ダイヤモンドダストとの試合中、伊冬塚と交代しFWへと入ったのは世宇子のアフロディ。共にエイリア学園を倒すと宣言した彼を円堂はすぐに受け入れた。
雷門のユニフォームを着ているアフロディは見慣れない。それ故に本当にあのアフロディが仲間になったんだ、と確かな実感があった。
雷門の皆は世宇子がこれまで何をしてきたのか嫌というほど知っている。アフロディへボールを繋げるチャンスが訪れてもあのことが脳裏をよぎり、どうしても躊躇してしまう。
――サーファーをしていたが故にサッカーについて知らなかったのが功を奏した。綱海がパスを通す。綱海が起こした波をきっかけにしてアフロディへと絆が生まれる。繋がりだす。
ゴッドノウズ。雷門を苦しめた世宇子の誇る最強の必殺技。神のアクアによるドーピングをしていた頃よりも今の方が強い、そう断言したのは誰だったか。ダイヤモンドダストのGKは必殺技を使う猶予も与えられず、ボールはゴールネットを揺らした。
その様子を、亜門と吹雪はベンチで二人並んで見ていた。
「そうか、あれだ」
「…………?」
何やら閃いたみたいだったが、吹雪にはさっぱりだった。
今のメンバーでは足りない攻撃力を補うべく参加表明をしたアフロディ。どうやら雷門のジャージは足りなかったらしく、試合が終わったアフロディは世宇子のユニフォームへお着替え済みだ。これは俺がいるせいなのか? まあいい、それはどうでもいい事だ。
「アフロディ、話がある」
帝国学園所属、伊冬塚亜門。今までになく真剣な声色で語りかける相手は世宇子の美しきMF。
「……何かな」
亜門は一度も公式戦に出たことはない。控えとして近くにいることすらなかった。ずっと、仲間を遠くで見ることしかできなかった。手の届く距離に来たのはいつも全てが終わった後だった。
彼の目の前にいるのは仲間の仇だ。なら、彼がすることは――。
「羽の出し方を教えてくれ」
「……うん?」
こてん、と首を傾げる。美の神の名を冠する彼はほんの少しの動作さえ美しい。
「一生、いや来世の分の願いも使うから頼む! どうか羽の出し方を!」
「待ってくれないかい、何がなんなのか分からないよ」
殴られても仕方がない――そう断罪されるつもりで会話に応じたら勝手に土下座を始められたら誰だって困惑する。
「クソッ、土下座はそもそも立場のある人がしないと意味のない行為だった!」
「そこじゃないんだ、別に気にしてないから」
大仰な動きをするからかシャチのフードも荒ぶっている。いや亜門の動きに関係なく動いてないかアレ? それに気が付いているのは僕以外には誰もいない……? ……無視しておくことにした。
「つまりゴッドノウズを参考にした必殺技を作るため、ゴッドノウズを覚えたい……ということかな」
「です」
ほぼ意味をなさない言葉から整理して要点を導き出せたのは流石と言うべきか。落ち着かせるのにどれだけ時間がかかったのかはよく覚えていない。こんな疲れ方は初めてだ。荒ぶっていたシャチフードもアフロディ同様心なしかぐったりしている。
ゴッドノウズはアフロディの代名詞となっているが、別に専用というわけではない。覚えることはできるだろう。だが、相性というものがある。そのまま複製しても威力はアフロディの放つ一撃の足元にも及ばない。
立向居のゴッドハンドがいい例だ。彼が使うゴッドハンドは円堂のものと色が違う。円堂は秘伝書を見て祖父の技を覚えたが、立向居のゴッドハンドは円堂の試合映像を見て自己流で身につけたもの。
――立向居なりのゴッドハンド、それは色と属性の変化として表れている。亜門も、亜門なりの形でゴッドノウズを身につけようと意気込んでいる。どう転んでも悪い結果にはならないだろう。
「じゃあ、皆の邪魔にならない場所でしようか」
「了解です先生」
帝国仕込みの敬礼はシャチのフードとは似合わない。彼自身の真面目な態度も相まってミスマッチに磨きがかかる。おかしくて、つい笑ってしまった。
なんでか最近、亜門のことを目で追ってしまう。特に用事があるだとか、頼みがあると言う訳ではない。なんとなく、ちょっと気になる、それだけなのだが意識しだすと引っかかるのが人間というものだ。
「どうかしたのか、木暮?」
「いや……なんて言ったらいいのかわかんねーけど、うーん」
うんうん唸りながらも考えてくれる。初めて合った時と比べると随分と変わった。
「ああ、そっか。伊冬塚が人に頼るところ、初めてみたからか」
思い返せば、彼はずっと一人で何とかしようとしていた。
吹雪の二重人格も最初から知っていた。秘密を一人で抱えて、誰にも伝えなかった。
禁断の技を使わせまいと一人で攻撃と防御をし続けた。
吹雪の傷を抉らせまいと一人でイプシロン改に、デザームに立ち向かった。
……そして、ジェネシスとの試合でもそれは変わらなかった。一人で流星ブレードを止めようとして――限界を超えた代償か、血を流す彼はどこか呆けた顔をしていた。
わかっていなかった。わからなかった。誰も。いや、わかろうとしていなかった?
