超次元な世界では勘違いも超次元なのか?   作:ウボァー

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記憶と怪物

『大丈夫?』

 

 その少女は木にもたれかかっている男に声をかけた。その男は血で汚れていて、どう見ても大丈夫そうには見えなかったが、この状況で声をかけるならその言葉しか少女には思いつかなかったのだ。

 

 男は考えていた。羽を隠しておいてよかった。この近くには村がある、きっとこの少女はそこに住んでいる。村へ招かれ、傷が癒え、油断したところを皆まとめて食ってしまおう、と。

 

 男は人間の見た目をしていたが、人間ではなかった。

 

 先程まで天空の使徒と殺し合いをしていた、悪魔だ。魔王復活――その大願のため、邪魔者を先に消すのが男の役目だった。他の仲間たちもすでに目覚めている。あとは時を待つだけだ。

 意識が、保てなかった。しまった、血を流しすぎたな、と理解した。

 

『大変! お医者さま、お医者さま――』

 

 ぱたぱたと足音が遠ざかるのが、人間よりも鋭い感覚を持つ耳が捉えた。

 次に目を覚ましたとき、男は粗末なベッドの上で寝かされていた。そばにはあの少女が頭と腕をベッドに乗せて寝こけていた。日はすっかり落ちて、夜がやって来ようとしている。

 

『……ずっと、いたのか?』

 

 見知らぬ他人にそこまでする意味がわからなかった。何を考えているのか理解できなかった。

 

 男は、少女がほんの少しだけ気になった。

 何故この行動をしたのかを知りたくなった。

 

 

 

 ……から無知な男と純粋でキラキラしている少女のイチャイチャが始まって記憶が恋愛ドラマ方面に寄ってるんだがこれ本当に情報絞った? ちょっと〜もう一人のボク〜?

 

『………………絞った』

 

 嘘だぁ。本当に絞ったのならそんなタメいらないし顔もちゃんと正面向いてるはずだもん。

 しっかし見れば見るほど2Pカラーとか闇落ちした俺とかそんな言葉が似合うよねもう一人のボク。俺と同じ顔なのに髪色が黒ってだけで印象ってここまで変わるのね。名前教えてくれないのはなんでなんだろうか。

 あと頑なに服だけは炎で覆って見せようとしないのはもしかしてあれか? マッパだからかうわなにをするやめ――。

 

『誰が全裸だ、ちゃんと着ている。……気に入らないだけだ』

 

「というかー、そんなに見せたくないのー? 最後のアレ」

 

 シャチは一足先に肉体の記憶ドラマを最後まで見ているとのこと。そしてネタバレをしたらチタタプされる覚悟を持っているらしい。

 

『あれは、人間が見るべきものではない』

 

「亜門はもう裏切るシーン最初の方見てるからー、だらだら先延ばしにしても意味ないんだよなー。グロ指定入るところはカットして出来上がったものがこちらになりますってやりゃいいじゃん」

 

『ぐっ……』

 

 グロ描写を料理番組みたいに扱うのはどうかと思うんですがそれは。イナズマイレブンは良い子の全年齢対象なんですよ。

 

「はいそれじゃ記憶ドラマ視聴途中での感想を聞かせてもらいましょ」

 

 なんというか……最初は情報濃かったのに今は中身そんなに変わんない連ドラ見てる感じ。引き伸ばしたいのミエミエ。

 というか俺は連続ドラマをぶっ通しで見るタイプの人間ではないのでお休みが欲しいです。睡眠時間がドラマ見る時間にまるごと置き換わってるんだよコレ。休めてないんだよ。ギブミー睡眠。

 

「守るべき人間に負担かけさせるとはどういう了見だァアン ? 守る気あんのかオォン?」

 

『お前も最初は亜門を気絶させてただろうが、お前には言われたくないな』

 

「それはそれこれはこれ、このペースだと年単位になるのは目に見えてるから早くラスト纏める仕事に戻れ戻れッ」

 

 オラつきながらお仕置き棒を担いでもう一人のボクを追い立てるシャチ。

 

「あ、バスは着いたからもう起きていいよ」

 

 これまでの言動を知っているからそう格好良くは見えないウインクで見送られ、とんとん、と肩を叩かれる。

 

「……はい、おはこんばんにちは」

 

「まだおはようの範囲だよ」

 

