ガルシルド・ベイハンはサッカーで世界平和を、と願う心優しき男。それが嘘っぱちだと知っているのは彼の手下と、転生したが故に原作の知識を持つ亜門だけ。……今のところは。
ブラジル代表にサッカーができる環境を、その家族へ仕事を。そうして囲い込み、自分の意に沿わなければ罰を与えることができると脅し、実際に実行もした。
だが、彼らには他者に弱音を吐ける隙があった。ガルシルドの闇を匂わせたことによる罰則もなかった。とまあ完全な監視体制が作れていない時点で詰めが甘い。影山の方がもっと上手くやっただろう。
ブラジル代表ザ・キングダムのキャプテン、ロニージョがイナズマジャパンへ八百長を頼みに来た――そこからガルシルドの野望崩壊カウントダウンは始まった。
ブラジル代表は強い、なのになぜ八百長を頼む必要があるのか。その疑問を追ううちに四人はガルシルドが隠していた闇を知ってしまった。そしてガルシルドを許せない、と思い立ったのでガルシルド邸への侵入を決行した。……うん、このへんでもう展開が早いし情報量多くてお腹いっぱいになるんだけどまだ続きがある。
ガルシルド邸の情報室からハッキングしてぶっこ抜きしたのはガルシルドの世界征服計画。わ〜。USBに詰まっているこの情報があれば警察が動けるレベルで機密情報が盛りだくさんだ。
「ヒロト、ハッキングとかできたんだ……」
――そこ〜?
エイリアでちょっとね、なんて謙遜とあまり思い出したくはない過去の混じった微妙な笑顔をこっちに向ける。
そういった情報は絶対カッチカチの防御だと思うんだが……それをたいした時間をかけないでぶち破れるのはおかしいと思う。宇宙人(日本人)こわい。
日本代表として知られている以上顔も居場所もバレバレだが、奪われたデータがデータだけにガルシルドも下手に公にできないからちょっとの間は安心していいだろう。
「これ警察に渡すべきだよなー」
「これがあればザ・キングダムの皆をガルシルドから解放できるな」
上手くいったらいいな、警察に手に入れた経緯どう説明するんだこれ? なんて会話をBGMに画面をスクロールして見つけたある名前と、その下にある文字列は一目見ただけで背筋がぞくりとした。
「……これは」
基山ヒロトは、グランはハイソルジャーとなるべくして教育を受けた。ジェネシスのキャプテンであったから、切り札たるリミッター解除の効力と危険性を理解しなければならなかった。故に医療、人体関係にも少し知識があった。だから分かる。分かってしまった。
「っあもん、くん」
つい、とヒロトに袖を引っ張られて……手が微かに震えている。
「……本当に、君は今も……大丈夫、なのかい」
表示されるその言葉の羅列はとても……一言で言うなら、おぞましいものだった。
記憶を消すための薬物。心を壊すための薬物。限界を超えて動かすための薬物。依存させるための薬物。そうしてそれらの効果をより高め、完璧な兵士を作る要となる、強化したエイリア石。
それらの作り方が、使い方が、そこにはあった。
非合法なものを人間一人に詰め込んで、何一つ感じずに淡々と命令をこなす兵器に変える。それが研崎の思い描いていたハイソルジャー計画。一歩間違えたらジェネシスも、プロミネンスも、ダイヤモンドダストも、エイリア学園として活動していた皆がこれを使われていた――?
待った。これはガルシルドから手に入れた情報。なぜエイリア学園が、研崎の関係していたものがここにあるのか?
それはきっと、ガルシルドが必要としたからだ。じゃあ誰に使う?
――研崎の手により改造を施された元ハイソルジャー。そして……ガルシルドによって世界の舞台へ引き摺り出された君が、ここにいる。
本当にここに立っているのが彼であるという証明が欲しかった。衝動のままに亜門を抱きしめる。
「お、おう!?」
鼓動が乱れていたり、体温調節がおかしかったり、なんてことはない。
「……いきてる」
「……悪魔ボディはそう簡単に死なないぞ?」
なんだか懐かしいこの感覚。あれだ、アツヤを否定して壊れかけた吹雪を思い出す。精神的なショックを受けた人間が俺にくっつく率高くない?
