段階では共闘するとはとても考えられないというのも偶然だと断定出来る理由ではあるが。
「簡単には取らせません!」
それはさておき。鉄哲も拳藤も動けないのならば自分がやるしかない、と捕縛銃を構えて引き金を引き、特製の捕縛網を発射する発目。
緑谷と爆豪に向けて1発ずつ弾が発射されるが――
「そうはいかないよ!」
「ッ!?」
爆豪の元へ飛んできたものは芦戸が酸を浴びせて跡形もなく溶かしてしまい、一方で、緑谷は発射された弾の速度を遥かに上回る実弥の攻撃を特訓の中で次々と受けていた為、その場で身を
『発目の妨害を防ぐ芦戸に避ける緑谷!つか緑谷、空中でよく避けられたもんだな!緑谷は攻撃を中断せざるを得ないが、爆豪と轟は止まらない!』
「ああっ!?溶かされた上に避けられたぁ!!!?」
あっさりと捕縛網に対処されたことで頭を抱える発目。
発目の妨害が破られ、鉄哲と拳藤も行動不能。そうなれば、実弥自らが行動する他ない。
迫り来る爆豪と依然喰らいついてくる轟を迎撃する為に全方位の防御が可能である
突如、爆豪が自分の真下へ向けて爆破を放ち、体を更に高く浮かせて軌道を変えたのだ。直後、白く細長い何かが実弥の元へ迫り、両腕を縛りつけるようにして巻きついた。
「ッ!?」
2人を迎撃する為に技を放たんとした瞬間であった為、想定外の出来事に彼の手元が狂った。振るいかけたはずの木刀が手からすっぽ抜けてしまう。
「……よっしゃ!成功っ!悪いな、不死川!爆豪には一旦囮役になってもらったぜ!」
(こいつは、瀬呂のテープ……!?)
「よし!後は、いつでも爆豪のサポートが出来る位置に待機だ!」
声の主は瀬呂。不敵に笑いつつ肘を構える様と、両腕のベタつく感触で完全に理解した。両腕に巻き付けられたものが彼の射出したテープなのだと。
爆豪が常に実弥の視界に入る位置を進行することで意識を彼一点に集中させ、その間に瀬呂はテープを射出する準備を整える。また、軌道変更などする気もないのだと思わせるよう、芦戸の協力で今まで以上の速度を引き出した。
自動車がスピードを落とす気配を見せることなく直進しているのを見れば、そのまま直進し続けるだろうと誰もが思うはず。彼らがやったのはそういうことだ。
そして、爆豪はギリギリまで注意を引きつけたところで急に軌道を変える。想定外の出来事が起きた直後の僅かな隙を突いて瀬呂はテープを巻き付け、実弥の攻撃手段を封じる。
これが爆豪チームに共有された作戦。
相手に心理的な隙を生じさせてから確実に対応不可能な一撃を叩き込む実弥の戦法が仇になった瞬間だった。
はっきり言ってしまうが、実弥の怪力であれば瀬呂のテープを容易く引きちぎることが可能だ。すぐさま巻きつけられたテープを引きちぎろうとしたが、ここで想定外の事態が起こる。
突如、実弥達の元に影が射した。咄嗟に顔を上げると……。
「鉢巻は貰うよ……不死川君っ!!!」
上空から落下しながら迫り来る麗日の姿があった。
『あっと、ここで上空から麗日も参戦だ!緑谷に背負われていたはずなのに途中から姿が見えねえなと思っていたらそんなところにいたのか!?いつの間に!?』
プレゼントマイクの疑問はもっともで、実弥も彼の実況を耳にし、しっかりと麗日を背負って騎馬から離れて移動していた緑谷を目撃してはいた。
その後もしばらく様子を窺っていると、彼が麗日と共に轟の作り出した氷塊の一つに身を隠していたのを確認した。そこから数十秒後、姿を現した時には……確かに麗日の姿はなかった。
それを思い出した瞬間、合点がいった。
(そういうことか……!どうりでらしくねェ軌道で攻めてきた訳だ……!)
実弥が自分自身で答えを見つけると同時に相澤も述べた。
『騎馬から離れて行動を開始した後、緑谷は麗日を背負ったまま轟が形成した氷塊に身を隠していた。そして、その後に姿を現したタイミングでは麗日の姿はなかった。つまり、攻撃に転じる直前に自身の"個性"で無重力状態になった麗日を上空に打ち上げたんだ。麗日は不死川に明らかな隙が出来るまで機会を窺い、自身を浮かせて上空に待機していたって訳だな』
要するに、緑谷が攻撃再開時に直線ではなくジグザグとした複雑な軌道による移動を選んだのは実弥の注意を自身に引き付ける為だったということ。
勿論、実弥自身も彼の動きに違和感を覚えてはいた。理由は、特訓の中で緑谷には直線的で正直な読みやすい攻撃をする傾向があるのを知っていたから。ただ、彼は鉄哲が潰された状況で爆豪や轟までも……下手をすれば更なる人数が攻めてくる可能性も考慮していた故、違和感に関してあれこれと考えるよりも守りに集中することを選択した。
結果、緑谷の変則的な動きの理由の部分まで辿り着けなかった。
更に言えば、実弥の前世から今までにおける戦闘経験上、彼は空中を主な活動域にした相手と対峙した経験が少ない。前世はやはり白兵戦の経験が多かったし、今世は今世でヴィジランテとしての活動をしていた際には、適材適所で空中は空中が得意なヒーローに任せるべきだと考え、好んで相手にすることはなかった。相手にするとしても、徹底的に地上で叩く為の状況を作り出していた。
そんな経験から麗日が上空から攻めてくることを想定していなかったことも、彼女の接近を許してしまった理由だろう。加えて言えば、クラスメイトとして当然の話だが、実弥は自分自身を浮かせることが麗日にとってどれだけのリスクがあることかを知っていた。
(ははっ……面白えな、おい!)
自分にもまだまだ隙になる部分がある。それを実感しつつも、何とかして隙を作らんとして凡ゆるやり方で果敢に攻めてくる同級生達を頼もしく思った。戦闘狂という訳でもないはずなのだが、こうして試練が立ち塞がり、逆境に立たされる。前世とは違った形でそういう場面に追い込まれるのが、不思議と楽しくて仕方がない。
(
何より、リスクを承知で勝利に貢献しようとする麗日の行動は、雄英の校則を体現しているじゃないか。頼もしいに決まっている。こちら側もいい意味で刺激されるに決まっている。
だから、自然と口角が上がる。実弥の顔には獰猛な笑みが浮かんでいた。
『不死川、ここにきて大ピィィィィンチ!だがしかし、笑っていやがる!!!1000万を麗日、爆豪、轟の誰かが奪取するか!?それとも……不死川が守りきるか!?』
背後に回り込んで爆破を叩きつけんとする爆豪、前方上空から鉢巻を奪わんとする麗日、右側から冷気を纏った右腕を伸ばす轟。
3人とも1000万に対する執念を宿して本気で奪いに来ている。彼らの気迫を肌で感じ取り、思わず武者震いした。
こちらも易々と奪わせる訳にはいかない。体育祭の結果に頓着がないとは言えど、相手が本気で向かってくるのであれば本気で迎え撃つのみだ。
(どうして……どうして笑っとるん!?)
(まだ何かあるのか……!?)
(何をしようが、俺がねじ伏せてやらァ!!!)
獰猛な笑みを浮かべる実弥を前に、3人の中で感情が駆け巡る。ピンチの状況で笑みを浮かべられることに対する恐怖。目の前の男はまだ何か見知らぬ何かを秘めているのではないかという不安。何が起きようともそれをねじ伏せてトップに立ってやるという自信。
行動の直前に少しでも思考が伴うと、動きは鈍らざるを得ないもの。その僅かな鈍りが戦況を大きく変化させるきっかけになる。
歴戦の戦士と言っても過言ではないほどの戦闘経験を積んでいる実弥は、この競技で競い合う者達の中で誰よりもそれを分かっていた。
故にその鈍りを実弥は見逃さず、突如、仰向けに倒れ込まんばかりの勢いで仰け反った。想定外の事態に鉢巻を狙って攻撃を仕掛けていた3人は目を見開く。
「なっ……!?」
「クッソが……!」
「こ、この状況で避けるん!?」
『よ、避けたぁぁぁ!この状況で避けたぁぁぁ!!!ハンパねえぜ、不死川ぁ!!!』
既に振るわれていた麗日と爆豪の腕は見事に空を切り、1000万を手にすることは叶わなかった。轟も実弥の予想外の動きに思わず動きを止める。
更にそこに……予想外の刺客が現れた。
「なあ!爆発頭のあんた!確か宣誓の時に1位になるだのなんだの言ってたよなぁ!?それにしては1位取れる気配がないが……そこのところはどう思っているんだよ!?」
「……ンだとゴラァ!?モブのくせに――ッ!?」
左側から轟いた挑発的な叫び。それに爆豪が苛立ちを覚えながら答えた瞬間……彼の瞳から生気が消え失せ、その場に崩れ落ちた。
「えっ!?ば、爆豪!?どうしちまったんだ!?」
「おい、爆豪!?爆豪!?聞こえるか!?おい!!!」
「……は、反応ないよ!?これやばくない!?」
攻撃を無理矢理中断させられたようにして崩れ落ちた爆豪の姿を見て焦りを覚える切島、瀬呂、芦戸の3人。
『ば、爆豪!突然動きを止め、その場に崩れ落ちた!この反応は……間違いねえ!ダークホース心操、再び1000万の争奪戦に参戦だ!!!』
声の主は、一度は実弥を出し抜いた今大会のダークホース――心操人使。同じチームのメンバーと共に勝ち残る為の熱意と執念をその目に宿して再び参戦した。
(来やがったか……心操!)
