疾きこと風の如く   作:白華虚

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これも1話にまとめるつもりだったんですが、0P撃破まで1話にまとめると物凄く長くなりそうだったので分けることにしました。

入試途中と0Pの撃破を2話に分割する筆者なんて、私くらいしかいないんでしょうね(苦笑)

いつも3000字くらいでまとめられる方々、凄いなと思います。


第八話 吹き荒ぶ神風

 暗がりの部屋の中を、無数のモニターから発せられるブルーライトが照らし出す。ここは、雄英のモニター室。そこに根津を始めとした雄英の教師を勤めるプロヒーロー達が集まっていた。

 

 モニターに映し出されているのは、高さの様々なビルに巨大な道路や歩道橋。これを東京の街景色ですと言っても何の違和感もない景色が広がっていた。試験中にも関わらず、監視カメラを起動して市民達の生活を(おびや)かす異常が起きていないか、目を光らせて見張っている――という訳ではない。

 

 確かに目を光らせて見張っている点は合っているが、彼らが見張っているのは、数分前に始まったばかりの実技試験だ。つまり……この都会の風景は、紛れもなく雄英の実技試験を行っている会場ということになる。その証拠に、無数のモニター全てに映し出されている都会の風景の中で、仮想(ヴィラン)を相手に奮闘する受験生達の姿があった。

 

 東京の街並み一つを丸々再現したかのような試験会場をいくつも用意する雄英の資金は、一体どこから湧いて出るのだろう?気になる所ではあるが、それは置いておく。

 

 試験を見守る教師陣の中にあるのは、いずれも驚愕ばかり。

 

 彼らの視線は、とある会場を映し出したモニター一つに集中してしまっている。初めて教師を務める訳ではない彼らは、理解しているのだ。この場は受験生達に公平に目を向けなければならないと。だが、彼らの視線が集中しているモニターに映る受験生のレベルの違い故にそうせざるを得なかった。

 

 その会場では、試験開始後から絶え間なく風が吹き荒んでいる。旋風が仮想(ヴィラン)を抉り抜いて一掃し、竜巻が巻き起こって虫のように寄ってきたそれが瓦礫と化す。鋭利な獣の爪のような鎌鼬がその金属の肉体を斬り裂く。それらを発生させる原因である少年が木刀を振るっても、ヒーロー達はそれを視認出来なかった。()()()1()()()()()()

 

「……視エナイナ」

 

「ええ、俺もです。近接での戦闘には自信があるつもりですが、全くですね。……不死川め、自分を鍛え上げる為に、模擬戦闘を行う時は文字通り()()()()()()という訳か」

 

 口裂け女のように耳元まで大きく裂けた口をした、禍々しいフェイスマスクと刺突に特化している義足と化した両脚が特徴のエクトプラズムが機械音声のような籠った声で呟き、赤と黒を基調としたボディースーツによって引き立てられた、大柄で鍛え抜かれた体躯と下顎から鋭く突き出た牙が特徴的なブラドキングが頷きながら返す。

 2人の共通点は、今日の入試に至るまでの間に実弥の鍛錬に快く協力したという点にあった。

 

 他の教師達と同じく、根津も珍しく圧倒された様子だ。

 

「やはり、(ヴィラン)との戦闘漬けの生活を送ってきただけはあるね……。流石は不死川君だ、他の受験生とは圧倒的にレベルが違う」

 

 腕の置き場が備え付けられた椅子に深く腰掛けながら呟く彼の頬には、汗が伝っていた。

 

 そんな彼を横目に、すぐ隣に立っている黄色いスーツに身を包んだ男もまた考える。彼は、ここにいるプロヒーローの中で()()()()()()()()()()()()()()。骸骨のように病的に痩せ細った体と濃い影になった眼窩。そこに強い正義の闘志を放つ青い瞳を宿していた。

 

(不死川少年……!やはり、あの時はわざと速度を落として私と交戦したんだね……!全盛期の私とまではいかなくとも、この場にいるプロヒーロー達の全員が視認出来ない速度で動けるとは!)

