超次元な世界では勘違いも超次元なのか?   作:ウボァー

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アモンと亜門

 エイリア学園の本拠地、富士樹海の中にある星の使徒研究所。瞳子監督に案内されて入ったそこでお出迎えしてくれたのはガードロボ。

 

「あぁもう多い!」

 

 わらわらと出てくるロボ、ロボ、ロボ。銃火器で襲いかかってこないだけマシだと思いたい。まずなんでサッカーボールを射出するんだ。そこまで防衛に本気じゃないのは雷門とジェネシスで試合をさせたいからか?

 発射されたボールを蹴り返せば破壊可能だが、これはロボが脆いわけじゃない。こっちが相応に強くなった証拠だ。

 

「いつになったら進めるんやまったく!」

 

「くっ、このままだとキリがない」

 

 鬼道も呆れる程に続く波状攻撃。戦力の逐次投入は愚策だなんだと言われるが終わりが見えないというのは精神的にくるものがある。瞳子監督やマネージャー達が走り抜けられる隙間があれば、皆ここを突破できる。それは確信できるがその隙を誰が作るか、それが問題だ。

 ……本当ならいない一人がここにいる。なら、残るべきは誰か。

 

 発射されたボールを受け止め威力を殺し、必殺技のモーションへと入る。

 何度も。何度も何度も回転を与える――敵の妨害は届かない。既に空中へ飛んでいるから。ボールが天を舞うのを追うのではなく、共に上がりながら回転を加える。

 これが、モンスターファングの最終進化系。

 

「真、モンスターファングッ――おらぁぁあっ!!」

 

 数は同時に弱点にもなり、逃げるという行動を取ることができない。元より貫通力がウリの必殺技であるモンスターファングだが、進化することによりさらにその力は増した。ロボ達はまとめて貫かれていく。

 

「しゃーなし、ここは俺に任せて先に行け!」

 

「そんな、置いて行けません! 俺のムゲン・ザ・ハンドなら」

 

「それは走りながら使えるか? この量を相手に?」

 

 確かにムゲン・ザ・ハンドは対多数を相手にすることは可能。だが発動するのに精神の集中が必要な必殺技であり、目を閉じるその瞬間に攻撃が飛んでこないとは限らない。そう反論すれば立向居はでも、と言葉を続けようとして……やめた。ここで言い返しても何も進まない、それを分かっているから。

 GKは皆を信じて背中を見送る。時に遠く、時に近くへと距離を変える人影と共に勝利すると思いを込める。限られた時間の中で何度突破されても諦めない心。GKを任された者の責任と、守るという強い意志。立向居とはあまり話したことはないが、それがあると確信できただけで十分だ。ジェネシスとの試合で折れる事はない。

 

「亜門くん」

 

「――信じてる。行ってこい」

 

「……うん!」

 

「ならちゃっちゃと走れっ! もう一発――真、モンスターファングッ!」

 

 さながらモーセの起こした奇跡のごとく割れる人波ならぬロボ波。その間を駆け抜けるイナズマたち。

 

「亜門!」

 

 円堂が振り返る。

 

「絶対に、絶対に後から来いよ!」

 

 試合中に何度も聞いたよく通る声が耳に届く。ひらひらと手を振って返答し、一人ロボ達へと攻撃を再開し始めた。

 

 ――どうしてか、そう言わないといけない、と。これが今生の別れになるような。そうしないと消えてしまいそうな。円堂にはそんな気がした。

 

 

 

「うへえ……油くっさ」

 

 目につくロボを壊して、壊して、壊し尽くしてスクラップの大地に一人立つ。機械油が飛び散ってぬるつく廊下は好ましくないにおいで満ちている。

 金属片でシューズの底が切れないよう気を付けながら、かつ急いで奥へと走って――発砲音?

 

「――何、がッ」

 

 注射器にも似た小さなそれが腹に突き刺さっている。麻酔弾――? 引っこ抜けばじわ、と小さく赤色が滲むがすぐに傷跡は塞がる。ユニフォームを軽くめくれば元通りの皮膚がそこにあった。……異常な回復能力、人外の印。薬品の影響か、ほんの少しふらつく。

 

『毒か。動くなよ、全身に回る。分解は可能なものだな。待ってろ少し時間をくれ』

 

 もう一人の自分と重なって聞こえてくる擦れる音。スクラップから出るものじゃない。もっと別の、例えばそう、防具。

 

「伊冬塚亜門」

 

 重装備の部隊が俺を取り囲む。エイリア学園の黒服は裏から脅してくる奴らだったがこれは違う。戦争でも始めるのか、と問いたいぐらいの人数がどこからともなく現れる。

 たかが中学生一人にかける労力を遥かに超えている。ここまでされる理由に覚えは……ガイアとの練習試合をした時のことぐらいか。あの時点でグランの流星ブレードを止める必殺技を持つ人間は日本には他にいないだろう。奴らの情報収集力からすれば俺の人並外れた回復力についても知られている、か?

