疾きこと風の如く   作:白華虚

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第六話 誘い

 ある日の昼下がり。いつも通りに、世と人の為に(ヴィラン)を殲滅していた実弥だったが――

 

(やらかしたな……。これから、どうすっかねェ……)

 

 現在進行形でよろしくない状況に陥っていた。ビルの屋上から屋上へと飛び移り、足音ひとつ立てることなく疾駆しつつも呑気なことを考えている彼だが、冗談を抜きにしてそういう状況下にある。普段、(ヴィラン)を屠る際に深く被っているはずの黒いパーカーのフードを、被り直すことなく駆けているのがその証拠である。

 

 そんな彼の背中を追いかける者が2人。

 

「ちょっ、少年!待ちなさい、少年!なんという速さなんだ!」

 

「すみません……!さっきから不死川を視ちゃいるんですが、''()()''()()()()()()()らしく!」

 

「ええっ!?そりゃマジなのかい!?」

 

「マジですよ……。こんな時に嘘()く方が非合理的でしょう!」

 

 片方は、アメリカの国旗さながらの青を基調とした三原色の薄手のスーツを纏った筋骨隆々の男。V字に跳ね上がった金色の前髪と、キラリと光る白い歯が特徴的だ。

 そして、もう片方は真っ黒の長袖と長ズボンを着用した男。その首に巻きつけた凄まじく長い布のようなものを手にし、自分達との距離をみるみる突き離していく実弥を追う彼は、自身の目線を悟られないようにする為の金色のゴーグルをかけ、その下の目からは紅い眼光を放っていた。

 

 前者は、この日本に蔓延(はびこ)るヒーローの中で最も平和に貢献し、人々から平和の象徴として讃えられるNo.1ヒーロー、オールマイト。

 後者は、実弥が度々エリの件で世話になっている男、相澤消太。彼もまた、抹消ヒーロー・イレイザーヘッドとして、この国の平和の為に地道に貢献している男。

 

 相澤の''個性''は''抹消''。対象の姿形を視界に入れて凝視している間、視た対象の''個性''を文字通りに消す''個性(ちから)''。''個性''は三つの型に分けられるが、そのうちの一つである異形型を除けば、全て彼の''抹消''が通用するようになっている。そのはずなのだが……。

 

(どうなっているんだ……!オールマイトさんは、平和の象徴と謳われるだけあって、フィジカルは勿論、実力でも最強だと言えるヒーローだぞ!?いくら全速力を出していないとは言え――)

 

 自分の横にいるオールマイトをぐんぐん突き離す速度。それを未だに維持している。そんな速度で移動出来るに値する身体能力など、どう考えても''個性''無しで得られるものじゃない。

 

 それが、苦虫を噛み潰したような表情の相澤が出した結論だった。

 

 何故、彼らが実弥を追いかけるに至るのか。理由は単純。プロヒーローとしての資格がない実弥が、(ヴィラン)を倒す瞬間を偶然にも見てしまったからだ。ヒーロー公認制度が確立した今の社会では、その資格も無しに(ヴィラン)を制圧するなどの治安活動を行うものは自警団――ヴィジランテとして扱われ、(ヴィラン)の変種である捕らえるべき存在とされる。

 

 どれだけ同情すべき理由があろうと、実弥もその例に違わない。未成年の子供が道を違えようとしているのなら、彼らを守る大人として正しい道に連れ戻してやるのが義務。だからこそ、彼らは実弥を必死で追いかけていた。

 

 特に相澤はエリの件もあって、実弥にこれ以上罪を重ねさせたくなかった。血が繋がっていなくとも、たった一人の家族。だからこそ、側についてやっていてほしい。そのすぐ側で守ってやってほしい。そう考えている。そういう意味では、オールマイト以上に必死だった。

 

 閑話休題。このまま実弥を逃がす訳にはいかないと決意し、相澤は提案した。

 

「オールマイトさん。……このままだとアイツを逃がしてしまう。それだけは絶対に避けたい。俺に構わずに全速力で追ってください」

 

