「おかしい」
どうして、二人は亜門について触れようとしなかった? 触れられなかった? それとも――。
「……………………源田ぁ」
背を丸め、辛そうに名前を絞り出す。幼なじみが知らぬ間に影山の元へ戻っていった、など信じたくないだろう。どれだけ話そうとしても反応はなく、それどころか二人は彼を存在しないものとして視線すら合わせなかった。
「亜門……お前の責任じゃない。俺のせいだ」
俺が雷門に移った後帝国に残って、お前が怪我をした仲間たちへと毎日見舞いに行っていたのは知っている。あいつらが気に負わないよう、帝国に残ったのはお前の方だ。俺じゃない。近くで帝国のことを思っていたのはお前の方だ。俺じゃない。
そんな俺でも、お前が持ってきてくれた寄せ書きのあの言葉たちが嘘だなんて……認めたくない。俺が帝国の皆を捨てた訳ではない、と理解していることを信じて立ち上がる。
「鬼道」
亜門はいつもと違い、弱気になった顔を下に向けたまま、独り言のように呟く。
「あいつら……きっと、使う気だ。禁断の技」
「――ッ!?」
禁断の技? と知らない仲間たちが問いかける。それに答えられるほどの冷静さはなかった。
「勝ちたい、って願いを叶えるには禁断の技を使うのが一番だ……きっと、ううん、絶対に使う」
「そ、れは」
ありえない、と言い切れない。……いいや、影山のことだ。確実に二人に使わせる。
身体を壊しかねないほどの負担を掛ける代わりに、強力な必殺技が使える。それは勝利に飢えたものにとって、リスクとはならないだろう。
皇帝ペンギン1号。ビーストファング。それらを知り、また対処できるのは――。
「この試合、俺も出る」
「勿論だ。最初からそのつもりで考えていた」
その言葉を待っていた、と気合を入れるかのように両頬を叩く。目隠しをしていても伝わってくる闘志が心強い。
「亜門、前半で3点。いけるか?」
つまりはハットトリック。いきなりの言葉にざわつく雷門メンバー達。それもそうだ、点を確実に取るのを前提として作戦に組み込む、などこれまでの鬼道を知っているものからすれば一番あり得ない。
「とーぜん、コールド負けにさせてやんよ」
「…………いや、サッカーにコールドは無いぞ?」
サッカー馬鹿であるはずの円堂が真面目にツッコむのを見て、思わず笑ってしまう。
「皇帝ペンギン1号は絶対に撃たせない、シュートはビーストファングが追いつかないスピードで、をメインで動いたらいいんだろ? そんで俺にマーク集まったら二人はワイバーンブリザードを狙ってくれ」
「うん、わかったよ
うーん、やっぱり名前の呼び方おかしくない? これは気にしたら負けなのか?
軽く柔軟をし、体をほぐす。コンディションはバッチリ、メンタルにダメージはそこまで無し。
「――行くぞ!」
染岡、吹雪、伊冬塚の3トップ。大事な試合で初めてのメンバーを加える、博打とも思えるそれが満場一致で通ったのは亜門的には少し驚きだった。ええんやろか?
――相手は今の君の力をよく知らないからええんやで。ペンギン対策としてもこのレプンカムイが憑いてるからとってもええ判断なんやで?
佐久間から不動へのキックオフボールが渡り、攻め上がる真帝国。お前の力を見せてやれ、と佐久間へのパス。だが、二人を繋ぐ直線上に人影があった。
亜門だ。
「まずはっ、1点!」
パスカットする暇も惜しかった。転がるボール目掛けて思いっきり振りかぶる。シュート。
「――――なん、だとっ」
誰も反応できないままゴールネットを揺らしたそれは、ボールが瞬間移動したのか、と思うほどのスピードだった。それでいて、針の穴を通すかの如く繊細さも兼ね備えていた。
全力全開、容赦はしない。原作通り? うるせ〜〜〜〜〜! 知らね〜〜〜〜〜〜〜!!
そもそも俺がイナズマキャラバン乗ったりウルフレジェンド使わせようと吹雪が迫ってきてる時点で原作なんかもう無いわ。未来人が改変に来てないし多分ヘーキヘーキ。俺のやりたいようにさせてもらっても構いませんねッ!
「いえい」
「遺影?」
点入ったやったぜハイタッチしたんだが吹雪くんや漢字変換して間違ってるのはよろしくないぞい。いやまあ佐久間と源田にはちょっと怒ってるが流石に殺す気はないよ?