 

「大人しく投降せよ。さもなくば」

 

 タブレット端末に表示されているのは試合をする皆とジェネシス。そして、これ見よがしに天井へ設置された爆弾。誰もその存在には気付いていない。

 

「っ……人質か」

 

「もし抵抗をしたら……どうなるかは分かるだろう?」

 

 抵抗をした瞬間、ドカンとする腹積りだ。スイッチを持っているのが誰かは不明。まず起爆装置がここにあるのかも分からない。足元にサッカーボールはあるが、生憎俺は全方位に効く必殺技を持っていない。

 自分と彼らを比べる。一番被害が出ない選択肢は一つしかない。

 

「……おーけー、わかった」

 

 両手を上げ、ボールから離れる。

 

「……亜門」

 

「捕らえろ」

 

 発砲音があちこちから響く。逃げようがなかった。逃げる気もなかった。

 聞き慣れたシャチの声が、やけに遠く感じた。

 

 

 

「素晴らしい!」

 

 声、不愉快だ。気に入らない。

 

「この許容量、本当に人なのか――」

 

「これほどの適合率とは――」

 

「さらなる投与を――」

 

 多くの人間に囲まれている? それとも一人の呟き? わからない。

 動けない。瞼が重い。身体が熱い。

 俺は、何を、されている?

 

 細い金属の針から注ぎ込まれている。気持ち悪い。

 内側から変わっていく。気味が悪い。

 

「外からの刺激を意識しなくて良い。覚えなくても良い。だから記憶の続きを見ていてくれ」

 

 気が付いたら精神世界でもう一人のボクにぎゅっと抱きしめられていた。

 ……いいのか?

 

「安心しろ。動けるようになったらあれを全部シメてくるからな」

 

「ぴぇ……」

 

 ぎゅっぎゅをやめて顔を見合わせて話すもう一人のボクだが、俺と同じ顔なのに怒りと残虐さを隠せていない笑顔が恐ろしい。全身に鳥肌がぞわっと立って戻らない。

 

「シャチのフードあいつらにポイされちゃったから前と同じ亜門にくっ憑くモードにチェンジ〜。……で、悪魔が、具体的にどうするつもりだ」

 

 人間の姿でシャチが登場。途中からマジモードへと声色を変え、氷の視線で射殺さんと睨みつける。

 

「決まっているだろう。殺す」

 

「おいやめろ馬鹿」

 

 どこかへ行こうとしていたもう一人のボクの胸ぐらをシャチが掴む。

 

「ここは人の世だ。お前が使える肉体は亜門のものだろう、亜門を人殺しにするつもりか! ……罪には罰を、だ」

 

「……俺はこの方法しか知らん」

 

「人と共に過ごす中で何を見ていたんだお前。シャチに考えがある。……辛いだろうが皆へ色々と勘違いさせなければならないものだが……その分ヤツへの罰は重くできるぞ」

 

「ピョエ……」

 

 シャチもまた、見たことのない悪い顔をしていた。

 

「はーいここからはちょっと話し合いするから亜門は向こうで記憶見ててねー、良い子はビデオを見る時間よー」

 

「そんなー」

 

 背中を押され無理矢理移動させられる。心地よい暗がりの中で、いつものような気の抜けた会話が救いだった。

 

 

 

「へえ、変なことしてるな。人間を飼ってるのか」

 

「……飼う、だと?」

 

「餌をやって、適度にストレスを取り、懐かせて、刈り取る。美味いのか? 養殖ってよ」

 

「……何のことだ」

 

「惚けるか。そりゃそうだよな、こんな餌場、他の奴らに知られたら食い尽くされちまう」

 

 本当に、意味がひとつも分からなかった。

 何を言っている?

 飼う? 養殖? 餌場?

