来ました沖縄〜! イェーイ! 風が気持ちいい〜!
「心の緩みは風気の緩み、肉体の着こなしが甘い! シャチ殴打!」
フードの端っこがそこそこの力で動き亜門の体を叩く。風に煽られたのとは違う、明らかな超次元ムーブ。
しかもフード、柄が変わっている。シャチモチーフだ。かわいい。
「うっふ」
「亜門くん、だいじょうぶ?」
カンカン照りの太陽の下、当然気温は高い。マフラー巻いてて暑いだろうにそんなの関係ないとひっ付いてくる吹雪。俺のことは気にしなくていいからポジションに戻って? 試合中なんですよ?
……どうしてこうなったんだろうなー、本当になー。
そこは、なんにもない空間だった。周りに皆はいない。すわ拉致か? 仰向けに寝転がっていた俺を覗き込むのは……アッロン毛が! 謎の人物のロン毛が顔にかかる! 誰ですか!
「心配しなくていい、ここは精神世界的なアレだ。現実のお前は眠っている。……こっちの姿を見るのは初めましてかな? 亜門くん」
顔をプルプル振ってから上体を起こすと、そこには黒白メッシュロン毛のイケメンがいた。身長もデカイ。たぶんアイヌの民族衣装だろう独特な紋様の衣服と牙をほぼそのまま使ったワイルドなアクセサリーがお洒落。
シャチの擬人化にアイヌ要素加えたらこうなるのかな、なんて考えてたのが分かったのだろうか、イケメンは驚きの一言を口にした。
「シャチです」
これが……シャチ……?
「我々カムイは人の世に降りる時は獣の皮と肉を着る。この人間としての姿が真の姿だ。あれだな、人外が人の姿になるの地雷だった場合は謝らなければならんな」
聞き覚えのある声、だが脳に響いていた時よりも鮮明だ。このイケメンはあの必殺技のシャチで間違いない、だろう。
「カムイ……アイヌ……だったら北海道に来てから憑いてきた?」
「いや、北海道から東京まで観光じゃなくていい感じの子いないか探してたらいい匂いのペンギンがじゃない見所のあるサッカー少年がいたのでくっ憑いてみたあの時からのシャチです」
「本音が何一つとして隠せていないしアクティブすぎる」
「いやーなかなかの旅路だったね」
「旅の感想が聞きたいとは言ってないんですが?」
「カムイジョーク。笑うところです」
ついていけない。何だこの……何? 顔が良すぎて人間じゃないレベルのお人がふざけ倒す姿は中々に理解し難いものだった。
「ハイ、ここからはマジモード」
手を叩く音で空気を切り替える。
「吹雪士郎、だったか。彼は今、君のせいで危険な状態になっている。そして、君自身も危険な状態だ」
ジェネシスとの試合――このままだと吹雪が流星ブレードを頭に受けてしまう、その光景が浮かんだ瞬間、体は勝手に動いていた。
『――スカーレッドブレイズ』
それは必殺技の名だったのだろう。全身から血のように赤い炎が噴き出し、背からは大きな手にも見える炎の翼が生えた。
『もえてしまえ』
両翼でボールを挟む。流星ブレードは大気圏を越えられずに燃え尽きる流星のように、みるみる勢いをなくしていった。グランはその様子を興味深そうに見ていた。
……目が眩む。力が入らない。あったかい、つめたい?
あれ? ユニフォームがべたついて、どうして、体から、血が、ながれて――。
赤く染まって倒れ伏した亜門を、今にも泣き出しそうな顔をした吹雪が抱きしめる。自分も赤に染まっても構わない、だからどうか、奪わないでくれと願っていた。
……あの必殺技には、力を出すためなら自分の全てが燃え尽きても構わないと思えるほどの熱があった。自分で止めようと思っても無駄だった。
「最初は引き戻すのも容易かった。2回目は血を失って倒れたから超ギリギリのセーフ。となると3回目はない。サッカーをすることによってまた記憶が蘇ったならば――今度こそ呑まれるぞ」
それに、と一拍呼吸を挟む。
「亜門、お前は魂と肉体が別物に近い。神様転生、だったか? どうやら魂だけこちらの世界にある肉体へと入ったようだな。たとえその……なんだ、マア、よくわからない名前のチートを持っていても完全には適合できていない。お前の言う超次元なことを見て気絶するのはお前自身が抱える問題だ。つまり存在しない不具合を押し付けるのはとても困るからやめろ」
「…………え」
「なんだ、転生者であることをシャチが知らないとでも思っていたか? シャチも神だ、その程度は分かる。あーっと、なんちゃらカウ……? まあチートでいいか。チートについては専門外だから調べるのに少し時間はかかったがな」
いつの間に……? シャチこわ……。
「それとだな、チートを返却なんぞしたらお前死ぬぞ」
「……はい?」
「それは本来ならいないはずの異物を時間をかけて馴染ませるための緩衝材だ。元いた世界とこちらの世界の差を洗い出し、こちらの世界での普通の人間にする外部ツール。……宿った肉体がこちらの世界から見て超次元なものらしいから普通と超次元の馴染ませ動作がおかしくなった。その結果が気絶として出てくる。つまりチートをなくした瞬間超次元な肉体に負けて魂は消滅する。突然の死だ」