 肩を叩いたのは吹雪だった。最近は記憶ドラマ見るためにバスに入ると即就寝、起きるには誰かの手が必要になるんだが基本隣にいる吹雪になる。周りを気にせずぐうすか寝てる奴の横にいるのって良い気分はしないだろうに、席の移動はしないとのこと。こう……すごく申し訳ない。

 微妙に動きにくい肩を回しつつ首を伸ばす。うん、意識はしっかりしていて問題なし。今日も俺は俺です。

 

 そんなこんなで帝国学園に帰ってきたぞ〜イェイイェイ。

 

 円堂の攻撃参加に伴いデスゾーンの習得、そのために帝国学園にと鬼道発案ですが別に必殺技の中でもデスゾーンに固執する意味は無い。デスゾーンは鬼道が帝国へ向かうための理由付けでもある。俺からの一言としては気持ちの整理って大切だよね、以上。

 帝国の面々はアフロディを見てざわついていたが和解はできたようだ。これで問題は何もないな。ヨシ!

 

「みんな〜おひさ〜!」

 

 手を振りながら駆け寄っての感動の再会……のはずが寺門と大野に両脇を固められる。あれ?

 

「えっ」

 

「聞いたぜ……大分無茶をしたらしいな?」

 

 これは……もしや吹雪守らなきゃ暴走必殺技発動血まみれ事件が知られている!? 誰だ情報を流したのは。土門はこういう時上に判断を仰ぐタイプ、もしかしなくても鬼道か!

 だらだら冷や汗が出てくるのを止められない。あかんやつやこれ。シメられる。

 

「それにはマリアナ海溝よりも深い事情があってだな」

 

「はーい言い訳は聞かないっすよ〜」

 

「あー源田ー! たすけて源田ー!」

 

 引きずられる形で学園の中へと連れ込まれていく。皆と離れていくから視界に映る彼らがどんどん小さくなる。抵抗はしても無駄なのでずるずると為されるがまま。踵に負担がかかるので靴がちょっと緩んできた。

 早く離されないかなー、なんて思っていたら名前を呼ばれる。顔を上げればそこには俺を見る辺見。

 

「詳細は鬼道自身伏せようとしているから深くは聞かない。でも一つだけ答えてくれ」

 

 俺を見返すのは真剣な眼差し。

 

「――その行動に、後悔はないか?」

 

「ああ」

 

「そうか、ならいい」

 

 必殺技使って血みどろになって死にかけてた、なんて帝国の皆に知られていたらここで強制離脱確定だったはずだ。鬼道に後でお礼言っとかないと。いや俺がやっちゃった事は濁してはいるがタレコミしてるからお礼……は違うか?

 すとん、とちょっと良い椅子に着席させられる。

 

「こんだけの資料引っ張り出すの大変だったんですからね」

 

 亜門を迎えたのは折り畳み可能な長机、その上にこれでもかとてんこ盛りで山盛りな紙の群れ。古いのかほんのり茶色がかったものまである。

 

「帝国学園の必殺技、その原案と改良の歴史。これで十分か?」

 

 鬼道が帝国へ向かう、と決めてから電話連絡してそう時間の経たない間でここまでしてくれる優秀な仲間たちに感謝を。

 

「……正直ここまであるとは思ってなかったな」

 

 下手に手を出すと書類タワーを崩してしまいそうだ。真ん中のやつどうやって取ろう。上から適当に数枚取ってどのタワーがどの必殺技なのか傾向を掴む。

 

「うしっ」

 

 円堂達がデスゾーンの習得に励んでいる中、亜門は帝国の必殺技、その秘伝書を片っ端から読み漁る。勿論禁断の技は除外。適当な裏紙に使えそうな情報を書き殴ってまとめて、なんか足りないなとペンの動きが止まる。

 

「ん……分身ペンギンとか分身デスゾーンもあったよな? どこやったっけ」

 

 それはアニメには登場していないがゲームには存在していた必殺技の名前。転生してからどことなく見た記憶があったので帝国学園サッカー部マネージャー、銀平に問いかける。

 

「難易度が高すぎて誰も習得できてないから秘伝書も何も無いぞ」

 

「あーそっか、鬼道の頭の中にしかないんだっけ」

 

 思い出してきた。鬼道が考案して練習してたけどそれっぽく使っても威力が全く出ない上に精神力の消耗が激しい、と今いる人間が覚えられないものを後輩に残すのはいかがなものかって没にされたんだ。作ろうとした経緯も「ぼくがかんがえたさいきょうのひっさつわざ」に近いから帝国としてはよろしくなかった。

 

「えー……亜門に分身するタイプの必殺技、いる?」

 

 いやね? 肉体であるもう一人のボクが明らかに自我を持ってるし話を重ねてもう他人とは思えなくなったからさ、一緒にサッカーしたいな、分身系の技ができたらいいかな、って思ってたんだが……もしやなんか問題点あった?

