ネオジャパン、そのGKとして彼はゴールの前に立っていた。
イナズマジャパン、その強さを証明するため彼は必殺技を放った。
轟々と燃える赤い炎はダークエンペラーズとして映し出された時とは全くの別物。興奮を示す赤色。炎の籠ったボールに足を振り下ろせば火の粉が舞い散る。
「アモンズアンガー!」
技の名前は怒りと叫びながらも、火で照らされる彼の顔はどこかサッカーができる喜びがちらついていた。
かたや選ばれなかった者、かたや出られなくなった者。似ているようで違う。違うようで似ている? ――関係無い。
これは、お前と並ぶために作り上げた必殺技。フルパワーシールドを展開できる、いやそれ以上の力を拳に込めて大地に落とす。力は腕から地面へと流れ、一筋の亀裂を作る。
「――千尋の谷!」
亀裂から現れるのはフルパワーシールドを思わせる壁……いや、それはもはや壁ではない。巨大な崖だ。ボールが断崖に衝突する。
獅子は我が子を千尋の谷へ落とすという。そこから這い上がってくるのは強きものだけ。ここは谷の底、そこから駆け上がるのは誰か?
「ル――オォオオォォオ!」
轟く獅子の咆哮。崖を這い上がるのは源田の放つハイビーストファングと、それに追随する獅子。
「止められた……!?」
獅子が必殺技を噛み砕くと同時に、ボールは源田の手の中に収まっていた。
「ふぅっ……どうだ、俺の新しい必殺技は」
「悔しいけど破れる気がしない」
『お、おい亜門!?』
ノータイムで返した言葉にどうやらもう一人のボクは戸惑っている様子。いやだって源田に嘘つくのもカッコつけるのも嫌だし。俺にしては弱気で珍しいなってか? 弱気にもなるわあんな神業見せられたら。
『神業? それはどういうことだ――』
まあこれ俺の感覚でしか分からないから見てるだけだとサッパリだよな。簡単に言うと俺が必殺技使うまでの時間に合わせて源田は事前の溜めを調整してる。……それも俺にボールが渡るより先に俺がいつ必殺技使うのか予想して。
うん、馬鹿じゃねえの? 試合のどのタイミングで俺がシュート打つのかは試合の流れによるから俺自身でも分からないのに源田の中じゃ決まってるらしい。決まったそれに備えてるだけだから余裕がある、と。馬鹿じゃねえの??
「幼なじみだからーとか超えてるんだよそこまでいくとよぉ!」
「お、やっぱり分かるか」
バレちゃった♡なんて恥ずかしげに流せることじゃないってのに源田の中では流せるものらしい。
「分かったかじゃねえよ、ったくもー!」
行くぞネオジャパン、反撃だ、とボールが天を舞った。自陣へ戻る途中の鬼道と目で会話を交わす。
――何の話をしていたんだ?
――源田が頭おかしいって話。
――ど、どういう意味なんだ……?
――へーい今試合してんだ集中しようぜ鬼道!
余計なこと頭の中に知識として蓄えないよう鬼道修正、じゃなかった軌道修正して試合に意識を向けさせる。ボールは……瀬方に行ったのを虎丸がカットした! 良し!
まだチャンスはある。ネオジャパンの防御を潜り抜けて時を待つ。
「亜門!」
緑川からの鋭いパスが飛ぶ。
「ドンピシャ!」
「行かせねっすよ、先輩!」
パスを受け取ったは良いものの行手を成神に阻まれる。横……は遠い、後ろには豪炎寺がいるがオサームが迫っている。パスコースは潰されるとみた。ならこのまま行くしかない。
ボールを挟み、擦り上げ、踵で蹴り上げる。――ヒールリフト。背後に落ちるのを振り向いて反応するのでは遅い、と成神はヒールキックで返す選択をして……気付く。このヒールリフト、普通よりも高く上げすぎていないか?
