北の大地と怪物
やあ、なんかよくわからない間にキャラバンでドナドナされた俺だよ。
帝国の皆の寄せ書き持ってFF優勝してウキウキだろう雷門中学校サッカー部に異動しちゃった鬼道さん迎えに行ったら宇宙人騒動が起きててサッカーで破壊された校舎を見て気絶した俺がイナズマキャラバンの中で介抱されていて打倒宇宙人の旅に強制参加とか予想できる人いる? いないよね、知ってた。なお寄せ書きはキャラバンの中で渡しました。
電話でそのこと帝国の皆に連絡したらめっちゃ笑われたわ。そんで鬼道さんのことよろしく頼むって送り出されたわ。泣いていい?
……それはそれとしてフードをひん剥きにかかるのやめてくれませんかね財前塔子さんや。自分の席から移動してまでひん剥く価値はないから早く戻ってくれー。
「いやーどんな顔なのか気になるからさあ」
ぐいぐいくる女の子は嫌いじゃないが君は男勝りって方面だからそこまで嬉しくないのよ。露天風呂に入るためのお着替え中に突入してきたの知ってるんだよこっちはよぉ! やめて! それ俺の生命線なの! フード無い状態で気絶して頭打って死んだら妖怪になって枕元に化けて出るぞ!
ほらー確かに気になるッスとか一年ズ体こっちに傾けて集まってきてるじゃないですかやだー! たしけて鬼道さん!
「……ック、フ」
助けを求める視線送ったら一 笑 に 伏 さ れ た。この裏切り者ぉ!
「くそーかったいなこの紐……おっしゃ!」
後ろから手を回してあご紐をほどき終わった彼女は彼が身に付けているフードを引っ掴み、すぽん、と抵抗も虚しく上に引っこ抜かれる。
フードの中で纏められていた男性にしては少し長めの髪が重力に従って落ちる。癖がついた様子のない、さらりとした白髪。顔立ちは全体的に整っているが目は端が吊り上がり、攻撃的な印象を与えてしまうがそこは言動でカバー可能な範囲。なお見た目と中身のギャップで風邪を引きそうとよく言われるが本人はそこまで気にしていない。
「……頭スースーして落ち着かないから返して」
「うわっ凄いフワフワだ! 何だこれすっげー!」
あー総理大臣の娘さんがフードの中に手を突っ込んで感触を確かめになっておられますわ。って俺の顔が知りたかったんじゃないんかい! 俺の顔面偏差値はもこもこ以下なのか?
アカン皆の手で回されていくわ俺の超かっこいい防災頭巾。席から席へと人の手によってどんどん離れていく。
「仲良くなれそうでよかったじゃないか」
「命の危機があるこの状況で仲良くなったは無いだろうが鬼道さんや」
なんか皆のテンション高い理由は一つ。移動中は暇だからだ。どこかで停車しないと体も動かせない、暇潰しも特にない。ナイナイ尽くしになると中学生はテンションが上がる生態があると個人的に思っている。
というかカラオケ機材とかテレビとか付いてんのかねこのキャラバン。聞いてみたらあったわ。でも今は歌うテンションじゃないしテレビは宇宙人騒ぎ一色だから見たくないわー。
「俺の命と暇潰しどっちが大切なのよぉ!」
「なら俺は気晴らしのないままメンタルに問題のある状態で試合をした結果宇宙人に負ける可能性を天秤にかけておこう」
「それはずるい」
一之瀬君が俺の防災頭巾返してくれました。サンキューノッセ。顔がいいと心までイケメンになるのね。
フードを身に付けるといつもと同じぬくもりに包まれる安心感でこれまでの緊張とか突然の気絶への不安とかが解れていく。
「もーやだ、ねりゅ」
起きてる方が面倒な巻き込まれ方するだろうしヤケ寝する。バスの座席でガチ寝したら目を覚ました時絶対体痛くなるだろうけど知らん。俺は寝る!