 

 実は、困惑する教師達の横でひっそりと息を呑む彼の正体は……オールマイトなのだ。因みに、実弥の元に訪ねた八木俊典と彼は同一人物。

 彼は、ヒーロー活動をしていない時には訳あってこの姿をしている。こちらの痩せ細った方が本当の彼だと言ってもいい。自分がこうした姿になってしまったことは、市民達を安心させる為にも秘密としているのだ。彼の本当の姿を知るのは、ここにいる雄英の教師達を含めた少人数だけである。

 

(……かつてより遥かに衰えてしまった今の私のスピードでも、互角って感じかな。何にせよ、入試までの間に更に疾くなっているのは確かだ。うん……戦闘力に関しては、十分にプロに通用するな!)

 

 白い歯を見せつけ、にこやかに笑うその顔付きはヒーロー活動している時の筋骨隆々な姿の面影がしっかりと残っている。訳あって衰えた姿になりながらも、平和の象徴は依然として存在している証拠だ。

 

 試験開始後、ビルの屋上まで跳躍して周囲に被害が及ぶことなく全力で戦える場所を見つける。そして、目にも止まらぬ速さでその場に辿り着き、(ヴィラン)を屠る。迷う暇もなく次々と判断を下し、動きを止めない。ヒーローに必要な資質は十分にあるのだと分かった。ならば――

 

(残るは一つ。……救けることに懸ける思いだ)

 

 相澤も雄英に勤める者の1人として、鋭い目つきで細かいことも何一つ見逃してなるものかとばかりに目を光らせる。

 

(だが……不死川なら心配ないだろう。未来を生きる子供達の幸せを真剣に考えられるアイツなら……)

 

 とは言え、他の教師達より実弥との関わりが深い相澤は知っている。実弥の本質である情の厚さと優しさを。

 

(……俺達の期待通りに動いてくれる。絶対にな)

 

 贔屓(ひいき)しているようだが、彼を他の教師達より知っているが故に信頼している。解り切っていることなのだから、自ずとその時はやって来る。

 

「それなら……せめて、合理的に時間を使おうか」

 

 独りごちた相澤は、乾き始めた目に目薬をさすと、実弥に注目がいかざるを得ないらしい教師達に変わって他の受験生達の行動に目を光らせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブッ殺ス!』

 

 機械の独特で無機質な音声で物騒な言葉が放たれる。流石は仮想(ヴィラン)と言うべきか、それらは狙いを定めたターゲットにそれらしい言葉を放って、啖呵を切りながら突っ込んでくる。

 

 一輪の丈夫なタイヤと素早く動くことに適するように装甲を出来るだけ削ぎ落とした1Pの仮想(ヴィラン)が、その素早さを武器にして虫のように群れをなした状態で敢然と、胸元から腹部までのチャックを開けた黒いパーカーを着用している実弥に肉迫していく。しかし――

 

「飛んで火に入る夏の虫って奴だなァ」

 

 実弥に対しては、大した障害にはなり得ない。

 

 

 

(かぜ)呼吸(こきゅう)(さん)(かた)――晴嵐風樹(せいらんふうじゅ)

 

 

 

 木刀を振り抜き、自身の周囲に竜巻を巻き起こす程の激しい斬撃を連続でお見舞いしてやる。すると、円陣を組むようにして実弥の360度全方位を囲みながら向かってきた1P達が面白いくらいに呆気なく破壊されてしまい、瓦礫と化した。

 

 現在、実技試験開始から6分が経過している。試験開始の合図と共に誰よりも速く飛び出し、次々と(ヴィラン)を殲滅している実弥は、絶好のスタートを切れたと言えるだろう。風の呼吸の型を次々と放って押し寄せる仮想(ヴィラン)を破壊し、それが全て破壊出来たら、肆ノ型の昇上砂塵嵐で空高くに向けて斬撃を繰り出し、自身の居場所をアピールして獲物を呼び寄せる。そして、寄り付いたそれらを迎撃。

 この繰り返しの結果、現在の時点で実弥が獲得したポイント数は既に150Pを超えていた。

 

 全て絶好調と言っても過言ではないのだが……実弥の内心はそうではない。彼は、己の内に膨大な苛立ちを抱えていた。

 

 試験開始前のこと。実は、実技試験の概要説明の時に注意を受けた出久をクスクスと笑った結果、実弥に説教を喰らった者達の中で彼に対して恨みを持った性根の腐った者達がいたらしく、彼に対して嫌味を言ったのだ。

 

