ライオコット島に来てから、どこか懐かしさを感じていた。きっとこれはアモンの――この身体の記憶なのだろう。FFIに合わせて急速に開発が行われ、世界をツギハギにくっ付けた街並みには千年前の面影は残っていない。
だが全てが無くなったわけではない。頬を撫でる風も、木々の緑も、空の青も変わらずそこにある。……彼を変えるきっかけになったあの声がどこからか聞こえてくるような、そんな気がした。気がした、だけだった。
……でもこれガルシルドが色々やった結果ここまで人が集まったんだと考えるとすごく複雑〜! アモンが心の中でもにょってるのがすごくよく分かる。
シャチは? ……悪人の手で作られたのは悲しいです、でも海が豊かで人間がイキイキできるならオッケーです? そっか。
いかにも怪しそうな露天商のお爺さんから渡された『伝承の鍵』なる腕輪が外せなくなった、と本戦決勝を前にして起きた問題。
それはどうやってシメてやろうかとまだ候補を考えていたアモンにとって、ガルシルドへの負の感情を全て吹き飛ばすほどの衝撃的な出来事だった。
――これはライオコット島に古くから伝わる物語。
はるか古代のこと、このライオコットは天界と魔界が交わる場所とされていた。
天界の民と魔界の民は互いに覇権を争い、長い戦いを繰り広げたが決着がつくことはなかった。
不毛に続く戦いを終わらせるために、彼らは人間が用いる力の優劣を決める手段で戦い始めた。
それがサッカー。
勝負の結果天界の民が勝ち、魔界のリーダーである魔王は封印され、長かった戦いは終わりを告げた――。
夏美嬢が語る伝説は空想ではなく現在進行形の事実であると分かるまであとどれだけか。土方が面白そうだなんて興味を持ってるみたいだがそう笑えるのも今のうちだ。
『……ただの御伽噺ならよかったんだがな』
これから実害が出てしまうのを感じ取っているアモンは落ち込み気味。
『やはり、悪魔なんてものは存在しない方が良い』
でもアモンがいたからこうして俺も生きているわけですし。そう卑下しなくてもいいって。
『いや……だが』
――くーらーいー! 暗すぎて蔵になるわ! そんなことで悩む前に悪魔視点からのアドバイスでもしてあげなさないな。
『相手が11人以下ならサッカーができないとして普通に殺しにくる可能性は考慮すべきだ』
わー悪魔怖いなー。それが一番最初に思いつく時点でかなりこわいなー。やったことあるの?
『………………伝承の鍵は対となるよう作られ、力の偏りを消し存在を保証している。片方だけが効力を発揮している状態なら外せた可能性は大きい……嵌める前に取り上げていたら……』
なんだその沈黙は。いや後悔しててもどうにもならんのだし、悪魔達を試合でボッコボコにできるチャンスが生まれたと考えれば良くない? ……流石にこの理論はおかしいか。
『なるほど』
――そこで納得していいの?
悪魔の気配を探るなら悪魔、ということで主導権をアモンへと変えてから皆に避けられている気がする。それもそうだ、一人だけずっと気を張り詰めてピリピリしているのだから。
腕輪が外れない、となって一番戸惑っていたのは当人達ではなく亜門だった。人が変わったようになってしまった――実際今は変わっている――亜門に対していつも通りの対応は難しかった。
だって理由がよくわからない。イナズマジャパンを支える存在としてずっと頑張ってきた彼が、たかが腕輪が外れない程度で取り乱すのはらしくない。単純な心配から、隣の席に座っていたヒロトが話しかける。
「何を気にしているのかな」
「鍵がレプリカではなく本物だから、だ」
予想だにしない答えはヒロトの頭の回転を止めるのに十分だった。
「クソ悪魔も天使も鍵が力を発揮し始めたことに気付いているはずだ。どこにあるのかも分かっているだろう。奴等がいつ来てもおかしくない」
唐突に悪魔だ天使だいる前提で会話を成り立たせている人間を見て思うことなんて一つしかない。つまりは、何言ってんだこいつ。
これ主導権渡したの失敗かもしれんね! ……今から電波発言した理由について言い訳考えるか。……うん。
契約は破らないが嘘はつく、ルールの穴は見つけ次第抜けていく。悪魔とはそういった考えの集まりだと脳内で説明を受けること……もう勘弁してください。危険についてはわかった! わかったから!