「ちょ、それありかよぉ!?」
成神の頭上に来た時点でボールに込めていた炎が溢れ出す。かき消えないうちに炎の翼を広げて迎えに行く。羽ばたけばボールは亜門と共に空へ――必殺技を放つ。
「アモンズ……アンガー!」
「無駄だ、千尋の谷!」
相手の隙をついた様に思えたシュートだったが、先程の焼き直しのように千尋の谷に防がれる。
「ああ……」
今度こそ入るか! と期待して上がった腰が落ちマネージャー達は着席する。
「でも……ザ・トリニティ、あれならきっと!」
「無理だ」
不動は冷静に告げる。
ザ・トリニティは確かに強力な必殺技だ。デスゾーンと皇帝ペンギン2号の力に亜門が操る炎と水がプラスされている。だが皇帝ペンギン2号の要素を持つ以上、助走距離が必要だ。対してアモンズアンガーは縦の高さがあるならばそれだけで発動できる。
「今の亜門が使える必殺技はあれしかねえんだよ」
あの位置だとゴールに
そうだとしても源田に司令塔としての働きという器用な芸当ができるとは思えない。ネオジャパンでそれができそうなのは……元イプシロンのキャプテン、デザームこと砂木沼治。試合が始まってから的確な指示を飛ばし盤石の防御を固めている。
試合が始まる前に必要な情報を砂木沼治に伝え、ディフェンスラインを操作し、シュートが可能な位置を制御させている。
全ては亜門との一対一に持ち込むために、か?
「はー……くだらねえ」
世界への切符を奪い取ろうとしてるのに個人の争いを持ち込んでいる時点で代表の座とか無理なんじゃねえの、と不動はベンチにもたれかけ呆れていた。
くだらない、と言葉を聞いて立向居は不動へムッとした顔をするも構う時間がもったいないと試合へ顔を向ける。
「ですが……あれだけの必殺技、もっと早くに使えば失点を防げたのに、何故?」
目金の言葉ももっともだ。あの動きからするに消耗が大きいから隠していた、とかではなさそうだ。そこには小さな違和感があった。立向居はふと気付く。
「違う……亜門さんに
彼らは幼い頃からサッカーを続けていたという。ずっと、ずっと、それこそ数え切れないほどのシュートを受けている。呼吸も、癖も把握しているからこそ一番力が発揮できる状態で必殺技を使える。
でも……そうだとしてもそれは異常だ。源田はアモンズアンガーをこの試合が始まる前に受けたことがない。映像でしか知らない必殺技だ。あの必殺技は亜門にしか使えない都合上、ベストなタイミングを把握するための練習はできない。それをぶっつけ本番で二回も成功させるという神業……同じGKである自分にできるだろうか?
「――怪物と戦うものは、己も怪物となる覚悟を背負わねばならない」
ネオジャパンの監督、吉良瞳子が口を開く。
「源田幸治郎もまた、正しく『怪物』だった。それが答えよ」
久遠は思考する。確かに源田幸治郎は強いGKだ。認めよう。……でも、それだけでは駄目だ。特定の一人にしか発揮できない強さはイナズマジャパンに求められていない。
イナズマジャパンにメンバーを追加できる空きはあるが、ネオジャパンからの引き抜きは行うか? それは無いと断言できる。ネオジャパンから得るものは成長の糧。
必ずや勝利を、負けてなるものか、と切磋琢磨するこの空気感が――彼らを更なる高みへ導くだろう。
「あーくそーっ!」
一呼吸、一動作をずらしてもしっかり防がれた時点で確信する。やっぱり完璧に合わせてきてる。源田は対俺専用最終決戦兵器にでもなるつもりなんだろうか。サッカーでジャスガ決めるってどういうことなんだろうね。
――いつからだったろう。向かい合わせにボールを蹴りあっていたのが、シュートとキャッチになったのは。小さい時のことはよく覚えていないけど、ただただ楽しかった。
その延長線上に今がある。これは勝っても負けても楽しかったね、で終わる試合じゃない。日本代表の座がかかってるんだ。源田と世界に、なんてのも悪くないが――イナズマジャパンと共に過ごした時間を裏切るわけにはいかない。