『原因が亜門だからだろう』
――だよねぇ。それにしてもヒロト君がこうなっちゃうってなんか嫌ーな感じするんだけど。
「何を見た」
「あまり……良くないもの、かな」
血の気が引いたせいか元々白い肌をさらに白くして、ヒロトは答える。
研崎が投与したなんかとかあれそれとかエイリア石の強化方法を記録したデータ……がここにある。研崎にガルシルドが関わっていたのでは、という俺の予想はドンピシャで当たっていたらしい。
「こんな事をされたと知っていて、ガルシルドは亜門を試合に出そうとしていたのか」
ガルシルドが本当に心優しい人なら治療するための病院とか検査機関、カウンセラーを紹介するはず。今までガルシルドからそんな知らせは一つもなかった。俺の検査とかもろもろの用意を手伝ってくれたのは監督達や鬼瓦さんだ。
「つまり、もし俺がFFIに出てたら試合をデータ収集に使うつもりだったワケね。うーわ選手登録しなくて正解だわ」
エイリア石パワーはアモン復活のために全部パクパクされて、薬品は悪魔ボディになったので無効化。だとしても身体の中に残っているのは間違いないから検査には引っかかる。
選手登録をやろうとしていたら、間違いなく本当の検査結果は金の力で握りつぶされていたことだろう。で、そのままガルシルドに転送されて世界征服計画に使われたかも、と。いや本当に試合に出ようとしなくって良かった……。
『……いったい何の話をしているんだ?』
セイン(分身)だけが話について行けていない。アモンが何をされたのか掻い摘んで説明した結果、セイン(分身)が研崎とガルシルドに対して怒りの炎を燃やし始めた。体が内側からじりじり焼けてる。アツイ……タスケテ……アモンもつられて怒り出した……シャチ鎮火お願い……。
――任された。はいはい二人とも落ち着いて落ち着いてー!
見たことも聞いたこともない、もしかしたらダークエンペラーズに入れるための薬品注入中に聞いたのかもしれないけど覚えてない名前がズラッと画面を埋めている。他に何かないかとマウスのホイールをコロコロしたら……エイリア石とは違う、だが俺が知っているものがあった。
「は?」
思わず声が出た。皆へは声の出た原因をあまりにも使われた薬品が多すぎて、と誤魔化す。
ダークエンペラーズとして皆の目の前に出た時に言われた調整が済んだか、ってなんのことだろうと思ってたけどこれまさかそういうこと? エイリア石に薬品ドーピングにRHプログラムとかイナイレ無印よろしくない要素満漢全席になってるわけ俺の身体? このリストにこっそり神のアクアも混じってたりしてない? もしそうなっていたらコンプリートだ。笑えない。
体が強いから何しても問題ないだろってやったのだろうか。うーんキレそう。
RHプログラム――それは強化人間を作るためのプログラム。過酷な特訓ときっかけとなるスイッチを用意し、それを発動することでプログラムの力が発揮される。具体的には人格を変える、力が増す、などなど洗脳じみたものだ。
俺に施されたプログラムの起動条件は何もわからない。ただ、ロニージョのRHプログラムは買収された審判の使う特殊な笛の音を聞くことで発動した。試合を見ている途中で暴走したりしないだろうか心配だ。……アモン達が。
『試合の邪魔は流石にしない…………しない……筈だ』
しっかり言い切ってほしかったなあ。世界大会に乱入とかしたら洒落にならないからな、イナズマジャパンのためにも怒りはできる限り堪えてくれよ。
『……善処する』
残り少ない石油、兵器、強い兵隊を作る技術――戦争を引き起こす引き金として用意された舞台、FFI。響木監督がそれらのデータが詰まったUSBを警察に渡すためにと受け取った。
『それだけの準備をしている相手が警察への対策を怠るはずがないだろうに……大丈夫なのか?』
アモンの心配もごもっともだ。大丈夫じゃない。実際一人で警察に接触した響木さんはガルシルドの手先に狙われる。でも俺がついて行くとまた麻酔銃軍団出てきそうで怖いんだよなぁ。
『ふむ、なら護衛として天空の使徒から数名派遣しておこうか?』
え、いいの?
