開幕直後に使われた魔界軍団Zが誇る必殺タクティクス、ブラックサンダー。その正体とは肉体の時間を止める呪いである。フィールド内の敵全てへ作用させる強力な呪いであるため、消耗もその分大きい。だからこそタクティクスとして複数名で分散させて行う大呪法。
「いきなりか、っクソ!」
タネが割れている同族、その身体を持つ者には単純に効かない。それは相手もわかっていること。
「アモン、裏切り者の恥さらしめ」
「同姓同名の魂違いってことで退いてくれないかなぁ!?」
「フフ、面白い冗談」
今すぐにデスタを追いたいがサタナトスとアラクネスが邪魔をする。過剰とも思えるマークはアモンへ希望を一欠片も与えないため。デスタは黒雷が降り注ぐ灰がかった世界を悠々と駆け抜ける。
それはほんの少しの嗜虐心から出た行動。より近くで絶望を与え、その表情を見てみたい――非常に悪魔らしい欲。それを実行に移して……。
……今、目が、動いたような――?
ブラックサンダーが解け、目の前にいたはずのデスタがいないことに皆が戸惑う。振り向けば、余裕の笑みを浮かべたデスタがどこから来たのかわからないボールを受け、ゴールラインのギリギリまで攻め上がっていた。
今デスタの足元にあるのはデスタ自身で軽く上げたボール。オフサイドではない。だがそれは時が止まった世界で行われたこと、人間達へそれが分かるほどの情報は与えられていない。混乱のまま、見るだけしかできない。
デスタが軽くボールをゴールへと押し込んだ。手を伸ばすも――届かない。
余りにも無様な失点だった。
「……ッ!」
この手にボールが当たる感覚すらない、GKとしてあってはならない失態。伸ばした手を拳に、感情のまま地面へ叩きつ……まだだ、試合は始まったばかり。手を痛めるわけにはいかない。
「所詮人間、この程度か」
カッカッカ、と笑いながらデスタはポジションへと戻っていく。
声をかけに向かうべきだろうか……源田へ注意を飛ばしていたから、亜門イヤーは彼が呟いた言葉をはっきりと聞き取れた。
「無理に破ろうとしたからその分体に力が入り遅れた……次はもっと早く、もっと上手く」
一人言い聞かせ、ぎぢり、とグローブを強く握る。一度の敗北で折れるようなら彼は今ここに立ってはいない。
――破ろうと……え、認識してた……っていやいや人間が個人で破れるもんじゃないでしよあれ!? 複数の悪魔が絡んだ呪法よ!?
『亜門を、悪魔の体を持つ幼なじみに追いつけ追い越せで努力を続けていたんだろう。なら』
――その力は他の対悪魔にも応用して使える、ってワケ〜? いや力ってか耐性? つまり絆パワーの勝利? まだ勝ってはないけど。
これは本来の展開ならこちらでGKをするはずだった立向居と変わって正解だった。魔王を信仰する悪魔の目の前で魔王・ザ・ハンドなんて使おうものなら下手したら両腕を壊されていたかもしれない。
魔界軍団Zが得点を取ったことによりこちらのボールでの再開。センターサークルには亜門と虎丸が並んでいる。
「……そういえば、亜門さんだけ動けてましたよね」
ブラックサンダーの発動後、デスタが謎の移動をしていたと同時に亜門も場所が変わっていた。
音無とリカが連れ去られるところを見た者達の内にはある疑念があった。もしかして、亜門は……根本的な何かが違う存在なのかもしれない、と。
だとしても共に練習をし、勝利の喜びを分かち合い、笑い合ったあの時間は紛れもない真実だ。たとえなんであろうと亜門は亜門。サッカーが繋いだ仲間だ。
「あれの対処法は……」
「発動を止めるのは皆じゃ無理だが、終わった後にすぐ動けば十分間に合う。……あの必殺タクティクスは前半に2回も使えるようなものじゃない。そっちに気を取られすぎると足元を掬われるぞ」
そこまで言って話を切り上げ、亜門が蹴ったボールはすぐ隣の虎丸へと渡される。虎丸が鬼道のパスを求める声に応じて素直に後ろへと回した。
鬼道は一度立ち止まり、成すべきことを再確認する。――確実な勝利、そのためにも様子見が必要だ。マークへとパスを飛ばして……
「馬鹿が!」
出されたパスを無理矢理カットして反発する不動。孤高の反逆児と呼ばれる彼らしい行動といえるが、鬼道のリズムは一気に狂った。
不動に影響されたのか、飛鷹、綱海だけでなくこういった時は鬼道に従うはずの亜門すら攻撃に参加している。
悪魔から見れば不良なんてのは背伸びして悪ぶっているオコサマ。本当の悪からしてみれば彼らの見た目も態度もごっこ遊びでしかない。可愛い、なんて言うのも格下だと舐め腐っているから。
片方はかつて共にいた悪魔、片方は弱いと思われている人間。同じように上がって来たなら、注意は必ずこちらに来る!