 

「やだ……亜門ってば優しすぎ……?」

 

 シャチお前今絶対両手で口を押さえてるあのポーズしてるだろ。そのせいで前が見えないのよ。…………シャチもサッカーするの?

 

「バリバリにしてるよ? カムイもサッカー大好きだからねえ」

 

 年1で水に近しいカムイと陸に近しいカムイでチーム分けてサッカー大会してるとのこと。それだけじゃなくて良いカムイと悪いカムイのドンパチもある? ほーん。

 

「シャチの必殺シュートをね、こう……本来の姿で見せてあげたいけど人の世界で実体として見せるには準備とか申請とか必要なのがなあぐぬぬ」

 

 申請……? シャチも書類仕事からは逃げられないのか。

 

「人の世界にできるだけ記録を残さないような環境が必要になるからねえ。基本は過干渉禁止だから」

 

 ほへー。ならシャチが俺にゴリゴリ関わっているのアウトなの?

 

「んにゃ、人ならざるモノの影響があると判断したなら別だね」

 

 ――そっか。やっぱり人じゃないのか。

 

「なーんか、急に空気変わったよねえ亜門。……まさか人間としての終活でも始めるつもりか?」

 

 ペンが止まる。図星だったらしい。

 

「ハッ、前世含めても高々二桁しか生きてない人間が何を言うか。カムイジョークに対抗しての人間ジョークか? ……笑えない。人を止めるには早すぎるぞたわけ。⬛︎⬛︎⬛︎もそれは良しとしていない。抗議の炎がなぜかシャチを焦がしてる。あつい。実はその身体が人間じゃなかった、などと教えたこちらも悪いとは思うがそんな急に支度はしなくていい。全く……少しは置いていかれる者の気持ちも考えろ」

 

 いつもより低い声。怒っているがどこか優しさも感じられるその声で、こちらのことを思って言っているのだと分かる。

 

 ……ありがとうな。

 

「シャチは感謝の言葉が欲しくて言葉を発しているわけではない。よせやめろ恥ずかしい」

 

 ぱーたぱーたと照れ隠しにフードのヒレを揺らす。

 

「で、完成はしたのか?」

 

 視界にはぐちゃついているが円堂よりはマシな字と図が書かれた紙が数枚。あとは鬼道に直接分身ペンギンの構想を聞くだけ、足りないピースはそこで埋まる。炎の扱いについては時間が解決するだろう。

 

「……あり? これ三人技じゃない?」

 

 分身ペンギンも分身デスゾーンも一人が三人になる技だからそりゃ三人技になる。シャチも必殺技としてなら出てきたり動いたりはセーフなんだろ? ……これも駄目だったか?

 

「はわわ……しゃち、あもん、すきー」

 

 そんな崖の上のやつみたいなこと言ってもここにハムラーメンは無いぞ。ラーメン、ラーメンなぁ……宇宙人騒動終わって時間作れたら雷雷軒でラーメン食べるか。

 

「いいねえいいねえ、シャチは地元の人に愛される味ってのも好きだよ……あん? ちょっいつもの倍以上バーニングしてない?」

 

 はい?