 ゴーグルの下の瞳は、心の底からの思いやりに溢れている。合理主義者でドライ。オールマイトは、そんなイレイザーヘッドしか知らない。彼の新たな面を知れて得した気分になりつつも、彼の思いを否定する理由などどこにもないと考えたオールマイトは、キラリと光る白い歯を見せつけて、ニカッと笑った。

 

「あい分かった!私に任せておきなさい、イレイザーヘッド!君が彼に対して並々ならぬ感情を持ってるのはよく分かったよ」

 

 サムズアップし、風圧を巻き起こしながらビルの頂上を蹴った彼を見送りつつ、「誤解生みそうな言い方しないでくださいよ」と吐き捨てた後で、相澤は呟いた。

 

「不死川……。悪いが、これ以上の勝手を許す訳にはいかないんだ。お前がいなくなったら……誰がエリちゃんを守るんだ……!」

 

 

 

 

 

 

「成る程なァ、流石は平和の象徴様って訳かァ」

 

「むむっ……やるな、少年!なるべく加減して痛くないように終わらせようと思ったが……!これはっ、ちょっとばかしっ!痛い目に遭って貰わないとっ、いけないかなっ!?」

 

「すいませんね、オールマイトさん。こんなところで捕まる訳にはいかないんですよ」

 

「い、いつの間に背後を!?」

 

 依然、逃走を試みる実弥は、オールマイトと交戦中だった。とは言え、こちらからの手出しは一切しない。オールマイトの繰り出す超スピードと超パワーの両方を兼ね備えた拳を(かわ)すことに集中する。獣のような荒々しさと柔軟さを兼ね備えた実弥の動きに、オールマイトは翻弄されていた。

 

 実の所……本気のスピードさえ出してしまえば、今のオールマイトを突き離す、()しくは一定の距離を保ち続けることは容易い。だが、ふと実弥は思い立ったのであった。

 

(平和の象徴。英雄の名を(たまわ)って讃えられる、ヒーロー達のNo.1かァ。果たして、どれくらい質の良い人なのか……見ておこうじゃねェかァ)

 

 神のように崇め讃えられる男。それが如何程のものなのか。それを自身の目で直接確認しておきたかった実弥は、敢えてオールマイトとの交戦を選んでこうした状況に身を投じ、今に至る。

 

 ――交戦の結果、実弥は何を思うのか。

 

(へぇ……1人の大人として、しっかりしたヒーローとして俺を叱ろうって目ェしてんのな。この人は……善い人だ。善いヒーローだ)

 

 あちこちを回って(ヴィラン)を屠ってきた実弥だからこそ、ヒーローの質の低下というものを感じ取っている。既に自身が神風として人々に崇められているのを承知済みの実弥は、神風のせいで自分の手柄が……だとか、知名度が……だとかふざけたことを()かすヒーローを何度も見てきた。自分の知名度を上げる為に小さな事件は無視して大きな事件だけに関わろうとする馬鹿げたヒーローも。

 そんな連中に限って、先述したような愚痴を吐く。加え、きっと自分を見かけたとすれば周りも気にせずに闇雲に捕らえにくる。そして、自分を捕らえたことを喜んで調子に乗り、いつかやらかすのだろう。

 

 反吐が出そうだと青筋を浮かべ、その怒りを(ヴィラン)に対してぶつけた経験も一度や二度ではない。

 

 そよ風園の子供達と共に、テレビを通じてオールマイトを目にしたことがある。勿論、彼が日本でデビューした当時の動画も。彼は尊敬されるべき男だと確信していた実弥であったが……その考えは違わなかったようだ。

 

 この人が鬼殺隊にいてくれたら、どれだけ心強かっただろうか。かつて以上に多くの人を守れたのだろうか。

 

 今考えても仕方ないことを考えつつ、オールマイトの放つストレートパンチを避けたその時だった。

 

「誰かぁぁぁっ!ひったくりよ!捕まえてぇぇぇ!!!」

 

 昼下がりの町の中に、女性の切羽詰まった叫びが響き渡る。オールマイトと実弥が同時にその声に反応し、振り返る。視線の先にあったのは、女性物と思わしきバッグを手にしたバッタのような姿の(ヴィラン)。その見た目に相応しい脚力で逃走を図っていた。

 

(On my god!こっちの少年にも対応しなくちゃならないってのに!)

