それは正しく蹂躙劇だった。
広げるのは炎の翼。上昇気流を生み出すほどの熱がフィールドを包む。一度羽ばたき、ボールと共に舞い上がる彼の視線の先にはゴールがある。
こちらを見る目がほんの少し揺らぎ、元の色に戻ったのを立向居は確かに見た。瞬きを一度すると戻ってしまったが、彼の全てがエイリア石によって失われたわけじゃない。なんとしてでもこのシュートを止めて、ダークエンペラーズ達の目を覚さなければ。
「――アモンズアンガー」
その言葉を契機にボールが燃え上がる。ゆっくりと振り上げた踵を即座に落とす。ゴッドノウズと全く同じムーブだが、そこに込められた力は神々しさのカケラも無い。
アフロディの手を取りゴッドノウズを習得しようとしていたあの時見たものとは違う、濁った炎。亜門は今正気じゃない、それが分かっただけでも良かったのだろうか。
「ムゲン・ザ・ハン――うわあああっ!」
あのスペースペンギンを抑え込んだ立向居のムゲン・ザ・ハンドでも止まらない。炎弾は立向居を巻き込み、無慈悲にゴールネットを震わせる。
「お願いだ! 目を覚ましてくれ、亜門!」
完璧になることの答え、それを知ったのにどうして仲間同士で争わなければならないんだ。吹雪の叫びは皆の想いを代弁する。
「なんでエイリア石の力を、」
「……邪魔だ」
だって、彼にはエイリア石を欲する理由がない。星の使徒研究所で別れたあの時に雷門を抜ける予兆は何一つとしてなかった。誰かと共にあることの強さを見せてくれたのは誰でもない君だ。雷門を抜ける理由もない。
彼だけが、他のダークエンペラーズと違う。
「一人の力じゃ、駄目だ」
こちらのボールだが、このまま攻撃を始めても止められる。またあの必殺技でゴールを奪われる。悔しいが、彼に匹敵する力は自分にはない。ならどうする?
「力を貸して欲しい、皆」
「何を今更」
亜門の力はよく知っている。真帝国でたった一人、禁断の技の発動を防いだ攻撃力と防御力を見ていたから。
ただ亜門へとボールが回らないよう徹底的にマークするのは駄目だ。ダークエンペラーズには彼だけではなく風丸が、染岡が、マックスがいる――ダークフェニックスがある。
ダークエンペラーズの中心となっているのは風丸。今はFWだが元はDF、高い防御力も兼ね備えたプレイヤーだ。
勝機がある作戦は彼らをできる限り自陣へ引きつけ、一気に反撃をたたみかけるカウンターしかない。そのためにも、あの必殺技は攻略しなければならない。
「来るぞ!」
ダークエンペラーズが攻め上がる。ボールは亜門へ渡されている。つまり来る必殺技はダークフェニックスではない。
「アモンズ」
全く同じ動きが、再びゴールを決めると告げる。
「――アンガー」
いや、全てが同じじゃない。ゴールまでの道筋には皆がいる。
「「「パーフェクトタワー!」」」
「食い止めるっス! ザ・ウォール!」
それはまるで、白恋との練習試合の最後に放たれたエターナルブリザードを防いだあの時のような。どんな強力なシュートでもこの方法なら止められる、そう希望を見出した時と同じ。
複数の必殺技を間に挟み、ようやく拮抗できる威力へと落とし込んだアモンズアンガーを止める砦にして攻撃の要となる二人が最後に待ち構えている。
「行くぞ、吹雪!」
「ああ!」
炎が、氷が、熱い想いが交差する。
「「クロスファイア!」」
打ち返すべく、二人の脚が同時にボールへ激突する。
「ぐっ……」
熱が二人を焦がす。息を吸うごとに熱気が肺を満たす。
「……負けてたまるか」
歯を食いしばる。
「皆となった完璧が! 君が教えてくれた答えが! 負けるものかあああああ!!」
アモンズアンガーへのカウンターは――成功。威力が上乗せされたクロスファイアは、ダークエンペラーズを割く一筋の光となりゴールを……いや、直線上にはまだ亜門がいる!
