超次元な世界では勘違いも超次元なのか?   作:ウボァー

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イプシロンと怪物

「デザートだかオポッサムだか知らないが、これ以上吹雪を追い詰めるのはやめてもらおうか」

 

 ワームホールを突破したエターナルブリザードだったが、デザームの更なる必殺技であるドリルスマッシャーによって防がれた。ようやく見えた反撃の狼煙は、いとも容易くかき消されてしまった。

 実際に音はしなかったが、彼には聞こえた。それはきっと心にヒビの入る音だったのだろう。試合中だというのにへたりこんで動かなくなったかと思えば、雪の落ちる音を聞いたように震えが止まらなくなって。

 

「あ、アツヤ、アツヤ…………ボク。オレは。守って、違う、シュートをしないと?」

 

 この状況をどうするか、亜門が導いた答えは試合への乱入だった。吹雪を視線から守るため庇うように立つ。

 

「……ぁう」

 

 弱々しく、縋るようにユニフォームを握られている。目線を合わせるためにしゃがみ、吹雪の手に自分の手を被せて、子供に言い聞かせるようにゆっくりと。

 

「シュートは俺が代わりにする。守りは皆がしてくれる。士郎もアツヤも今は休んでいいんだ」

 

「……ほんとう?」

 

「ああ」

 

 金と灰の目が閉じる。ぐずる子供をあやすように背中を優しく叩けば、張り詰めた心の糸は緩んですぐに夢の世界へご招待。こちらに倒れてきた体を優しく抱き止める。どうか、悪夢を見ないほどの深い眠りとなるよう願いながら。

 サッカーの余波に巻き込まれないよう、吹雪をベンチへと下がらせる。

 

「俺と吹雪をチェンジだ。宇宙人、文句はあるか?」

 

「構わん。そんな状態のプレイヤーを下して得た勝利に価値は無い」

 

 エターナルブリザードを止めてからずっとキープしていたボールを投げて寄越し、デザームは楽しそうに笑っている。デザーム――砂木沼治は円堂と同じサッカー馬鹿でもタイプが違う。どちらかと言えば戦闘狂の気が強い方のサッカー馬鹿。

 強力なシュート技であるエターナルブリザードを使う吹雪をお気に入りにしていたが、今回の試合は吹雪が精神的な問題で本当の実力を出し切れていなかった。

 一対一の勝負を水をさして台無しにした……というよりも、お気に入り候補が出てきて嬉しいのだろう。鴨がネギ背負って、というよりはFWがボール持ってやってき……この例えは例えとして正解なのか?

 

 これでドリルスマッシャーを破るか拮抗すれば俺もめでたくお気に入り、というわけだ。笑えん。

 もしここで倒したとしても、パワーアップしたイプシロン改として沖縄でまた会うことになる。ああなってしまった吹雪にオサームが執着するか? と聞かれたら多分ないんじゃないですかね……となるから俺が狙われるのか。吹雪の負担が減るのは良いけど面倒くさい奴に絡まれるのは勘弁してほしい。

 

「メインディッシュに加えてスペシャルメニューまで出てくるとはな」

 

「オサーム、新手の告白か? 俺は野郎に好かれたいなんて趣味はないんだよ」

 

 名前を間違えた上に混ざってる、と失礼の極みを重ねても誰も口を出せない。雷門はもちろん、イプシロンも。

 

 怪物が、怒っている。フードの奥から覗く目はただ一直線にデザームを睨みつける。その視線の先にいるデザームは狼狽える様子はない。むしろ、もっと本気になれ、と誘っている。つまり上から目線だ。すごく腹が立つ。

 

 俺が今抱いているのは誰に対しての怒りだ? 元凶? 宇宙人? 吹雪の異変に気付かなかった皆? ……何よりも、自分自身に。後悔しているようじゃ遅いんだ。無くなってからじゃ文句は言えないんだ。

 

 目の奥が熱い。ぐつぐつと血が燃えたぎる。口から吐く息は火炎の如く。自分の鼓動だけが響く。力が体の中で渦を巻いて出口を求めている。

 

「ハ、ァア、アァ――」

 

 ――こんな経験を、俺は何処かでした覚えはない。でも、確かに記憶を見た。どこかノイズ掛かって不明瞭な声と共に、よくできたアニメーションのような現実がそこにあった。

 

 陽の光がささない世界で11人に向かい吠えていた。顔はよく見えない。

 

『⬛︎⬛︎を⬛︎させは⬛︎ない』

 

『やはり⬛︎の⬛︎⬛︎を逃した⬛︎はお前か』

 