再び向かいくる心操の姿を目にした実弥は上等だと言わんばかりに不敵に笑う。
更に、心操は洗脳下に置いた爆豪に声を張り上げながら命じる。
「紅白髪の奴の額に巻き付いた鉢巻を奪え!!!」
「っ……!?くそっ!」
心操の命令一つで彼の操り人形と化した爆豪は掌から火花を散らし、拳藤の巨大化した手の上から飛び降りて後退を始めた轟に接近しようと爆破を繰り出す。だが、今の彼は操り人形故に思考を無くし、なりふり構わない状況。言い換えれば今後の為に余力を残すようなこともしなくなるということ。
加減を考えず、洗脳下の彼は今までにないほどの超火力で爆破を繰り出した。
「っぐっ!!?」
掌の汗腺に痛みが走ると共に、爆破を繰り出した際の衝撃で洗脳が解けてしまう。
爆豪が何の顔色も変えずに平然とやっている故に忘れがちなことではあるが、爆破一つを放つだけでも肩や腕にそれなりな反動がくる。
しかも、己の身体を空中に留まらせ、遠心力を利用して空中を高速移動するとなれば、普段爆破を放つ時よりも更に火力が必要。
それに加え、今回は洗脳下に置かれていたことで後先考えずに最大火力の爆破を放った。
実のところ、心操の"洗脳"は、誰かと肩をぶつけた程度の衝撃でも解けてしまうほどに脆い。それよりも遥かに衝撃の大きい爆破によって効果が切れるのも当然のことだった。
爆煙が立ち込める中、超火力の爆破による凄まじい遠心力によって轟の元を通り過ぎ、煙を突っ切りながら吹き飛ぶ爆豪。何が起きたのか把握しきれない状況でありながらも、空中で何度も宙返りして受け身を取りつつ、自身の後方に向けて大爆破を放って最初に加わった遠心力を相殺した。
『おおっと、もう1発凄え大爆破!爆豪、受け身を取ったぞ!これはもしや……心操の"個性"が解けたのか!?残り時間は30秒!早々に立て直した以上、まだまだチャンスはあるぜ!最後まで諦めるな!!!』
「ッ!?思考を伴う行動……!爆破の衝撃で洗脳が解けたのか……!くそっ!」
受け身と遠心力の相殺という思考が伴わなければ不可能な行動をとった爆豪を見て、最初の爆破の衝撃で洗脳が解けたことを悟った心操。
自分の命令の下し方が間違っていたことが分かり、奥歯を噛み締めながら、悔しげに拳を握りしめた。
「大丈夫か!?爆豪!!」
「テメェらに心配されるほどヤワじゃねェ!!!」
「体勢立て直そう!一旦回収するぞ!許せよ、爆豪!」
吹き飛んだ爆豪の元に駆け寄りながら切島が声をかけるが、彼は不敵に笑みを浮かべながらそれを一蹴する。
体に瀬呂のテープが巻きつき、騎馬の元へと引き寄せられる中、爆豪は考えた。
(クソが……無駄に大規模な爆破を2発も使っちまった……!ンでもって、普通科のモブの煽りに答えた瞬間から1発目の爆破を放った後までの記憶が飛んでやがる……。ヤツが何かしやがったことには違いねえ!)
残っているのは頭に靄がかかったような妙な感覚だけ。操られていた自覚もない。だが、日常を生きていてそんな感覚を抱いた経験は一度もない。それが心操に何かされた結果だと察するのは難くない。
爆豪は正真正銘の天才だ。頭もキレる。故にこの短時間で心操の"個性"の発動条件を悟った。
(恐らく、ヤツの言葉に答えた瞬間に"個性"が発動する。解けたのは偶然だ。そっちに賭けるのはリスクがデカすぎる。なら……やることは決まってらァ……!)
「傷顔ォォォォォ!!!」
「おわっ!?爆豪!?待て!無闇に突っ込んだらまたやられるぞ!!!」
気合を入れ直すかのように咆哮を上げ、爆破を起こしながら爆豪は飛翔する。
(もう一度……!)
再び爆豪の洗脳を試みて、心操は声を上げた。
「……さっきは随分とキレていたなぁ、爆発頭のあんた!まさか、図星で1位になる自信もないってか!?デカい態度のくせに情けないヤツだな!!!」
再び爆豪の晒した醜態を話題に出して敵意を煽るが……彼は答えなかった。
まさかと思いつつも心操は続ける。
「おいおい!?無視か!?ヒーロー科のくせに普通科の俺程度が怖いのかよ!臆病者め!!!」
もう一度挑発するも、やはり答えない。不敵な笑みを浮かべ、爆豪は実弥の元へと一直線に突き進んでいく。
(アイツ……!この一瞬で"洗脳"の発動条件を見抜きやがったのか!?)
こうまで答えないとなると、嫌でも分かってしまう。爆豪に"個性"の発動条件を見抜かれたのだと。
『心操の挑発!だが、爆豪は答えねえ!あの一瞬で全てを見抜きやがった!!!なんて頭のキレるヤツだ!!!』
"個性"の発動条件が見抜かれてしまうと、もうやれることは何もない。
「……一旦退くぞ。もう少しタイミングを
「……分かった!」
心操は唇を噛み締め、大人しく様子見に徹することにしたようだ。
障害が一つ減り、内心でほくそ笑む爆豪。このまま実弥に攻撃を仕掛けてもう一度鉢巻を――
そう考えていた時、無数の氷棘群が真横から爆豪に迫ってきた。
「ッチィッ!」
舌打ち混じりに爆破を連続で叩き込んで、氷棘を粉々に打ち壊す。氷の礫が陽の光を受けて輝きを放ちながら舞い散る中、爆豪はそれらが迫ってきた方向を睨みつけた。
「行かせねえぞ、爆豪……!」
白い息を吐きながら、自身を氷で押し出す移動法で迫る轟。彼の姿を見て、爆豪は丁度いいと言わんばかりに不敵に笑った。
「……ハッ、いいぜ。傷顔と
『まさかの、ここで轟と爆豪が衝突!残り時間も少ない!短期で決着つけねえと1000万奪取は厳しいぞ!』
爆豪もまた轟へ向けて肉薄。彼の額に巻き付いた鉢巻を狙って攻撃を始めた。
「正気に戻ったっぽいとは言え、先に轟を何とかする気か!」
「私達も行こう!」
「おう!」
「……八百万君!さっきも言った通り、俺はもう使い物にならない!君だけでも轟君のサポートを!爆豪君に狙われている!」
「わ、分かりました!」
爆豪チームの3人と八百万も2人の戦場へと駆けつけ、お互いの騎手を支援。どちらが1000万の元へ辿り着くか……争いは激化していく。
一方、仰け反らせていた上半身を勢いよく起こし、そのままの勢いで前方の麗日に頭突きを繰り出さんとした実弥だったが、上半身を起こす途中で急に視界が塞がった。
それと同時に嗅覚を刺激する柔らかく心地の良い香りに疑問を持っていると、ふわりと体が軽くなり浮かび上がる感覚がした直後、上方へと吹き飛ばされてしまう。
(っ、何が起こった……!?)
状況を把握する為に咄嗟に両腕を縛り付けていたテープを腕力だけで容易く引きちぎり、視界を覆うものを跳ね除ける。そして、実弥が目にしたのは……体育服の上着と数十mほども真下にある会場のグラウンドだった。
『大胆だぜ、麗日!体勢を変えようとした不死川に自分の体育服の上着を被せて視界を塞いだ上で浮かして投げ飛ばした!空中となると大きく動きを制限されるのは避けられないぞ!!!これはチャンス到来かもしれねえ!そして、さりげなく瀬呂のテープ引きちぎったな、おい!』
「おいおい……!斬るならまだしも、怪力で引きちぎるとかありかよ……!?」
プレゼントマイクの実況により、ようやく事態を察した。実弥としてはそのまま頭突きを繰り出すつもりでいて動きを止める気はなかった為、急に動きを止められないというのも当然の話ではあり、そこを突いて麗日は実弥の視界を奪うことを選んだ。
相手に攻撃されれば避けようとするか反射的に防ごうとするの2択が大半だが、彼女は敢えてそうせずに隙を見出して迎え撃った。その胆力は間違いなく尊敬に値するだろう。
あっさりとテープを引きちぎられたことに瀬呂が愕然としていたようだが、そこは一旦置いておく。
(空中なら……!)
「麗日さん!僕を浮かして空中に打ち上げて!」
「うん!……いっけぇぇぇ!!!デク君!!!」
空中に投げ飛ばされた実弥の鉢巻を狙い、無重力状態になった緑谷をレシーブのようにして打ち上げる麗日。彼女の"個性"によって身につけている衣服以外の重さがゼロの状態になった緑谷が、上空へ向かってバレーボールの如く突き進む。
上空に打ち上げられた彼は瞬く間に実弥と同じ高さにまで辿り着き、狙いを定めて腕を振るってきた。
しかし、実弥は想定外の行動で危機を逃れる。緑谷の振るってきた腕を受け止めると、パルクールで塀を乗り越えるようにしてそれを跳び越えてみせた。
(避けられた!?)
『な、何っ!?不死川、緑谷の腕を跳び越えた!空中でもあんなアクロバティックな動きが出来るのかよ!?いや……オールマイトと同じようなことが出来るようなやつだし、空中で思い通り動けても不思議じゃねえのか!?』
「っ……このっ!」
実弥の予想外の行動に一瞬動きを止めるも、このチャンスを逃す訳にはいかないと緑谷は即座に身を翻し、鉢巻に腕を伸ばす。
対する実弥は迫る腕を避けながら、跳ね除けた麗日の体育服の上着を緑谷に被せた。
「うわっ!?」
視界が奪われた上に被せられたのは異性が身につけていた服。年頃の少年である彼が慌てない訳がなく、被せられた上着を前にして動きを止めてしまう。
「隙ありだ、緑谷ァ!!」
生じた隙を見逃さず、実弥は緑谷の懐に踏み込み、右腕で彼の右肩を掴んで固定すると、体を背負い上げた。そして、そのまま勢いのままに上腕を掴んで投げ飛ばす。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?」
「デ、デク君!!」
『不死川の綺麗な一本背負いが決まった!!!視界を奪われた緑谷、地面へ真っ逆さまだ!しかし、空中であれほど動けるのは流石だぜ!まさか、麗日に浮かされるのも作戦のうちだったか!?』
絶叫と共に地面に叩きつけんばかりの勢いで投げ飛ばされて落下していく緑谷を受け止める為に麗日は全速力で駆け出した。
その様を見た常闇が声を上げる。
「空中を己が領域に……!?……耳郎!両耳の架線はどこまで伸ばせる!?」
「左右それぞれ6m!悪いけど、流石にあの高さにいられると届かない!」
「くっ……!ならば、
「させない!!!」
何とか1000万を奪取しようと耳郎を頼るが実弥が高所にいる現状ではどうしようもないことを知り、それならばと自らが行動を起こさんとする。しかし、そこにすかさず拳藤が割り込んだ。
実弥が空中にいることで足場でいる必要がなくなり、自由に動けるようになった彼女は自身の間合いにまで距離を詰めてきた。
その間に
「ウギャッ!?ニ、逃ゲ場ガネエ!」
『拳藤の巨大化した手の中に閉じ込められたぞ、
微かな隙間すらも生じさせないように
「っ……!?内側から押されて……っ!?」
数秒後、鷲掴みにした手の内側から、それを押し広げるようにして凄まじい力が加えられ始めた。しかも、それは徐々に増しているように思える。
暗闇。それは、
「光一つ差さぬ空間に
「ヌゥオオオ……!闇ノ中デナラ……オレハ負ケネエゼ……!!!」
闇が深まれば深まるほど力を増すという特性により、自分を鷲掴みにしている拳藤の手を押し広げて突破しようとする
そうこうしている間にも、彼女の手は徐々に緩み始めていた。
「……それなら、根性比べといこうか!私もさ、パワーにはちょっと自信あるんだよね……っ!」
「……!望むところだ!」
だが、拳藤は負けじと
一方、再び拘束されて行動不能になった常闇を見て、再度攻撃を仕掛ける決意をした緑谷。
何とか受け身を取ろうとしたところを麗日に受け止められ、事なきを得た。
「デク君!大丈夫!?」
「うん、何とか……!あ、ありがとう、麗日さん」
被せられた上着を無心になりつつ麗日に返却すると、立ち上がりながら上空を見上げる。そこには、空中に滞在したままで更なる刺客と対峙する実弥の姿があった。
彼は4本の角と無数のパーツを、脱ぎ捨てた上着をヌンチャクのように振り回しながら次々と弾き飛ばしていた。
『残り22秒でまたもや刺客参戦!見る限り……B組の角取と取蔭か!角取の操作する角と取蔭の操る身体のパーツを、自身の上着をヌンチャク代わりにして弾き飛ばしているぞ不死川!剣術に体術に……お前マジで多才すぎるぜ!!!てか不死川の筋肉やべえし、上半身傷だらけ!お前、本当に10代か!?』
「
「感心してる場合じゃないって、ポニー!あんな小さいのを正確に弾くとか……!しかも、木刀無しだから本領発揮してる状態じゃないんでしょ!?冗談キツいって……!ちょっとは手加減してよ!」
騎馬ごと足元を凍らせられたが、自身から何かを切り離して操作することで行動が可能な2人が他のB組の分まで戦い抜こうと最後の争奪戦に参戦するが……余裕のある様子であしらわれる始末。
あまりの驚愕で角取は感情が昂って英語が出てしまい、取蔭は思わず泣き言を言ってしまった。
(とにかく、これじゃ離れたパーツを動かせる時間があっという間になくなる!一旦こっちに戻さないと……!)