「亜門!」
名前を呼んだ相手とは違う相手へパスをする、シンプルなフェイント。不動は亜門ではなく綱海へとボールを繋いだ。
「そらよっ!」
「ッ、ジ・エンド……!」
綱海が放つノーマルシュートを必殺技で止めたアスタロス。威力の差は歴然、余裕でキャッチしたはずがその顔は戸惑っている。
……相手は確実に点を取らねばならない。シュートはアモンに任せるべきだろう。なのに弱い人間がどうして。理由が分からない。
『――とか考えているはずだ。強者による蹂躙を好み、ラフプレーをメインに組み立てるサッカー。それが魔界軍団Zのやり口だ。だからこそ……強者同士の力の差を見ようとしないし、ああいったものに引っかかりやすい』
それと天空の使徒が使う必殺タクティクス、セイントフラッシュは停止させるブラックサンダーへの対抗策として編み出されたものだから人間とのサッカーでは基本使わない。……という今知っても使いどころがない知識をついでに教えてくれるアモン。さてはテンションがアゲアゲでおられる? 人間がちょっとした知恵で悪魔を出し抜いたのがそんなに嬉しいの? ……嬉しい。はい。
シュートを決められなくてすまねえ、と綱海が謝るも対する不動は気にしてはいない様子だ。
「遊びは終わりだ! 魔界軍団Z、魔王の名において奴等を殲滅しやがれ!」
飽きたのか、それとも危機感を覚えたのか。デスタの合図から一気にラフプレーが目立つようになった魔界軍団Z。人間を押し退け、弾き飛ばし、と強引に道を開き……デスタへとボールが渡った。
踵を使いボールを回転させる。ボールは天高く舞い上がり、デスタの放つ力でボールの色が反転する。黒が、闇が満ちたボールを両足で蹴り飛ばす――それは魔界軍団Z最強のシュート。
「ダークマター!」
「千尋の谷G2ッ!」
堅牢な崖と、その崖を登る獅子が闇を阻む。デスタは不愉快なことを隠そうともせず舌打ちをする。ここまで来たのなら人間の力を認めるしかない。そして、それを認めるしかない自分が嫌になっている。
睨みつけるも源田に怯んだ様子は見られない。その態度が余計に腹の立つ原因になって――前半と後半を分ける笛が鳴った。
ハーフタイムでのちょっとした休憩時間で作戦会議が開かれる。
不動がしていたのは無策な突撃ではなくファイアードラゴンの時と同じ、相手の実力を見るための突撃。言葉ではなく行動で示そうとする不動のいつもの。そうして確認したことを皆へと共有する。
「この試合、亜門が鍵になる」
亜門と別の誰かが並んだ時、明らかに亜門の方へ相手の意識は偏った。必殺技を使わねばと思わせるほどに。
「後半からはオマエ、ボールもってる奴と同じラインにいろ。相手のボールは奪っていいが一人で突っ込むなパスを回せ。基本はシュート禁止な」
「まーじか。えー不動にいきそうなボール俺が取ってもシュートダメー?」
「まず俺のボール取ろうとすんじゃねーよアホ」
「不動一人だとコース狙うしかないじゃーん、まず不動合体技しか持ってないからぜんぜん孤高じゃないじゃん。ツンデレじゃん」
ぎゃいぎゃい不動と亜門が口を忙しなく動かし作戦の打ち合わせ……打ち合わせ? をしている。日本のノリってこんな感じなのか? とマークは鬼道に問うもこれはチーム全体ではなく亜門のノリというかなんというか……と濁す。
「亜門さんがシュート禁止、ってどういうことですか!」
虎丸が噛み付く。彼は自身の過去からシュートを封印していた過去を持つが、そうだとしても他者に言われるがまま受け入れるのは納得がいかない。亜門も反発する様子がないので、なら自分が言わねばと責任感を感じているようだ。