つまり気絶は毎回俺の命の危機だった? こわ……。
「そこまで分かってるなら必殺技見て気絶しなくなった原因もわかって」
「ない。……予想としてはいくつかある、が、不確定なそれを教えるわけにはいかない。間違っていた場合お前の命に関わるからな」
とん、と胸を指で突かれる。
「間違えるな、主導権があるのはお前だ。力に振り回されず使いこなせ。この問題を解決するにはそれさえ出来ればいい」
問題点はわかった。解決策も教えてもらえた。じゃあこれからは? どう特訓したらいいのか分からない。
「今の亜門は肉体に着られているようなものだ。だからこそ、肉体の着こなし方を魂にみっちり教えてやらねばならない」
シャチがどこからともなく取り出したのは木を加工して作られた棒。
「それは」
「お仕置き棒だ」
囚人へ圧を与えてくる看守みたいに棒をぱっしんぱっしん手に軽く叩きつけながら告げる。
「肉体の着こなしが上手くできていないと判断した場合これで殴打する」
「ヒェッ」
「冗談だ。カムイジョーク」
棒を速攻でポイする。何のために俺を脅す必要があったのか何もわからない。なんだこの自由人、じゃない自由神。
「駄目だった時はヒレでこう……ぺちぺちする」
「やめてください死んでしまいます」
ぺちぺちなんて可愛い擬音で誤魔化されはしない。シャチのヒレはでかい、間違いなくばっしーんからのどっごーんだ。ぶっ叩かれたら物理的に気絶してしまう。
「ん? シャチの姿そのままで叩く訳ではないが?」
「はい?」
「ちょっとシャチ皮とフードをカムイパワーであれこれしてシャチはフードと一体化した。よって今のシャチは亜門が身に付けているフードとなっている」
「待って」
「これからはシャチとエブリデイだ。やったな亜門、頭の守りが増えたぞ。ついでにこれからのご当地グルメを食べる時だが、首の後ろを通らせる感じでぐるっと皿を回してくれ。これはアイヌは首の後ろあたりに守護霊がいるという伝承があるのを知っていなければ意味がよくわからないだろうな、まあ守護霊へのお供えみたいなものだ。そして守護霊は今のところ実質シャチだ。よってお供えはシャチが貰う。美味いものが食いたいんだ分かってくれ。その一皿で救われる命がある」
「えっ(気絶)」
超次元ワンブレス台詞をしっかりと聞かせた結果、あまりの情報量に亜門は気絶。現実ではまだ睡眠中なので何も問題はない。
精神を現実に送り返し、振り向く。
「――さて、⬛︎⬛︎⬛︎」
今にも消えそうな、だが確かに燃えている炎がそこにあった。ゆらめいて、言葉を発する。
「おまえもあいつらのようににんげんをくいものにするのか」
「シャチは人が好きだ。そんなことは絶対にしない。人の嫁を娶った親戚もいるしな」
「……あもんをどうするつもりだ」
「鍛える。⬛︎⬛︎⬛︎の記憶に呑まれ暴走しないようにな。ここまでシャチが動くことになったのは⬛︎⬛︎⬛︎のせいだぞ? どうして急に目覚めた」
「ふわを、まねくものがあった。だからそれをくった」
「あぁ……あれはそう言うことか。……待て、あれから吹雪はおかしくなったよな。お前消化はできたのか?」
「………………」
メラメラが元気をなくす。指摘されたくないことに気が付かれた子供のようだ。
「無言ってことはあんまり吸収できてないだろほぼ垂れ流しになったな言わんこっちゃない! つまりアレはお前のせいか!」
思わぬところで原因が分かり頭を抱えるシャチ。エイリア石砂化はシャチのせいじゃなかったよ本当だよ。
「ところで、スカーレッドブレイズ、だったか。アレはどういうつもりだ? シャチが裏でこっそり抑えていなければ――亜門は間違いなく死んでいたぞ」
肉体が持つ必殺技を使うために肉体の過去の記憶を再現。力を一時的に取り戻す、という荒技をしたその結果、亜門は全身から血を流した。つまりその肉体は昔大怪我をした記憶がある、ということになる。
亜門が体の主導権を取り戻した時に傷口は無くなったが、流れ出た血は戻らない。超次元な肉体の影響なのか、回復速度も超次元になっていたため輸血する前に復活したがそれ頼みになるのはとてもよろしくない。
「まもらねばならない。なにをしてでも」
「それで守るべき人が死んで、永遠に消えない傷を残しても、か? いいかげん現代に慣れろ。あれか? 海外にいたから時差ボケか? ……おいやめろシャチを燃やそうとするな」
亜門の精神世界でわーぎゃーする人外2人。人の精神の中で何してるんだ、と唯一ツッコめる亜門は気絶しながらの睡眠をしていたので止められませんでしたとさ。
「力が溜まって困る時……なんとかしたいですよね。そんな訳で応急処置を教えます」
今大海原サッカー部の皆様と練習試合してるんですが! ですが!