取蔭が身体から切り離した部位は一定時間で動かなくなってしまい、その後本体で再生するようになっている。
だが、動かなくなった部位を再生させるには体力を消耗してしまう。体力の消耗を少しでも減らす為に、彼女は使わなくなった部位を動かなくなる前に本体に戻すようにしているのだ。
パーツを弾かれ続けているこの状況では、ただ部位が動かなくなるまでの時間を浪費するだけで余計な体力の消耗にも繋がりかねない。
残り時間が少ない今は、少しでも長く攻撃を仕掛け続けたいところ。故に、ある程度の部位と鉢巻を奪う為の手を残し、他は本体に戻そうとするのだが、実弥はそんな彼女の動作を見逃さなかった。
突然、実弥は取蔭が引き戻そうとしていた無数のパーツに体育服の上着を被せ、それらをあっという間に包み込んでしまう。
「へっ!?」
彼の突然の行動に動きを止めてしまう取蔭。そこから更に、実弥は――
「発目ェ!網でこいつを捕縛しちまえェ!!!」
「ああっ!?私の身体ぁぁぁ!!?」
取蔭の身体のパーツを包み込んだ上着を発目に向けて放り投げた。上着が放り投げられる光景を目の当たりにした取蔭の悲鳴が響き渡る。
「最後の1発……任されました!」
投げ飛ばされ、風を切りながら向かいくるパーツを包み込んだ上着に狙いを定めて引き金を引き、弾を発射する発目。
弾は網へと変化しながら見事それに命中し、きっちりと捕縛した。
『んん!?不死川、今度は何した!?』
『取蔭が身体から切り離した部位は、動かせる時間に制限がある。そして、切り離したものは再生も可能だがそれには体力を消耗するそうだ。部位の可動時間が切れる。それと、取蔭が部位を再生して体力を消耗する。ここ二つが狙いだろうな』
『そういうことか!マジで頭のキレっぷりが変わらねえな不死川!未だに余裕を保ち続けている証拠か!?』
服で包み込まれた上から網に包まれた以上、完全に逃げ場がない。実弥の上着に包まれた取蔭の身体の部位はいずれ動かなくなってしまうことだろう。
これでは体力の消耗と引き換えに身体の部位を再生せざるを得ない。
(し、しくじった……!パーツをこっち側に戻すところまでしっかり見られてるなんて……!視野広すぎ!)
「手といくつかのパーツを残しておいて正解だったかも……」
攻撃手段を減らされたことに歯痒い思いをしつつも、失った部位の再生に意識を集中させる取蔭であった。
未だ空中に滞在している状況でありながらも依然有利に立ち回り続ける実弥の姿を前に、緑谷は無重力状態であることがかえって空中での巧みな行動を可能にしているのだと察する。
今の状況から考えるに、攻撃を仕掛けるチャンスはあと1回……。決意を固め、緑谷は麗日に指示を出した。
「麗日さん!不死川君の無重力状態を解除して!今のままだと、かえって不死川君の方が有利だ!落下してきたところに畳み掛ける!」
「!分かった!それと私も行くよ、デク君!少しでも対処する相手増えた方がいいでしょ!」
「……!ありがとう!」
「……解除!!!」
彼の指示に答え、麗日は指先についた肉球同士を合わせることで実弥の無重力状態を解除した。
直後、空中に浮いていた実弥は重力に従って落下を始める。
『不死川が落下していく!麗日の"個性"が解除されたらしいぜ!さあさあ、これが最後のチャンスになるぞ!残り18秒!総員、最後まで畳み掛けろ!!!』
(くそ……!最後のチャンス……逃すわけにはいかねえのに!!!)
最後のチャンス。その言葉が嫌でも脳裏に刻みつけられる。
「ハッハァ!!!虫みてえにしぶてェな、半分野郎!けどな……テメェの攻撃は一々大雑把なんだよ!いい加減学習しやがれ、バカが!!!」
『さ、最後のチャンス……なのに、爆豪の猛撃が止まらねえ!!!轟を撃破した上で不死川を狙うつもりか!つかアイツ、動き良くなってね!?疲れ知らずか!?』
テメェの攻撃は見飽きた。その感情をありったけに込めつつ、時間切れが近づく中、轟が焦りを覚えながら放った氷を爆炎で粉砕する。
――一刻も早く決着をつけたいのに爆豪を捉えられない。そのジレンマが轟を苦しめる。
凍らせでもして行動不能に陥らせることが出来ればいいのだが、肝心の彼は息つく暇もなく鉢巻を狙いながら妨害を突破し、彼を追い詰める。
轟側は氷の力を連続使用している影響で再び低体温症に侵されつつあり、集中力も乱れている。それなのに……対する爆豪は動けば動くほどに調子が良くなっていく。スタミナの衰えを全く見せず、彼の行動が更にアクロバティックに、素早く進化していく。
「体育祭の前よォ!クソデクと傷顔に宣戦布告しておきながら、俺のことは無視しやがったよなァ!?テメェにとっちゃ俺は格下ってか!?あァ!?」
「ッッ……そうだ……っ!」
爆豪の挑発にはっきりと答えながら、右腕を振り上げて氷壁を築く。だが、それは爆豪の
「なら、テメェは格下相手に苦戦してるって訳か!無様だな、半分野郎!……そういやテメェ、さっきから寒そうに震えてやがるな!氷も随分と脆くなってンぞ!……限界が
「ッ……」
爆豪にまでも限界が近いことを見抜かれ、言葉に詰まる轟。それでも、負ける訳にはいかないと抗い続ける。
それ以上に左の力を使う訳にはいかない。
「……ケッ!こんな時だってのに舐めプか?くだらねェ。現実から目ェ逸らして、本気出すまでもねェって意地張ってるってか。……いいぜ。俺を格下扱いしたこと、後悔させてやらァ!!!テメェを0Pに蹴落とした上でなァ!!!」
(くそっ……)
本気を出すよう催促するも、彼は意地でも本気を出そうとしない。その様子を見て、爆豪は失望したように吐き捨てつつ、両掌から爆破を放つ。
轟に対する苛立ちが乗っかっているのか、爆破の威力が無意識のうちに上昇する。これまでを更に凌ぐ速度で爆豪は彼に肉薄し、額の鉢巻に手を伸ばした。
避けようにも避けられない。鉢巻を奪われる。半ば確信した瞬間、爆豪の元へとりもちが放たれた。
「ッ!?クッソが!」
後一歩のところで及んだ妨害を横目で目の当たりにし、爆破の遠心力で宙返りを行ってとりもちを回避した爆豪。
轟もハッとしながら、それが飛んできた方向を見る。
「轟さん!不死川さんの元へ行ってくださいまし!」
『と、ここで八百万のサポートが入ったぞ!とりもちを連射して爆豪を足止めだ!!』
視線の先にいたのは、ランチャーを構えてとりもちを次々と撃ち放つ八百万。弾速もそれなりに速くサイズも小さい為、少しでも気を抜けば命中してしまう。
腹立たしそうに舌打ちをしつつも、爆豪はそれらの回避に専念する他ない。
「ッ……すまねえ、八百万……!」
この騎馬戦の中で、八百万の行動に、彼女の言葉に何度も救われたように思う。救われてばかりの己を情けなく思い、歯を食いしばりながらも轟は進行方向を実弥のいる方向に定めて突き進んだ。
(クソが……!抜かされた!)
(なんて反応速度ですの……!全てのとりもちを、見てから避けるだなんて……!)
次々と放たれるとりもちを目で見てからでも易々と躱す爆豪の反応速度に舌を巻く八百万だったが、彼女の目的は僅かでも時間を稼いで轟を実弥の元へ近づかせること。必ずしも、ここで爆豪を足止めし続ける必要はない。
(せめて、これでもう少しだけでも……!)