『いいや、まだ足りない』
――過保護モンスターか……。
アモンが延々と悪魔の危険性を説き続けてくるから電波発言の言い訳については結局考えられなかった。皆決勝戦に向けての練習している間に忘れてくれないかな……無理か。
曇り空の下、悲鳴があがる。
「春奈!?」
伝承の鍵が外れないままだった音無春奈が何者かに腕を掴まれ、どうにか逃れようと抵抗をしているが一向に力が緩む気配はない。
「そうか、生贄に選ばれたのがそんなに嬉しいか――安心しろ、お前の友人も家族も無関係のやつもみぃんなまとめて魂を食ってやる。魔王様の糧になれる喜びはなんの価値もない人間に唯一平等に与えられた権利だ」
ユニフォームらしきぴったりとした衣服と魔界の住人だと主張する悪魔の羽、アモンがその生涯で一度も忘れることのない相手。魔界軍団Zキャプテン、デスタ。その発言は疑いようもなく悪魔的で、普通じゃないと分かる。
風を切る音。どこからか蹴られたボールを難無く受け止める。
「カッ、こんだけの力を持つシュート……さぞ強い魂の持ち主がいるみてぇだな」
ボールが飛んできた方向にいたある一人を認識した瞬間、デスタは驚愕に目を見開く。千年経とうと変わらないその魂と炎の色が、その正体が誰なのかを示している。
「まだ生きていたのか……アモン」
「その声で俺を呼ぶなクソ悪魔」
怒り、それは力の枷を外す一つの感情。悪魔としての力がより強く溢れる。黒髪と黒白目、ダークエンペラーズをしていた時と同じになった亜門を見て皆に動揺が走る。
「亜門、お前……!?」
その後に続く言葉はなんだろうか、治ったんじゃ? エイリア石をまだ持っていたのか? どれもハズレだ。
「話は後でもできる。今は下がれ、危険だ」
デスタを睨みつけながらイナズマジャパンらを庇うように立つ。
「いや……それは、クッ、ああ、そういうことか!」
カッカッカ、とデスタは笑う。
「人間なんかの魂に縋り付かないと生きられなかったのか! ざまあねえなァ!」
「亜門を、人間を侮辱する気か?」
亜門だが亜門ではない誰かが、少年と火花を散らす。
「たかが人間一人食えなくなったお前に俺が負けるとでも、ッ!」
二人を繋ぐ直線の中心点に、光を纏ったサッカーボールが落とされた。
『これだけの光を使えるのは、まさか』
かしゃん、と音がした。サッカーゴールの上に誰かが降り立っている。
「――穢らわしい悪魔が二人もこの神聖な島に姿を表すか」
『……来たか』
天空の使徒キャプテン、セイン。魔王の花嫁を迎えに来たと告げる彼は魔界軍団Zと敵対する存在だ。なら味方か? 否。花嫁と言えば聞こえはいいが要は人柱だ。悪魔も天使も人の命を奪おうとする敵。ならば倒さねばならない。アモンは気合を入れ直す。
セインはデスタとは違い、哀れみ、悲観……そういった視線を亜門に向ける。
「なんということだ……人の子があの悪魔アモンと混ざっているなど」
弓矢を構えて――待った、あれはどこに隠し持っていた?
――天界製の対悪魔兵装かな? あれ天使にとっては手足の延長線上みたいなもんだしいつでも呼び出せるでしょ。というか千年以上前のドンパチやってた時に使ってたやつが今でも現役って物持ちがいいってレベルじゃないんよそれは。
つまりは武器? あれ食らって大丈夫なんですかね?
『まあ、当たりどころが悪ければ死ぬな』
ぴぇ……。
「せめてもの救いだ。昇天させてあげよう」
鏃が俺を睨んで光る。やめて!? 死は救済ではないんですよ! てかサッカーは!?