自分は捨てられた、一人ぼっちなんだ、そう思って生きてきた木暮だからこそ『一人』というものにはすこぶる鼻が効く。言われてみれば、と他の面々も思い当たる節があったのだろう。
吹雪も、一人だった。雪崩が起きたあの日からずっと。雷門の仲間になった当初は協調性は二の次、個人技のみで突破しようと走っていた。それを変えたのは染岡だ。でもその染岡は今はここにいない。
一人ぼっちの吹雪を支えていたもう一人の吹雪――アツヤはあれから出てくる気配はない。
吹雪は本当に、一人ぼっちになった。……そうだろうか? 亜門のそばに居ようとするのはどうしてだ?
一人だった彼らが関わり合い、近寄り合い、手を取り合い、変わろうとしている。少しずつ。
片方は守りたい。片方はまた立ち上がりたい。噛み合っているようでどこかズレている願いはいつかどちらも叶うだろう。
彼は禍根を越え、神に乞う。教えてほしいと。
神は応える。共に見るかと吹雪を誘う。
――亜門は吹雪に、他者の手を取る手本を見せようとしているのでは?
「また勘違いされた感じがしゅる〜」
口調を変えてあざとさを狙うシャチ。失敬な、何だと思われているんだ俺は。
「シャチょぅじょだからむずかしいことわかんにゃ……やめてフードつねらないで。マジレスするなら怪物では?」
かいぶつ……? あっ苗字のアナグラム? そういや皆によく言われてたけどあれ俺が知らないうちに皆が付けてたあだ名ってこと?
「マジで……? そこを分かってなかった……?」
なぜ引くのだシャチ。えー俺怪物なんてかっこいいあだ名自分から使っていいのー? まあイナズマイレブンはあだ名が本名みたいなところあるもんね。でも今まで通り亜門って名前で呼ばれないと多分反応できないな……。あだ名の名乗りは保留しとこうか。
「この辺りなら大丈夫かな? ――いくよ」
ゴッドノウズ――神のみぞ知る。純白の羽を広げて空に舞うアフロディだが、その足元にボールはない。シュートもすることなく地上に降り立つ。
「まずは浮かぶことからだ。確実に、段階を踏んでいこう」
羽生えろ羽生えろとうんうん唸っているが一向に翼の出る気配はない。
「見るだけでは難しいからね……手を」
差し出された手を握る。内側にある炎、その巡りを感じる。
「僕に合わせて」
目を瞑る。集中する。巡るそれらを集めて、内側から外側へ。
「違う、もっと溜めてから……それも違う。今度は多すぎる」
アッ半端な炎がお口から出ちゃう! アフロディの手を振り解き、自分の両手が自由になってすぐに口を塞ぐ。
この炎、うまく調節が効かないのがとても痛い。あと一滴だけ欲しいって時に蛇口を回しすぎたりするあの……あんな感じ。自分の体のはずなのにうまく調節できないってのも奇妙なことだけど、実際そうなってるんだから仕方ないね。
シャチこれ肉体の着こなしとしては大丈夫なん?
「炎溜め過ぎるとちょっとブレるぐらい。安定してるから大丈夫よ〜。というかそんなに口からビーム出したくなかったの? ……ゴッドノウズ覚えるより口から出した方が早いのになあ」
アフロディが近くにいるからか、いつもよりシャチの声は小さめだ。いやで〜す口からビームだけは絶対にしませ〜ん!
