世界への挑戦と怪物
病院での健康診断は不思議な感覚がした。帝国学園で毎年するのとは違って一人だけっていうのもあったんだろうけど、一番はかなり本格的な機械を使っているからだろう。
最後にしたMRIはゴウンゴウン音がでかいわ何されているのかよく分からないわで思っていたより楽しくはなかった。すっぽ抜けそうになるスリッパを履いてぱたぱた音を立てて廊下を歩く。
大きい引き戸を開ければ、そこには色々な結果を見ている医者と保護者として響監督と瞳子監督が待機していた。空いている低めの丸椅子に座り言葉を待つ。医者の振り向きで丸椅子が回った。
「……残念ながら、FFIへの出場は諦めた方が良いかと」
「はあ」
まあ身体が悪魔なやつを出場させたら他所の国で宗教的な問題が発生するから仕方ないよねー、と選抜に呼ばれても出場はしないでおこうと心に決めていた。まず中学生メインの大会に悪魔が出てきたらアウトだと思うし。なので、とってつけたような理由じゃなくて医者の判断で出場拒否できるのはありがたいが……とても嫌な予感がする。
医者は苦虫を噛み潰したような顔で言葉を続けていく。
「結果を総合すると間違いなく健康である、はずなのですが……なぜかドーピング検査に引っかかり」
……は? おのれ研崎。つまりはよくわかんない液体とかよくわかんない気体入れられたせいじゃんかよキレそう。
『シメるか?』
シメて……いややっぱりシメないで。許可出したら殺しに行くつもりだったな?
まずドーピングってどの程度の効果あるのかは分からないんだがダークエンペラーズ戦からもう何日も経っている。なのに検査で引っかかるのは流石におかしい。
「これは推測でしかありませんが、エイリア石により薬物の効力も強化されたのでしょう。エイリア石は宇宙より来た未知の物体です。その影響がいつ治るのかも分からない以上……FFIの代表にはなれないものと思っていてください」
「はあ……そうですか」
枕詞にエイリア石って付けておけば超次元になるのだろうか。すごいね。洗脳したり悪魔を目覚めさせたりドーピングを強くできるんだって。わ〜。
……そんな石を壊せるサッカーやろうぜ波動のが凄いのでは? つまりサッカーは全てを解決する。サッカーやってたらドーピング検査もそのうち陰性になったりしないかなぁ……。
――代表になれない……うーんシャチはなんかイヤーな予感が…………あーなってこーなって、あっ。やべえまた勘違い発生するのかこれ!? どっどどどどないしょー!
シャチの声が慌てふためく。勘違いって何だろうか。
――勘違いは勘違い! 勘違いを馬鹿にしちゃいけないんだよ、周囲から変なところで気を使われることになるんだからね!
うーん、誰の経験談なのかわからないがなんか他人事じゃない気がする。……まあ何とかなるんじゃない?
『勘違いごときそう気にするものでもないだろう』
――そんな軽い気持ちでなんとか出来るならシャチは悩んでないんだよなぁ。あとアモンは勘違いを解決する側じゃなくて助長する側だって分かってないな? お前昔のこと忘れてんじゃアッツゥイ!
才能ある者が、その力を遺憾無く発揮できるだろう場所を奪われた。エイリア石さえ無ければ起こらなかった悲劇の一つ。瞳子さんは責任を感じているようだ。一人拳を握りしめ、目を伏せる。……元エイリア学園に属していた者やダークエンペラーズに亜門のような影響が出たという話はない。亜門一人だけがサッカーを奪われようとしている。
部屋の中を沈黙だけが支配する。そんな空気を変えようと響木さんが手を亜門の頭の上に乗せた。今までたくさんのものを守ってきた、大きな手だ。
「なあに、代表がなんだ」
わしゃわしゃと髪をかき乱される。力が体にも伝わってきて揺れる。丸椅子の上では踏ん張ることもできない。
「フィールドに立つだけが全てじゃない、他の戦い方もある」
にかっ、と大きく口を横に広げて笑う響木さん。
「『怪物』はいつか倒されるものだ。どうだ、イナズマジャパンを英雄に育て上げる気はないか?」
その言葉は、つまり。
「そんな簡単に倒されるほどヤワじゃないですよ、俺は」
――あっこのルートなら勘違い回避できるか?
『るーと……? 算学がどうした』
――ゲームかよ、ってツッコミ期待してたんだけどそのボケは予想外。流石アモンって感じだねいや違う馬鹿にしたわけじゃなアッツ!