少しでも長く爆豪を足止め出来るようにと八百万は閃光弾を創り……爆豪へと放り投げた。
しかし、爆豪は放り投げられた物体にさえも素早く反応し、正確にハイキックを命中させて閃光弾を上空へ向けて蹴り上げてしまう。上空で眩く凄絶な光が弾けた。
『What!?ば、爆豪、マジかよ!?八百万が創造し、放り投げた閃光弾を空中に蹴り飛ばしやがったぞ!』
足を完全に振り上げた姿勢から体勢を立て直すタイミングに隙を見出し、八百万は再びランチャーでとりもちを撃ち放つも……今度は爆豪の目前に芦戸が立ち塞がり、酸を撒き散らして迫るとりもちを一つ残らず溶かしてしまった。
「黒目!?テメェ、余計なことを――」
自分1人でもどうにか出来たと言わんばかりに怒りを爆発させかける爆豪だったが、芦戸はすかさず言葉を発した。
「爆豪も行って!不死川のところに!」
そして、彼女の後に切島が続ける。
「そうだ!行け、爆豪!残り12秒しかねえ!このままじゃ、1000万
彼の熱い言葉を受け、轟を逃がしてしまい、実弥の鉢巻を狙いにいくしかない現状に苛立ちを見せながら歯を食いしばる。だが、爆豪は声を荒げながらも実弥の元へ突き進む。
「ンなこと……いちいち言われなくても分かってらァ!!!」
爆豪を逃がすまいとランチャーを構える八百万だったが、轟が振り返ることもなく彼女に呼びかけた。
「八百万!爆豪はもういい!不死川優先だ!……一瞬だけでもいい!何とかして不死川の気を反らせねえか!?」
「!分かりました!最善を尽くしますわ!!」
轟の頼みを引き受け、八百万はすぐさま火薬、ピストル、耳を保護する為のプロテクターを創造して何やら準備を始めた。
爆豪も同じくして呼びかける。
「……俺単騎で奪えるほど甘くねェ!黒目、醤油顔!テメェらも来い!!!弱めの溶解液とテープを傷顔にけしかけろ!!!」
「わ、分かった!」
「おっしゃ、任せろ!」
彼の声に応え、瀬呂と芦戸も実弥への距離を詰めようと駆け出した。
『さあ、爆豪と轟が不死川に接近を開始したところで……時間も迫りつつある!!!さあ、オーディエンス共!カウントいくぜ!』
「「「「「10!9!8!」」」」」
直後、プレゼントマイクと観衆が一体となってカウントダウンを開始した。
本当にこれが最後だ。各々が、繰り出す最後の一手に全てを賭ける。
(まずは防御を……崩す!)
緑谷は地面を蹴って実弥の元へ肉薄し、拳を握り込んだ。ただし、その拳が振るうのは万が一実弥が防御してきた時の対応の為。
(超必で不死川君に掴みかかる!それで、行動の手間を増やすんだ!)
麗日は自身を無重力状態にして浮遊しながら、実弥の元へ飛びかかる。彼が対処すべき事象を増やし、周りへの対応を遅れさせようと画策していた。
(全員空中なら避けられねえだろ……!凍らせてから――
轟は1000万を狙う緑谷、麗日、爆豪もろとも実弥を凍らせることを狙い、冷気を発しながら右腕を構える。
(テメェら全員邪魔なんだよ……!1000万は俺のモンだ!!!)
爆豪は強烈な光を伴う爆破で己以外の全員の視界を潰すことを狙い、両手を構えた。
(1本は不死川さんの鉢巻を奪う用で……もう1本で何とかして空中に持ち上げマス!!!あと2本は妨害用!)
角取は空中に浮かんでいる自身の角を発射し、実弥を再び空中に連れ去った上で鉢巻を奪う上に残りの角で彼の周囲に集まる者達全員の妨害を企む。
(身体の再生を待ってる暇なんてない……!やれるだけやってやる!残ったパーツでポニー以外の全員の妨害!片手は不死川の背後からで、もう片方はポニーが空中に持ち上げてくれたところを……!)
そんな彼女との連携を狙いつつも、限られた数のパーツでやれるだけのことをやり尽くしてやろうと、分離したそれらをそれぞれ巧みに操作する取蔭。
各々の思考が交錯する中、カウントは続く。
「「「「「7!6!5!」」」」」
カウントが5秒に差し掛かった瞬間、耳にプロテクターを装着した八百万が上空へ火薬を詰めたピストルを向け、引き金を引いた。
競技の開始を告げるかのように響き渡る大きな破裂音。
1000万の争奪戦の渦中にいる者の中で、轟以外の全員がその音に反応した。
(拳銃……。だが、銃口は上空に向けられ、音を発しただけ……。つまり、八百万は気を引く為の囮……!本命はこの後か!そういうことだろ、轟!)
実弥は密かに轟の狙いを察し、技を放つ準備をする。空中から落下する中、周囲に悟らせないよう、密かに肺に息を取り込んだ。
(全員音に反応した……!やるなら今しかねえ!)
音に反応して生じた僅かな隙を突かんとして、轟が動く。冷気を一気に解き放ち、地面を撫でるように腕を振るいかけた刹那、風圧と爆炎が押し寄せた。
「っく……!」
壁を叩きつけるように押し寄せた風で体勢が崩れかけ、爆発の余波で発生した爆煙と土煙が視界を不明瞭にする。
それでも、咄嗟に腕を振り上げて氷壁を作り上げる。それで風圧と爆炎を防いだ。
「テメェの考えはお見通しなんだよ、半分野郎が!大人しくくたばってろ!!!」
「君に1000万を譲る訳にはいかない!」
彼に攻撃を仕掛けたのは、緑谷と爆豪だった。フルカウルの出力を瞬間的に15%に引き上げた緑谷はデコピンの要領で虚空を弾いて風圧を起こし、爆豪は右腕を振るった拍子に地を走る爆破を放ったのだ。
「邪魔するな……!俺は……俺は……ここで立ち止まる訳にはいかねえんだ……!」
右半身に霜が降り、低体温症を起こしている体に鞭を打って、2人に氷棘を放つ。
迫る氷棘の波。それを緑色の稲妻を纏った蹴撃と強烈な爆破が迎え撃ち、粉砕する。意志と意志のぶつかり合いが熾烈な張り合いを見せていた。
「「「「「4!」」」」」
残り4秒。迎撃に専念する緑谷を目にして、鉢巻の奪取が自分に託されたと解釈した麗日は、飛び出した勢いのまま実弥にしがみつこうとするも、空中にいる彼女の周囲を取蔭の身体のパーツが高速で飛び交いながら次々と衝突する。
「いたたたっ!?な、何これ!?」
次々と衝突してくる無数のパーツに妨害され、動きを止めざるを得ない。何とか弾き落とそうとするものの、パーツの一つ一つは野球ボール並みのサイズで的が小さく、弾き落とす為に振るった腕は空を切るだけだった。
「ンだ、この角……!邪魔だ!」
「この小さいのも角も、B組の人の"個性"か……。先にこれをどうにかしないと!」
「くそっ、また取蔭か……!」
彼女の妨害は緑谷、爆豪、轟にも及んでいる上に、彼らの場合はそこに角取の妨害も加わってきた。
身体のパーツが動きを阻害するように次々とぶつけられ、鉢巻を所有する爆豪と轟には彼女の分離した両手までもが襲いかかる。遠隔での操作が可能な制限時間に到達してパーツが動かなくなるのを防ぐ為に時折本体の方へと戻っていくものもあるが、攻撃自体は残されたパーツによって継続される為、状況自体に大きな変化はない。
実弥の鉢巻奪取用に手を残すつもりではいたが、熾烈な張り合いを繰り広げるA組トップクラスの実力者3人を先にどうにかしないと鉢巻の奪取に専念出来ないと判断した結果だった。
当然ながら取蔭と実弥の間には大きな実力差がある為、彼らの妨害を兼ねながら鉢巻を狙うのはあまり現実的な策ではない。それを思えば彼女の判断は正しいと言える。
(皆さんお見通しでしたのね……!せめて取蔭さんだけでもどうにかしなくては!今のままでは轟さんにかかる負担があまりにも大きすぎる!)
自分の行動が全く意味をなさなかった訳ではないが、今のところほぼ無意味の状態になってしまっている光景を目の当たりにした八百万が牽制及び取蔭の身体の部位の捕縛を狙って網を創造し、投げ始めた。
(まずい、八百万が轟のサポートに……!)
(どうしよう……!?不死川さんに取っておこうと思った2本も妨害に回さないとハードかも……!)
網を何とか避けながらも緑谷、爆豪、轟、麗日の4人の妨害を続ける取蔭に、3人に対する妨害を支援する角取。誰をどのタイミングでどう妨害するかを絶えず考えなければならない状況で、頭が沸騰しそうな感覚に陥っていた。
……正直に言うと、状況はよろしくない。
「倒れて……たまるか……!こんなところで……っ!」
轟は八百万が創造した金属の盾で妨害を防ぎながら、自身で形成した氷で己を押し出す移動法でしぶとく耐え抜き、逃げ回っている。右半身に大量の霜が降りているという明らかに異常な状況に陥りながらも。
「ハッ、シンプルにうぜェだけで他は大したことねェなァ!?一丁前に出しゃばってンじゃねェぞ!!!」
爆豪は騎馬戦の間、ずっと……そう言ってもいいくらいに単騎で行動して激しい攻撃を繰り返している故に発汗性が上がり、爆破の威力がみるみる増している。爆破がより強力になることで普段では出来ない動きも可能となり、手がつけられない。
爆破1発で角取の操作角を粉砕し、続け様に放った連続爆破で周囲を飛び交う取蔭の身体の部位をまとめて叩き落とした。
「ッ、麗日さん!こっちは僕が引きつけるから……1000万の方は任せる!」
「あ、ありがとう、デク君!元よりそのつもりだったから、任せといて!」
緑谷は稲妻を纏った蹴撃で角取の操作角を粉砕した上で取蔭による妨害の包囲網をあっさりとくぐり抜け、麗日の妨害を行っていたパーツを手刀で一つ残らず弾き飛ばして、彼女を本命の元へと向かわせた。取蔭の妨害を容易く突破出来るのも、ひとえにそれを遥かに凌ぐ速度で繰り出される実弥や通形の攻撃に慣れているからだ。
必死に喰らいつくも、すぐに突き放される。僅かな光明すらも見えない。
(っ……これが……
目標とする1000万の奪取に手を伸ばすにはまだ遠すぎることを悟り、取蔭は悔しそうに唇を噛みしめた。
「「「「「3!」」」」」
残り3秒。ここで爆豪を洗脳して以来、大して動きを見せていなかった心操が動く。
「……庄田、頼む」
「ああ、任せたまえ」
心操の指示に頷いた庄田が平手で軽く背中を押すようにして触れた後、心操は騎馬を足場にして跳躍した。
勿論、彼には空中を移動する術がない。このままでは間違いなく地面に落下し、問答無用で失格になってしまう。誰もがそう思った直後だった。
「ツインインパクト……
庄田が力強く声を発すると同時に心操の背中に衝撃が加わり、空中に飛び出した彼の体を強く押し出したのだ。
一言で表すなら、まさに人間砲弾。人間砲弾となった心操が風を切りながら実弥の元へと突っ込んでくる。
庄田の"個性"の名は、"ツインインパクト"。打撃や衝撃を与えた箇所に任意のタイミングでそれらをもう一度発動させることが出来るというもの。また、二度目に発生させたものは、威力が元の数倍にもなる。
庄田が心操の背中を押すことで発生した衝撃が彼の"個性"によって数倍もの威力に増加したことで、このような現象が起きた。
「っ……あかん……!このままじゃ、普通科の人に……
何とかしてあの人よりも先に1000万を奪い取らなきゃ……!