先制点を奪ったのは雷門。あまりの早さに呆けていたのか、遅れて審判の笛の音がフィールドに響く。
「……んだよ、ありゃ」
『怪物』と言われていても所詮仲間内だけの呼び方、エイリア石で強化された人間には遠く及ばない、そう思っていた。あのシュートは俺も含めた全員が目で追えていなかった。……でもあれは初見殺しに近い。複数人のマークをつけ、シュートコースを塞いでおけば対応は可能な範囲だ。
リスタート。仕切り直すべく、先ほどと同様に佐久間へと渡されたボール、迫る伊冬塚。
「(『怪物』、止めるべきは――アイツだけだ!)」
なんとしても佐久間には禁断の技を使わせなければならない。舞台を整えるべく、不動は伊冬塚を止めるべく進行方向を遮るように滑り込む。
「邪魔、だっ!」
「あ? っテメ!」
衝突する限界を見極めて……切り返す。最小限の動きで不動を躱し、再び禁断の技を止めるべく向かう。
「皇帝ペンギン――」
距離がある。まだ足は届かない。駄目か? いいや、すでに終わっている。
「オルカアタック!」
いつから滞空していたのか、シャチが空を泳ぐ。地面からロケット噴射で飛び出した赤いペンギンはなす術なく食われた。
唖然とする佐久間を横目に、シャチはボールを器用に尾ひれで弾く。ボールは亜門の元へ。
「不味い! 止めろ!」
不動に指示をされるまでもなく真帝国の面々は動いていた。が、スライディング、タックル、どれも止めるに至らない。上がっていく。独走状態だ。
ビーストファングを使うのに必要な要素を使わせないため(頭の中で)編み出した必殺シュートを今、ここで!
ボールと共に空へ。足の延長線上にゴールを見据え、しっかりと両足でボールを挟み込む。もしも知識のある人がここにいたならば、それがデススピアーの体勢に近いことに気がついただろう。では使うのはデススピアーか? 違う。足だけでは足りない。
体全体を捻り、回転を加えて押し出す。遠心力でフードが脱げる。
「――
必殺技は成功……着地は失敗。受け身が取れず、背中を思いっきり打った。げはっ、と肺から空気が抜け出る。あーだめだコレ、目が回ってまともに動けないな、と寝っ転がったまま深呼吸。背中超痛いふざけんなこれ使おうとしたの誰だ! 俺だよ! せやった!
シュートと呼ぶよりも発射の方が似合う勢いで飛んでいったボールは明らかにゴールの中へとではなく、クロスバーへ向かっている。シュートミス? いいや、違う。クロスバーに
回転が異常にかかっているボールと触れたクロスバーはギョリギョリと嫌な音を立て――
「――は」
ボールは源田の横を通り、ゴールネットを揺らす。
それはあらゆる障害を壊し獲物を喰らう怪物の牙。なお名前は完全にビーストファングを意識している。
もし、ビーストファングで受け止めようとしていたら、牙は次にどこへ向いた――?
「GKにボールを触らせないための必殺技か……ふざけた真似を!」
真帝国学園は不動が集めた人間で構成されたサッカーチーム。だから不動が一番分かっている。あの必殺技はこいつらでは止められない、と。
「佐久間! いつまで負けっぱなしでいやがる! 勝ちたくはねえのか!?」
「クソッ、はぁっ、はぁ――」
皇帝ペンギン1号を止められたのは何回目だ? 数えたくもない、いつの間にか
禁断の技。それを使うことを許されないまま、前半が終わろうとしている。
「これが、『怪物』……」
この光景に近いものを見た覚えがある。そうだ、これは。
「……亜門、お前は」
外に出されなかったから、帝国のサッカーしか知らない。影山の支配より逃れてから始めた俺たちのサッカー、そのやり方も分からない。だから、かつての帝国のサッカーをなぞっている。
圧倒的な力で叩きのめす。彼にはそれしかできない。もしも俺が点を取ることではなく、相手を潰すように命令していたら、きっとあいつはその通りにできる。できてしまう。
変える機会は恐らくあった。だがそれを帝国に属するものたちが遠ざけた。彼を『怪物』のまま、『怪物』と育ててしまったのは、つまり、他でもない――。
「そうだとしても、俺は、お前をっ」
――考えすぎだとシャチは思うの。人間ってこんなのばっかりだっけ? あれー?
前半ラスト5分、約束通りの3点目を取るべく動く亜門。前半ずっと動いているにも関わらず、スピードに変化は見られない。相対する者は殆どが諦めと恐怖の色を滲ませる。
いいや。諦めていない者が、今、ここにいた。
……どうしているのだろうか、俺は。
ゴールの前に立ち、試合をしている。どこで? 関係ない。この力でゴールを守るだけ。
遠くで誰かが叫んでいる。あれは、だれ、だ? 知らない。
いいや、知っている筈だ。
「目を覚ましやがれ、源田あぁーーーーーっ!!」
シュートが飛んでくる。あいつが必殺技を使っている。あいつが意識して使うところを見るのはこの試合が初めてだ。2回目のモンスターファングは1回目と全く同じコースをなぞっている。さっきと同じように点を取られる、のか?
