超次元な世界では勘違いも超次元なのか?   作:ウボァー

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シンクロと亜門

 その音は頭を引っ掻き回す合図になった。

 

「ゔ、うぐっ……」

 

 胃がひっくり返りそうで、視界が回って落ち着かない。頭痛と耳鳴りという体調不良の定番も併せてやってくる。

 自身が感じ取る情報を少しでも遮りたくてフードを被った。……聞こえる音が減る。シャチが何かしてくれたらしい。

 

「ゴメン、ちょっと席離れるわ……」

 

 この状態で試合を見守るのは不可能に近い。ふらつきながら立ち上がり、フィールドへ背を向ける。準決勝を最後まで通しで見ることができないのは心苦しいが、体調を崩した姿を見せる方が面倒な事になる。

 

 壁に手を添え杖代わりにし、一人で通路を歩く。関係者専用通路で、かつ試合中にここを通っているのはいま現在俺だけ。カツコツと足音がよく響く。

 向かっているのはトイレ。なんか吐きそうだし。あの笛の音が――ロニージョのRHプログラムを起動させるスイッチを聞いたらこれだ。もしかしたら身体の拒絶反応なんだろうか。

 

「ゔー……」

 

 内側の不快感をなんとか和らげようと無意識に声が漏れる。

 プロトタイプなんて確実に欠陥が出るだろう人体改造へ許可を出した研崎も研崎だ。あいつ本当に許さん。……いや、完成していないと知らなかったのか? ハイソルジャーをさらに強くするため、とかなんとか言ってガルシルドの手先が騙したのかもしれない。

 

 デモーニオ、彼もRHプログラムの被害者だ。不完全なRHプログラムによって失明しかけた。FFI本戦が行われていた時に完成していないものが、ダークエンペラーズ結成時点で完成している筈がない。

 研崎もガルシルドと同じく世界征服を企んでいた。ハイソルジャーが完成したらガルシルドの邪魔になる。だから完成していないRHプログラムの副作用でハイソルジャーを潰そう、なんてのも考えていたのかもしれない。

 ガルシルドたった一人の欲望のために皆捨て駒にされている。キレそう……うっぷ吐きそう……。

 

 洗面台へ胃液だけが流れる。酸味が残る口を濯ぐ。……取り敢えずは落ち着いた。でも全部綺麗さっぱり、というわけではない。落ち着かない。時間の感覚がわからなくなってきている。腕時計しておくべきだったか、と後悔しても遅い。顔を上げ、取り敢えずハンカチで口を拭う。

 ……ここには俺しかいない。鏡に映るフードを被った男は俺だ。でも……髪色が……白と黒?

 

「……なんだこれは」
 
「……なんだこれは」
           

 

 フードを脱ぐ。……どこからどうみても混ざっている。亜門の白髪とアモンの黒髪のツートンカラーになり、片方の目は白と黒が反転した悪魔のもの。

 

 ――わぁ〜シャチと似たカラーリングになっちゃってるう。

 

 ……おかしい。俺に対する異常な変化があったならいつもアモンが騒ぐはずなのに、何も声がしない。というか、俺が出した言葉とそっくり同じにアモンが声を出していた?

 

「あ、あー……アメンボ赤いなアイウエオ」
 
「あ、あー……アメンボ赤いなアイウエオ」     
                         

 

 気のせいでは無い。俺とアモンの声がダブって聞こえる。違和感がひどいから喋らないでおこう。

 

『アモンが表に出ているが、アモンとしては意識の無い状態になっている? ……もしかしなくとも原因は』

 

 ――RHプログラムだな。

 

 笛の音をきっかけとした体調不良と体の変化、無関係のはずがない。シャチとセインに何も影響が無いことから被害を受けているのは俺とアモンだけだ。

 チームガルシルドを構成するメンバーは、足りない能力を補うのが主目的としてRHプログラムを施された。その効力が俺にとってはアモンとの融合として現れた?

 

 ――強制的な同調、か。今の亜門は亜門でありアモン、いなくなった訳ではなくどっちも主導権を握っているような……アモンとしては亜門に主導権を譲っているから自我の衝突事故の回避の為亜門に完全に任せて、というか音だけ聞くとわかりにくすぎるなこの状態!

 

『精神が文字通り混ざりかけている。下手に手を出すとどちらも壊れかねない……時が解決するのを待つか』

 

 ――正規のRHプログラム解除方法を行う、というかガルシルドから聞き出すしかないだろう。黒幕に会わねばならない理由がこんな形で増えるとか流石にシャチ予想できなかったぞ……。

 

 ヒロトがハッキングして得たデータにRHプログラムについての詳細な説明は無かった。別に保管されていると見るべきだろう。ガルシルドにしてみればRHプログラムとは強力な兵隊を作ることができる()()。それを盗られる可能性がある場所には置かないだろう。

 おのれガルシルド……許さん。必ずや裁きを、この手で、何もかもを奪ってやろう――。

 

 ――わーアモンに呑まれてる! 帰ってこいの思いを込めて久しぶりのシャチ殴打!