「基本は、だから必要に応じて自己判断しろってこと。あー、久遠監督の外で練習禁止のアレと一緒の捉え方したらいいだけ。だろ? 不動」
不動は何も答えなかったが、否定もしなかった。
「え、あ、そういうことで……ってじゃあ最初からそう言えばいいじゃないですかー!」
本気で不動へ言い返したのが恥ずかしくなったのか、ぷう、と頬を膨らませる。だってさっきのは言い方が悪い。
「ここにいる奴はぜーんぶ口で言わなきゃわかんないガキじゃねーだろ。いや、お前はガキだったか」
「中学生が小学生に年の差マウントとるんじゃないやい。本当はツンデレだから正直に言いたくにゃぷぇー」
余計なことを言うんじゃねえ、と不動にほっぺをつままれ伸ばされる。
そこにいるだけで注意をひける囮なんて使わない手はない。そこは鬼道も賛成している。しかし……まだ何か悩んでいる様子だ。チームプレイにこだわる鬼道を、個人技がチームへと影響を与える場合がある、とテレス、マーク、ディランが説得している。後半から空気を変えるためにも三人を中心として一度ゲームを組み立てるようだ。
『亜門、クソ悪魔のタクティクスを』
「あーっとやっべ忘れるところだったブラックサンダーについてなんだけども」
ざっくりと必要な部分だけ説明しておかねばならない。時間を止める必殺タクティクス、その余りにも強力な効果はすでに皆体験した後だ。何も知らない相手へ発動すれば確実に点が取れる、つまりタネが割れてしまえばその脅威度は格段に落ちる初見殺し。
「後半で必殺タクティクスを使っても前半と同じ動きをしてくるだろうから、デスタが発動を宣言した時に注意して……いけるか?」
源田はグッ、とサムズアップする。
「安心しろ、もう同じ手にはかからない。……ただな」
「ただ?」
「あいつら全員から亜門と似た気配がするせいで少し気が散るのが難点だな……」
ふええ……悪魔の気配わかってる……幼なじみこわいよう……。
試合後半。鉄壁の防御を誇るテレスが四人を相手取り、マークがボールを繋ぐ。
「頼むぞ!」
マークが自らの身を呈して亜門へとパスを送るも、そこはアスタロスの真正面。かの悪魔の防御を突破するには必殺技を使うしかない。
ごう、と炎が渦になる。炎の竜巻の中、上へ上へと亜門は飛ぶ。
「アモンズ――」
炎翼を広げ、炎の竜巻が散らばっていく。
亜門の元にボールはなかった。
「なんちゃって」
亜門の真下。パスでも出すような緩さで、ディランは蹴った。アスタロスのすぐ横をボールはゆっくりと転がって、ゴールラインを超えていった。
タネは簡単。アモンズライジング発動の前段階である炎の竜巻を起こしてすぐに、亜門は後ろにいたディランへバックパスをしていた。亜門のシュートを警戒していたがため、炎の影に隠れて行われたそれに敵は気付くことはなかった。
「流石〜ミスターゴール!」
「いいや、目を惹きつけてくれた亜門のお陰さ!」
いぇーい、とハイタッチ。点を奪われたアスタロスは呆然としている。あと脳内のアモンの声がやかましくなってきた。
『流石だ! 人間最高! 酒飲むぞ亜門!』
――未成年は飲酒禁止ぃ!
妙にテンションの上がったアモンの頭をすぱこーん、といい音を立ててシャチがはたいた。
――頭は冷えたか? まったく、急にイキイキしだしたな本当に……。
『いや……人間がクソ悪魔をシメるのも中々に見ていてスカッとするな、と』
シメるなんて言わないのこらっ!
――こう、目をつけたやつが弱るのを見て楽しくなるのは悪魔の本能的なものだからどうしようもないのかなあ……。
デスタは悔しそうで……ピャッこっち睨んでる!