 

「でも遅かったな、ついさっきデスタがちいせえ人間捕まえてたぜ? ニオイからして多分ここのヤツ」

 

 ずりぃな俺も食いてえな、余ってたらちょっと分けてくれないかな――その一挙一動に、音一つ一つに吐き気がした。信じたくない言葉があった。

 小さい、人間。まさか。そんなはずは。

 今日はまだ、彼女を見ていない。まだ家で寝ているだけだ。そうであってくれ。頼むから。

 

「ああ、ああ、貴方は――」

 

 村には戸惑う人々がいた。

 

「何があった!」

 

 村人から聞いた。あの人間はもうそろそろ食べ頃だ、ちょいと食ってやろうと悪魔が魔界へ連れ去ったのだと。誰も止められなかった。間に入ったら死ぬと、分かっていたから。それを咎める気はない。命は守らねばならないから。

 

「――許さん」

 

 あいつは仲間であったはずだ。逆らうなど許されない行為だ。……自分だって、最初にやろうとした行為だ。なのに何故、怒っているのだろうか。

 足は奴らの住処へ向かっていた。

 

「待ちなされ! まさか貴方が、」

 

「取り戻す。必ず戻ると約束する」

 

 ああ、そうだ、これがあいつらには無いもの。過去の記憶が、思い出が、ささやかな時間が、全て俺の中の大切な力だ。

 息をする。まだ、動ける。

 

「ックソ……なんで、まだッ……死なないんだ!」

 

 骨は折れている。血を流している。全身に無事な箇所なんてないし、その背に羽は無い。デスタに引きちぎられたから。

 それでもなお、彼は立っている。

 

「守らねば、ならないからだ」

 

「ごちゃごちゃウルセェッ!」

 

 大振り。当たらない。

 

「……もう大丈夫、か」

 

 口の中は当然切れている。奥底から込み上げる炎を吹くのではなく、飲み込んで内側で回す。傷跡から炎が噴き出す。背中の傷跡からより大きく吹き出した炎を羽の代わりにし、数度羽ばたく。

 

「待ちやがれ!」

 

 空に舞う彼を誰も止められなかった。いったいどれほどの時間戦っていたのだろうか、皆疲れ切っている。

 このままあいつが逃げおおせて俺達の負けか? 否、悪魔を裏切ったのだ、ただでは済まされない。呪いの籠った傷跡はいくら年月を経ようと完全には癒えないだろう。いつかどこかで野垂れ死ぬ。

 

「ハッ! いいさ、どこへ逃げたって無駄だ、いつかお前は必ず死ぬ。俺達を裏切ったお前もまた誰かに裏切られるだろう!」

 

 呪いが強まる。悪魔の中で最も強靭であり、不和を招く能力を持つ彼の名前を、デスタは叫んだ。

 

「――アモン! お前は、何一つとして守れずに死ね!」

 

 憎悪の籠った声が反響する。……言葉だけでは、彼を地面へ引きずり落とす鎖にはなり得なかった。ただ、身体の、魂の深く深くへと杭を打ち込むことはできた。

 

 そして……そうだ。俺は、約束を――守れなかった。

 無事に逃げ出した彼女を見つけ、帰ろうと声をかけた。

 本当の姿を見せたのは、これが初めてだった。人間にとって悪魔は忌むべき存在、捕食者。俺を見た彼女は、差し出した俺の手を拒んだ。反射的なものだった。

 人と共に過ごしていても、根本が悪魔の俺が一緒に、なんて夢物語にすぎない。叶うはずのない願いが真実だと明らかになった、それだけのこと。

 

「……………………あ」

 

 俺は、彼女を、守れない。震える声が、溢れ落ちそうな涙が、目に焼き付いて離れない。

 ……この島は大丈夫だ。じきに天使があいつらをまた封じる。なら俺は、どこへ行こう? 羽を広げる。ここではないどこかへ行かないと。

 

「まもらねばならない」

 

 住処も仲間も居場所も理解も全て失って、それだけが存在意義になった。

 

 

 ……ああ。今思い出しても滑稽な、昔話だ。

 

 

 

 ――シャチの作戦はこんなわけでアレアレコレコレでいくつもり。動き理解した?

 

『ああ。…………それよりも今動いてはいけないのか』

 

 ――駄目だって言ってるでしょうがぁ!