背を椅子に預けて数分、すやすやと眠りの世界へと旅立っていった。
「……寝た、か?」
「……本気で寝たっぽいなぁ」
帝国学園出身の二人、鬼道と土門が確認するのは彼の眠りの深さ。
「チャンス、今しかないんじゃないですかね?」
「だな」
くるりと向きを変え、皆に顔を見せるように鬼道が動く。
「皆、あいつを――『
「オイ。鬼道、それはどういうことだ?」
雷門サッカー部の中でも喧嘩早い方の染岡がそんなこと聞いてねえぞ、と文句を隠そうともせず睨みつける。
「帝国学園がいつ宇宙人の襲撃を受けるのか分からない今、帝国にいるのが安全とは言い切れない。だから連れてきた」
「言ってることの意味分かってるのか!? このイナズマキャラバンはお前個人の理由で使うような避難所じゃねえ!」
「シィッ、大声を出すな、起きてしまう――大丈夫、か。話は最後まで聞け。戦力にならない、とは言っていない。あいつが秘める力は帝国の誰よりも強い。『怪物』のことは、帝国学園サッカー部に所属するものなら誰もが知っている」
「何だと? ……そうだとしてもよ、俺らは知らねーぞ、そいつ」
「それはそうだろう。外部で試合は一度もさせていないからな」
土門へと視線を振る。否定は無い。どうやら本当、らしい。
「俺は源田ほど詳しくは知らないが、亜門はサッカーにトラウマがある可能性が高い。それも自身の力が強すぎたためのものだ」
一方的なジェミニストームとの試合が終わり、帝国の制服を着て倒れていた彼の存在に気付いた後、鬼道は酷く悩んでいたように見えた。
『響木監督、お願いです。彼も一緒に』
ゴーグルの奥では目が揺れ動いていた。本当にこれでいいのか、この選択は彼の意思を無視したものになる、でも――。監督はその願いを一つの頷きで受け入れた。深くは聞かなかった。
エースストライカーの豪炎寺が抜けてしまった今、雷門イレブンは攻撃力に欠けている状態だ。なので、得た情報から白恋にいる氷のストライカーをスカウトするために北海道へと走っている。
でも、各地へと向かわずとも更なる強化ができるかも、と同じ状況下であれば俺たちだって鬼道と同じ事をするかもしれない。
――単純な力で帝国の面々を押していた、『怪物』に相応しい武勇……と言うべきなのかは分からないエピソードの数々。トラウマを克服して必殺技を使えるようになれば、頼もしい事この上ない。
「攻め、守り、何をしても強い。……だが、その力を引き出せるかはこの状況では一か八かだ。失敗したら」
「……どうなるッスか?」
怖がりな壁山がおっかなびっくり、出来れば恐ろしいことが鬼道の口から出てこないで欲しいと思いを込めて。
「『怪物』に、俺たちのサッカーが潰されるだけだ」
ひゅ、と息を呑む音がした。
起きたらそこは一面の雪。
「流石試される大地」
白が光を反射して目に痛いし紫外線がすごそう。雪焼けしちゃう。……あ、皆もう外出てたの? 俺がすごくいい感じで寝てたから起こすのが申し訳なかった? そうですかそれは失礼しました。いやまあ皆とまだ関わり全然無いからほぼ赤の他人だし仕方ないよなあ。
コートを羽織って外に出れば出迎えてくれる冷気。超次元を認識すると気絶してしまう俺の命綱その2、目隠しをポッケに突っ込んで北海道の大地に降り立つ。目隠しをしないと試合がまともに見られない……いや見るというか気配でなんかいい感じに把握できてるだけなんだけども。
「北海道さっびー」
ふうふう息を吐いて両手に温もりを与えながら先に出た皆に追いつこうと早歩き。
近付くほどに聞こえてくる、わあわあと各々の名前を呼ぶ声、鳴り止まない足音。これは試合をしている真っ最中か。気絶対策の目隠しを取り出して装着する。
「おー、やってる?」
試合としては終わったみたいだが、なんか揉めたのか必殺技を使おうとしておられますわ。
「――吹き荒れろ」
ボールを中心に冷気が集まる。氷結したボールを回転を加えたシュートでゴールに向かい全力で蹴り飛ばす必殺技。
「エターナルブリザードォ!」
DF達の必殺技で威力を弱め、最後に円堂が必殺技を使い、皆の力を合わせてなんとかゴールラインを割らせなかった。ギリギリの攻防はサッカーをしたいという意欲を煽るのに十分だった。
「はー、流石熊殺しだわーすっげ」
シュート一つで雷門の防御をほぼ抜いて追い詰めることができる逸材はそういない。合体技ならまだ分かるがエターナルブリザードは1人で使う必殺技だ。くっそーいいなー俺も円堂と試合したぁーい!
「っおい、アレは!?」
うわーっ! 俺の後ろ見てなんか言ってるコレすっごいデジャブなんですけどうわーっ!
なんで出てきたんだコイツ! ここペンギン関係ないところだぞ!?