問。そもそも、アモンズアンガーは
解。研崎許すまじの念が込められていたから。
研崎はとっ捕まってるから今はもう怒り成分少なめになっている。負の感情を高めれば確かに威力は上がる……でも、それじゃ駄目だ。源田相手に負の感情をぶつけるのがまず嫌だ。
もっと別の、違うものじゃないとあの必殺技は破れない。
「ぐぬぬぬぬ」
――悩むのだ若人よ。
シャチは何キャラだそれ。……アモンズアンガーはゴッドノウズを元にしている。なら、ゴッドノウズの進化形であるゴッドブレイクのように単純に込める力を増したものにすれば……どうやって力を強めようか。
そんじゃまあ千尋の谷の分析から始めよう。パワーシールドの弱点だった薄さをカバーされている。源田が即座にキャッチしに来る。なのでボールが跳ね返ることはない。よって弾かれたボールに追加で必殺技で打ち込むのは不可能。うーん困った。
合体技……できるだけの隙をオサームが作るとは思えない。オサームが指示出せば追い込み漁みたいにディフェンス詰めてくるんだもん。怖いよ。
次、俺の手札。俺単体でのシュートはアモンズアンガーと――真帝国で初お披露目となり、三回目は源田に防がれたモンスターファング。
「あ」
なんだ。試していない必殺技、あったじゃないか。でもそれ単体では突破は無理だろう。ならどうするか。要素と要素を組み合わせて新しい一つを作る。
………………やるだけ、やってみるか。
わざと通されている、そう感じているのは気のせいではないだろう。でもあからさまに隙間を作っている、というわけではなく全体と比べると層を薄くしているところがあるぞほらやってみろって感じが滲み出てるの腹立つなオサームこいつ〜! 根っこが戦闘狂系サッカー馬鹿に司令塔としての能力があるとこうなるんだろうなって。
さあ、これでシュートの機会は三度目だ。……三度目の正直、決めさせてもらう!
横に、回転をかける。ボールを中心として炎の渦が発生する。
「あれは!」
イプシロンのデザームとして彼と相対した時に見た可能性。モンスターファングの完成形をここで見られるとは。いや……この必殺技はモンスターファングではない!
ボールから噴き出る炎の渦が大きくなり、亜門を飲み込み覆い隠す。天高く伸びるそれの中で、亜門だろう影が昇る。
もっと高みへ、もっと高くへ、蹴り上げられたボールみたいに真っ直ぐに。流れに沿って空へ空へと一直線に。
炎の竜巻の中、渦を裂くよう翼を広げる。その勢いで竜巻が散っていく……いや、炎は複数の帯になりボールに絡みついていく。回転をより強める。
「アモンズ――」
アモンズアンガーを発動する時よりも高く舞い上がり放つそれは、彼が編み出した新たな必殺技。
逆光で顔は見えない。その背に負うのは光、太陽、日の丸。日本の象徴。
「ライジング――!」
炎の尾を引いて、業火球が落ちてきた。
「千尋の谷、G2――! ……グッ、オオォォオオ――!」
……選抜試合に俺は呼ばれすらしなかった。日本でGKといえば円堂守、それが常識だった。それ以外は? となると立向居勇気、宇宙人との戦いで円堂からゴッドハンドに連なる必殺技を受け継いだ男。
では俺はなんだ? 影山の策で成り立っていた張りぼての王者、敗北者……エイリア石で洗脳され、真帝国であいつの想いを裏切った、馬鹿野郎。それじゃあ、選ばれるはずもない。選ばれないのなら、どうすればいい――そんな時だった。ネオジャパンの誘いが来たのは。
合宿所に行ったのは、何か隠し事をしているのを問い詰めたかった……それだけが理由じゃない。
見たかったんだ。亜門がサッカーを楽しんでいる姿を、自分の目で。帝国学園の中に閉じ込めていた『怪物』が、世界へと羽ばたく姿を。ネオジャパンの源田がイナズマジャパンの力を推し量るためではなく、一人の友として。
亜門。俺はただ、同じ景色を見たかった。同じ目線に立って、一緒に世界へ行きたかった。それだけなんだ。それだけのささやかな願いを叶えたいんだ! だからどうか、俺に勝たせてくれ――!