 

 困っている人は放っておけない、お人好しな性格。それこそ、オールマイトが平和の象徴まで成り上がった理由の一つ。その性はここに至っても発揮された。目の前の少年も見過ごせないが、まずは事件の鎮圧が最優先だと判断を下し、地面を蹴ろうとした瞬間――彼の真横で風が吹き荒れた。

 

「!?」

 

 オールマイトが「プロの私に任せておきなさい!」と呼び止める暇もなく、旋風と化した実弥がバッタの(ヴィラン)に向けて猛然と肉迫する。

 

 まずは、自身が風を纏って衝撃波を巻き起こすその速度に驚いた。数百mほど離れている現場に、5秒と経たずに辿り着くそのスピードは――

 

(私の全盛期とまではいかないが……今いるヒーロー達の中でも群を抜く!見る限り10代だというのに、その年でこれ程の速さとは!)

 

 ほぼ一日中、日本全国を跳び回ったあの頃を思い出し、自分の情熱が刺激されるのを感じた。

 

 そうしている間にも旋風はバッタの(ヴィラン)の前に回り込む。そして、着地と同時にそれが爆ぜる。

 

 オールマイトの目は、確かに捉えた。旋風の中から姿を現した実弥の血走った目が、ひったくりを起こした(ヴィラン)への怒りに満ちていたのを。その瞳に憎しみと共に確かな正義が荒々しく燃え盛っていたのを。

 

 ――そして、彼が一陣の疾風と化して、木刀で(ヴィラン)の顔面を強烈に殴りつける瞬間を。更に言ってしまえば、殴る瞬間にちゃっかりバッグを奪い返す瞬間を。

 

 奇声を上げながら、ボールのように転がっていく(ヴィラン)。その光景を見て、唖然とする市民達。ビルにぶつかって、自分の隣で気絶した(ヴィラン)を見て肩を跳ねさせる、バッグを盗られたであろう女性。

 

 実弥が、傷だらけの顔つきからは到底想像出来ないくらい穏やかな微笑みを浮かべて女性にバッグを手渡す。女性に何度も頭を下げられ、彼は心底安心したように笑っていた。

 

 そんな状況を目にしつつ、現場までやって来ていたオールマイトの耳が、市民達の声を捉えた。

 

「なあ、感じたか!?バッタの(ヴィラン)がぶっ飛ばされる時に風が吹いたぞ!」

 

「当たり前でしょ!これってやっぱり……」

 

「間違いないよ、神風だ!(ヴィラン)を退治してくれる神聖な風を神様が吹かせてくれたんだよ!」

 

「おおっ……この町にも神風様が来てくださるなんて、ありがたいねぇ」

 

 そんな市民達の様子を、物陰から好きな相手の様子を(うかが)う恋する乙女のようにこっそりと見守るオールマイトは、白い歯をキラリと光らせつつ、笑った。

 

(そうか……。あの少年が、近頃噂の神風だったのか……!)

 

「はあっ……はあっ……。何してるんですか、こんなところで……」

 

「イレイザーヘッド」

 

 その時、肩で息をする相澤に声をかけられ、彼は振り向く。相当急いできたのだろう。額や頬には、昼下がりの太陽に照らされている汗が煌めいていた。

 

 そして、胸を張るように腰に手を当てつつ、風を巻き起こして颯爽とこの場を去る実弥の背中を見ながら言う。

 

「なあ、イレイザーヘッド。彼を単なるヴィジランテで終わらせるには惜しいと思わないかい?」

 

 相澤は、オールマイトの言葉を耳にしつつ、神風を崇める人々や自分のバッグを大事そうに握りしめる女性を見て、髪をかき上げながらこう返した。

 