 

「伊冬塚亜門! お前は最高のハイソルジャーになるのだぁ!」

 

『誰がなるかそんなもの』

 

 効力を増したエイリア石をこれでもかと亜門にぶち込んだ男――研崎竜一は計器が示す数値を見て興奮を隠せないでいた。自身の欲望、世界征服のため作り上げたダークエンペラーズは不完全。完成されたハイソルジャーはこいつ一人。これを意のままに使えばなんだってできる。

 何よりも異常なのは回復力と親和性、実は本物の宇宙人だと言われた方が納得できる。

 不安要素はあった。他の面子と違い、彼は自分の意思でダークエンペラーズに加わったのではない。脅迫はもう通用しないのなら別の方法を使えばいいだけのこと。

 

 彼へと与えるエイリア石に込める思いはただ一つ。私の道具になれ、と。手始めに雷門を潰せ、力を見せつけろ。

 

『――その思い、これほどの力。仲間の敵になれ、と? つまりは不和、だな……?』

 

 エイリア石がもたらす力を一身に受け、悪魔は完全復活した。してしまった。亜門の体はアモンのもの、魔界の力を宿した人ならざる存在。

 こうなってしまえばもう普通へは戻れない。先にラインを踏み越えたのはどちらだ?

 

 ――あーあ、怒らせちゃいけない存在に手を出しちゃったか。逆鱗タッチピンポンダッシュして逃げられると思ってるのかな? 人間好きなシャチでもこれは擁護するの無理だね。……うん、知ーらね!

 

『は、は、ははは――許さん』

 

 魔界の炎、幾年経とうと消えることなき想いはここに。

 

『俺が守ろうとしたものへ手を出した。その罪は重いぞ――!』

 

 

 

 亜門へそんなだらしのない姿を見せるつもりか。豪炎寺からの喝が身に染みる。

 ああ、そうだ、僕は一人ぼっちじゃなかった。手は、とっくの昔に差し伸べられていたんだ。

 立ち上がる。光の向こうへと進み、手を取る。君があの時見せてくれたように。

 

 アツヤ。もう一人の僕。失ったものを埋めようと作り上げた人格と僕が溶けて混ざる。もうアツヤがいなくても大丈夫。皆と一緒だから、そう告げると昔みたいにアツヤが笑ったような気がした――さようなら。

 心を閉ざしていた雪はもう無い。孤独の寒さを凌ぐためのマフラーはもういらない。白布が空に舞う。

 

「これが――完璧になることの答えだ!」

 

 それは二人で考えた必殺技。完璧になった証拠。皆と一緒に完璧になった、証拠。

 狼が、咆哮した。

 

 

 

 完璧になることの答えを、見つけたのに。一緒に試合をと約束をした、そのはずなのに君がいない。崩れ落ちる建物の中から先に逃げたのか? 誰も知らない。分からない。

 再会はそう遅くなかった。けど、無事でよかったなんて駆け寄ることはできなかった。

 

 認めたくなかった。雷門から離脱したメンバーを集めて作られたチーム――ダークエンペラーズ。皆エイリア石を身につけ、新たなる敵として立ちはだかったその中に、

 

「調整は終わったか? あれを出せ」

 

 そこにいたのは、だって、

 

「……試合…………か」

 

 フードはなかった。白い髪は黒く染まり、目は黒と白が反転した、まるでデザームみたいな色をしている。ころころ変わっていた表情は嘘みたいに固まってて、今まで一緒にいて一度も見たことがない姿になっていた。

 

「どうして、君がそこにいるんだ――亜門!」

 

 目の前には、ダークエンペラーズのユニフォームを着た亜門がいた。




主人公
研崎竜一によってダークエンペラーズ入り(強制)した。
実は捕まってからまだ自分の意思で身体を動かしていない。作戦って何?勘違いって何??教えてよシャチ。

シャチ
愚かな人間もいるけど優しい人間もいるのは分かってます。
人殺しはさせるものかとストップ役を務めている。シャチがいなかったらとんでもないことになってると思うの。
研崎竜一?試合終わっても生きていられたら……いいね……。

⬛︎⬛︎⬛︎改めアモン
身体が先か魂が先か、奇しくも響きが同じ名前だった。どこかで縁があったのだろうか?
一番キレている。悪魔に手を出したその意味を知れ。
捕まってから身体を動かしているのはこっち。亜門が考えていた分身をすることにより使う三人技の使い方は分かっている。あとは亜門からゴーサインを貰うだけ。
研崎竜一?……一発だけなら誤射だろう?
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