『サッカーを優劣を決める手段として取り入れたが……必ずサッカーでなければならない、と定められてはいないからな。試合可能な最低人数を下回った時、命を奪われようとするのに抵抗する手段が無いことを防ぐためだ』
そんなところしっかりさせるよりも命の取りあいについてをもっと平和的にするべきではないんですかね!? あーほらデスタもなんか手から闇っぽいの出してる。
「上等だ、ここでケリをつけてやるよ!」
「その魂、肉体の一片に至るまで消滅させてやろう!」
「もう一人だけの身体ではない、そう易々と倒れるわけにはいかん!」
『このままだと皆が巻き込まれる、上に行くぞ!』
三者三様の翼を広げ、空へと戦場を移した。
光、闇、炎がライオコット島の空を彩る。急上昇、急降下、受け流し、打ち消し、攻撃。おかしい、なぜ俺の身体は空中戦をしているだろうか……というかこれ実質1対2では?
「早く二人を連れて逃げろ!」
アモンが叫ぶも、声が届いているのかいないのか皆動かない。いや、足がこの場から離れないのか? 仮説としては伝説を正しく果たすために生贄と人柱を逃がさないための術式、それが伝承の鍵に仕掛けられていた、か。
「姑息な真似を……レプンカムイ、ボールを」
――あいさー! そーれざっぱーん!
シャチの、豊漁をもたらすレプンカムイの力が満ちる。此度呼び寄せるはサッカーボール。
――権能を使うのはこれが初となる。ならば大盤振る舞いといこうではないか。
「う、うわ、なんだなんだぁ!?」
むせ返るような塩の匂い、海の香り。大きなものが自分のすぐ横を通り抜ける奇妙な威圧感。実際には引っ張られてなどいないのに、足から飲み込まれて持っていかれるような。まるで……大波が来た後の、これから波が引く砂浜に立っているみたいだ。
ころころと何かがひとりでに動く。
「ボール……?」
転がっていたボールが唐突に動きを止めたかと思うと――その真下から水が吹き出した。
間欠泉のような水の勢いに押されてサッカーボールが打ち上げられる。どこからともなく転がってきたサッカーボールが巻き込まれる。レプンカムイを中心点にして、使われていないサッカーボールがどんどん集まっていく。
無から作り出すのではなく、元々有るものがやって来るような流れを作る、それがこの力の本質だ。
空中に舞い上がったその中で一番自身に近いボールを選び、力を込める。
「アモンズアンガー、V2!」
炎のシュートは回避されたが、それはこの一撃が脅威であると認識した証。
「力の優劣はサッカーで決める、だろう? その頭は千年経ってスカスカの飾りに成り下がったか?」
アモンが煽りよる。
『天使と悪魔が去れば伝承の鍵の術式が緩むかもしれん、ワンチャン狙いだ。だからこそここで仕留める』
「異国の神すらも従えるか、不和の招き手にして心なき殺戮者――悪魔アモン!」
光の矢が複数に分裂し、ランダムな軌道で飛んでくる。だが終着点は決まっている、アモンだ。
『急所狙いが分かりやすすぎる。真っ直ぐ過ぎて軌道の読み甲斐がない、つまらん』
うん、限界まで引きつけて最小限の動きで回避した後の感想としてはおかしいと思う。余裕があるのはいいんだろうけどテンションが魔界軍団してた頃に戻ってない?
『…………』
……急に攻撃をサッカーボールで撃ち落とす方針に変えても遅いような。
亜門が使える必殺技はアモンも同様に使える。だがブロック技のスカーレッドブレイズは炎翼を使う技であるため、今使うと落下することになる。使うことはできない。シュート技のみで切り抜けなければならない、が――。
『問題はない』
シャチが張り切ったため残弾はまだたっぷりとある。イナズマジャパンの練習に付き合ってきたこの身体はそう簡単にへたばることはない。
「このままじゃ埒があかねえ――ベルゼブ! あいつが魔王様への贄だ、さっさと連れていけ!」
「エカデル、魔王の花嫁をヘブンズガーデンへお連れしろ!」
伏兵を隠していたのは当然だ。キャプテン一人だけの行動、などというさあ相手に討ってくれと隙を晒すような真似をするほど愚かじゃない。
イナズマジャパンが、彼らの好敵手である世界の代表が力ずくで倒されて――。
「よそ見たぁいい身分じゃねえか」
「――は」