 「傷だらけの怖い顔。まるで(ヴィラン)だな」だとか、「見た目が(ヴィラン)の奴が生意気なこと言うなよ。お前こそ雄英(ここ)から去ったらどうなんだ?」だとか、「お前じゃヒーローにはなれないな」だとか。

 

 別に自分がどう思われようが知ったことじゃないタイプの人間である実弥は、彼らの悪口に対して苛立った訳ではない。やはり、こんな性根の腐った者がヒーローを目指していることに腹を立てたのだ。

 

「他人のことを見た目で(ヴィラン)呼ばわりする(ゴミ)に言われる筋合いはねェ。テメェらが雄英(ここ)を去れ。ふざけんのも大概にしろォ」

 

 その一言と共に実弥は青筋を浮かべ、血走った目で嫌味を言ってきた者達を睨み付けた。口にすることこそなかったが、「いい加減にしねェとぶち殺すぞォ」と目線だけで訴えた。その結果、嫌味を言ってきた者達が腰を抜かして()()()()()()のは言うまでもない。喧嘩を売る相手を間違えた哀れな者達には相応しい天罰だろう。

 

 そんな輩が雄英に足を踏み入れている事実に対して生じた苛立ちは、実弥の戦闘力をより増加させた。その修羅の如き戦闘力を発揮して仮想(ヴィラン)を殲滅し続け……今に至るという訳だ。あの塵共には1ポイントすらも与えねェと言わんばかりの様子でそれらを屠る実弥は、周囲から見れば恐ろしいこと限りないだろう。

 

 そうして、もう何度目かも覚えていない(ヴィラン)の引き寄せを試みようとした時だった。

 

「ひぃぃぃぃぃッ!オイラはもう駄目だぁぁぁぁぁ!!!」

 

「あァ?」

 

 大方、ヒーロー志望が集まるはずのこの場で響き渡るはずのない情けない悲鳴が響き渡った。昇上砂塵嵐を放とうとしていた腕を止め、悲鳴が聞こえた方向へと振り返る。

 

「……放っては、おけねェよなァ」

 

 もしも、悲鳴を上げた者が弟妹達のように悲惨な目に遭ってしまったら……?

 

 そう思った瞬間、実弥は疾風の如く颯爽と駆け出していた。あれこれと考えるよりも先に。まさしく、体が勝手に動いたという現象そのものである。

 

 常人には視認出来ない速度で悲鳴が聞こえてきた辺りに辿り着くと、ある光景が見えてきた。

 

「ひぃぃっ!こいつら、なんでこんなに大量に集まってきてんだよぉ!オイラは何もしてないぞ!?」

 

「ケロッ……!落ち着いて、諦めるのは早いわ。頑張りましょう。貴方だってヒーロー志望なんでしょう?」

 

「そんなこと言ったって、オイラの"個性"は戦闘に不向きなんだぁ!」

 

 悲鳴の主と思わしき、葡萄のような髪の色とその果実を頭の天辺から後頭部にかけて生やしたかのような髪型が特徴的な小柄な少年が、いかにも蛙っぽい顔立ちと口元から覗く長い舌が特徴的な少女の足にしがみついていた。しかも、2人の周りをあり得ないくらいの数の仮想(ヴィラン)が取り囲んでいるではないか。

 

(彼奴、何してんだ……)

 

 悲鳴の主とも思わしき少年の行動の情けなさに呆れ返る実弥であったが、だからと言って見捨てるようではヒーローとしてやっていけない。何より、彼1人を見捨てる為に彼を守る少女まで見捨てる訳にはいかないのだ。

 

 

 

シィアアアアアアアア……!!!

 

 

 

 風で揺れる木の葉と巻き上げられる砂塵の騒めきを響かせながら速度を上げ、跳躍。

 

 仮想(ヴィラン)をまとめて屠れる頭上を取った実弥は叫んだ。

 

「蛙っぽい奴!(そば)の小せェ奴抱えて跳べェ!!!」

 

「ケロッ!?わ、分かったわ!」

 

 上空から降り注いできたその声に肩を跳ねさせる蛙顔の少女だったが、直後、側にいる葡萄頭の少年の体に舌を巻きつけ、凄まじい跳躍力を発揮して跳んだ。

 

 それを確認した実弥が、下方の仮想(ヴィラン)の群れに向けて攻撃を放つ。

 

 

 

(かぜ)呼吸(こきゅう)()(かた)――木枯(こが)らし(おろし)ッ!!!

