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調査兵団には番犬と呼ばれる人がいる。
私の名前はイルゼ・ラングナー。
最近入団を果たしたしがない調査兵団員だ。
私は小さな頃から手記を嗜んでおり、日記や絵を書いていた。
訓練生時代は訓練生間の恋愛を書き留めるのが趣味であったし、調査兵団に入ったのもこの好奇心が疼いたのが主な理由だった。
そして未だ調査兵団歴の短い私の最近のマイブームは調査兵団員のプロフィールをまとめることである。
仲良くなった人のプロフィールをまとめ始めたのがきっかけだ。
噂に聞くエルヴィン団長やリヴァイ兵士長の情報をまとめている時、私は彼についての情報がほとんどないことに気がついた。
ケイン兵士長補佐。通称は番犬
調査兵団においてリヴァイ兵長との二枚看板となっている彼。
ほとんどの人が話したことがなく情報と呼べる情報がない彼について興味を持った私は彼について調べることにした。
手始めに私の班で1番在歴が長い先輩に聞いてみる。
「あぁ?ケイン兵士長補佐?」
「はい。先輩ならなにか知ってるかと思って」
「あーそうだな、話したことはねぇが実際に見たことなら何度もあるな。知ってることつっても俺はほとんど知らねーぜ?ただななんつーかあの人は、そう、本当に獣みたいなんだよ」
「獣?それはどういうことでしょう?」
「お前も会えば分かると思うが、あの人は喋らないしコミュニケーションもほとんど取らない。でもな。獣と言われてるのはそこじゃない、1番はあの人の纏う雰囲気なんだよ特に巨人を殺す時なんて本当にやばかったなぁ」
なんとも腑に落ちない説明だ。
「まぁ本当に会えば分かる。そういう人だ」
そう言って先輩はどこかに行ってしまった。
私は先輩の言葉を聞き実際に会うことにした。彼に逢うには馬小屋に行けばいいとの話だ。
どうやら彼は暇があれば馬小屋で暇を潰しているらしい。
馬小屋はとても大きい。万が一にも馬が死んでしまわないようにという配慮だ。
壁外調査をするにあたって馬は必須といっても過言ではない。
巨人に追われた時、馬がないと逃げきれずに死ぬからだ。
よって団内での馬の扱いは非常に気を使う。
もし馬が人に懐かなくなってしまえばそれこそ馬を一頭失うことになるからだ。
彼を見つけた。身長は190センチ程度。髪は目元を隠すように長くボサボサだ。
そんな彼は何百頭という馬と一頭一頭コミュニケーションをとっている。
基本的には自身の馬は自身で管理するものだが彼は自身の馬だけではなく他の馬ともコミュニケーションをとるらしい。
彼に近づき話しかける
「失礼します、ケイン兵士長補佐。お話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「…………………」
ケイン兵士長補佐は喋らない。しかし、彼と親しくするイザベル先輩が言うには認められれば反応が帰ってくるようになると言うことだった。
彼は動きを止めこちらを見つめてくる。
前髪で普段は見えないその瞳に見つめられて、先輩の言っていたことが分かった。
綺麗な黒い目だった。まるで赤子のような、もしくは野生動物のようななんの穢れもない目。
私はしばし時を忘れて魅入ってしまう。
すると彼は私に向けていた目を逸らし馬の世話を再開する。
ここにいてもいいということだろうか?