「……そうですね、オールマイトさん。アイツは……不死川は、これからのヒーロー社会に必要な存在になるかもしれません。俺もそう信じたいです。不死川が守った笑顔は、これだけに収まらないですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、そよ風園に4人の人物が訪れた。1人は、戦闘服(コスチューム)姿の相澤。もう1人は、かの銀行強盗の事件で大金の入った鞄を手渡した警察官の塚内。そして、もう2人は……。

 

「やあ、不死川君!僕は根津という者だ。国立雄英高等学校は知っているかな?そこの校長をやらせてもらっている者さ!」

 

「私は八木俊典。オールマイトの事務所で、秘書をやっている者だ」

 

 フランクな第一印象と右目周辺の刃物で切りつけられたような傷が特徴的な白い犬、熊、若しくはネズミのような何かである根津。

 それと、垂れ下がった金髪に骸骨のように痩せ細った体と浮き出た頬骨に濃い影になった眼窩が特徴的な、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、八木俊典だった。

 

(まあ……()()()()()()、だよな)

 

 実弥は、彼らの用件に察しが付いていた。だからと言って、彼らを追放すると言った馬鹿な行為をする理由もない為、素直に彼らをそよ風園の客間へと招き入れた。

 

 エリに「兄ちゃん、この人達と大事な話があるから部屋で待っててくれ」とお願いし、聞き分けの良い彼女を見送る。――事件を経て精神的に大きく成長した影響で、大体のことを察しているのかもしれないが――

 

「こんな物しかありませんが……どうぞ」

 

「ご丁寧にありがとう」

 

 せめてものおもてなしとして、湯呑みに注いだお茶を4人に提供する。その間にも、実弥の中には緊張が走っていた。

 

 既に腹は括っているし、常々こんな日が来ることを覚悟していたとは言え、いざその場になるとやはり緊張する。自分の今後の人生に関わることである為、そうなるのも仕方ない話ではあるのだが。

 

(……お縄につくことなったら、その時はその時だ。国や法律には敵わねェ。後のことは善いヒーロー達に任せる他ないのかもな)

 

 そんなことを考えつつ、畳に正座する。それを確認した後、出されたお茶を一口(すす)ってから、塚内が語り始めた。

 

「不死川君。最近、噂になっている……(ヴィラン)を殲滅する神風というのは、君で間違いないかな?」

 

「はい」

 

 屈託もなく頷いた実弥を見ながら、彼は続けた。

 

 かの事件の後、実弥の身柄を調べ上げたこと。

 同じように個人的に調べ上げた相澤からの話や、実弥の通った小学校や現在進行形で通う中学校の教師達、孤児院の近所の住民達からも話を聞いて、神風は実弥自身なのだと確信したこと。

 

「――ここまで話を聞いてきた限り、私は君をこんな子だと思っている。見た目や言動で不良のレッテルを貼られがちだけど、本当はそうじゃない。正義感に溢れて優しい子で、誰かを守る為なら自分が死のうが嫌われようが、社会から追放されようが構わない。その一方で、規律や法律には厳格で生真面目」

 

 「君がお世話になった人達から、『いじめを絶対許さなかった』とか『やり方が苛烈だけど、風紀を守る真面目な子』という話をよく聞いたよ」と微笑みながら付け加える塚内。組んでいた両手を組み直しながら、彼は尋ねた。

 

「そんな君が、こんな風に良くないことだと解りつつも(ヴィラン)を倒し続けるのには余程の理由があると思ってる。……その理由を教えてほしいんだ」

 

 実弥は、これまでのことを思い出しつつ答える。

 

「俺が戦う理由は、第一にエリの笑顔を守る為です。俺の身の上を調べた塚内さんと相澤さんはご存知でしょうが、俺は孤児でした。これから天涯孤独で生きるのかと思っていた中で、そよ風園の先生達は俺に手を差し伸べてくれた。……彼らに引き取られて暮らす中で、沢山の家族が増えました。エリは、そうして増えた家族の最後の1人。たった1人の生き残りなんです」

 