 11人を束ねるだろうその一人が、一歩踏み寄る。

 

『返せ、⬛︎れは⬛︎⬛︎⬛︎だ』

 

『断⬛︎』

 

 絶対的な上下関係、それを崩そうとする裏切り者に苛立ちを隠す必要などない。

 

『⬛︎前一人⬛︎⬛︎⬛︎ち⬛︎勝てると思⬛︎てい⬛︎のか!』

 

『分⬛︎っていた⬛︎⬛︎ても、し⬛︎ければ⬛︎⬛︎ない時があ⬛︎』

 

 そうだ、誰が相手であろうと関係ない。守るため。そのためならなんだって出来る。

 

『⬛︎⬛︎⬛︎! 何故、⬛︎前は裏⬛︎った!』

 

『――⬛︎を、知ったからだ』

 

 口の端を歪めて笑う。馬鹿にしている、というよりは哀れみのそれは、11人を煽るのに十分過ぎた。

 

『お前達には永遠にわからないだろうよ』

 

 

 燃やせ。燃やせ。害なすもの全てを。

 

 

そうだ、まもらねば、ならない

 

 ――あもん、亜門!

 

「…………っ」

 

 シャチの声に引き戻される。あの記憶に呑まれそうになっていた、のか? 俺は俺で、ここは大阪だ。相手はイプシロンだ。記憶は何も関係ない……はず。何だったんだあれは?

 

 ――うーん、大事な試合で呑まれるかもって可能性がある。つまりとても危険。肉体の着こなし方講座、終わったら覚悟しておくんだなぁ〜。

 

 にく……なんて?? 今からシュートするのに集中削ぐのやめてもらって良いですか?

 

 ――ハイ、シャチ黙ります。きゅっ。

 

「――行くぞ」

 

「来い」

 

 軽く腰のあたりまで上げ、ボールの中心……ではなく右寄りを狙い足を振り下ろし回転をかける。即座に蹴り上げ、ボールは回転させたまま空へ。後を追い自身も飛び上がる。

 両足で挟むが回転は止めない。回転に逆らわず同じ速度で。いや、それ以上の速度を加えて――発射する!

 

「モンスターファング――改ッ!」

 

 威力は据え置き、いや、少し向上したか? 着地へと余力を残せるよう改良を加えたモンスターファングがゴールの番人であるデザームを貫かんと迫る。

 

「良い――良いぞ! それでこそ『怪物』!」

 

 ワームホールを使うか? 否、それは彼への侮辱となる。吹雪士郎のシュートに匹敵、いや、それ以上のモノを見せてくれたのだ。自身の最大の必殺技を以って返礼とする。

 

「ドリルスマッシャー!!」

 

 右手を天を貫く巨大なドリルへと変化させ、怪物の牙を砕かんと真っ直ぐに突き出す。

 回転の方向を合わせて受け流す、などというつまらない選択肢は頭の中になかった。自身の力で打ち勝つ、それでこその勝利!

 

「は――ははははははっ!」

 

 高揚感。少しでも気を抜けば打ち破られる危険な綱渡り。互いに一歩も引かぬ攻防。魂と魂のぶつかり合い。デザームが求めるものがそこにはあった。拮抗する時間が長ければ長いほど力を消耗するが、その分笑みが溢れる。

 

 ……永遠のような一瞬を引き裂いたのは、破裂音だった。

 

「…………な」

 

 デザームは年相応にぽかん、と惚けた顔をしていた。楽しい時間が突然終わる、子供なら誰だって経験する小さな絶望。今のデザームにとって、それは、

 

「ボールが……壊れた、だと」

 

 一対一の対決が強制終了されること。

 理由は単純明快、二つの必殺技の衝突に耐えられなかった。サッカーボールの耐久力は個人で対処可能な範囲を超えている。新しいボールとして同じ種類のものを使ってもまた同じ終わり方をするだけだ。なら、もっと強靭なものを用意させてもう一度――その提案は届かない。

 

 時間だ。試合は終了。1-1の引き分け。

 

「もう試合終了、だと?」

 

「あー……そう来る?」

 

 互いに消化不良。だがデザームは考える。無理に今結着をつけるよりも、より強くなった彼らと次会う日を楽しみにする方が良いのではないか? そうなれば、本来のポジションを解禁しても相手になるだろう。幸いにもこちらも強化できる余地はまだある。

 ユニフォームと合体している胸元のエイリア石はそんな考えを知ってか知らずか、いつもと同じように薄ぼんやり光っている。

 

「引き上げるぞ」

 

「あっ、おい待て!」

 