思い立ったが吉日。家に帰ったら何を鞄に詰め込むか、どんな練習をしようかと考えながら亜門は帰路についた。
選考試合が終わり、監督の口から自分の名前が呼ばれるのを今か今かと待つ時間が終わろうとしている。
「以上、16名が代表だ。……そして」
誰かがそそくさと駆け寄る。それは何故選抜にいないのか誰もが疑問に思っていた一人。
「詳細な自己紹介はしなくていいだろう。伊冬塚亜門をイナズマジャパン全員の練習相手に任命してある」
「というわけでイナズマジャパンに選ばれた皆様の練習相手になる伊冬塚亜門です」
ぴしっと決めた帝国仕込みの敬礼のポーズと揺れる白髪が、彼は紛れもなく亜門であると示している。目隠しも無いしフードはもう被っていない。いや、急に無くなると首が寂しくなるからと身につけてはいるがそれだけだ。
「現在日本にいるプレイヤーの中で世界に通用するのは伊冬塚だけだ。……だが伊冬塚はFFIへ出場できない理由がある。故の練習相手としての起用となった。日本に世界レベルの選手が他にいない以上、練習して実を得られる相手も限られる。今日から既にお前たちに無駄な時間は無いと思え」
一見刺々しい言い方だが意味を考えるとそんなに変なことは言っていないのが久遠監督マジック。まさか他国から練習相手を呼ぶわけにもいかないし、ネオジャパンはまだ結成していない。時間は有限だし試合開始時刻は決まっている。
……一度もしたことがない、初めての経験をするっていうのに、どこまでチームの力量を伸ばせるのかすごくワクワクしている自分がいる。まだ中学生なのにこんな大人メンタルになるのってもう一人のボクの影響なんだろうか。
もうここまで来たら最後までイナズマイレブンを見届けたい、というちょっとした欲望も隠しつつ、亜門は世界への挑戦の入り口に立っていた。
「以上、解散だ」
久遠監督がいなくなった途端、亜門を中心にわっと集まるイナズマジャパン。いや、不動は動いていないか。
「でよー、亜門は結局なんでFFIに出ないんだ?」
「ちょっと話長くなるし俺から説明するのもむつかしいから監督に聞いてほしいな」
「そうか!」
流してくれる綱海にーにマジ感謝。心の広さが大海原。
「あんな監督の下に就くなんて本当に良いのか? 響木監督の方が……」
「不動もだ、何であいつを代表に……」
当人たちがいないのを良いことに不満がどんどん噴き出す。あれ、不動は……先に帰ったなアイツ。久遠監督の言葉の意味ちゃんとわかってるぽいな。よしよし。
「これから皆とながーく付き合う監督なんだ、仲良くやってかないと勝てる試合も勝てなくなるぞ。瞳子さんの時とおんなじ感じで仲良くやってこうな?」
皆それとこれとは別だって顔してるし染岡は口に出てるしあーもうイナズマジャパンめちゃくちゃだよ。これ立て直さないと駄目なの? 俺が??
「あー、というかエイリア学園で一番恨まれているリューゼを日本代表に選ぶぐらいにはメンタル強い監督なんで訴えは俺じゃなくて直接伝えてくれませんかね?」
「エイリアネームと混ぜないでもらえるかな……。いや、まあそこについては俺もわかってるけどさ」
宇宙人騒動で積極的に校舎を壊していたのはレーゼだ。世間的にはエイリア学園と言えばジェミニストームとレーゼ。それを日本代表として選ぶのはなかなかに反感を買うだろう。明日のテレビは見るの控えたほうがいいかもしれない。
「うーんこの感じ、いやだなー」
何を言っても納得してもらえてない感じ。互いに噛み合ってない不快がべっとり皮膚につきまとってくる。こればっかりは一人で解決できる問題ではない。
「なんでこう……口下手な監督が続けてくるんだろうか」
俺久遠監督専門の翻訳係じゃないんだけどなー! なーシャチなー!
体格差のある雷電にも当たり負けしないフィジカル。鬼道も認めるテクニック。そして一対一の練習をイナズマジャパン16名全員分ぶっ通しでできる体力バカ。亜門は現在サッカーができてイキイキしていた。
良いところと改善点とを頭の中でメモしつつ動き続ける。各人の今現在の力量を把握してから個人を細かく見ていこう、と亜門からの提案で始まったそれは太陽が真上に輝く時ちょうど折り返しに到達した。
「なんか俺にだけ当たりが強くないですかね、亜門さんよっと!」
「え? 私怨」
「少しは隠せよテメェ!」
ぎゃいぎゃいと口と足を忙しなく動かす。強めに当たっても喰らい付いてくるそのハングリー精神はとても評価できる。ナイスチャージと久遠監督に褒められただけはある。……あとは協調性があれば文句ないんだがなあ。
「まあ俺が世界に出れないキッカケみたいなもんだし、私怨をぶつけたくもなるさ」
「どういうことだ、よっ!」
足を引っかけにくる。躱す。ラフプレーはあまり褒められたものではないが……これは角度によっては審判に見えない、つまりはファールを取られないような動き方だ。流石は孤高の反逆児。ギリギリを攻めている。
「お前真帝国沈むときのエイリア石押し付けの件忘れてないからな?」
怒りの籠った亜門スマイルはデビル的。身体は悪魔だからね、仕方ないね。身の危険を感じ思わず硬直してしまった不動の後ろに周り――。
「えい」
いい感じのポーズをしていたので膝カックンしたくなるのは仕方ない、いいね?