誰であろうと構わない。止めろ、禁断の技で。
無理だ。ビーストファングはある程度の溜めを必要とし、その力をそのまま腕へと伝え、両手で挟み込み踏ん張り掴む技。足が地面に着いてなければ相手のシュートの力に耐えきれない。まず、もし使えたとしても止められやしない。
真に使うべきは――
あいつは禁断の技を使うことを望んでいない。だから、俺自身の技で止めるように誘っている。
黙れ――!?
ああ、やっぱり速い。こんな話をしているうちにもう来たぞ。だから――アイツのことを何一つとして知ろうとしない偽物は、俺の中から出て行け――!
「っ、ふ……ようやくか」
病室にあの不動とかいうやつが来てからおかしくなっていた体の自由は取り戻せた。
ここはゴール、シュートが来ている。なら、やることは一つだけだ。
ビーストファングの構えのまま、息を整える。息を大きく吐き……無理矢理に体制を崩す。ビーストファングのために蓄えた力はそのまま、深く落とした腰を上げ、慣れ親しんだカタチに持っていく。
真正面から受け止めてはいけない。ならば、作るべき形とは――!
空から、大地へ。拳を振り落とす。
「フルパワーシールドォオッッ!!」
いつもなら垂直になる壁を、ゴールに沿うように斜めに放射する。ボールとぶつかり激しい火花が散る。
「が、ッあぁああ――!」
完全に力を放出できたわけじゃない。そもそも力の大元がビーストファングである以上、反動は当然来る。負担をかけた腕が軋む。骨が裂け、その傷口に直接溶岩を流し込まれているようだ。
嫌な音がフィールドに響く。骨が折れた、か――構わない。
『怪物』、そう呼ばれるほどの力を持っていたとしても、あのシュートは身体に相応の負担をかけて放ったもの。空中で必殺技を使ったはいいが、力を使いすぎたのか着地に失敗して背中を打っている。恐らくは禁断の技一歩手前。
この壁に込めるのは、プライドでは駄目だ。勝利への渇望でも駄目だ。
「全力に、応えないと、な――!」
友として、相対する覚悟を!
「…………げんだ」
怪物の牙は壁を破る――ことはなく、壁の流れに沿ってフィールドの外へと飛んでいく。区切りの笛。力を込めることができない腕をだらんと下げて、顔をこっちに向けて、
「亜門。良い、シュートだった、ぞ」
笑っていた。
「あ、もん……? 亜門、なんで、お前、ここに……ッ」
源田が力尽き倒れ伏すと同時に佐久間の頭の曇りも薄らぎ、本当の意識がようやく目を覚ました。
「源田、佐久間」
微笑みを見せて。
「(試合を終わらせて)すぐ(病院に連れて行って)楽にしてやるからな」
血の気が引く。
嗚呼、『怪物』に殺される。佐久間はそう感じた。
「伊冬塚君、後半からは交代してもらいます。異論は認めません」
「えっ」
なんで? 今回鬼道さんに任せるとか言ってませんでしたか監督? 流石だよアツヤって顔してた吹雪君も監督の宣言に困惑しておられるよ?
――そりゃまあこのまましたら相手を殺すんじゃって思われたからだよ? 自業自得だよ?
主人公
約束の3点を取れず地味に凹んでいる。なお別にモンスターファングは禁断の技ではない。着地がド下手なだけ。
シャチ
ペンギンをたくさん食べているが腹ペコというわけではない。蓄えたペンギンパワーを一つに束ねて必殺技『オルカノン』を使えば3点目が取れたがそこは空気を読んだ。
源田
カッコの中身は聞こえた。腕の骨は折れた。おや?げんおうのようすが……?
佐久間の代わりにボロボロになった。お前、禁断の技を使ってまで……!と主人公に勘違いした。
かわいそう
佐久間
カッコの中身は聞こえなかった。皇帝ペンギン1号は後半に一度しかちゃんと使えなかったのでアニメほどボロボロではないがメンタルはボロボロ。
かわいそう
不動
一番とばっちりくらった。なにあのぶっこわれ。後半はほぼやけくそ。かわいそう
スライディングは染岡に当たった。
オリジナル必殺技解説のコーナー
『モンスターファング』
アホみたいに回転をかけたボールをゴールポスト、クロスバーに狙って当てる。ボールはゴールを少し削って方向を少しずらしてゴールインする。
普通に受け止めようとしたらキーパーはしぬ
パワーウォールやイジゲン・ザ・ハンドのような必殺技で攻略するのが正攻法。ボールとゴールポストorクロスバーでキーパーをサンドイッチすればワンチャンはあるがキーパーはしぬ