 拳を握り、あの日の惨状を思い出しながら実弥は語る。

 

 あの事件で、守るべきものを全て取りこぼしたこと。

 精神崩壊して、荒んだ自分をエリが悲しみを振り切って笑って慰めてくれたこと。

 最後に残った彼女が笑ってくれることが救いだからこそ、何としても彼女を守りたいということ。

 英雄(ヒーロー)は、その名に相応しい程に無敵で万能じゃないこと。

 

「――世の中というのは、理不尽に(まみ)れています。それこそが世の常。(ヴィラン)という悪が蔓延り続ける限り、エリが安心して笑える未来は訪れない。いつあの笑顔が奪われるかも分からない。ならば、俺自身が動いて危険を及ぼす可能性のある種を少しでも刈り取る。そう考える次第です」

 

 更に、(ヴィラン)と戦い続ける中で、実弥の中にもう一つの理想が芽生えていた。

 

「そして、もう一つ。これからの未来を生きる子供達の人生の為です。未来を生きる子供達には、俺やエリと同じ思いをしてほしくない。彼らの幸せな未来を守り、創る為ならば……俺は、()()()()()()(ヴィラン)を殲滅し、彼らの幸せな未来を守ることに捧げてもいい。……これからの未来を生きるべき、俺より善い人達に災難が降りかかると言うのなら、俺がその全てを請け負います」

 

 顔を伏せ、実弥が締め括る。机に雫が滴り落ちて濡れていく。……実弥は、泣いていた。

 

(己の人生や身を滅ぼしてまで未来の為に戦う。未来を生きる子供達に降りかかるかもしれない不幸を思って泣いて、怒れる。……なんて優しい子だ)

 

 八木は、()()()()()()強く心を打たれた。母国である日本の柱。国民の心の拠り所となる為にひた走ってきた自分の覚悟と同等、若しくはそれ以上のもの。

 

 ――やはり彼は、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 視線を交わす4人の大人達は、同じ結論を出した。

 

 微笑みを浮かべ、お茶を口にした根津が口を開く。

 

「不死川君。君をここでヴィジランテとして捕らえ、罰するのは簡単なことだ。だけど、君はそれで終わるにはとても惜しい子だよ」

 

 犯罪者として捕らえられるのを覚悟していた実弥は、顔を伏せたままでハッとした。

 

 相澤が雄英の募集要項を実弥の前に差し出して続ける。

 

「なあ、不死川。未来の為に(ヴィラン)を倒し続ける未来を選ぶなら……合理的にいこう。正しく社会に認められる道を歩もう」

 

「正しく……認め、られる……?」

 

 相澤の言葉に、実弥が顔を上げる。

 

 そして、八木がキラリと輝く白い歯を見せつけ、眩しい笑顔で言った。

 

「不死川少年。君も今年度は受験生なんだろう?それなら、()()()()()()()()()()()?勿論、受験に際するバックアップは大人に任せておきたまえ!」

 

「え……」

 

 突然のことで唖然とする実弥に、微笑む塚内が続けた。

 

「要するに……私達全員、君の望む未来を見てみたいってことさ。君を捕まえにきたんじゃない。君が肩身の狭い思いをすることなく、守りたい人を守って、救けたい人を救けられるようにヒーローの道(こちら側)に誘いに来たんだよ。エリちゃんにも、きっと君が必要だろうからね」

 

 更に、相澤がいたずらっぽく、ニヒルな笑みを浮かべて言った。

 

「不死川。こいつは、進路担当の教師から雄英を受けるように勧められるレベルの話じゃないぞ。所謂(いわゆる)……人々の笑顔の為に貢献し、クソな(ヴィラン)共の犯罪を徹底的に抑え込んだ、ヒーローの卵へのスカウトって奴さ」

 

 相澤の言葉に何度か瞬きをした後、実弥は笑い、頭を下げた。

 

「その話、謹んでお受けいたします」

 

 実弥の未来を眩い光が照らし出し、目の前に現れた新たな道へ一歩を踏み出す瞬間だった。


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