「スカーレッドブレイズ」
それはあの時、僕を守ろうと彼が使った必殺技。炎の羽がボールを包み込み、クロスファイアの力を焼き尽くそうとしている。
「いっ――けええぇぇぇえええ!!」
咆哮に応えるかのように、クロスファイアは悪魔の羽を打ち砕いた。杉森がダブルロケットで防ごうとするも、皆と手に入れた完璧がその程度で止まるはずがない。
笛が鳴った。
「馬鹿な!」
完成されたハイソルジャーの必殺技が破られるなどあり得ない。目を見開き研崎は驚きの声をあげる。
「あれは最高のハイソルジャーだぞ! それがこうも敗れるはずがない!」
「………………あれ、だって?」
亜門は人だ。物じゃない。
あいつは気付かないのか? その言葉を聞いたのは僕だけじゃないってことを。亜門が、頭を押さえている。
「う、あぁあ――」
「こんなことマグレに決まっている、もう一度だ! もう一度あれに使わせろ!」
ダークエンペラーズへ指示を出すも、それは失敗だ。亜門は正気に戻りつつある。
「ぉ、れは、俺は――!」
一際大きく燃え上がるその炎は禍々しい黒へ変わっていた。必殺技を使う亜門自身も焼き尽くさんとするほどの熱が肌を焼く。このままだと、駄目だ。
「っ、亜門くん!!」
「吹雪!?」
目の前に跳躍する。空中で亜門と吹雪が並ぶ。
「――僕は君に救われたから」
冷気が、氷雪が、吹雪が吹き荒れる。
「今度は僕が、君を助けるんだ――!」
アモンズアンガーとエターナルブリザードが、衝突した。
「あ、ああぁぁあっ――!」
目の色が変わる。身体が揺れる。コントロールがブレる。シュートミス。逸れに逸れたボールは黒炎を纏ったままフィールドから大きく飛び出していく。
「――――は?」
研究職をしていたインドア人間が回避できるような必殺技じゃない。やけにゆっくりと動く時間が走馬灯であると認識して、そして――ボールは研崎の脳天に激突した。
――やったぜ。
『やったぜ』
……本当に良かったのこれ?
人外二人はご満悦。亜門は未だにこの作戦で良かったのか悩んでいる。流石に頭はあかんて。
シャチの考えた作戦とは、洗脳されている亜門のふりをしたアモンがどさくさに紛れて研崎に必殺技をぶち当てるというものである。それ作戦って言うのか?
なお、あれ呼ばわりされた時の苦しそうな声はキレッキレなアモンが研崎をマジ殺ししようとしていたのを頑張って内側で押さえた結果である。真実って大体そんなものだ。
アモンが演技をしている間、精神世界ではアモンの中に燻っていた『守れない』呪いをシャチの神様パワーで処理しつつ亜門が引っこ抜く共同作業が行われていた。呪いをお焚き上げしたその炎を必殺技に使っていたのだから当然ドロドロの良くないものになる。
立向居らへ打ったボールの炎には呪いは含まれていないが、研崎へは違う。呪いの炎をこれでもかとぶち込んだそのボールをまともに食らえば、間違いなくお先真っ暗な事柄が人生に付き纏うだろう。
スッキリ爽快。結果的に呪いが消えたということで身体が軽くなった……ような気がする。取り敢えず亜門は精神世界の中で研崎に向け合掌。人の形をしたまま生きられるだけ感謝してほしいとシャチは言うがそれどういう意味? うん? そのままの意味? 怖……。
亜門が戦力とならなくなったダークエンペラーズが繰り出すはダークフェニックス。立向居を退場させ、円堂がGKへと入る。
風丸と円堂が一対一で言葉と想いをボールに込めて、何度も何度も痛ぶるためだけのシュートを続けて。円堂が出したゴッドハンドが止める。
「思い出せ、みんな――!」
サッカーやろうぜ。それは円堂の起こした奇跡だったのだろうか、ダークエンペラーズの首にかけられたエイリア石が、砕け散った。
――亜門へパス! ヘイ主導権パース!