『酒のつまみにしたいなあの顔』
やめなさい。
『……これが人間の力だ。心の強さだ。あいつらはまだ分かろうとしないのか?』
アモンが裏切ったあの日から、彼らは何も変わっていなかった。人を見下し、嘲笑い、弄ぶ。だからこそ、存在の根本を揺るがされている今、すぐに変化しなければ……時代に取り残されて、消えていく。
「こんな筈が無い、クソが……」
昔のアモンに心は無かった。ただ効率の良い戦闘を繰り返すだけの機械だった。そのアモンが今では人間の力を信用している。なら当然魔界軍団も認めざるを得ない。この人間達は、強い。……ああ、腹が立つ。
魔界軍団Zからのスタート。一対一の同点、このまま引き分け……負けるのか? それは許されない、許せない。
「必殺タクティクス――ブラックサンダー!」
フィールドに降り注ぐ黒雷が動きを、時間を束縛する。誰も動かない世界を駆ける悪魔は思考する。――これが世界の正しい姿、人間が悪魔と肩を並べるなどやはり間違っている。
止まった世界の中、間抜け面をしたGKの頭を越えるようにボールを上げる。ゴールラインまで後少し……デスタが受けるはずのボールを源田の手が遮る。
「何っ――」
まだブラックサンダーは解除していない。ありえないものを目にして悪魔は硬直する。
ボールを体で包み込むようにして、その勢いを殺しきれないと判断した源田は飛んだ。その勢いのまま衝突、後ろにいたデスタはみっともなくバランスを崩し転倒する。
「づぅっ……良し!」
抱えていたボールはゴールラインを超えてはいない。時間を無駄にしないためにもすぐにパスを回す。
「クソが、クソがクソがクソがッ!」
怒りは全身を満たし、指は大地へ爪痕を残す。目の奥は憤怒でぎらぎらと燃える。みしりと音を立てて牙が、翼がより悪魔らしさを増していく。
「人間なんかにっ……負けてたまるかよォオッ!」
一歩、大地を抉り。また一歩、姿は其処には無い。
「あいつ、あれだけの力をまだ隠していたのか……!?」
恐るべき加速、そしてパワー。最初からこの調子で試合が行われていたら危なかったが……でもどうして急に?
『クソデスタのマジギレなんて千年以上見たことがないぞ……! 人間にいいようにされるのがそこまで嫌だったのか!』
「邪魔だァ!」
腕を薙ぐ――味方を巻き込んでもお構いなし、突然の超重力がフィールドを覆う。重力に押しつぶされボールは止まり、チームの殆どが機能しなくなる。
――これは……必殺技なのか? エイリア学園も使っていたグラビテイションに近いが……。
フィールドに立つ者の中で動けるのはデスタと源田、そして亜門。
『亜門、何故動かない!』
足を痛めた、とかそんなものは一切ない。足先は自陣のゴールではなく、敵陣のゴールへ。
「俺の友達があんなやつに負ける筈ないだろ」
あと一点を取れば勝ちの状況、何をするべきか。
「源田は必ず止める。GKが止めたなら、その次は点を取るプレイヤーがいないといけないだろ?」
源田に背を向けて、走り出す。目指すは魔界軍団Zのゴールへ。
遠くなる背中は信頼の証。……これが恐らくこの試合で俺が使う最後の必殺技になる。なら、ありったけを此処に。
「真・ダークマター!」
「千尋の谷、G3!」
互いに進化させた必殺技が衝突する。
「あいつもお前を助けには来なかったなァ! その手は祈るためにでも使えばいいんじゃねえか? もっとも――お前らを救う神なんているわけが無いがなぁ!」
デスタの言葉に賛同するかの如く、ダークマターは威力を増していく。
「――そう、か」
崖にヒビが入って、壊れ始めて……?