そう思いながら、再び己を浮かせようとした麗日だったが、自分の体に触れようとしたところで自分自身がぐるぐると回っているような感覚と強い吐き気に襲われてその場に膝から崩れ落ちてしまう。
(め、めまいと吐き気が……。大事な時なのに……!)
彼女が超必殺技――略して超必と称している自分自身を浮かす行動は、凄まじい負担が生じる。一度かつそれを行っていたのが短時間であったとしても、それだけで吐き気やめまいを引き起こしてしまうほどだ。
そんな超必殺技を彼女は既に2回も使用している。1回目の分の負担は根性で何とか堪えたものの、2度目ともなると堪えられなかった。
ここで動かなきゃ……!
それを頭で理解してはいるものの、体はめまいと吐き気に屈服して動くことを拒否している。
(麗日さんも限界か……。いや、そりゃそうだ……!ただでさえ負担を強いるようなことを2回もやってもらったんだから……!)
「僕が皆の分までやるんだ!!!」
青ざめた顔でその場に崩れ落ちた麗日を見るや、緑谷は自分を奮い立たせて、再び周囲に集まりつつあった取蔭の身体のパーツを一つ残らず弾き落とし、地面を蹴って再度実弥の元へと突撃する。
それに伴い、爆豪や轟、取蔭に角取も足の引っ張り合いをやめ、各々が攻撃を仕掛けた。
「やるぞ、芦戸!ここしかねえ!」
「うん!やっちゃおう!」
周囲が足の引っ張り合いをやめたタイミングに合わせて、瀬呂は肘からテープを射出し、芦戸は指先から水滴ほどのサイズの溶解度が低い酸を実弥に向けて飛ばした。
しかし、鉢巻を奪うことに固執しているあまり、彼らは忘れている。実弥が騎馬を離れて空中にいることで自由に動ける者がいることを。
「「「「「2!」」」」」
残り2秒。瀬呂の妨害によって実弥の手から離れた木刀を手にして、ここまで様子を窺う者がいた。
発目である。競技に持ち込んだ捕縛銃の弾を使い果たし、ほぼ役目を果たしきった状態の彼女なりに今の自分が出来ることを考えた。
そして、思いついたのが……実弥に再び木刀を手渡すことだった。
周りにいる者全員の意識が鉢巻だけに集中している。やるなら――
(今しか……ありませんよね!)
善は急げだ。躊躇う間に誰かの得になり得ることを実行する機会を逃してしまっては勿体無い。発目は即座に行動を起こした。
ただし、急がば回れという言葉もある。少しでも早く実弥に木刀を渡したいからと言って、何も考えずに単純に投げ渡すようなことをすれば、間違いなく目的達成から遠のいてしまう。
ここは回り道をするように手間がかかれど、着実な方法を取るべきだ。
故に、彼女は工夫を施した。
「不死川君!これを!!!」
大げさに声を張り上げながら彼女が放り投げたのは、弾を使い果たして役割を終えたはずの捕縛銃だった。上方へ向けて投げられたそれは、空中でくるくると回転しながら山なりに向かいくる。
発目が声を張り上げるものだから、全員が思わず彼女の方を一瞥し、その後はすぐに捕縛銃へと視線をやった。
「少しでも足止めになればと!どうぞ使ってください!!!」
そう声を上げつつ、彼女は全員の視線が捕縛銃に集中している間に、木刀を手にして実弥の背後の方へと走り出す。わざわざそう呼びかけるのは、彼に自分の居場所を伝える為だ。
銃であれば、遠距離からの攻撃が可能だと思われる。わざわざ投げ渡す必要はないはずだ。
ならば、そうする意味は?発目は何を企んでいるのだろう?そもそも、銃を無視して鉢巻を奪いにいくべきか、もしものことを考えて銃に対処するか……どちらが最適解なのか?様々な疑問が頭の中を駆け巡る。
ただ、実弥だけは違った。発目と同じチームである彼だけは知っている。捕縛銃自体は弾を使い果たしたことで既に役目を終えているのだという事実を。
どう考えても、わざわざ銃を投げ渡す意味がない。そう思うと、山なりに投げられた銃の役割を察することが出来た。
(……成る程な。お前の考えていることは分かったぜ、発目)
そう。あの銃は……先程、八百万が放った発砲音と同じく、周りの注意を引く為の囮。
本命は――
(――こっちです!!!)
「……不死川君!もう一つおまけです……よっ!!!」
そう声を張り上げ、発目は木刀を実弥に向けて最短距離で投げつけた。
声の響いた方向から彼女のいる位置、おおよその距離を見極めた実弥はノールックで投げ渡された木刀を掴み取る。
既に技を放つ為の準備は整っていた。
「っ……まずい!」
実弥が木刀を手にしていることを目撃し、これから起こることを察したのは……緑谷だけ。
「「「「「1!」」」」」
残り1秒。そのカウントダウンが実行されると同時に、風の渦が激しく逆巻いた。
斬撃を伴う風の渦は、実弥の周囲にいた者達を全て――正確には、直前でこれからのことを予測した緑谷を除いた全員を吹き飛ばす。
「私の身体、全部吹き飛ばされたんだけど!?」
「ううん……まさかここまでだとは……。見通しが甘かったデスかね……」
取蔭の身体のパーツは風に巻き込まれて空高くまで巻き上げられ、角取の操作角は一つ残らず両断された。
実弥の元にけしかけていた攻撃手段が一つ残らず排除されてしまった為、彼女達はもう途方に暮れる他ない。
「ごめん、麗日さん!」
「えっ!?デ、デクく――ひゃあっ!?」
吹き飛ばされる前に後退を選んだ緑谷は、麗日を抱えた状態でバックステップで距離をとり、事なきを得た。
顔色が悪いままの彼女を地面に下ろした後、ここにいるようにと指示を出してから別の目的の為に動き出す。
「マジかよ!?空中だってのに全部薙ぎ払いやがった!」
「私の酸も風でかき消されちゃったよ!?」
全方位を防御出来る自慢の技で自分達の妨害をあっさりと無効化されたことに驚愕する芦戸と瀬呂。巻き起こる風の渦に巻き込まれず、吹き飛ばされないように耐える他なかった。
「ぐはっ……!?」
(クッソが……!また、これかよ……ッ!)
まともに攻撃を喰らった爆豪の体は宙を舞う。時間切れもすぐそばに迫っている。もう諦めるしかないというのが一般的な判断だろう。
それでも……彼は足掻く。
「ふっ……ざけんじゃねェェェ!!!」
「ば、爆豪!?もう競技も終わるぞ!無理すんな!!!」
風の渦に巻き込まれたせいで皮膚が切り付けられ、顔や腕、足からは鮮血が流れている。だが、痛みを訴える体に鞭を打ちながら、爆豪は切島の制止も聞かずに渦の中に突っ込もうとする。
(情けねえな……。最後の最後まで……届かなかった……)
轟は吹き飛ばされながらも、堪えきれない悔しさを胸に歯を食いしばる。縋るように手を伸ばすが、その手が1000万Pに届くことはない。
「轟さん!ご無事ですか!?」
「……ああ。すまねえ……助かった……」
八百万が創造した衝撃の吸収性に特化するクッションに受け止められて落下は避けられたが、今の彼には再び立ち上がって実弥に挑む気力はなく、彼女に礼を言うのが精一杯。
もう結果は分かりきっている。試合の終わりを間近にして気が抜けたのか、冷え切った体は指一本を動かすことすらも拒否していた。
「ぐああっ!?」
「し、心操君!」
「簡単に事は運ばないと覚悟してはいたけれど……!あのままだと地面に落下してしまう!」
「俺が行く!」
心操の体もまた宙を舞う。普通科であるが故に戦闘経験がゼロ。しかも、身体能力もヒーロー科の面々に劣る為、実弥の一撃を防ぐことすらも出来ずに強烈な一撃を喰らってしまった。
ところどころがボロボロになった体育服の上下や乱れた髪、切り傷が生じて鮮血を垂らす肌が威力を物語っている。
"個性"によって自力で落下を避けられる爆豪らと違い、心操は"個性"の都合上、自力で落下を避けるのは不可能だ。ほったらかしにすれば、確実に地面に落下する。
吹き飛ばされた心操を尻尾で受け止めようと尾白が駆け出すが――
「ギリギリ……セーフッ!!!」
「緑谷!?」「み、緑谷君!?」
尾白が辿り着くよりも前に、緑谷が落下してくる心操の元へ駆けつけた。
わざわざ他のチームの元へと駆けつけてきた彼の予想外の行動に、呆気に取られた様子でぽかんとしてしまう尾白と青山。
「っ……?」
地面に落下することを覚悟して反射的に目を閉じていた心操は、想定したよりもだいぶ早く何かにぶつかったような衝撃を感じたことと、それにしては思ったよりも苦痛が生じていないことに疑問を覚え、ゆっくりと目を開いた。
「え、えっと……心操君、だったよね。大丈夫?」
目を開いた心操に恐る恐るといった様子で緑谷が尋ねる。目を開いた先にあったのは、同じチームではない赤の他人の顔。
「あ、あんた……何で……!?」
どうして、自分以外のチームの人間を救けたのか。そんなたった一つの疑問がぐるぐると頭の中を回り続け、それ以上の言葉は出てこなかった。
そして。
『――TIME UP!!!』
心操を受け止め、横抱きにして抱えた緑谷が地面に着地すると同時に競技の終結が告げられた。
各々が自分のしていた行動を中断し、争奪戦の渦中にあったはずの会場は一気に静まり返る。
実弥もまた、時間切れが告げられると共に風の渦をかき消して地面に降り立つ。
その額には……言うまでもなく、1000万Pの鉢巻が依然変わりなく巻き付いていた。
★