不味い、当た――
「千尋の谷、G2!!」
その必殺技を使えるのは一人しかいない。
崖を獅子の形をした力が登り、光を、闇を噛み砕いた。
「悪魔を庇うか、人間!」
――地上を見下ろせば、一人の男が立っていた。
「なん、で」
「例え、何であろうとも関係ない。亜門だから、それ以上に理由がいるか?」
――帝国学園正GKにしてネオジャパンのGK。
「……で、なんだこれは一体。びっくり人間ショーか?」
――源田幸次郎。
「な、あ、源田ぁ!?」
予想だにしない男の登場は主導権がひっくり返る衝撃をもたらした。髪の色と目が元に戻る。
「あ」
もちろん、亜門には空中戦闘の経験は一度もない。炎翼を維持していたのはアモンだ。入れ替わったことで、力が切れる。
「あわぁーーーーーーっ!?」
ハイビーストファングの要となるのは、しなやかな野を駆る獣のような筋肉。一切の無駄なく力を伝え、反動も、着地の衝撃をも受け流す。
落下する亜門を目掛け飛び、空中で受け止め、両足で地面に着地――衝撃は膝を曲げることで柔らげる。猫みたいだ、なんて場違いなことを考える。
「…………な、ナイスキャッチ」
「本当に……お前は目を離すと無茶ばかりする」
源田の参戦により1対2ではなく2対2になる。これ以上戦い続けても得られるものはない、そう判断したのかデスタとセインは互いに武器を収めた。
「魔王は必ずや封印する。天空の使徒の名において」
「魔王様は必ずや復活する。魔界軍団Zの名において」
天使と悪魔はそう言い残し、雷鳴と共に去っていった。
「ライオコット島に来た途端胸騒ぎがしてお前がいる方に駆けつけてみればこの騒ぎだ。……何があった?」
源田からは何も連絡してなかったし、俺からも島のどこそこに行くなんて連絡はしてない。というか源田がライオコット島に来るなんての原作にあったっけ? でも試合の応援として来るのはそこまでおかしくはないか。
にしても俺がいる場所源田の中で確定してるのすごいこわい。
――試合中だけじゃなくて日常生活でも予測が効くってもう亜門限定の未来予知よ? シャチもかなりの恐怖を感じる。本当に人間?
『超次元な人間だろう』
――ちょうじげんのちからってすげー!
千尋の谷が俺以外にも成功するようになった報告とイナズマジャパンの試合の応援に駆けつけた、らこの騒動だ。冷静に見えたけど内心は混乱してたそうで。幼なじみが空飛んでたらそりゃそうなるわな。
「ネオジャパンの皆は来てないのか?」
「俺だけ先に自腹で来た」
「自腹かぁ……」
つまりネオジャパンの面子は置いていかれたのか。ホテルとかは……先に予約してた? ライオコット島への一人旅家族とか瞳子さんにちゃんと断り入れてる? 大丈夫?
「そこの心配は今関係ないだろう。これからどうするつもりなんだ?」
「助けに行く」
『そしてあのクソ悪魔どもをどつき回す』
――ついで感覚でボコれる相手じゃないんだけどなぁ……。
消えていった彼らの住処はマグニード山にある。未だ活動している火山、危険なのは承知の上で敵地へと乗り込むことになる。
天使の住まうヘブンズガーデン、悪魔の住まうデモンズゲート。チームは二つ、当然必要なGKも二人。
「イナズマジャパンのGKは二人だけ。これから試合が控えているんだ、万が一のことを考えるべきだろう?」
「……それは、そういうことって認識でいいのか?」
「当たり前だ」
キーパーグローブを身につけた王が、そこにはいた。
主人公
おめでとう!げんおうがなかまになった!
なんかデスタに悪魔とかなんとかバラされたけどそんなことより源田がやばい。これが超次元幼なじみの力か……。
シャチ
レプンカムイの豊漁の力をしっかり使うのこれが初めてってマ?
あとアモンお前サッカーボールのことを残弾と呼ぶな。ボールは兵器じゃないんだぞ!
アモン
天使へは本能的な嫌悪、悪魔へは過去のあれそれとか含めての嫌悪を向けている。空中戦(ガチ)ができるタイプの悪魔。後で亜門に空の飛び方を教えておくべきかもしれない。
おい、サッカーしろよ。
源田
もしかしたらを考えて荷物にユニフォーム一式も詰め込んでいた。
天使と悪魔の戦いに急遽参戦。亜門と一緒のチームでサッカーできるのが久しぶりなのでイキイキし始める。