ごめんな、げんだ。亜門の口が動いた。
俺は――イナズマジャパンを置いていけないよ。
炎が、ゴールを貫いた。
試合はイナズマジャパンの勝利に終わった。よって代表の入れ替えは無し。世界へはこのまま挑み続けるぞ、と意気込むもどこかしょぼんとした亜門がいた。
「…………亜門」
「げんだ」
フードを被って視線から逃げる。目を合わせたくない、合わせられない。もしかしたら、という可能性を奪った俺がどんな顔をしていればいい?
はーあ、と大きなため息を吐かれた後にフードをはぐられた。
「なんで勝った側が負けた俺たちよりも凹む必要がある」
「ゔ。だ、だって――」
源田が使ったのは本来の歴史にはない必殺技。もしかしたら、があったかもしれない。それを奪ったのは誰でもない自分だ。あーだのこーだの考えて一言も口に出せないままいたらほっぺを伸ばされた。
「んむぅ」
「イナズマジャパンが相手を負かすのはこれが初めてじゃないだろう。予選で戦い、負けていった者たちの思いも乗せてお前たちは世界への階段を登っている。……そこに俺たちの分の思いも乗せるだけだ、そう悩む必要はない」
公式戦に一度も出たことのない亜門にとっては、これが初めての勝負だった。誰かを蹴落として進む、その行為に亜門が慣れていないことを源田は分かっている。
「――良いシュートだったぞ」
ふ、と微笑みかけるその顔に見せるのは、半泣きの自分じゃ格好がつかない。
「……ああ!」
ぐいっと荒く目元を拭って、ちょっぴり顔を赤くした亜門がそこにいた。
「千尋の谷、やっぱりあれを俺以外にも使える様にならないとダメなんじゃないのか」
「そうだな」
源田が振り向いた瞬間オサーム以外のネオジャパンの面々がビックーと肩を縮こませる。……練習で何やってるんだ? 不安になってきたぞ。
「そいやさ、源田が使ってる必殺技の中でも名前が浮いてるけどなんか理由あるの? パワーシールドの派生だよなアレ」
「いや、あれは無限の壁だ」
「え」
「千尋の谷は無限の壁とハイビーストファングの発生時間をほぼ差がないように発動する必殺技なんだ」
フルパワーシールドに見えたあれは一人で発動した無限の壁、つまりは三人技した後即座に一人技使ってるってこと?
「ええ……なにそれ……」
――一人で三人技を最初にやった亜門が言えることじゃないんだよなあ。
『日本にはこんな諺があったな。「類は友を呼ぶ」』
――シャチ的には「朱に交われば赤くなる」のが近いと思うなー。
だから俺はなんだと思われてるんですかね!?
主人公
公式戦ではないのでネオジャパン戦に出てきた。
自分が勝つことで相手の可能性を奪う試合はこれが初めて。改めて勝利の重さを知った。
自分がつよつよボディだったから源田もつよつよになろうとした事をあんまりわかってない。認知して責任を取れ。
源田
亜門に追いつこうと頑張った。試合は日本代表だけでなく亜門も目当てだった。裏で治に「亜門をなんかこう上手いこと俺まで通してくれ」と頼んでいた。
バレた。この後瞳子さんにこってり絞られる。
治
源田の共犯。成長した亜門の力見たかったので快く承諾。全体に指示を出しそれとなく亜門寄りで防御薄い部分を作っていた。
バレた。この後瞳子さんにこってり絞られる。
オリジナル必殺技解説のコーナー
『千尋の谷』
簡単に言えば一人で無限の壁出した後にハイビーストファングする、それだけである。一人で三人技した亜門に影響されて作った必殺技。
無限の壁を元に作ったのでリスペクトしたネーミングにしたとのこと。
影山の成した悪事の公表、世宇子戦での敗北、と源田は王者の座から落とされた者である。もう一度王座に返り咲きたい――現れる獅子にはそんな思いもあるのかもしれない。
『アモンズライジング』
アモンズアンガーの進化系。回転と炎を組み合わせる事で最強に見えそうになる。
太陽を背にするのは日本代表を誇りに思って、とか逆光になるのは日本代表の影、とか考察する余地があるかもしれないが亜門はそこまで考えてない。