 

「最後らへんの整理が? できた? 嘘つけそれどう見てもできてないじゃんかお前一緒に必殺技でテンション上がったからって早くしようとしたんだろうがそれはダメだってお前ー!」

 

 えっあっちょ――。

 

 

 

『彼女を殺させはしない』

 

 それは記憶。もうノイズは無い。

 

『やはりあの人間を逃したのはお前か』

 

 一歩踏み出したその男は、

 

『返せ、それは俺の飯だ』

 

 魔界軍団Zのキャプテン、デスタ。

 その後ろに従うは10の悪魔。

 

『お前一人で俺たちに勝てると思っ︎ているのか!』

 

 言い訳は無い。媚びる必要も無い。どうにかして彼女がこの悪魔達から逃げられる時間を作れさえすれば、それだけでいい。

 

『分かっていたとしても、しなければならない時がある』

 

 ここに審判はいない。場の区切りもない。終わりを告げる鐘もない。悪魔達は悪魔らしく殺しにかかるだろう。無慈悲に、残酷に、笑いながら。

 

 守らねば、ならない。何をしてでも。

 それだけを胸にして立ち向かう。

 

 

 

 突然視界が元に戻る。

 

「えー……残念なお知らせです。必殺技一緒に打てるって喜びのあまりバーニングし過ぎてへたばってる。あれだね、遠足いけるって前日にはしゃぎ過ぎて当日の体力無くなっちゃうアレ。掛かりすぎたね。サッカーしたらまたバーニングして記憶ドラマ最終回放送が延びちゃうから試合には出ない方がいいかも……? うん、これはちょっと駄目みたいですね」

 

 えぇ……? そんなことある?

 

「エイリア学園の本拠地乗り込むぐらいには間に合わせるから安心しろ、だってさ……本当か? まず安心の使い方合ってる?」

 

 確かこの後にカオス戦あるんだが急に俺試合に出れなくなりましたってどう説明したらいいんだ。助けてシャチ!

 

「う、うぅーんいい感じにこう、後は任せたぞって駄目だな離脱する印象与えそうだこれだと」

 

 待てよ、発想を逆転させるんだ。まず原作に俺は何一つとして関係ないしなんか知らんが吹雪関係の展開が巻かれていて今かなり前向きになってる。それでも俺と一緒じゃないと吹雪は試合に出てこれないが……これ俺がカオス戦に無理して出る必要ある? 

 まずカオス戦の時吹雪ベンチだったよね。俺が無理して出たら吹雪も出てきてしまうのなら、原作に近付けるために二人でベンチ行くのが一番では?

 

 よって言うべき言葉は更に展開を巻き、かつ俺に近い吹雪をチームの方へ近付けるための「完璧になることの答えを教えられるのは俺じゃない。俺がいなくても吹雪はサッカーができるはずだ」――これだ! 俺が出ないなら吹雪も出ない、二人仲良くベンチ行き。完璧になることの答えは知ってるけど、今の状態で教えようと口で言っても本当の意味で理解はできないだろうからね。

 

「待った! 最後に『完璧になることの答えが分かったなら一緒にサッカーをしよう』という文の追加を要求します! あとチームの皆に完璧になることの答えを見せてやってくれ頼むぞって視線も追加!」

 

 いいなそれ〜! 許可〜!

 

「人間は勘違いをする生き物、シャチがフォローしないと亜門はその内勘違いで死ぬことになる、シャチ理解」

 

 なんか言った?

 

「イイエナニモ」




主人公
俺は人間をやめ……やめません!
分身ペンギンと分身デスゾーンのやり方教えてもらった。あと鬼道にお礼言ったら「何のことだ?」と躱された。はわわ……イケメン……。
説得ロールは成功。富士樹海突入するまで試合には出ないのが確定した。

シャチ
視線だけはまずったか……?言葉で言うべきだったか……?とハラハラしていたが勘違い回避成功を確認して無言のガッツポーズを決めた。
お前がナンバーワンだ。

⬛︎⬛︎⬛︎
名前を言うタイミングを逃した。でも俺の名前ややこしいし別にいいか……とこれからもタイミングを逃すつもりでいる。もう一人のボクって呼ばれるのも悪くないな。
元・魔界軍団Z所属。なんとか少女を逃した後自分も逃げたがずっと頭の中は人間を守らねば、がほとんどを占めていて目覚めた時もあれだったので暴走してしまった。
そんな俺を亜門なんだかんだ許してくれたし一緒に必殺技まで……?いいのか……?と絆されまくっている。

源田
実は鬼道は源田にのみ詳細を教えていた。つまり亜門が血みどろになった事を知ってる。おこ。ずっと無言だったのは口開いたら亜門に何で黙ってたんだ!と叫びそうだったから。
腕が完治したら亜門にはハイビーストファングでアイアンクローの刑が待っている。

鬼道
よし、源田には教えたとバレてないな……。
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