おかしい。いつまで経ってもあの獅子が現れてこない。
「オォォォオオオッ!」
崖の中に、何かいる。ぎらついた光が見えた。
「…………馬鹿な!」
崖の内側から、何かが這い出ようとしている。
――成る程? 完全には同じじゃないけど近い状況になってちょっとだけ安定したか。口は災いの元とはよく言ったものだな。無意識か? 最後のピースはあいつ自身の言葉で揃った。
それはヴィシュヌの数あるうちの一つの
その名はナラシンハ。だが本物を呼んだ訳ではない。源田が秘める力が気の高まりと共に形になって現れた――化身。
『たかが人間、と侮っていたツケだクソ悪魔』
研鑽の果てに得られるはずの可能性、それを引き寄せたのは奇跡などありふれた言葉で表現するのは正しくない。
ただ、源田幸次郎が源田幸次郎であるが故に。
獅子は咆哮する。体を押さえつけていた超重力を引き裂く。
「――捉えた!」
それは円堂や豪炎寺、立向居の背後に現れる魔神のように源田と同じ動きをなぞる。両手は獣が噛み砕くように、上と下から挟みこみがっちりと掴み離さない。次第にボールの白黒反転は消え、元の色へ戻る。
化身はキャッチに成功した後すぐ煙のように消えたが、その力は未だにフィールドを揺らしている。
「行くぞ――亜門!」
捻りを加えながら押し出すように、源田は天空へとボールを上げた。ボールは天を舞い、誰がその支配権を得るのかを今か今かと待っている。
「ああ!」
ぐ、と膝を曲げて……亜門は飛んだ。
――亜門の必殺技は回転を基本としている。最初に編み出した必殺技、モンスターファングが回転の力を利用したものだったからか、その傾向が強い。
自分の力のみで回転を加えるのにも限度がある。なら、他者の力があればどうなる――?
勢いを殺すな。かと言ってそのままでも駄目だ。身体の捻りなんて小手先の技を使った力じゃない、魂からの力を。
……亜門はこの世界に存在するために与えられたチートにより、超次元な事柄を知るほどに強くなる。ほんの少しずつの積み重ね――その性質は試合で使うほどその強さを増すソウルに近い。
化身とソウルによる足し算ではなく掛け算。いや……化身もソウルもどちらも完全ではなく、カタチとして現れる前の魂源の力として使う。自身の限界を堰き止めていた門が開く。
力の渦の中、亜門は無意識のうちにその必殺技の名前を叫んでいた。
「――オリジン・ゲートッ!!」
「ジ・エン――何ッ!?」
なんとか動けるようになったアスタロスが必殺技を使うも……闇で包み、曲げ、異次元へと飛ばす程度では足元にも及ばなかった。
ボールはアスタロスを巻きこみゴールネットを揺らす。笛が鳴る。これで二対一、もう魔界軍団Zには反撃のための時間は残っていない。
遠い遠い距離であるにも関わらず、その顔が見えた。満足そうに笑っている。二人とも同じ感情のまま、笑っている。そうして――同時に倒れた。
文字通り力の全てを注ぎ込んだ必殺技だ、両足で立つ力なんてもう残っていない。
試合が終わった。
俺は確か試合をしていた。それで力を使い切って倒れて夢を見ている、のだろうか。いいや、これは――この世界に転生する前の記憶?
ファンタジーな白くてふわふわしたドレスを着ている目の前のこの人は多分女神だろう。自分の姿を確認しようとしたら……手も足も体も何もない幽霊みたいになってて何だこれ、ってなって。
それを聞いてあの女神が懐かしい、あの人とそっくり、今でもあの人が驚いたことは全部思い出せますなんて自分語りしてて。
そうだ、転生するってなって一つだけ頼まれたんだ。いや、女神の独り言か願望だったのか? 違う。祈りだ。
『どうかあの人を、助けてください』
……あれ。女神のあの顔、どこかで見た、ような――?
「あっっっっっづ!?!?」
モーニングコールじゃなくてモーニングジュージューいってる! なんか知らないけど焼ける音がする! 音源は……俺!? は!?
「離れろ、天使だか悪魔だかの何かで亜門を殺すつもりか!」
「違う、ただ話をしたいだけなんだ!」
源田とセインが俺を綱引きの綱的に使って引っ張り合いしてるんだがこれは夢ですか? 夢であってくれ。
『……俺も認めたくはないが現実だな』
セインの羽キラキラしてるし掴まれている所がめちゃくちゃ痛い。何をされているんですかねこれ。
――ほら亜門は魂が人間でも身体はアモンの悪魔のやつだから浄化の力でジュッとこう……現在進行形で焼けてる。しかも天使側は力漏れてるのに気付いてないですね、ハイ。
腕が痛いし熱いしもげる! 助けて!