 

 げふっ。

 

 ――落ち着いたかー?

 

 背中をシャチにどつかれた。あー……懐かしいこの感覚。意識がアモンの方に持っていかれそうになった。今の状況でアモンに寄り過ぎたら俺は俺のままでいられるかも危うい。一人で居続けるのは危険だ。いや精神世界に天使と神様がいるけども。

 早く戻らないとそれはそれで迷惑をかけることになる。フードを深く被り直し、変化した部分を出来る限り隠す。

 

 ――あっシャチ気付いちゃった。これザ・トリニティって使える?

 

 oh……。

 

 全員揃ってガルシルドへ攻撃(?)するには皆の力を合わせるザ・トリニティがベスト。……まずそのために作ったわけじゃないんだが。一緒にサッカーするために作った必殺技なんだが。

 今アモンは動けない。つまりアモンの担当してた分身部分に人員の抜けがでる。そして俺が作ってた分身はアモンとシャチが入って自由に動かすために「ああ動けーこう動けー」みたいな念を込めてない空っぽ。今からその調整とすり合わせをするのも難しい。……というか、俺がアモンとフュージョンしちゃったのならザ・トリニティにこだわる必要もないのでは?

 

『異なる存在の力を合わせて放つ三位一体の必殺技……なら、私が入っても問題は無いのではないか?』

 

 期間限定でセインに変更? でも待って、俺の体悪魔ボディだから光属性に弱くなってるの。セインも参加するとなると間違いなく光属性混じるよね。

 俺の足……大丈夫?

 

『サッカーをするための力なら問題は無いだろう。たぶん』

 

 最後のその言葉しっかり聞こえてるんですが。せめてシャドウ・レイならこちらの負担少なくて済みそうなのでそっちにアッハイ駄目ですかそうですか。

 

 ……シャチ! 助けてシャチ! なんで俺の究極奥義が禁断の技じみたものになる必要があるの!?

 

 

 

 前半終了、ハーフタイムへと入ったスタジアムは静まりかえっていた。鬼瓦刑事がザ・キングダムの本当の監督と現地の警察を連れ、ガルシルドとその側近ヘンクタッカーを事情聴取すると現れたからだ。顔色を悪くしたロニージョに医師達が駆け寄り、簡易的な検査を行なっている。

 鬼瓦刑事が来たということは、つまり。円堂が向こうへ行ってもいいか、と久遠へと問いかける。返答は了承。ロニージョ達のことを心配している土方が俺も、と円堂の後を追う。

 

 ――鬼瓦刑事の口から語られるのはガルシルドの悪事の一端。

 

「彼はRHプログラムという実験をされていたんだ」

 

「実験?」

 

 RHプログラム……その名前をどこかで聞いたような見たような。円堂の記憶にどこか引っかかる。

 

「サッカーをする人間の能力を限界まで引き出すための強化人間プログラム、と言って欲しいものだね」

 

 ガルシルドが訂正するも、それが非人道的である事に変わりはない。男の声には誇らしさも嫌味もない。ただ、それだけのことだから、と淡々と説明しているだけだ。

 

「見ろ、ロニージョの身体を! お前の実験のせいでぼろぼろになっている」

 

「……仕方なかった。家族とチームのことを考えれば、俺がこうするしか」

 

 一人が犠牲になることで皆が救われるなら……それは選択ですらない脅しを受けた証拠だった。

 

「ひでぇじゃねえか!」

 

「そんなことしなくても、ロニージョ達は十分に強い選手だと言うのに」

 

 染岡と豪炎寺、イナズマジャパンの誇るFW達が口を揃えてガルシルドを非難する。

 

「フン……力を与えてやったのに非難される謂れはないわ。ロニージョは納得してプログラムを受けたのだ」

 

「家族を人質にされて何が納得だ!」

 

 エイリア学園との戦いへは家族の世話があるから、と参加できなかった土方の家族を思う心は誰よりも強い。怒りを露わにする。

 

「俺たちはもう全てを知っている」

 

 RHプログラムはサッカーをするためではなく戦争をするために作られたものだ。鬼瓦は言う。スタジアムが騒めく。

 否定せず、それどころかこのFFIを実験場と言い切るガルシルドの心の中にはサッカーへの愛情は欠けらもなかった。

 

 ……審判が隠し持っていた特殊なホイッスルは取り上げられ、ロニージョはRHプログラムから解放された。企みが明かされ、成した悪事を大勢の前で晒されたというのに、抵抗せずにガルシルドは連行される。ヘンクタッカーがその後を追う。

 

 そんな急展開の中、亜門はこっそりと戻ってきてベンチに座って……。

 

「亜門くん!」

 

 デスヨネー、とバレバレの隠密行動は速攻で見つかった。ガルシルドの歩みがほんの少し止まる。

 

「待った、ちょやめ」
 
「待った、ちょやめ」
           

 

 ああっフードが! フード捲らないで! 視界が揺れる!