「全体的に纏まってていい感じだけど一番必要なのは協力をする努力、コミュニケーションはちゃんとしろよ孤高の反逆児! じゃないとお前マジでベンチウォーマーで終わるぞ! ……っし、次は誰が来る?」
「あ、お願いします! 全力で!」
手をピンと上にあげているのは立向居。
「……それはザ・トリニティを希望ってことでいいのか?」
「はい!」
「おっけー、ポジションについたら始めるぞー」
フィールドには楽しそうな亜門の声が響いていた。
――ところ変わって韓国。
いつもの練習とは違い、今日はちょっとしたイベントがあった。それは日本代表に選ばれた選手の発表。練習を早めに切り上げ、イナズマジャパンの公式サイトを開く。少し読み込みが重いのは自分と同じく日本代表を楽しみにしている人が多い証拠だ。
「……? おかしいな」
見逃しただろうか、もう一度確認する。
……無い。選手一覧、その中に伊冬塚亜門の写真も名前も無い。
検索サイトへ入力する。伊冬塚亜門、日本代表……サッカー知識人達の日本代表となる選手が誰なのか、と考察が並ぶばかりだ。意味がない。
「日本代表に亜門くんが選ばれていない、だって? まさかそんなことが」
思っていたことがそのまま口から溢れる。
「は? 何言ってんだアフロ」
「あれほどの選手を選ばないだと? そんなはずないだろう」
アフロディがファイアードラゴンへ引き抜いたカオスのキャプテン二人も両脇から画面を覗きに来る。マウスを貸せ、と何度も何度もスクロールしても、更新を連打してもそこには伊冬塚亜門が日本代表である、という情報はカケラすらなかった。
「マジかよ」
「……何を考えているんだ、この久遠という監督は」
ダークエンペラーズの試合は全世界へと配信された。当然映像記録は全て宇宙人騒動の証拠として残っている。あの試合はあまりにも衝撃的で、悲痛な叫びがあって、そして……皆サッカーが好きなんだと主張していた。
亜門が使った必殺技――アモンズアンガーとザ・トリニティ。その使用部分を切り出したものが世界で何度再生されているのか、彼が知らないはずないだろう。
「……見たことのないプレイヤーもいるな。これで亜門の代わりが務まるとか思ってたりすんのか?」
このメンバーを見るに、日本代表が求めようとしているのは強さと成長性だ。もう完成されたプレイヤーはいらない、と言うことか……?
そうだとしても代表に選ばないのは愚策だ。世界は亜門を日本代表の基準にしてくる。亜門の強さに並ぶプレイヤーが日本に何人もいるとは思えない。このままだと……予選で初戦敗退すらあり得てしまう。
……でも、日本代表として出ていないのはチャンスではないか? 他の国で選ばれるだろう選手からして、亜門への連絡先を持っているのはアメリカぐらいか。衝動のまま、彼は携帯の電話帳から亜門の番号を呼び出した。
「もしもし、亜門くんかい? ……急で悪いね。僕だよ、アフロディさ」
「単刀直入に言おう。日本ではなく韓国に、ファイアードラゴンに来る気はあるかい?」
「無理? それはどういう……」
「………………言いにくい? いや、無理をしなくてもいいから!」
「……ああ。そうか、あの影響で……試合には出ないけど練習へは関われるんだね、それが聞けて安心したよ」
「そうか、悪かったね。時間をとらせてすまない」
「決勝で会える時を楽しみにしているよ、イナズマジャパン」
ボタンを押して電話を切る。
「どうだった!? あいつは出るのか!?」
バーン改め南雲晴矢は一度も亜門と戦った経験がない。顔をどんどん寄せてアフロディを問い詰める。
「あー……亜門は試合に出ないのは確定だ。しかし困った、ちょっと僕の口からも言いにくいな。エイリア石が理由に絡んでる都合上公表しにくいそうだ」
エイリア石のせいで、なんて知っているのは世界に何人いるだろう? ちょっとした優越感と危機感がアフロディの中に満ちる。この事情は知らない方が過半数を占めるだろう。
……もしかしなくとも、日本が争う相手は全員勘違いしたままなんじゃないか? 侮られているなんて思ったりするんじゃないか?
「……大丈夫なんだろうか」
まだ見ぬ日本代表のこれからを案じてしまう元神と元宇宙人がいたとかいなかったとか。
主人公
いつもなにかと理由ができて公式戦に出られない男。おのれ研崎。
でもそれはそれとして世界編にも関わることが確定した。
シャチ
言葉の選び方を微妙に間違えているのでよくアモンに燃やされそうになる。やめて!
ザ・トリニティを何度も要求されるのでいっぱいサッカーできて嬉しい。
アモン
呪いが解けた反動か守りたい欲が出てきている。守りてぇ……。
ザ・トリニティを何度も要求されるのでいっぱいサッカーできて嬉しい。
源田
……あいつ、ガイアとの練習試合で起きた事このまま皆へ言うのを忘れるつもりか?他にも何か隠してそうだな……。
ステンバーイ……ステンバーイ……