「……もう、いいかげんにして下さい!」
立向居のムゲン・ザ・ハンドが二人を引っぺがす。魔王じゃなくてムゲンを使ったのはムゲンの方が細かく制御できるからだろう。というかこの状態で魔王使われてたら本当に腕がもげるところだった……。
「ありがとう立向居……うへあ」
セインが俺を掴んでた跡が火傷のようにくっきりと腕についている。それを見てようやくセインも自分が何をしていたのか分かったようで、すまない、と謝る。
「アモン、いや亜門……謝って許されるとは思っていない。我々は最初、君を殺そうとした。それは事実だ。どんな罰も受け入れよう」
『すまん、この件は俺が話した方がいいだろうから俺が出る』
アモンへと変わる。髪と目の色が変わったのを見てもセインは驚く様子はない。
「確かに、魔界軍団Zにいた時の俺は多くを殺した。昔のことだ、と切り捨てることは出来ないだろう。あの警戒は正しい。こちらに被害は出ていないし罰も何も与える気はない。……まああの時、俺も隙があれば仕留めようとしていたんだがな」
「心なき悪魔……はるか昔からそう呼んでいたのが嘘のようだ。随分と変わったな、アモン」
「そっちもな」
悪魔を見下していたのが嘘のようにセインとアモンは話し合う。人間の強さを知った者同士であり、千年祭が終わった今、いがみ合う必要はない。
「我々による封印が行われる前にこの島を出たのだろう。亜門の魂と出会うまで何をしていた?」
「それは……あまり覚えていない。あの時の俺は壊れかけていた。ただ、ああ……そうだ、言われたんだ」
記憶を整理する独り言、自分の中に残っていたカケラを繋ぎ合わせる作業。きっと大切なことだった、はずだ。
「そこに俺が守るべきものがあると、風に導かれた。そうして日本に来て、何も見つからなかった? 違う。見つけたのは、見つけられたのは――」
話を切ってしまうのを申し訳なさそうに、飛鷹が問いかけた。
「あ、あの……亜門さんって、その。悪魔……だったんですか?」
これは……もう正直に言うしかないだろう。ダークエンペラーズしていた頃のカラーリングで、少し違う喋り方をする亜門のような誰か。それの正体が悪魔だとこれまでの出来事が証明している。
俺はうまく説明できる気がしないしちょっとの間お喋りはアモンにお任せしておこう。
「……いや、違う。亜門は悪魔の身体に転生した人間だよ。俺の名前はアモン。元・魔界軍団ZのFWでこの身体の元の持ち主。千年前に魔界軍団を裏切り、人を守ろうとして……まあ上手くいかなかった、そんな大馬鹿だ」
自嘲の笑みを浮かべるもすぐに口角を戻して、とん、と胸に手を当てる。
「この身体の中には二つの魂がある。一つは亜門の、そしてもう一つが悪魔アモン。基本は亜門に身体の主導権を任せているからこうして俺が出てくるのは悪魔がらみだったり命の危機が来たときぐらいだ」
そこまで言われて吹雪は可能性の一つに行き着く。
「じゃあ、あの時試合をしていたのがアモン?」
あの時、それはダークエンペラーズに亜門がいた時。アモンが主導権を握ると髪色と目の色が変化するということは、ダークエンペラーズとして動いていたのはアモンになる。
「研崎が色々と亜門に施そうとしたから亜門を守るために俺が出ていた。……それでも抗いきれなかった。辛い思いをさせたな……すまない」
さらっと嘘を言う〜! 変なのはなんか入れられたけど洗脳は何も効いてなかったじゃん。演技だったじゃーん。研崎ネガティブキャンペーンしたところで下がる株もう無いだろ研崎。
『いや身体をいじられた所とすまないと思っているのは本当だぞ!』
――あ、そこ以外は嘘って認めるのね。
「……つまりは多重人格のようなものか?」
精神に負担がかかって分裂した、ではなく最初から共にいてエイリア石によって目覚めた魂なのだがそこまで細かく説明する必要もないだろう。
「多重人格……まあそう捉えておくぐらいがいいのか……?」
――そんなに間違ってはないからいいんじゃない?