『さあ、長いようで短かった騎馬戦もフィニッシュだ!最後の最後もこれまた驚かされたな!まさか、心操が人間砲弾みてえに突っ込んでくるとは!』
『そうだな。庄田の"個性"を上手く活用した結果か。不死川に木刀を投げ渡す際の発目の判断力も大したものだな。あの場にいた奴ら全員と、轟に凍らせられておきながらも行動した取蔭に角取。各々の勝利に対する執念には光るものがあったが……まだまだ壁は高い』
実況と解説の2人の声を耳にしながら、バラバラに行動していた面々も自分のチームの元へと戻っていく。
「まさかお前に救けられるとは……。悪いな、緑谷。助かった」
「メルスィー、緑谷君☆」
「お、お礼はいいよ。僕が好きでやったことだし」
緑谷もまた抱えていた心操を地面に下ろし、尾白と青山に礼を言われて恐縮した様子を見せてから自分のチームの元へと戻ろうとしていたが……。
「……っ、待ってくれ!」
そんな彼の背中を心操が呼び止める。振り返りながら疑問符を浮かべる緑谷におずおずと尋ねた。
「……何で俺を救けた?あんたには何のメリットもないはずだ。……恩でも売っておこうってか?」
もはや癖のようなもので、こんな時にも皮肉が真っ先に出てしまう自分に嫌気を覚えながらも言い切って、伏し目になる。
どんな風に答えるのかと緑谷の方を見る青山と尾白。彼らの視線を受けつつ、緑谷は数秒ぽかんとしてから苦笑して答えた。
「……そんな風に見えたならごめん。でも、君も本気で勝ちにきてるのはあの時に分かってたから。何というか……最後の最後で落下して失格になったら勿体ないかなって。……それだけだよ」
迷いを見せながら、それでも最後ははっきりと言い切ると緑谷は駆け足で自分のチームの元へと向かっていく。
心操は圧倒された様子でその場に佇み、彼の背中を見送った。
「おーい!鉄哲ー!!!」
一方、実弥達も1人上鳴の電撃を耐え続けることを選んだ鉄哲との合流を図っていた。
常闇を解放した後、鉄哲を心配して真っ先に駆け寄っていく拳藤に続いて、彼の元へと急ぐ実弥と発目。
「……鉄哲?どうした?」
拳藤としては結構大きな声で鉄哲に呼びかけたのだが、どうも返事がない。
耐え続けること、ただそれだけに全神経を注いでいたが故に周りの状況を把握する余裕もなくなって自分の声が聞こえていないのかと思い、肩でも叩いて自分達の存在と競技が終わったことを教えてやろうと触れられる距離まで歩み寄ろうとした瞬間、何の前触れもなく鉄哲の体がうつ伏せに倒れ込んだ。
「っ、おい!?鉄哲!?」
「っと」
倒れ込む鉄哲の正面に素早く回り込み、実弥が片腕で彼の体を受け止める。
「ちょっ……!わ、私、ミッドナイト先生呼んでくるから、鉄哲のこと任せた!」
何かあったのかと焦りを覚えながら、ミッドナイトに彼のことを知らせようと駆け出す拳藤。
彼女を見送ってから発目も鉄哲の前で手を振ってみるが、やはり反応がない。
「……これってもしかして、気を失ってます……?」
「……そういうことだろうよォ」
鉄哲をそっと地面に寝かせてやりながら、実弥は発目の発言にそう返した。
上鳴の電撃は非常に強力で、その強さによっては一撃喰らっただけでも気絶するレベル。それを1分切ってから――具体的に言えば、50秒近く受け続けたのだ。彼はそれを根性で耐え続けたのだろう。
もしかしたらその途中で既に気絶していたのかもしれないが、それでも立っていたのは「不死川の役に立ちたい」という彼の強い気持ちの表れか。いずれにせよ、奇跡としか言いようがないのは事実ではあるが。
鉄哲が上鳴の電撃を盾となって受け続けていなければ、終盤の空中における大立ち回りも厳しいものとなっていただろう。
1000万を守り抜くことに彼が貢献したのは間違いない。
(1000万を守りきれたのは間違いなくお前のおかげだ。ありがとな、鉄哲)
地面に寝かせた鉄哲の頭を撫でる実弥の瞳は感謝に満ちた優しいもので、まるで血の繋がった弟を見ているかのようだった。
「不死川君!鉄哲君の様子は!?」
そこに、拳藤に連れられたミッドナイトが駆けつけてくる。
実弥は立ち上がり、彼女の方を振り向いて答えた。
「気絶してますね。途中から上鳴の電撃受けっぱなしだったのでそれが原因でしょう。命に別状はないかと思われますが……」
「そうだったのね……。最後まで立っていたことが信じられないくらいだわ。念の為に医務室の方に連れていきましょう。搬送用のロボットを手配するから、引き続き様子を見ておいてね」
「分かりました」
「拳藤さんも教えてくれてありがとう」
「いえ、これくらい当然です」
鉄哲を医務室に搬送するロボを手配する為に再び駆け出すミッドナイト。教師としての務めを果たさんとする彼女の慌ただしい背中を見送り、実弥と拳藤は結果が表示された電子モニターを見上げる。
『て、鉄哲がぶっ倒れたみたいだが大丈夫なのか!?』
「気を失ってるだけで命に別状はないと思うわ!こっちの方は私がどうにかしておくから続けて!」
『お、おう。そういうことなら引き続き進行しておくぜ!競技が終わるまで上鳴の電撃を耐え続けていたもんな。無理もねえか……。だが、最後まで立ち続けたその根性は立派だったぜ!ナイスガッツだ、鉄哲!』
『……さて。焦らすようで悪いが、結果発表の前に改めて補足させてもらおうか』
その後、結果発表に先立って相澤から補足がなされた。
補足というのは、騎馬戦後半のこと。というのも、騎馬戦の後半においては特に騎馬や元の配置を崩しての攻撃が多く見受けられた。
騎馬戦と銘打っておきながら、自ら騎馬を崩して攻撃を仕掛けるのは流石にルール違反ではないか……というのが一般的な意見だろう。
しかし、流石は自由が校風の雄英と言うべきか。人間が"個性"を有するようになって従来の人間としての枠を超えてきているのと同じように、競技のルールの方も従来のルールの枠を越えるべきだとして、後半における騎馬を崩しての攻撃も騎手をチームで担当しているものが地面に足を付きさえしなければセーフだと判断していると説明した。
『――まあ、競技中に何度か触れている話題ではあるんだがな。体育祭の主催である以上は観客側にきっちり説明して理解させなきゃならん。だから、改めて説明させてもらった。それに、ここでルールに違反していると判断するとほぼ全員失格になる。それはあまりにも非合理的だからな』
『……って訳だ!理解しきれねえところもあるだろうが……ここは飲み込んでくれよな!そんじゃ、待たせて悪かったな!オーディエンスにゴールデンエッグ共!!!早速見ていくぜ、上位5チーム!あ、例年なら4チームだが今年は例年より1チーム多いから5チームが最終種目に進出するぜ!そこんとこよろしくな!』
補足を終え、早速本題に移るプレゼントマイク。こういうのは基本的に下の順位から順番に発表していき、最後に1位を発表して周りを一気に盛り上げるものだが、彼は敢えてそうしなかった。
実際、観客から見ても1位の座が誰の手にあるのは分かりきっている状況である為、ここで敢えて焦らすのも野暮ではあるが。
『さあ早速1位の発表だ!途中でピンチもあったが、最終的には1000万というとんでもねえ得点を他の誰にも譲らなかった!不動の1位は……不死川チームだぁぁぁぁぁ!!!』
「やった……!やったよ、不死川!私達が1位だってさ!」
「おう。誰か1人でも欠けていたら結果はひっくり返っていたかもしれねェ。助かったぜェ、拳藤」
「……!力になれたみたいで良かった。私らも不死川無しじゃ1位はあり得なかったろうし、こっちこそありがとな。鉄哲の目が覚めたら、1位だったぞって教えてやらないと」
観客達の称賛を受けながら、実弥と拳藤は笑顔でハイタッチを交わし合う。
チームの誰かが競技中にやった行動のうち、一つでもやるかやらないかの大元から違っていたり、行動を起こすタイミングが1秒でも違ったり……。積み重なりあった様々な判断が今回のものと違っていれば、この勝利はあり得なかったかもしれない。
だから、チームの全員が試合に貢献することが出来ていたことに違いはない。
「発目も――」
チームを組んでくれた礼を言おうと拳藤は発目の方を振り向くが……。
「いやはや、有益な時間でしたね。おかげさまで捕縛銃の課題や良さが見えてきました……!弾数増やすとなると構造から変えないといけませんね……。そうなると気軽に持ち運べる利点がなくなってしまうかも……!あ、それは弾速上げるにしても同じか……。なら、いっそ不死川君がやってくれたように使い方を工夫することで――」
彼女は競技が終了してから返却された捕縛銃を手にブツブツと呟きながら、既に捕縛銃の改良へと目を向けているようだった。
「…………えーっと、どうしよっか。あれ……」
そんな自分達はそっちのけな彼女の姿を見て、困り顔の拳藤。
「……まあ、そっとしておいてやろうぜェ。自分の世界に入って周りが見えなくなっちまうのは、研究者の性みてェなもんだろォ」
「……そ、そう、だね……」
自分の世界に突入した彼女をそっとしておくことに決め、2人は顔を見合わせて「これもある意味発目らしいか」と苦笑する。
「お兄ちゃん!拳藤さん!おめでとう!!!」