シャチからのいきなりな宣告は予想外だった。てっきりアモンがこの試合ずっと通しで出ると思っていたから。
『俺がするべきことは終わった。ここからはお前の番だ、亜門』
さっきまでふんわりとした精神世界で活動していたからか、重力がとても重く感じる。主導権が移った瞬間、がぐん、と膝から沈む。
「はーっ……はーっ……」
一歩間違えれば過呼吸とも取られかねない深呼吸をする。ここまでの疲労を感じるのは初めてだ。アモンは涼しい顔をしていたが、亜門は試合をフルで動き続けた経験が無い。これまでは力の差があるが故にどこか余裕を残したプレーをし続けていたから。今回は違う。
エイリア石により強化された人間と戦い強くなった雷門と、エイリア石によりブーストをかけられたダークエンペラーズ。世界への挑戦がすぐそこまで迫る彼らの力は、亜門が全力を出すに相応しい環境になった。
顔を上げればそこには皆がいる。俺と言う異物がいることで誰かが取り返しのつかないことに、なんてものは無かった。
「……ああ、よかった」
「よかった? ……まだ試合は終わってないよ、亜門くん」
吹雪の手を取り立ち上がる。亜門からしてみれば大事なことは全部終わった。だが、雷門からみれば、すべきことはまだ残っている。
皆、強くなった。胸を張って言おう、『怪物』を恐れる人間はここにいない。
……この試合の映像は全世界へと流されている。その目的は世界へダークエンペラーズの強さを知らしめるものだったが、今は違う目的のため使わせてもらうとしよう。
――これが、世界へ向けた『怪物』伊冬塚亜門のデビュー戦だ。
「亜門! 全力で来い!」
円堂がぱしん、と拳を手のひらへ打ち、腰を落として構える。万全の体勢で俺のシュートを待っている。
それにしても、円堂が一度も受けたことのないアモンズアンガー指定での宣言ではなく、全力を御所望とは。これは……あの必殺技を使うべきなのだろう。威力はアモンズアンガーより勿論上、消耗もそれに伴い倍々。
なによりも、約束をしたんだ。シャチとアモンで一緒に必殺技を、と。約束は……守るものだから。
「すぅ……ふぅ。っし、行くぞ!」
指笛。音に導かれるように火柱と水柱があがる。その中に舞うは炎の悪魔と水のシャチ。亜門の後ろから現れた二つの分身それぞれが柱の根本へ辿り着くと同時、人ならざるもの達がその中へ降りる。
三人の亜門の頂点を繋げば三角形が、その中心点にはサッカーボールが。三角形の辺が形成されて力場が発生する。
鬼道は……いいや、鬼道だけではない。皆がこの動きを知っている。
「皇帝ペンギン2号と、デスゾーン」
帝国を代表する三人技を組み合わせ、かつ一人の力のみで使うことが出来たものは帝国の歴史上誰一人として存在しない。
「フッ……あいも変わらず、か。『怪物』め」
その声は恐れでも嘲りでもない、素直な感心だった。
デスゾーンと違い、一人だけが回りながら上昇する。回転により炎と水を全てボールへと集め、両足で蹴り飛ばす。だがその角度ではゴールへは入らない。ならどうするか?
ボールの落下するだろう地点を目的地に分身二人が並走する。同時にキックをし、分身は解け、初めに現れた時のカタチとなりボールの後を追う。
「ザ・トリニティ!」
シュートが迫る中、亜門へと背を向けている円堂。あまりの威力に目を背けているのか?
