超次元な世界では勘違いも超次元なのか?   作:ウボァー

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お話と亜門

「何か言わなければならないことがあるだろう」

 

 日本代表が練習している中に突撃してきた源田の開口一番の言葉はそれだった。

 

「…………ミニオボエガアリマセン」

 

 練習で出た汗とは全く関係ない汗を流しながらの返答は、もう答えを言っているようなものだった。

 

「そうか――ハイビーストファング!」

 

「あああああああああああいだだだだだ!!!!!!」

 

 禁断の技であるビーストファングをモノにし、さらに威力を上げたハイビーストファングが亜門の頭を襲う。両手で掴むのではなく右手だけだが、それでもパワーは十分すぎた。しかも必殺技を出すまでの力の溜めがなかったことから見るに、亜門が必ず誤魔化すだろうとわかって先に準備をしていたに違いない。

 昔から一緒に過ごしてきた幼なじみだ、互いの考えることはよくわかっている。亜門は源田がやって来た時点で覚悟を決めていた。覚悟できているので痛みはそんなに……いややっぱり痛い!

 

 ――そうか これが 痛み か

 

 人が大変な時に名言アレンジして遊んでんじゃねえシャチてめえ! やっちゃえアモン!

 

 ――ゲッアモンこれはちょやめあちちちちち!!!!

 

「デスゾーン2の習得のため帝国学園に来る前、既に俺はお前が何をしたのかを知っていたんだぞ」

 

「えちょっ鬼道詳しくは言ってなかったんじゃあだだだだだ」

 

 それは源田以外の反応から勝手に亜門が判断しただけだ。そして鬼道も別に誰に言った言わないは明言していない。日本語は難しいね。

 

「……待っていたんだぞ、お前から言うのを」

 

 ふ、と力が緩む。お終いだと期待してはいけない。これは嵐の前触れに近い。

 

「帝国の皆に! 隠し続けるつもりだったのか!」

 

「あががががこれには理由があって」

 

「フンッ」

 

 言い訳を聞く前に空いている左手で握り拳を作り亜門の腹へ叩き込む。ドフッ、と嫌な音がして動きが止まった。

 

「ヒッ! し、死ん――」

 

「怖がる必要はない、気を失わせただけだ」

 

 怒気の混じった声で叫んでいたのが嘘みたいに源田はいつもの雰囲気に戻っていた。いやあの力の込め方は明らかに殺しにかかっていなかったか? という疑問が皆の頭に浮かぶ。源田は米俵を担ぐようにぐったりとした亜門を抱えた。

 

「すまん、少し借りていくぞ。鬼道と佐久間もついてきて欲しい。それと……話せる場所はあるか?」

 

 音無に案内されて源田達は建物の中に入っていく。その様子をぽかんと眺めていたイナズマジャパンだったが、久遠監督に練習を続けろと急かされる。

 

「ほ、本当に大丈夫なんでヤンスかね……?」

 

 待っていた、というのは亜門が初めてスカーレッドブレイズを使った時のことについてだろう。血まみれになったのを伝えるのは勇気がいるだろうがその反動がもうなくなったことを皆知っている。ダークエンペラーズ戦で何もなかったからだ。なのでそこまで怒られはしない。それでも隠し続けたのは亜門、よって自業自得である。

 そして……こっそりと不動も後を付いて行ったのは、久遠監督しか知らなかった。

 

「痛い、いたいよー……物理的よりも精神的な方面でいたいよー……」

 

「心がある証拠だ、良かったな」

 

 復活した亜門は源田に殴られた箇所をさすりながら涙目で訴えかけるも源田にあっさりと流される。鬼道の部屋を借りて集まった帝国学園関係者4人だったが、亜門だけ正座で座らされていた。

 

「えー、なんで帝国の皆に言わなかったのかの理由を言う必要は」

 

「いや、そこはもういい」

 

「いいのか」

 

 佐久間が思わずツッコミに回る。源田しか詳細を知らされていない、ということは佐久間も知らないのだが……。まあそう流せるのなら後で聞いても問題はないか、と結論付ける。

 

「それとは違う、他にあるだろう。もっと大きなことだ」

 

 根拠はない。完全に勘だ。その勘だけで彼はここまでやって来た。そう突き動かすだけの何かがある、そう信じている。

 睨み合いが続いて――根を上げたのは亜門の方だった。

 

「あー、なんでわかっちゃうかなあ。もう占い師やれるレベルの勘だよ、それ」

 

 両手を上げてお手上げのポーズ。はあ、とため息をつく。ここまで突撃してきたんだ、源田は話を聞かないと満足しないだろう。

 