どんな状況なのか確認するためそおっと目隠しをずらしてシャチを見る。にい、と肉食に特化した歯を見せつけるシャチ。必殺技を見てはいけないのに見てしまった俺、爆沈。
「アッ(気絶)」
ぱたん、と糸の切れた人形のように綺麗に倒れていく亜門。
「――ッ、あ」
雪。動かない、男の子。吹雪士郎にとって、それは何よりも忘れられない記憶。あの日のことが彼と重なって、マフラーを握りしめる。
『もこんるい』
雪の上に伏した亜門の上でシャチは不思議な鳴き声を出し心配そうにくるくると回った後どこかへと飛んで――円堂が防いで飛んでいったサッカーボールと一緒に戻ってき……違う。不完全だがこれは必殺技だ。本来なら彼のシュートと共にシャチが飛んでいくシンプルなもの。
キュウキュウと遊びに誘う声を出しながら飛ぶシャチ。吹雪士郎を試すかのように、彼を目掛けて一直線に。
「っ、アイスグランド!」
記憶の雪崩を頭を振って追い出し、動けるようになった吹雪がシャチを氷漬けにしてディフェンスを成功させた。
転がってきたボールを足で軽く止めて……ゆっくりなのに、ずしりと重い。受け止めてわかる、込められた力の強さ。緩やかに見えた必殺技だが、先程止めたドラゴンクラッシュよりも強いのは間違いない。本気でこのシュートが来ていたら、自分は止められただろうか? ……無理だ。
無理? それじゃあ『完璧』になれないじゃないか。
「すっっっっげー! なんだ今の必殺技!」
「亜門! なんで目隠しを取った!」
「ぐっどもーにぐえー」
目を輝かせる円堂、叱る鬼道、気絶から覚醒して即惚けてやり過ごそうと失敗した亜門、呆然とする皆と見事に反応が分かれる雷門イレブン。
「……名付けるならば『オルカアタック』、といったところでしょうか」
目金がいつものように必殺技へと命名するも、誰も聞いていない。『怪物』が『怪物』たる片鱗を目の当たりにした衝撃が余りにも大きかったのだ。
ドラゴンクラッシュは吹雪によって必殺技を使わず止められた。だが、あの必殺技は……染岡は歯噛みする。豪炎寺がいない今、FWとして点を取らねばならないのに、あんなぽっと出に負ける、なんて許されるはずがない。
吉良瞳子は、静かにその様子を見ていた。事前の情報が全くないプレイヤー、『伊冬塚 亜門』は存在そのものが異常だった。天才ゲームメイカーである鬼道有人の口から出た言葉を疑っていたわけではないが、まさかこれほど力の差があるとは思ってもいなかった。試合に出してしまったら、依存するハメになる。……チームを破壊するサッカー、それは過言ではなかった。
「――アツヤ」
「?」
口から溢れでたその名前は、誰にも意味がわからなかったけど、僕だけは分かる。大切な片割れ、『完璧』になるために必要な一人。
それにあのシャチ、あれは普通のシャチじゃない。かみさまだ。小学校のこくごの授業、アイヌの物語に出てきたシャチ神。
きっと、かみさまがアツヤを連れてきてくれたんだ。
――はい?
『完璧』になれって、喝を入れるために。
――なにそれ……知らん……
シャチ、困惑。
――死者関係は担当じゃないし途中から殆ど違うんだよな〜!
もしも、あの雪崩がなければ。おんなじように大きくなっていたら、多分、こんな声なんだろう。こんなシュートをしていたんだろう。こんなふうに、こんなふうに、こんなふうに。
もしも、が目の前に現れた(完全な勘違い)の結果、吹雪士郎はなんかおかしくなっていた。それに気が付ける人間はいなかったし、もちろん当事者となった(自覚は無し)伊冬塚亜門も知りようがなかった。
紅白戦だとか風になる特訓だとかが終わった後、理由がよくわからないけど呼び出された。
やっと二人きりになれたね、なんて多分そういう言葉選ぶから女たらし扱いされるんだぞーと言う気になれなかった。なんか……目が怖い。光どこ行った? えっもう病んでらっしゃる? そんな展開の巻きはいりません。
「アツヤ」
「えっ」
「君はアツヤだよ」
「えっ人違いです俺の名前は伊冬塚亜門です」
名前が『あ』の部分しか合ってないよ。仮に俺がアツヤの生まれ代わりだとしても必殺技で気絶するアツヤとか嫌じゃないですかお兄さん。まず何がどうなってアツヤ? 顔は似てないしこれまで北海道にご縁はなかったんですがそれは。
――あれれーおかしいなー勘違いをもたらす神様ではないんだけどなー?
「君の中にもアツヤがいるんだ」
「『も』の意味がわからないんですがそれは」
「二人で完璧になろうね」
「タスケテ」
「ウルフレジェンドを完成させて『完璧』になるんだ、さあ行くよ」
「あーっ俺に必殺技はおやめ下さいお客様! フードを引っ張るのもおやめ下さいお客様あーっ! あーっ!」
あまりにも超次元な展開で気絶するまであと何秒か、遠のく意識の中で亜門は心の中でシャチ許すまじと叫んだ。
主人公
どうしてこうなったん?
声が成長したアツヤに似ているらしい。
シャチ
どうしてこうなったん?
北海道に帰ってきてテンションが上がったシャチ。たくさんボールとってたくさんシュートして、とサッカーでも豊漁をもたらそうとあちこちうろついてたらいい感じの子を見つけたシャチ。別にペンギンに釣られたわけではないシャチ。
雪原のプリンス
この後どうしてアツヤを試合に出してくれないんだ……?と拗ねる。
内なるアツヤ(別人格)と外なるアツヤ(人違い)、つまりもうここにはアツヤがいるとしても過言ではないのでは?
???
過言だよ。