 戦術をコンマ単位で指定する司令塔の思考は早い。静止の声を聞くより前にエイリアの黒いサッカーボールにより何処かへと消え去るイプシロン。

 フィールドにいた雷門の皆が亜門を中心にして集まってきて、円堂がふと気付いた。

 

「亜門、お前目隠しはどうしたんだ?」

 

「あ? あー……あっ、ああ!」

 

 さっきまで啖呵を切っていた男はどこへやら、語彙が「あ」だけの亜門がそこにいた。

 やべ必殺技見ても気絶しなくなった件について一つもお話してないわ。というか俺も理由がよくわからないんだけどこれどうしたらいいの!? 多分エイリア石が関係してると思うがエイリア石については話したくない! 良い案をくれシャチ!

 

 ――シャチは現在お黙りタイムです。ご用件のある方はぴーという音の後に伝言をおねがいします。ぴー。

 

 へいシャチ! 気絶しなくなった理由を教えて!

 

 ――すみません。よくわかりません。

 

 役に立たないなシャチ。というか俺が必殺技で呼んだ時以外出てこないのはなんで?

 

 ――シャチはできる限りの範囲で個人の意思・意見を尊重していまぁす。勝手に出てくるのは亜門が気絶して動けない時ぐらいだからそこは安心してねぇ。

 

 シャチ、おまいだったのか。いつも化身的なアレとして俺の後ろに出てきたのは。

 

 ――火縄銃でやられるシャチではないし、そもそもシャチは亜門の化身じゃないよ?

 

 えっそうなの!? じゃあ何なんだよシャチ!

 

「いや、言わなくて良い」

 

「…………ああ?」

 

 鬼道たちは勘違いしている。亜門の気絶する原因が過去にあるトラウマだと。もちろんトラウマなんてものはない。

 吹雪がサッカーによって壊れそうになったから、それを防ぐために過去を振り切って――とまでは言わないが、前に進んだ。確かに改善に向かっているのだと。そう思っている。

 

 つまりこれは無理に説明させる方が負担がかかるだろうし思い出させるのも良くない、と皆の心が一致した結果の発言だったのだが、勘違いされている自覚の無い亜門には混乱の原因にしかならなかった。

 

 なんか勝手に納得された。しかも感動ムービーでも見たみたいに皆の目が優しさに溢れてる。なんで〜? こわ……。

 興奮状態の時に見た超次元謎記憶に手がかりでもあるのだろうか。よーく思い出してみよウワッ11vs1でやり合おうとしてる! 超次元!

 

「ア(気絶)」

 

 幸か不幸か、この気絶はやっぱり目隠し無しでサッカーをするのはまだ駄目か、といった方向に受け取られたのだった。

 

 

 

 エイリア学園本拠地へと帰還したデザームはチームメイトに尋ねていた。

 

「分からなかったのか? あの炎が」

 

 闘志の比喩ではない。ほんの一瞬だったが、デザームには確かに見えた。足を振り下ろしボールに回転を与えたあの時、火の粉が舞ったのを。

 炎――そう聞けば誰もが豪炎寺修也を想起するだろう。いや、エイリア学園にも炎を纏う必殺技を持つ者はいるが、彼はまだ本格的に活動を始めていない。

 

「モンスターファング、だったな。アレは、まだ完成していない」

 

 完成していない必殺技でドリルスマッシャーと拮抗したということは、つまり――イプシロンに動揺が走る。

 

「狼狽えるな、相手に点を取られたのならばそれ以上に点を取れば良いだけの事」

 

 デザームの真のポジションはFW。それをまだ雷門は知らない。……今度はキック力の勝負というのも悪くない。かたや怪物の牙、かたや神話の槍。どちらがより多く得点を取れるか競い合うのだ。

 

 願わくば、次の試合はすぐに終わる事だけはないように。それだけを望んでいた。




主人公
今世にも前世にも超次元謎記憶については覚えがない。多分あの記憶は肉体に起因している……?わかんね。
11人の顔を見たらちゃんとした予想できると思うんだけど思い出すと超次元を認識して気絶しちゃう。

シャチ
肉体の謎についての考察にはだがしかしまるで全然関係ない。悔しいでしょうねぇ。亜門の化身はシャチじゃなくて多分アレになるよなー、と予想はしてる。
答えは教えても良いけど今教えたら変に意識して余計にこんがらがるから教えません。自分で気付いてくれ。

デザーム
名前の呼び間違い(間違いとは言い切れない)は気にしていない。亜門をお気に入りに追加した。
やる気がムラムラと込み上げてくるじゃないか!

ゼル
それを言うならムラムラではなくメラメラですデザーム様。
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