「………俺がFFIに出られないのはエイリア石のせい」

 

 正直に話すことにした。部屋の中が静まりかえる。

 

「ダークエンペラーズに入れられるまでになんか体をいろいろされた。他の人よりもエイリア石の力を受けた影響でドーピング検査がアウトになる。そんな体じゃ公式戦に出られるはずもない」

 

 ぼかしているが、それは諦めに近い感情を持っていたと自分からバラしているようで。でも亜門はもう出場だなんだと拘っていない。イナズマジャパン皆の前で練習相手となれて嬉しい、またサッカーを一緒にできて楽しいと宣言した。その気持ちに嘘偽りはない。

 

「怒りはないのか?」

 

「一人じゃどうしようもないことだから」

 

 抵抗のしようがない。

 

「……悔しくは、ないのか」

 

「……そりゃ、さ。最初はなんでとは思った。でもそこをずっと文句言っててもしょうがないだろ?」

 

 過ぎたことは取り戻せない。

 

「まず検査でアウトになる奴を日本の代表に出すわけにもいかないだろ? 信頼の問題になる」

 

 あの映像で見た強い選手は本当に強いのか、あの力は偽物だ、と疑問は生まれる。そうなればエイリア石を使っていた皆が疑われる。俺だけの問題で他人に迷惑はかけたくなかった。

 

「理由をつけて逃げているわけじゃないだろうな」

 

「は〜? 逃げてなんかないが〜? 練習の相手して全面抗争真っ最中なんですが〜?」

 

 打てば響く、帝国にいた頃はよく見た掛け合いが目の前で繰り広げられる。そんなやりとりを何度繰り返しただろうか。なんでも無いように見えて実は思い悩んでいる、なんてことは一切無いと確信できた。安心したのか微笑む。

 

「無理だけはするなよ」

 

「わかってるって」

 

 からからと笑うその姿はいつも通りの亜門だった。

 

「……時間を取らせてすまなかったな」

 

「いつかはしないといけない話が前倒しになっただけだし気にすんなって」

 

 源田を玄関まで見送ろうと部屋を出た視界の端、廊下の真ん中。不動の背中が見えた。

 

「……ほーん?」

 

 まるで、隠れて聞いていたらバレそうになったので慌てて逃げているような、そんな距離感。まあ不動は他人にそうべらべら言うような男ではない。

 後ろでは鬼道と佐久間がなにやら二人でこっそりと会話をしている。

 

「出たくても出られない、か……。選考試合の時点でそんなプレイヤーがいるのはわかってはいたが、身近にいるとなると……より堪えるな」

 

「それが代表の重さということだろう」

 

 日本代表の名に恥じない為にも強く在らねばならない。練習に戻るぞ、と二人はグラウンドへ戻っていった。

 

 

 ……誰にも聞こえないよう、自分に言い聞かせる。

 

「――待っていろ」

 

 公式戦に出られないだけ、それだけだ。次会う時は試合をする時――ネオジャパンとして、イナズマジャパンを倒し、あいつと共に鍛えて世界を目指す!

 そう決意を胸に、源田は日本代表が集う合宿所を後にした。

 

 

 久遠監督が急に呼ぶから何事かと慌てて駆けつけると何やら一人の男性が話している動画を見せられた。モノクルをかけ髭をたっぷり蓄えたいかにも偉そうな外人……見覚えしかない。

 動画に字幕はないことからこれが発表されてすぐのものだとわかる。ネイティブな英語であるが帝国学園での授業のおかげか一部一部の意味は理解できた。

 

『日本で起きた大きな事件、』

『エイリア石、』

『人生を歪められた、』

『影響は大きい、』

『活躍の場と未来が奪われてはならない、』

『私は彼らの出場を歓迎する。』

 

 総合すると『日本がんばえー』……って感じか? にしても途中聞き捨てならない単語が混じっていた。

 

「……なんぞこれ」

 

 エイリア石についてに触れられているのは意外だった。シャチか? シャチがなにかしたのか?