シャチはフードと一体化したことで俺の超格好いい防災頭巾はかわいいお喋りシャチフードになった。こいつ、脳に直接……!? からガチお喋りになったのはいいのだろうか? 俺の近くにいると多分シャチの声が聞こえる。これバレたら気味の悪いフードとしてポイされそう。
……あっボール来た。来ちゃったかー。
「実践あるのみだから超次元を早く受け入れろ。口からビームを出すから準備してねー」
口からビーム。ビーム? は、え、ちょっと待てシャチ!
「はーい浮いてー」
はい……亜門浮きます……。浮く? それなんて超次元?
「気絶禁止の殴打!」
ぐへっ。
「はい息吸ってー胸ぐーっとそらしてー」
気分は操り人形。シャチに逆らったらまた殴打されるのは目に見えているので言葉通りに動く。内側に流れるエネルギーが口へ集まっていく。
「正面に向かってふぁいやー!」
やけくそ気味に口を開き、大声を出す感じでわーっとすればビームが口から出る。そしてボールはビームの圧に巻き込まれる形で飛んでいく。えぇ……?
「――これが、オルカノン……ヒューマンバージョン」
あっ綱海がビームに巻き込まれた。しかもなんかビームの通り道は水被ったみたいにべっしょべしょだあ。水も滴るいい男ってかハハハ。
「本当はエネルギーそのまんまぶつけるんだけど今回は練習としてシャチが用意した水で代替しました。亜門の中に炎が溜まって来たらこれで発散しよう! 進化するともっとビームがぶっとくなるよぉ」
「こんな必殺技いらない……」
「じゃあ早く肉体を着こなせるよう頑張るんだな、シャチ往復殴打!」
ぺぺぺぺぺとシャチフードに細かく殴打される。
「サッカーってすげえな!」
アッやべっ綱海にーにがサッカーのことを誤解しそう。口からビーム出すのがサッカーじゃないんです! 信じて!
あれ、でも綱海にーには突然サッカーボールをサーフボードに見立てた必殺技使うんだっけ。サッカー未経験者がそんなことするのなら、サッカー経験者が口からビームもそこまで間違ってない……?
「いや本当のオルカノンはシャチがビーム出すから……流石に人間がビーム出すのを普通とするのはちょっと」
だよね?
「でも亜門が炎吐くのは別ですぅー命に関わるからですぅー。これから毎日ビームを出そうね」
「口からビームは嫌だ……口からビームは嫌だ……」
口からビームを出すのだけは絶対に嫌だ、と繰り返し声にする。さながら組分け帽子を頭に乗せた某少年のようだ。
「……まあ、超次元からは逃げられない。頑張って慣れてくれ」
これまで助けになってくれたシャチから梯子を外される。これからはモンスターファングではなく口からビームが自分の代名詞になるのか、と未来を考えた結果亜門の目は死んだのだった。
主人公
エイリア学園よりも超次元な肉体の方が大きな問題になっている。流石に口からビームは受け入れられなかったよ……。炎は別の方法で発散できないか考え中。
なおキャラバン入りした綱海からビームを見せてくれとせがまれる。
助けて
シャチ
この度フードになりました。
ほぼ無償でここまでしてくれた神様。今回のオルカノンは1話にてパクついた皇帝ペンギン2号のパワーを使ったものなのでそんなに強くなかった。安心安全。
ほんとぉ?(ゴッドハンドを突破できる威力)
綱海
サッカーすげ〜!
不動
エイリア石は「テメーのその力が宇宙人由来だとかエイリアに通じてるんじゃとか問題にな〜れ」の精神で押し付けた。つまり不和を招こうとした。でも不和の力を持つ⬛︎⬛︎⬛︎にエイリア石はご馳走様された。
亜門の肉体が暴走を始めたのと吹雪がアツヤ人格と仲間割れした原因。
⬛︎⬛︎⬛︎
とある島にいた。とある11人と共にいた。だがある事をきっかけに11人を裏切った。11人にボコボコにされて死にかけた。
強靭な肉体のおかげでなんとか11人から逃げることはできたが力は殆ど残っていなかった。11人が地上に現れる時までなんとか生き延びようと力の消費が少ない赤子へ姿を変える等あれこれしていたがついに限界が訪れ……そこへ亜門が転生した。
つまり亜門は命の恩人。それを思い出すまであとどれぐらい時間が必要になるだろうね。
実はとある作者さんに「やっちゃえー」と悪魔の囁きをされたことによって生まれた。……本当にイナズマイレブンか?これは……
オリジナル必殺技解説のコーナー
『スカーレッドブレイズ』
スカーレッドは「Scarred(傷痕が残った)」の意……なんだか王者と悪魔が交わりそう。
⬛︎⬛︎⬛︎が使用する必殺技。全身から炎を出し、さらに背中から炎の翼を出し翼で挟んでボールをブロックする。まだ無駄が多い状態。
炎を出すために⬛︎⬛︎⬛︎の肉体を再現する過程があるので⬛︎⬛︎⬛︎が負った傷も復活する。必殺技を使い終わると全身から血が出る。炎圧が強ければ強いほど出血もひどくなる。