 ヒロトは屈み、亜門の顔を覗き込む。

 

「……まさか」

 

 誰がどう見ても気分が悪いと判断できる顔色をした亜門を正面から見たヒロト。すぐさま亜門の手首を軽く抑えて脈拍を簡易で確認したり、首や腕、足に違和感がないかをボディチェックみたいに触って確かめる。

 

 亜門が下がったのはロニージョのRHプログラムが起動したタイミングと同じ。そしてヒロトのこの行動、皆が思うのは一つ。

 

 はいそうです俺もRHプログラムが起動しちゃったんだよちくしょー。片目はなんか変なもん見えるわ帰ってくる途中に力加減ミスって壁を一部破壊しちゃうわ、とこの短い時間で起きた被害は数えたくない。

 日常生活では無意識のうちに、というかアモンによってセーブされていた力が勝手に出てきてるせいで触れるもの皆傷つけてしまいそうで怖い。悪魔の力のコントロールはやっぱりアモンの方が上なんだと実感する。毎日ありがとうアモン……目に見えない気遣いに気付いての感謝ってこういう時にするものではない。元に戻れたらちゃんと顔を合わせて礼を言わないと。

 

「亜門……」

 

 皆の胸の中に灯るまあるい光が不安げに揺れている。これが魂? あー円堂がとんでもなく眩しい。ぴかぴかの魂を見てなんか落ち着く。影すら残さないと焼き尽くすのではなく、相手を認めて照らす光。

 ――サッカーやろうぜ、その言葉で多くの人間が彼に惹かれ、救われた。実際にエイリア石破壊もしたし。この輝きをずっと浴びてていいなら円堂教入信してもいいかもしれん……。

 

 ――宗教にすがる気持ちもわからんではないが、まず勝手に円堂守を宗教にするんじゃない。でもなあ、症状が実際にマシになってるもんな……。

 

「症状は」

 

「目眩吐き気頭痛耳鳴り」
 
「目眩吐き気頭痛耳鳴り」
             

 

 ……うん、喋ってもそこまで頭に響かない。ちょっと軽くなった。

 マグニード山で起きた一連の事件から、皆俺が悪魔の身体だってことは知っている。だからこそ、どうしたらいいのかわからない。取り敢えず薬飲ませて安静に、ぐらいしか選択肢がない。試合終わったら魂うんぬん説明して許可もらって円堂の後についてこ……。

 

『気付いているか?』

 

 セインが問う。できれば無視したかったんだけどもな……嫌な視線がずっと刺さってる。どろついた欲望が俺に向けて迫っている。

 ガルシルドは俺を見ていた。どんな反動が出ているのか調べたい、どう壊れるのかを見たい。それはRHプログラムをより素晴らしい商品にしたいがための……研崎とは少し違った、どす黒い悪。

 

 ガルシルドが大人しいのは逃げられる算段があるから。試合を見て焦りを見せないのはチームガルシルドの強さがFFIに出場しているどの選手よりも上回っていると慢心しているから。世界征服計画には何の問題も無い、そう思っているんだろう。

 ――次に姿を表した時が終わりだとも知らずに。




主人公
RHプログラム起動して変にミキシしちゃった結果がこれだよ。
彼の中でチームガルシルド戦出場は確定しているがまずサッカーしていい体調じゃない。すっかり超次元に染まってしまった。
誰か休めって言え。

アモン
RHプログラムが起動した瞬間このままだと精神がヤバいと判断し、即座に自分の意識を落とすことを選んだすごい悪魔。
それはそれとしてガルシルド許さない。

シャチ
亜門がシャチとお揃いの白黒ヘアーになったが原因があれなので何一つとして喜べない。フードに取り憑いて頑張って亜門の耳に入る音を減らしてる。
アモンがスヤァしたがセインが「早くガルシルド相手に暴れてぇ(要約)」と迫ってくるのでシャチの負担としては変わってない。こいつら……。

セイン
ザ・トリニティか……
いつ使う?私も同行する
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