 

 ――亜門が決めたことを覆す行為をするはずがない。したらシャチは今頃アモンによって丸焼きになっているところだ。まず他者を精神誘導したならば過干渉禁止に引っかかり刑罰を受けている。

 

『しくじった、先手を取られたか……!』

 

 アモンが悔しがるのも無理はない。これでは「なぜ伊冬塚亜門が日本代表になっていないのか?」の答えを提示するために必要な空気感が消え去ってしまうから。落ち着いた頃に小さなニュースとして、何でもないことのようにさらりと流したかったのだが――無理矢理に大衆の目を集められた。

 

 今現在、日本は緑川リュウジの、レーゼの代表入りで騒いでいる。ネガティブな話題ほど盛り上げたくなるのがマスメディアというものだから仕方がない。その時間を利用してもう少し検査を重ね、確実な情報をまとめてから俺の事情についてはこそっと発表するつもりだったのだが――これだとまるで、俺が代表として試合に出なければならないみたいじゃないか? 代表に選ばれていないのは実はサプライズだとでも思わせるつもりか?

 

 シャチの考えとしてはダークエンペラーズとして見せた力がエイリア石とドーピングの合わさった偽物だとしたかったらしいが、大会主催者が「そんなの関係ないよ皆待ってるよ大会おいでよ!」と言い出したら意味がなくなる。というか検査の結果を捻じ曲げるぐらいするのではなかろうか。あいつにはそれができるだけの力がある。

 それに俺の事情はまだ公表していない。エイリア石を使っていた選手が代表入りしているのなら俺もいないとおかしい、なんて世論が出てくるのも時間の問題だ。

 ――レーゼが問題になっている今を狙って出した動画にしか思えない。普通に見れば日本のごたごたを落ち着かせるための心優しい行い、実際は俺を引き摺り出すための一石。

 

 

 ガルシルド・ベイハン。全ての黒幕。40年前から裏で糸を引いていた悪。そんな男が一個人にこだわる理由として何がある――?

 

 

 もしかして、と一つの考えが浮かぶ。

 

 

 星の使徒研究所の兵隊は研崎一個人が持つ戦力にしてはおかしかった。

 あの時点で既にガルシルドが関わっていたとしたら。

 ガルシルドの息のかかった人間があの場にいて、俺の体質についての情報を知っていた、としたら。この世界大会でも同様のことが皆に降りかかる可能性があるのか?

 

 まもらねば、ならない。

 

 心がざわつく。一瞬だけだが、目の色があの時みたいに白黒反転する。亜門とアモンがシンクロする。

 冬花は思わず父親にしがみつく。いつもの亜門と違う、と察知したからだ。……なんだか、怖い。

 

『シメるか?』

 

「然るべき時と場所で」

 

『……そうか、分かった』

 

 ――おうナチュラルに契約するのやめーや。なんでこう……こう……悪い人間は的確に踏んだらダメな地雷をぶち抜いていくんだ……!

 

『対価は求めん、契約ではなく盟約だ。既にボーダーを越えた人間だから良い悪いが分からんだけだろう』

 

 ――何も言い返せねぇ。

 

「……どうする」

 

 久遠は全てを背負うつもりだった。

 呪われた監督と蔑まれたとしてもサッカーを辞めることはなかった。何故日本代表にエイリア学園にいた者を入れたのか、と非難されても意思を曲げることはなかった。

 ……亜門の特殊な事情については時が整うまで隠すつもりでもあった。ダークエンペラーズとして残っている記録は偽物の力だと亜門が主張したのならばそれに賛同するとも決めていた。

 

 多くは語らないが、そこには確かに久遠なりの気遣いがあった。

 

「……代表には、なりません」

 

 それは亜門の中では確定した事項。

 

「二回目の検査を早めにできるならして、それを踏まえての発表。何かしらイナズマジャパンに関連した役に就かないとテレビがうるさいだろうから特別サポーターとか、その辺がベストかと」

 

「そうか」

 

 ――彼がどの選択をしても悔いを残さないよう全力を尽くす、それが大人である自分ができる精一杯の仕事だ。




主人公
皆に言ってなかった理由?……検査のことがデカ過ぎて忘れてました。ハイ。
おのれガルシルド。汚いな流石悪人きたない。これで俺は悪人嫌いになったな。

シャチ
「実はあれ本当の力じゃなかったんだよ」的な方向に持っていって「今の亜門はダークエンペラーズしてる時より弱いよ!」したかった。
やられた……!と人間に発表タイミングを無理矢理早くされた神様。でも相手はシャチのこと知らないからと意識をすぐに切り替えた。

アモン
NEXT TARGET→ガルシルド

源田
何故皆に言わなかったのか、だが大方それを忘れるほどの大きなことがすぐ後にあったんだろうと予想をつけていた。当たっている。こわい。
なので理由も「忘れた」になるだろうし聞かなかった幼なじみ。理解度が高すぎる。
亜門を囚われのプリンセス的な存在だと思っている可能性が微レ存。

久遠
気遣いも言葉選びも不器用すぎる人。

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