『ガルシルドの思惑は熱い魂を学ぶ邪魔となる。この島から戦火を広げるわけにはいかないからな。私個人の決定ではなく他の者達も賛同しているから心配する必要はない』
好意に甘えてよろしくお願いすると、セインは分身から本体を経由してヘブンズガーデンの天空の使徒へ連絡を通す。
……日も落ちて外はすっかり暗くなっている。皆明日から行動を始めよう、と眠りについた。
出て、すぐに気付く。……尾行されている。
伝説のイナズマイレブン――その一員だった彼は四十年前、FF決勝戦の会場へ向かうバスに乗り、そして事故に遭った。怪我を負ったがそんなもの関係あるか、這ってでも会場へ、そう決意していたにも関わらず……試合放棄の電話一本で不戦敗となった。
……もし、事故に巻き込まれていなければ。もっと早くに気付いていたら。あの時のような後悔は繰り返したくない、との思いからか、知らず知らずのうちにそういった気配に……悪意に敏感になっていた。
幸いにもここはジャパンエリア、地の利はこちらにある。建物の影へ隠れ追手を巻いてしまおうと路地裏へ足を向け――白い羽がどこからともなく降ってくる。
何かが、空から舞い降りた。
「エンゼルボール」
天使の羽と輪のついたボールが黒服達の周囲をくるくると回り幻惑する。
「ゴー・トゥ・ヘブン」
動きが止まった男達を、天へと伸びる光の柱が吹き飛ばす。
予想だにしなかった乱入者の正体を知るべく、響木は建物の影に体を隠し顔だけを出す。必殺技を使ったのは、天使の羽が背にあるユニフォームを着た不思議な少年と少女だった。
「私達は味方。貴方は使命を果たすべく行きなさい」
こちらへ振り向くことはなかったが、その言葉は間違いなく自分に向けられたもので。
「感謝は今する必要はない。急いでいるのだろう? 後で亜門へとすると良い。我らが動いたのは彼からの頼みであるが故に」
こうして話をしている間に他の追手が来ないとも限らない。彼らの言葉に従い、響木は急いで警察へと向かっていった。
「行ったようね。それじゃ、そろそろ大丈夫かしら」
彼女の手には煌めくレイピアがあった。その切先は地面に倒れ伏す男達へ向けられている。
「……ギュエール、そこまでする必要はない。仕舞え」
「あら、せっかく正当な理由で使えるのに出さない手はないでしょう? ほら、彼らも抵抗をやめたわ」
エルフェルが嗜める。いつもは軽い口調の彼だが、ギュエールの怒りに油を注ぐほど愚かではない。セインから受けた直接の指令ということもあり、気を引き締めるべく言葉にも気を使っているのだ。
「ぐっ、うう……」
響木を狙っていた男達だったが、たった二人の前に手も足も出なかった。
公にできない犯罪行為をする専門であるはずの彼らは恐怖している。だってこの二人は自分たちを
そして先程、どこからともなく取り出した武器で自分たちを切り刻もうとしていた。あれは間違いなく、本気の目だった。少年少女の見た目をしているが、中身は人智を超えた何かだ。……どうか命だけは、なんて命乞いの言葉をなんとか絞り出す。
「命なんていらないわ。そうね……貴方達の上司へ伝えておきなさい」
天使のような笑みを浮かべ、告げる宣告はセインからの言葉。
「全ての罪が明かされる時は近い」
天使からの直接のお告げを聞ける人間はそういない。だが、彼らはその重大さが分かっていない。
――敵に回してはいけない存在を敵に回したというのに気付いていない、愚かな悪。彼らに必要なのは救いではなく罰。それが与えられる時はもう……目の前だ。
『……良し。無力化は完了、ちゃんと宣戦布告もしてきたようだ。これでいつ裁きを与えに行っても大丈夫になったな』
『そうか、すまないな』
待って?
『む、二人が源田幸次郎を視認し……倒れているのは響木か? 源田が電話で助けを呼んでくれたな』
待って??
『こちらに向かって口を動かしている? ……「今回そっちの助けをするのは難しい、ほどほどにしておけよ」……だそうだ』
待って???
――あーこれは亜門が黒服達をボコボコにするよう頼んだと思われてるね。なるほど、亜門限定の未来予知の代償として変な時に勘違いが発生するシステムなのかな? ……システム……?
待って????
主人公
悪魔ボディになってなかったら廃人になってた事が判明した。
なんか俺がやれって言ったことにされてるぅ。確かに助けは頼んだけど詳細は知らないのでノーカンになりませんか?ダメ?
シャチ
なんか天使と悪魔が勝手に計画してるぅ。一言通してからやってくれ頼むから。
アモン
早くガルシルドをボコボコにしたいがいきなりボコボコにしに行くのは流石に、とセインの言葉より宣戦布告することを思いついた。これでいつでもボコボコにしに行けるね。よかったね。
亜門、分身を貸してくれ。
セイン
変なところで礼儀正しさを発揮した天使。対悪魔専用の武器を天空の使徒の皆さんがガルシルドの手先に向けていたが、(彼の解釈として)納得のいく理由があるため特にお咎めはない。