「もう一度お手本プリーズ」
アフロディが使うゴッドノウズはほぼノータイムで羽が生える。フワーッとしてるあの感じで、こう……パワーを背中まで自然に流すことができればいけるはずなんだ。
二人が練習する様子をずっと見ている人影が一つ。吹雪士郎だ。
「……亜門くんでも、完璧じゃないんだね」
「自分から完璧って言い出す方が怖くない?」
それを言われたらなあ、と困ったように吹雪は笑う。安心しろ、神を自称していた中学生もここにいるんだ。完璧を自称してもそこまでダメージは大きくないぞ。
「無いものは無いんだから。持ってる人から教えてもらうか、どうしてもダメなら補ってもらうのが一番だろ?」
「そっ、か」
ゴッドノウズは自身の力とボールに与える力、そのバランスを考えないと成功しない。自身の力を与え過ぎると羽が消えて落下するし、かといってボールに与える力をケチるとシュートの威力が出ない。
キックによって自身とボール互いの力が衝突、反応し、爆発的に威力が上昇する――というのがゴッドノウズのメカニズムらしい。ほんとぉ? まあ嘘本当関わらず信じるしかないんだけども。全ては口からビーム回避のために。
「あ、やった出た! ちょっと出た!」
亜門が言うように、背中には真っ赤な炎でできた一対の翼があった。アフロディのような鳥を模したものではなく、三角形を複数くっ付けたとげとげしい片刃のノコギリみたいな羽。
まるで血のように鮮やかなその羽はどこか不気味で……でも、不思議と彼に似合っているような、そんな気がした。
「そのままゆっくり、出力を上げて維持してみるんだ」
「アッこれ思ったより飛ばないです先生!」
「まだ飛べるほど力が出てないから飛ばないのは当然だよ。こら、すぐに発散させないで留めるんだ!」
ぬおーっ、と気合を入れる掛け声にしてはどこかズレた気がしなくもない叫びをしながら亜門は特訓を続ける。
――ゴッドノウズを元にした新たな必殺技を作る。そう決意したのは彼自身だ。あの試合を見て閃いたのはこういうことだったんだ。
「……すごいね」
ゴッドノウズは多くの人々に恐怖を与えてきた。
それはフィールドを抉り、一撃で源田を再起不能にしたシュート。帝国学園の皆を葬った必殺技。帝国だけではない、世宇子と戦ったものは皆同様に倒された。その恐怖はそう簡単に払拭できるものではない。
「ぼくも、なれるかな」
――人間は強い。これで分かっただろう? お前の言う「守る」は「保護」だ、エゴでしかなかった、とな。あと守ってくれた人が血を流して倒れて速攻で回復したら守った対象からやべーやつと思われることにもっと早く気付け馬鹿悪魔。
『いまからでも、おそくないのか?』
――ペロッ、これは絆された味! 分かったらお前の記憶の重要点まとめておいて時間をかけて見せてやれ。肉体へ魂が歩み寄れば亜門もお前と会話できるようになる。そうして理解度を高めればあの必殺技もお前が無理矢理主導権を奪おうとせずとも安全に使えるようになるだろうよ。
何その味? あとシャチは誰と会話してるの? もう一人のボク?
――まー正体知ったらそれなんて超次元? ってなるような存在? とりあえずゴッドノウズを完璧に覚えておいてね〜。炎使うのは後回しにしといてちょ。ゴッドノウズのアレンジ技は今はまだ完成しないからさ。
炎の加減効かないから炎で発散しよう大作戦もしかしたら駄目じゃね? って思い始めたところなんよ。シャチの言うこと今まで嘘はなかったから信じるけどさ、なんか安全とか聞こえてきたから質問なんだけど……つまりそれが上手くいけばこれから俺の口からビームは回避できるんだな。だな?
――まぁ上手くいけばそうなるね。
やったーーーーーーーーー!!!!!
喜びの勢い余ってゴッドノウズの羽を出すことに成功した亜門。色は薄いがちゃんと六枚三対揃っている。亜門が出そうとしていた炎の翼が突然消えてアフロディは驚いたようだったが、ゴッドノウズを習得することに成功したのは間違いない。
「やっぱり超次元に慣れてるよね? 最近気絶しないもんね? ちらっ」
『………………あの石を食べた力で目が戻った。目が俺のものだから視界で認識するとその……ちーと? とやらの判定からズレている、と思う。あと本人の気の持ちよう』
「まーたお前のせいかーいって……あー、うん。やっぱり亜門が一番超次元してる気がする」
主人公
口からビームは駄目だが背中に翼はセーフという感性を持つ。口からビーム回避できる可能性でハイテンションになりゴッドノウズを覚えた。
だが属性不一致なのでこれからゴッドノウズを使うことはない。かなしいね。
シャチ
荒ぶっていた理由は「ナンデ!?ゴッドノウズナンデ!?シャチは?シャチも神なのに駄目なの!?」というなんともまあどうでも良さげなものだった。
亜門は皆が思うほど深く考えてないと思うよ。人間って深読みしすぎて勘違いする生き物だっけ……?
亜門が一番超次元してるよねコレ?間違ってないよね?
吹雪
亜門みたいに強くなりたいな、と思った時にちょうど亜門がゴッドノウズを習得した……ように見えた。亜門くんが僕に伝えたかったのはそういうことなんだね!(勘違い)
完璧にはなれないが前向きになることはできた。
アフロディ
あのフード動いてないか……?まあゴッドノウズを覚えられたし良いのか……?
⬛︎⬛︎⬛︎
冷静になってきた。もうちょっとすれば会話に参加できる。