それから数週間、私は訓練の合間を縫って彼と一緒に馬の世話をするようになった。
その間も彼の情報を求め続ける。
曰く、彼は座学の訓練を免除されたらしい。
私達調査兵団は安全な中継場所や巨人の多く出現しやすい位置、それと非常時に集まるポイントなどを頭に入れておく必要がある。
外では何があるか分からない。
簡単な周辺状況から何時でも自身の場所が分かるよう最初に出来るだけ詰め込まれる。
それが彼は免除された。
どうやらリヴァイ兵士長のお言葉で
「奴にこれを理解するほどの頭はない、それに、こいつは地形が分からなくなっても1人で帰って来れるし、帰って来なかったら野生に帰る」だそうだ。エルヴィン団長も特例としてこれを認めた。
曰く、彼は巨人に襲撃される位置が分かるそうだ。
彼の壁外調査での動きははっきり言ってイレギュラーであるらしい。
しかし、彼は何故かは分からないが巨人に襲撃される位置が分かるらしく、多くの団員がその命を救われているらしい。
1度エルヴィン団長が彼にそのことを尋ねようとしたことがあるらしいが、結局分からずじまいで今は彼の遊撃を許可しているらしい。
その時の一幕。
薄暗い部屋でリヴァイ、エルヴィン、ケインが向かい合っている
「ふむ。報告を聞くに君は巨人の襲撃位置が分かるのかい?もしそうなら我々にも知っている情報を提供してもらいたい」
「………………(フルフルフル)」首を横にふる
「なら何故君は団員が襲われる現場にいつも居合わせることができるんだ?君に命を救われた団員は大勢いる。
中には霧が出ていたときに助けられた団員もいるということだ。
そういえば君はリヴァイと初めて壁外に行った時も霧の中で多数の巨人を討伐していたね。
何故そんなことが分かる?なにか巨人が襲いにくる前兆のようなものがあるのかね?それともまた違ったことで判断しているのかい?
特殊な音でも聞こえるのか、それとも君にしか見えない何か特殊なものがあるのか…方法は分からないがなにかあるんだろう?偶然と言うには数が多すぎる。
ここはひとつ、我々人類のためにその方法を教えてくれないだろうか?」
「…………………(フルフルフル)」
「そうか………本当に教える気はないのかね?」
「…………………(フルフルフル)」
「なにか教えられない理由でもあるのかい?」
「…………………(フルフルフル)」
「ならば仕方ない」
ーー教えたくなるようにしなくてはならないか
「おいエルヴィン、てめぇ今何を考えた?……もしテメェが今考えたことを少しでもこいつに実行してみろ……俺はテメェを殺す」
リヴァイがエルヴィンの首元にブレードを突きつける。
「しかしリヴァイ、彼の力は人類にとって大きな1歩になる。それを見逃せと言うことか?」
「そうだエルヴィン、俺はそう言っているんだ。それにこいつの力は恐らく常人が理解できる感覚じゃねぇ。
壁が壊された時もこいつは何かを俺に伝えようとしていた。
何キロも離れた状況を察知できる力なんて聞いたところで理解出来るはずもねぇだろ。こいつの力は有用だ、それ以外の意見は必要ねぇ」
「ふむ………よく分かったリヴァイ。君がそういうならこの話はここでおしまいだ。団員にもそう通達しておこう。
悪かったねケインくん、ただひとつ言わせてもらうと、私は君の力に敬意を持っている。ただその一端が知りたかっただけの愚かな人間なんだ。許してくれ。そして
…これからもその力を人類に役立ててくれ。」
そう言ってエルヴィンは頭を下げる。
「…………(ぶんぶんぶん)」首を縦にふる
ケインの内心:え?なんの話?
曰く、リヴァイ兵士長に髪を洗ってもらっているらしい。
なんでもいつも馬小屋にいるケイン兵士長補佐の匂いが気になり水浴びを強要したが洗い方が雑であったためリヴァイ兵士長が洗うようになったとか。
曰く、ケイン兵士長補佐の髪をリヴァイ兵士長が切ろうとしたところ前髪を目元が見えるようにすることを嫌がり渋々リヴァイ兵士長が認めたこと。
曰く、彼に恩返しがしたい団員達がプレゼントをあげようとしたが受け取ってもらえず、ファーラン先輩とイザベル先輩に頼んで渡してもらったこと。
曰く、部下が出来た時に最初は班員を認めず馬小屋に浸かりきりになってしまったことなどなど調べていくうちに彼のことが分かってくる。
そんなふうに情報を集めながら馬小屋で彼と一緒に馬の世話すること数週間。
今日やっと彼が反応を返してくれるようになった。
「あの…ケイン兵士長補佐。これ食べますか?」
それは私が持っている街で買った食べ物。最近見つけて買った焼いたリンゴだ。
少し高かったがまぁいいだろう。食べ物で彼との仲を深められるなら安い出費だ。
「……………(こくん)」
今までほとんど反応のなかった兵士長がやっと反応を返してくれた。
もぐもぐ食べるケイン兵士長補佐を見て少し和む。
なるほど。ケイン兵士長補佐は食べ物が好きなのか。
私は手記にまた1つ新しい情報を書き足した。
前回の話で壁外調査の日数を数日としましたが1日に変更しました。