 

 

 

 木刀を振り下ろし、晩秋から初冬にかけて山から吹き下ろす強く冷たい風と共に広範囲を斬りつける。

 

 一陣の風が強く吹き荒れ、2人を取り囲んでいた仮想(ヴィラン)達が次々と爆ぜた。

 

「ケロォッ!?」

 

「どわあっ!?なんつー威力だよぉ!?」

 

 ビルの高所に貼り付く形で待機していた少女と、その舌を巻きつけられた少年の元にも風が押し寄せる。攻撃の余波で風圧を巻き起こす存在をオールマイトの他に知らない彼らは、息を呑む他なかった。

 

 仮想(ヴィラン)が粉々に爆散して辺りが静まり返ったところで、少女達はようやく地面に着地出来た。

 

「お二人さん、怪我ねェか?」

 

「貴方のおかげでご覧の通りよ。ありがとう」

 

 着地してきた2人に向けて、実弥が尋ねる。少女の舌から解放され、何かを噛み締めるような様子でありつつも実弥を恐れる葡萄頭の少年。それに対し、蛙っぽい顔立ちの少女は微笑んで素直に礼を言った。

 

「おう、そりゃあ良かった」

 

 実弥も彼女に微笑み返して答える。

 

(あれ……?こいつ、もしかして案外悪い奴じゃないのか……?)

 

 葡萄頭の少年がそんなことを思った瞬間。

 

『ターゲット捕捉!』

 

「――あァ?」

 

 何度も聞きなれた機械の音声が大量に耳に届く。その声に振り返ってみると、先程と変わらないくらいの量の仮想(ヴィラン)が迫ってきていた。

 

「やっつけたそばから来てんじゃねえよ、ちくしょう!」

 

 滝のように涙を流しながら、葡萄頭の少年が叫ぶ。

 

「もしかして、さっきの爆発音で引き寄せられたのかしら……?」

 

 人差し指を口元に当てながら冷静に分析する蛙っぽい顔立ちの少女。そんな2人を背に、実弥は再び木刀を振り払って構えた。

 

「手ェ貸す。何れにせよ、俺は十分ポイント稼いでるだろうからなァ。人救けに時間使ったっていいだろォ」

 

「……ありがとう、とても心強いわ」

 

「ああっ、もう!2人揃ってやる気満々かよ!逃げる訳にはいかねえじゃん!どうにでもなっちまえ!やってやるよぉ!」

 

 向かいくる仮想(ヴィラン)の群れ。3人は見事にそれを撃退した。実弥が前線に立って相手の攻撃手段を徹底的に無くし、蛙っぽい顔立ちの少女は舌と蛙の凄まじい脚力を利用した蹴りで破壊及び無力化し、葡萄頭の少年は自分以外の物体にくっつく性質を持つらしい特殊な髪の毛で相手を転ばせ、行動不能にさせる。その繰り返しで、向かいくるロボット達を迎撃し続けること約2分間。ようやく状況が落ち着いた。

 

「や、やっと休める……」

 

 頭皮から血を流し、息も絶え絶えに地面に寝転ぶ葡萄頭の少年。蛙っぽい顔立ちの少女もホッとしながら、自分達を救けてくれた実弥に対してもう一度礼を言おうとした瞬間――地面が震え上がった。

 

「おいおい、今度は何だよ!?」

 

「地震、かしら?」

 

 葡萄頭の少年がおっかなびっくり飛び起きる。蛙っぽい顔立ちの少女が冷や汗を垂らしながらも冷静に辺りを見回す。

 

(何にせよ、ビルの集まったこの辺から離れた方が良さそうね)

 

 そう結論を下し、2人にも声をかけようとするも。

 

「ようやくお出ましか、0Pさんよォ」

 

「ど、どこに――ケロッ!?」

 

 血走った目でそう呟いた実弥は、風を巻き起こしながら、消えるように走り去ってしまった。

 

「い、行っちゃったわ……。お礼も言えていないのに。……とにかく、ビルのあるこの辺から離れましょう。ビルが倒壊したら潰されちゃうわ。話はそれからね」

 

「お、おう……。何でそんなに冷静でいられるんだよぉ……」

 

 彼の背中を唖然として見送りつつも、少女達は各々なりの最適解を出して、この場を離れていった。

 

(あの人も、無事でいてくれるといいのだけれど……)

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