そして、自分達の勝利を祝ってくれるエリの声に応えて笑顔で手を振る。また、本物の命の取り合いにもなりうる戦闘と競技上の戦闘とでは勝手が違うことを知り、良い経験になったと騎馬戦の中で起こったこと全てを密かに噛み締める実弥だった。
『続く第2位は……完全に予想外だったぜ!一時は不死川すらも封じた恐ろしいヤツら!今大会のダークホース、心操チーム!!!凄え逆転劇だったぜ!やっぱこういうのがアツいよな!』
「……利用するような真似して悪かった。それと、最後は結局無駄になっちまったけど……ありがとな」
「……君の思うように利用されたことを悔しいって思う気持ちがない訳じゃない。でも、なりふり構っていられないほど君が本気だということは競技の中で理解したよ。だから、僕達は君と協力した」
「そうだな。緑谷――さっき心操を救けたヤツの言葉を借りれば、心操も本気でトップを狙ってただけなんだろ?それさえ分かれば……俺は何も言わないさ。それに、2位になれたのは心操の"個性"のおかげだ」
「経緯はどうであれ、君のおかげで僕はもっとキラメいていられるよ☆メルスィー☆」
まさかの大逆転で2位に躍り出た心操チーム。騎馬戦の中盤、実弥に洗脳を突破されるタイミングまで庄田、尾白、青山の3人は彼の洗脳の支配下にあった。
だが、実弥の行動によって偶然にも洗脳が解けて支配から逃れることが出来た。
洗脳が解けた彼らに心操は大人しく自分の"個性"とこれまで自分に操られていたことを説明した。そのことを理解した上で、彼らは最後まで心操に協力することを選んだ。
いまいち考えていることが読み取れない青山はさておき。繰り返すようだが、尾白と庄田に好き勝手に動かされていたことに対する屈辱的な気持ちがなかったわけではない。その上で心操に協力したのは彼の本気で勝ちたいという強い気持ちを汲み取ったからだ。
自分の正直な感情を吐露して手を差し出してくる尾白と庄田。
「……さっきの人も含めて、ヒーロー科ってみんなこうなの?……変わってるな、あんたら……」
「はは、そうかもね」
そんな彼らを見て申し訳なさや気まずさやら、色々なものを胸の内に抱えながらも2人と握手を交わす心操だった。
『んで、第3位!常闇チームだ!!!そういや、最初に騎馬を崩して攻める戦法を見せたのはコイツらだったな!ここまで面白え試合が見れたのは常闇チームのおかげかもしれねえ!ありがとよ!』
「3位か……。悔しいな……」
もっとやれたことがあったかもしれないのに。そんな様子で握りしめた拳を見つめる緑谷。
そんな彼を見て、ここまで向上心エグいヤツだったんだ……と呆気に取られながら耳郎は苦笑する。
「まあまあ……。ウチらは一度も鉢巻取られてないし、3位なら上出来だって。それに、麗日に上空から襲わせたりとか、ウチらの策が通じる場面もあったし、不死川も本気で迎え撃ってた訳じゃん?ちゃんと脅威だって見なされた上で相手されてたって証拠だよ。だからさ、胸張ろうよ」
苦笑から一転、明るい笑みを浮かべて彼女はそう言った。
常闇も彼女に続く。
「緑谷。猛き巨獣と
瞼を閉じ、あの時の温かい不思議な力が湧き上がってくる感覚を思い出しながら言い終え、ゆっくりと目を開いた。
「……選び抜かれた立場の俺が言えたことではないかもしれないが……緑谷、お前に力を預けて正解だった。ここまで率いてくれたこと、感謝する」
笑みを浮かべ、手を差し出す常闇。彼に続いて、「勿論ウチもそう思ってるからね」と付け加え、耳郎も同じように手を差し出した。
2人の言葉を聞いてハッとする緑谷。頂点を勝ち取ることを重視していたあまり、ついつい実弥に届かなかったという事実のみを強く認識してしまっていたようだ。
(あー……自分に足りなかったところばかり考えて思考をネガティブな方向に持っていっちゃう癖も直さないとな……)
自分を戒めるように頰を叩くと、笑みを浮かべなおす。
「……こちらこそ、組んでくれてありがとう。常闇君の無敵の
気を取り直して自分からも礼を言い、緑谷は常闇、耳郎の2人と握手を交わした。感謝と労い、二つの意味を込めて。
「……それよりも耳郎さん、耳の怪我は大丈夫……?」
「んー……まだ頭ぐわんぐわんしてるし、両耳とも聞こえにくい状態っていうのが正直なところなんだけどね。まあ、心配しないでよ。これくらいの怪我でビクビクしてたら、この先やっていけないし」
未だ両耳から血を流している様を見て、耳郎を気にかける緑谷。耳郎は困り顔をしつつも、あまり心配をかけないようにと笑ってみせる。
そして、彼女はふと気が付いた。
「……てか、麗日。さっきから会話にすら全然入ってこないけど……大丈夫?」
そういえば、と耳郎の言葉に釣られて麗日の方を見る。
「あ……デク君、みんな……。わ、私は――」
顔が真っ青な状態のまま笑顔を作って立ち上がろうとする彼女に、無理に立ち上がらなくてもいいからと緑谷が声をかけようとした直後だった。
「――うぷっ……!?うええ〜〜〜っ……」
口元を押さえながら地面に膝をつき、胃の中のものを全て吐き出してしまう。手で押さえたのとほぼ同時に吐瀉物が出てきた為、口元は黄色い胃液で汚れてしまっていた。
「う、麗日さん!!?やっぱり相当無理してたんだ……。本当にごめん!!!」
「あ、謝るのは後にしよ!取り敢えず、麗日はウチが見ておくから緑谷は先生呼んできて!常闇も麗日を凝視しない!」
「わ、分かった!」
「す、済まない」
真っ先に駆け寄り、麗日の背中をさする耳郎に、彼女に言われて慌てて背中を向ける常闇と駆け出す緑谷。
突然のハプニングを前にして慌ただしく動く中、結構な無茶をしてまで自分の策に協力してくれた麗日に返そうにも返し切れないほどの借りが出来つつあるなと思いつつ、どこかのタイミングでお詫びをしなければと罪悪感を抱える緑谷であった。
『な、なんかハプニング続出してるが、敢えて追求せずに次いくぜ!一つ言えるとしたら、きっちり配慮してやれよ、マスメディア共!以上だ!……っつーわけで、続く第4位は……爆豪チーム!!!騎馬から離れて単騎で特攻仕掛ける方法をとったのは爆豪が初めてだったな!一時は0Pに降格もしたが、執念で喰らいつき、奪い返したのはナイスだったぜ!』
「くっそ……不死川を相手するにはまだまだ遠いか……!」
「一時はしてやったりって思ったんだけどな……。斬撃でならまだしも、腕力だけであっさり引きちぎられるとは……」
「元気だそ!ほら……瀬呂は不死川に対してやったことが直接通じてるからいいじゃん!私なんか直接やれたことなんてほとんどないし……。うう……なんかモヤモヤする〜!!!」
「まあまあ!芦戸が爆豪をぶん投げて、このまま真っ直ぐ突っ込んでくるって不死川に思わせることが出来たから、瀬呂もテープを巻きつけられた訳だろ?それに、サポート科のヤツが撃ってきた網も溶かした!芦戸もきっちり貢献してるぜ!……それこそ、一番何も出来てねえのは俺だよ。俺、ただの足場だったし……」
「いやいや、そういう切島だってしっかり俺らを守る盾になってくれたじゃねえか。お前がいなかったら、下手したら不死川の剣技で俺らは大怪我よ?全員が自分なりにやれることを精一杯やったってことで納得しとこうぜ」
「そ、そうか……?ありがとな、瀬呂。とは言え……やっぱ悔しいよな!ちょこちょこ惜しかったっていうのがこれまた……!だ〜!何だこれ!滅茶苦茶モヤモヤする!」
「ね〜!」
4位という何とも言えない結果に落ち着いた爆豪チーム。お互いがお互いの活躍した点を挙げながら、自分達は精一杯のことをやったんだと言い聞かせるも、所詮は傷の舐め合いのようなもの。結局は実弥に手が完全には届いていないことに変わりない。拭おうにも拭い切れぬもどかしい悔しさを切島、瀬呂、芦戸の3人は享受し合っていた。
しかし、彼らと比べ物にならないほど悔しいのは――
「やっぱ、アイツだよなあ……」
3人は呆れと同情の混じった表情である方向に視線を向ける。
「だぁぁぁ!!!ふざけんじゃねェェェ!!!!!」
その視線の先にあるのは、地面に跪く爆豪の姿。激昂した魔獣のように憤怒に満ちた咆哮を上げて拳を何度も何度も地面に打ちつけていた。
硬い地面に何度も皮膚の表面をぶつけている故、傷ついて拳からは血が流れている。悔しがるのは当然のことである上、いくらでもそうすれば良いのだが……彼の場合はあまりにも痛々しい。
(俺が……この俺がまた4位だと!?あってたまるか……!あってたまるかよ、ンなこと!!!)
ギリギリと音が鳴るくらいに強く歯を食いしばる。彼の怒りの理由は色々とある。
まずは、現状だと実弥に全く歯が立たない状態で打ちのめされていること。いや……正確には、一応何度か爆豪の講じた策や一撃が通用しているタイミングがありはするのだが、その程度のことは完膚なきまでの1位を目指す爆豪にとっては実弥に通用したことのうちに入らない。
次に、またもや緑谷に上をいかれたこと。戦闘訓練で打ちのめされたあの日、自分は「
緑谷に対して「テメェが俺に勝つなんて二度とねえ」なんて言った手前、第一種目、第二種目と連続して彼に敗北している状況なのは屈辱でしかなかった。
そして、その二つよりも更に屈辱的な事実がある。
(モブに……たかが普通科のモブに、してやられた……っ!!!)