――否。
それはココがポイント、そう秘伝書にあった必殺技。
それはその謎を解き、形を変えて円堂が習得した必殺技。
体を捻り、心臓に溜めた力を右手に伝える。
円堂の動きと同調し、顕現した魔神は咆哮する。
「マジン・ザ・ハンド!」
神を超える魔神の手が迎え撃つ。必殺技同士の衝突でフィールドが揺れた。炎が、水が、雷が散る。
「ぐ、く……うわぁっ!」
魔神の手のひらから弾かれたボールがゴールラインを割る。円堂もまた衝撃を殺しきれず後ろへ倒れた。
「…………だ、大丈夫か?」
頭を打ってはいないのだろうか? そう心配したのも束の間、むくり、と何事もないように起き上がる。
「すっっっっげー! なんだ今の必殺技!」
目を輝かせる円堂がそこにいた。
「皇帝ペンギン2号にデスゾーン、そこに分身を使って、炎と水がドバーッと来て、そして……! あんな組み合わせ方があったのか! もう一度だ、次は止める!」
あいも変わらずのサッカー馬鹿。
「円堂らしいな」
「ああ、全くだ」
「だからこそ、皆あいつに惹かれるんだろうよ」
風丸と豪炎寺と鬼道の何でもないような、毎日し続けたような語らいは、もうこの試合で宇宙人騒動が終わったことを示している。他のダークエンペラーズもユニフォームこそ変わらないが、その顔は憑き物が落ちたかのようにスッキリしていて、昔と変わらない姿になっている。
もう一度を希望された当の亜門はと言うと、
「……は、ふふ……ははっ!」
笑っていた。
「もう力そんな残ってないよ円堂。あれマジで全力なんだって……まー、もう一度打てるかは分かんないけど……」
あー、あの、あれだ、と言葉を濁して。ううん、と唸って恥ずかしそうに呟く。
「サッカーって、楽しいな」
「……ああ!」
大人の欲望も策略も因縁も何も関係ない。彼らはただ、サッカーがしたい、それだけを胸にサッカーをしていた。
「皆! サッカーやろうぜ!」
円堂のいつもの言葉に、オウ! といつもの声がする。
――遠くで、笛が鳴った。
主人公
(自分以外の視点から見た存在しない)トラウマが消えた。よかったね。
ダークエンペラーズ戦が全世界に配信されていることを忘れている。そしてこの後源田にハイビーストファングでアイアンクローされることを知らない。
サッカー超楽しい。
シャチ
やったぜ。覚悟の準備をしておいて下さい。
(存在しない)トラウマが消えたと皆に思わせたのもシャチの作戦通り……通り……?多分作戦通り。
悪魔が悪魔にかけた呪いをそのまま人間に移したら死ぬに決まってるんだよなあ。シャチが処理してもまあ強い呪いだったから、うん!研崎がこの後どうなったかは知らない方がいいよ!
サッカー超楽しい。
アモン
やったぜ。刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい。
演技は少女と出会う前の昔の自分を思い出しながらしていたのでちょっとメンタルがつらい。亜門の仲間に向けて必殺技使うの超つらい。
サッカー超楽しい。
オリジナル必殺技解説のコーナー
『アモンズアンガー』
アモンの怒り。ゴッドノウズを悪魔の炎を使い進化させた必殺技。属性が火に変化している。
アモンは淡々と必殺技の名前を言っていたが内心は研崎への怒りで満ちていた。
なおアモンズは「アモンの」ではなく「亜門達」の意味合いで名付けたそう。
『ザ・トリニティ』
一人で使う三人技。究極奥義。分身デスゾーンと分身ペンギン2つの習得が出来なければ使うことは難しいだろう。
分身ではなく他のプレイヤーに変えることも可能だがその場合属性やエフェクトが変化する。
具体的にはシャチ担当部分を吹雪にするとシュートがメドローアになる可能性が出てくる。
エイリア編が終わったので本作は完結となります。……が、もうちっとだけ続くんじゃ。