「亜門は亜門だろう。それなら大丈夫だ」
一番の理解者である源田が受け入れているのなら多分皆からしても問題は無いのだろう。
「……亜門、お願いがある」
「ん、アモンじゃなくて俺に?」
「悪魔を従えるのではなく対等な関係を築いている君に、私個人の願いを聞いて欲しいんだ」
円堂守、そのサッカーを通じて天空の使徒達は『魂と魂のぶつかり合うことの大切さ』を知った。その修行となるのがサッカーであり、これから天空の使徒は醜い心を抑えるためのサッカーを始めるのだという。
「もし、願いを受け入れてくれるのなら――これを」
セインの手のひらには天使の羽を模した飾りがついたシルバーネックレス。
「サッカーを通じて得られる熱い魂、それを学ばなければ次の千年祭もただ争いを繰り返すだけになる。これは天界から下界を覗くための窓……のような物だ」
これを媒介にするからちょっと精神世界に分身をお邪魔させてほしい、そんなお願いだった。分身の経験したことは本体と共有できるのだという。便利だね。
この島では今FFI本戦が行われ、世界中の猛者が集まっている。そんな彼らの試合を、魂と魂のぶつかり合いを近くで見たいという我儘、わからなくもない。
「そのぐらいならまあ……大丈夫?」
『直接こちらに分身を入れたら内側から亜門が焼けることぐらいわかっているだろうからその媒介を用意したんだろう。セインが精神世界に来ても問題はない』
――シェアハウス亜門新規入居者ご案内準備はできてるよ〜。
俺の体はシェアハウスだった……? ネックレスは首にかける時少しピリッとしただけで後は違和感も何もない、普通のアクセサリー。デザインもシンプルだし普段使いもできそうだ。
『この島にいる間という短い時間だが厄介になる。よろしく頼む』
目の前にいるセインは口を動かしていないが、直接頭の中にセインの声が聞こえる。無事にセインの分身は入居……入居? まずこれ入居で合っているのだろうか?
『そうだ、これを見てほしい』
『これは……このような事をする人間もいるのか』
『しかもそいつはこの島にいる』
『……成る程』
待ってもう一人のボク? 何を見せているのかな?
『わかった、力を貸そう』
何を意気投合したのかわからないけど取り敢えず分身さんに迷惑をかけないようにね……?
――こうして、長い一日が終わった。
活動報告にて超次元勘違い支援絵まとめを作成しました。作品内で紹介した絵は活動報告にも置いてあります。
こちら柴猫侍様より頂きました表紙絵になります。ありがとうございます!
【挿絵表示】
そしてこちらが自作の亜門立ち絵(フード無し)です。作者としてはこんなイメージで書いています。
【挿絵表示】
主人公
皆に悪魔ボディだとバレたがそこまで気にされていない。聖なるパワーに当たると体がジュッと焼けることが判明した。たすけて。
何かを思い出しそう。もしかして俺はテンプレ転生ではなかった……?
アモン
ライオコット島から遠く離れた日本で死にかけていたのは風に導かれたからだとかなんとか。何とかなるさ。
セインにある話を持ちかけた。いったいガルシ何についてなんだろうなー。
シャチ
シェアハウス亜門良いとこ一度はおいで。条件は亜門に対して良い感情を持っている人外。
入居者は亜門を害する存在へ一致団結しボコボコにしに行く。
源田
悪魔とか転生とか関係なく亜門は亜門だろう?何を気にする必要がある?
あの試合の後化身を出そうとしても上手くいかず練習が足りないのか?とネオジャパンの面々が巻き込まれることになった。
セイン
シェアハウス亜門に期間限定で入居。
なにやらアモンから持ちかけられた様子。いったい何シルドについてなんだろうなー。
オリジナル必殺技解説のコーナー
『オリジン・ゲート』
オリジン→源(田幸次郎)
ゲート→(伊冬塚亜)門
と二人の名前を組み合わせたもの。実質専用技。
化身とソウル、その力をそのままシュートに全て注ぎ込むため一回しか使えない。ゲーム的に言うとGP、TP、KP、SPをほぼ全部消費する。