三つめは、心操の"個性"に一度だけかつ一瞬とは言え、翻弄されたこと。
今でも明確に覚えている、1度目の大爆破を放つまでの間に頭を支配していた靄がかかっているかのような感覚。
心操の"洗脳"の効き具合は人それぞれであり、爆豪の場合は洗脳中の記憶が無いが、頭に靄がかかっているかのような感覚だけは覚えているというレベルの効き具合だったという訳だ。
今もなお操られていた自覚はないが、心操に"個性"を用いて何かをされたことだけは理解し、確信している。
歯牙にかけてさえもいなかった普通科の生徒の"個性"にやられた。格下の用いる"個性"に負けた。その事実が生じさせた屈辱が激しく爆豪の心身を侵し、焦がしていく。
「……クソがァァァァァァァァァ!!!!!」
これまでに味わったことのない屈辱を抱えた彼に出来るのは、憤怒の咆哮を上げて怒りで屈辱を打ち消すこと。ただそれだけだ。
『や、やべえ……爆豪めっちゃキレてるんだけど……。こ、こわ……!触らぬ神に祟り無し!ああいうのは放っておくに限るぜ!』
『……何やってんだ……。悔しがるのは構わんが、あれは見ていられないな……』
怒りに身を任せて叫び、何度も何度も拳を叩きつけるその姿に流石のプレゼントマイクもドン引きし、相澤は爆豪の癇癪を起こす子供のような振る舞いを見て、そのあまりのみっともなさに思わず頭を抱えた。
『んじゃ、気を取り直して!第5位は……轟チーム!!!一時はB組に取り囲まれて大ピンチなこともあったが、見事に勝ち残った!飯田の超加速にゃ度肝を抜かれたぜ!ピンチこそあれど、鉢巻も一度も奪われちゃいねえし、これが推薦入学者の実力って訳か!』
「何とか踏みとどまれた……という感じか。隠していた切り札を切っても追いつけず……。完敗だな、これは……」
「そうですわね……。私達の持てる力の限りを絞り出しても、ここまで遠いだなんて……。不死川さんに轟さんと上には上がいることも、自分がまだまだ未熟であることも自覚しているつもりでしたが……私は心のどこかで驕っていたのでしょうか……?」
「ウェ〜〜〜イ……」
体育祭のこの日まで隠し通していた切り札すらも通用しないという完敗としか言えない状況。全てを出し切っても敵わなかった。それが悔しい……というよりも、全て出し切っても敵わなかったからこそ悔いはないし、妙な清々しさがある。飯田はそんな顔つきをしていた。
一方、八百万は自分のこれまでの在り方に疑問を持ち始め、自分はこの程度でしかないのかと自信喪失になりつつあった。俯き気味になり、唇を噛みしめている。
脳がショートして未だにアホ面のままである上鳴も彼なりに落ち込んでいるようだった。こうなった時の彼を知っている者がいれば、いつもより少々テンションが低いような……と考えるのではないだろうか。
そして、右半身に霜が降りたままで左手を呆然と見つめる轟の背中は悲しげだった。
(炎熱……。戦闘において決して使わないと決めたはずなのに……
思い出されるのは、飯田のレシプロバーストで実弥に肉薄し、1000万Pの鉢巻に手を伸ばしたあの瞬間。彼の速度を実弥はしっかりと双眸で捉え、轟の左手を跳ね除け、そこから鉢巻を逆に奪おうとした。
戦闘訓練の中で直に拳を交えた彼だからこそ、本能が危機を訴え、無意識のうちに左側の力を使っていた。
(左を使わされ……それでも勝てねえ。しかも、右側だけじゃ歯が立たねえ。……ズタボロだな、俺)
「これじゃ……親父の、思い通りじゃねえか……」
思わず泣きたくなった。きっと、今の自分は誰よりもみっともなく、情けない姿をしているのではなかろうか。
「あのー……轟……?騎馬戦の時、色々煽ったりしてごめんね……って、大丈夫?なんかすっごいフラついてるけど……。てか、私の声聞こえてる……?」
そこへ、恐る恐るといった様子で取蔭がやってくる。両手を合わせながら、騎馬戦の時の自分が彼に対してとった言動のことを謝罪するも……異変に気が付いた。
轟はまさに心ここに在らずと言った様子で彼女の言葉が聞こえていない様子。いや、そもそもすぐ側にいる彼女の存在すらも認識出来ていないようだった。足元もおぼつかず、フラついている。
(くそっ……俺は……親、父、を……っ)
騎馬戦の最中、彼は右側の力を限界を超えて使用し続けていた為、身体にも異常が起きている状態だ。
せめて人前では倒れまいと気を強く持っていたが、競技の終了に加え、自分を責め続けて精神的に蓄積したダメージで心が限界を迎えてしまった。糸がはち切れて抗えない眠気に襲われ、意識が遠のいていく。
惨めな思いに顔を歪めながら、彼の身体が前へと倒れ込む。
「えっ!?と、とどろ――」
「……こっちも随分と無茶したなァ」
倒れ込む轟を支えようと慌てて手を射出した取蔭だったが、彼女が受け止めるよりも前に実弥が回り込み、彼を受け止めた。
突然倒れた轟を目の当たりにして、会場がざわつく。
『こ、今度は轟が倒れた!!?大丈夫か!?』
「うわっ!?不死川!?い、いつの間に……!?」
「明らかに見た目からして異常だったからなァ……。いつか倒れるんじゃねェかとヒヤヒヤしながら見ていたらこれだぜェ。つか、冷てェな……!」
突然目の前に現れた実弥の姿に驚く取蔭。一時は八百万のサポートで解消してはいたものの、終盤で轟は氷による攻撃を連発していた為、再び彼の肉体は冷え切り、霜が降りている状態だった。
普通の人体ではあり得ない彼の状態を見て、何かがあった時にいつでも動けるようにと実弥は気にかけていた。
その結果、予想通り彼は鉄哲のように倒れてしまった。ここまで意識を保てたのも、父親に対する憎しみの強さ故だろう。それが彼の意識を無理矢理にでも覚醒させていたのだ。
倒れ込んだ轟の身体に触れた手に冷たさが伝わる。まるで、極寒の地の氷を素手で触っているかのようだった。
ここで実弥は察する。
(轟……!お前、"個性"の使用が体温に影響してくるのか……!)
轟の体温は"個性"の使用に応じて変化するのだと。右側を使い続ければ体温が奪われ、左側を使い続ければ体温が上昇し続ける。
よく考えれば分かったことのはずだと実弥は眉間に皺を寄せ、競技の最中に気がつけなかった彼は己を責める。
何故ならば、諸事情によって既に知っているからだ。
奇しくも、彼はかつての同僚のように己をあまりにも未熟だと責め続けていた。
恐らく、轟は低体温症を引き起こしている。体温が34℃から32℃に低下した時点で意識障害が起きるらしいが、意識を失ってしまうとなると相当重い症状だ。彼の首筋に手を当てて脈を測ってみるが、どうも安定しない。
一刻も早く復温の処置をしなければならないようだ。
「と、轟さん!?どうされたのですか!?」
「一体何があったんだ!?」
「ウェ〜〜〜イ!?」
アホ化した上鳴を連れ、実弥の元へと駆け寄ってくる飯田と八百万。彼らの声を耳にしつつ、実弥は呼びかけた。
「八百万!湯で温めてから使えるパック、湯を入れる容器と毛布を創れェ!毛布を1番先に頼む!飯田!水系の"個性"と加熱系の"個性"を持った人に協力仰いで湯を用意しろォ!マイク先生も協力頼みます!水系の"個性"と加熱系の"個性"を持っている方を探してください!」
「っ、わ、分かりましたわ!」
「分かった!任せてくれ!」
「……俺も下に行って婆さんを呼んでくる。マイク、こっちは任せるぞ」
『お、おう!不死川もイレイザーも任されたぜ!……えー、聞いての通りだ!オーディエンスにプロヒーロー共!水系、もしくは加熱系の"個性"を持ってるヤツは協力してくれ!!!』
上着を脱ぎ捨て、創造を開始する八百万と己の足で駆け出す飯田、そして、実弥の指示通りのアナウンスを開始するプレゼントマイクと生徒の身を案じて実況席から飛び出すように立ち去る相澤。
そんな光景を尻目に実弥は頭を回している。轟の命を保護する為に必要なことは何か。可能な限りの範囲で最適解を瞬時に選び出し、引き続き指示を飛ばす。
「拳藤!取蔭の身体を包んだ俺の上着を持ってこい!」
「わ、分かった!すぐそっち行く!……ほら、発目!行くよ!」
「……はわっ!拳藤さん!?き、急になんです!?何が何だか分からないんですが!!?」
「事情は後から説明する!とにかく一緒に来て!」
「ちょっ、不死川!やめてよ、その言い方!恥ずいから!……と、とにかく、轟がここまで無茶したのは私にも責任あるし、手伝わせて!何か出来ることある?」
「……一旦轟を寝かせる。寝かせるのとコイツの上着脱がすの手伝っちゃくれねェか?」
「オッケー、それくらいならお安い御用!任せて!」
「助かるぜェ」
実弥の指示に拳藤は快く答えてくれた。改善案の思考に夢中だった発目の意識を現実に引っ張り戻し、彼女を連れて走り出す。また、轟が倒れたことに責任を感じているらしく、取蔭も手を貸したいと意思を示してくれた。
轟の命を保護するには、物事を同時並行することが不可欠。断る理由はなかった。
彼女の手を借りて轟を地面にゆっくりと寝かせつつ、冷たくなった彼の体育服の上着を脱がしながら実弥は思い出す。
何としてもこの場に呼ばねばならない男がいることを。
「……マイク先生!エンデヴァーさんは!?」
――現No.2、フレイムヒーロー・エンデヴァー。突然声をかけられたプレゼントマイクは一旦呼びかけを中断し、驚きながらも実弥が端折った言葉まで汲み取りながら答える。
『エ、エンデヴァーさん!?ああ、学校側から警備を依頼してるし、会場のどっかに――っ!そういうことか!呼ばねえ訳にはいかねえよな!下に行ったイレイザー、2年3年ステージにも俺の方から共有しておくぜ!!!』
「……助かります!他のプロヒーローの皆さんも!エンデヴァーさんへの連絡手段があれば、どうかご協力お願いします!!!」
『エンデヴァーさん!このアナウンスが聞こえてるなら、1年ステージにCome On!お宅の息子さんがピンチだ!!!』
学生の身でありながら、瞬時に出来ることを判断し、これほどの数の指示を下すのはそう簡単なことではない。
一体あの少年は何者なんだ……!?
そんなことを思い、息を呑みつつも観戦していた客やプロヒーローもやれることの為に動き始めた。
「っし……絶対に俺達で何とかしてやるからなァ。俺に勝つってんならここで死なせる訳にはいかねェ。気張れよォ、轟……!」
意識を失い、眠っている状態の轟に優しい笑みを浮かべて呼びかける実弥。聞こえているか、いないかは定かではない。ただ、側で見ていた取蔭には彼の呼びかけの直後、轟の表情がほんの少しだけ柔らかくなった気がした。
(A組を必死に目の敵にして……マジで恥ずかしいことしてたな……。私達も追いつけるように頑張らないと……!)
轟の体温を復温する為に動く実弥を手伝いながら、取蔭は決意を新たにした。
他を寄せ付けぬ圧倒的実力を見せつけた試合結果に、いくつかのハプニング。その時々に応じて会場があちこちで慌ただしく動きを見せる中、騎馬戦の幕は閉じたのであった。
皆さん、すみませんでした。私のバランス調整が下手すぎて滅茶苦茶長いですね……。因みにこれだけで5万字近く到達してます。(修正を加えたことで5万字超えました())もうちょっと上手くやれるよう精進します。
幕間・弐におけるものに加え、こちらのお話の終盤で出久君が施した余計なお世話。彼がこんなこと出来るのも、やはりBIG3に実弥さんとの特訓のおかげですね。因みに1番最後の晴嵐風樹に勘付けたのも特訓の中で実弥さんと直で拳を交えた経験が体育祭に参加している同級生の中の誰よりも多いからです。
色々と大きく成長した故に精神的に周りを気遣える余裕があるのも事実だし、他の生徒に比べてだいぶ視野が広いからこその行動ですね。
自分が負けるかもしれないと分かっているギリギリな状態でありながら、勝ちたいと思っていながらトーナメントで轟君の呪縛をぶっ壊した彼なので、周りを気遣える余裕もある場合は平然とこういうことしちゃうんじゃないかなと個人的には思います。
皆様の解釈に沿えてたら嬉しい限りです。
色々と詰め込んでいる分、他では中々見られないような展開にはなったかなと思います。楽しんでいただければ幸いです。
これからも宜しくお願いします。
また活動報告欄の方に「視野を広げる為に・その2」のタイトルで意見を募ってますので、良ければ暇つぶし程度に覗いてみてください。
騎馬戦の最終結果も載せておきます。
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