ホグワーツの司書   作:影尾カヨ

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ハーマイオニー・グレンジャー:5

 6月が近づいた頃。それは生徒にとって試験の最終日であり、僕にとってはバックビーク処刑の日だった。

 

 僕はハグリッドの小屋を訪れる。あの裁判があった日から彼の気分は深く沈んでいる。何せ信頼しているダンブルドアがバックビークの処刑を支持したのだ。

 その時の事を校長に問い詰めると

 

『今は1つの命に過ぎんが…時が来ればより多くの者を助けることができるじゃろう』

 

 という、要領を得ない答えが返ってきた。抱いた感想としては『ふざけるな』である。いきなりやってきて場を乱し、自分の思う様に変えては他者をはぐらかす。そういう人なのだと理解はしているが、納得しろと言われると無理だ。

 一応、本人も今回の事は罪悪感があるのかバックビークの処刑の際にはハグリッドに付き添うと言っている。僕も裁判で弁護した身としてそうするつもりだ。

 

 

「スコープさん‼︎」

 

 そのために早目に図書室を閉めた時だった。グレンジャーとポッターが、ローブで顔を隠して僕の所へ駆け込んできた。見ればローブの下は私服だし、顔にはまだ新しい傷がある。

 何か事件でもあったのか?

 

「どうしたんだい、2人とも。そんなに血相を変えて」

 

 只事ではないと判断し、とりあえずは話を聞く。

 

「私達は3()()()()から来ました」

「…なるほど」

 

 逆転時計(タイムターナー)か。彼女はその危険性をよく理解している。過去の人物に見られてはいけない。ローブで顔を隠して、だがそれでもなお、僕を探したのは訳があるはずだ。

 

「ダンブルドアが貴方を頼れって。唯一の…『予言を変える方法だ』って言ったんです」

「予言…かい?」

「どんな内容かは言ってくれませんでした」

 

 少し思考に入る。ダンブルドアが言う予言は、僕も聞いていない。だがその上でそう指示したのなら、僕の行動は何か大きな変化をもたらすのだろう。

 

「教えてくれ。これから何が起きるのかを」

 

 僕は聞いた。バックビークの処刑のこと。ブラックの発見のこと。ペティグリューの発覚のこと。ルーピンの変身のこと。そして彼女らの居た『3時間後』はブラックの処刑が始まる時間だということ。

 僕がどの様に関わるかは、未来が変わるかもしれないから言えないらしい。もっともな判断だ。あくまで僕が自分の意思で動くことが重要なのか。

 

「…どうするべきか」

 

 下手に手を出して事態を悪化させることも考えられる。ならば通常通りに動き、事態に備えることが最良か。あるいはここにいる、『3時間後から来た彼女ら』の補助をしてもいい。彼女らの今後の予定を訊くとハグリッドの小屋でバックビークを逃がすつもりらしい。

 

 なら僕は彼女らが動きやすいようにサポートしよう。

 

 

 ハグリッドの小屋には『今の時間』のポッターら3人組が先客として居た。なるほど。『3時間後の彼女ら』が慎重になるわけだ。僕に姿を見せたのは異例…ダンブルドアの指示があったから。他の人にバレるわけにはいかないだろう。

 

「少し風がうるさいね」

 

 僕は窓を閉め、彼らの視界を遮るように立つ。さりげなく外を見ると彼女らがカボチャ畑に隠れているのが見えた。バックビークは外に繋がれているが、一度処刑人らにそれを見せる必要がある。そうしないとハグリッドが逃したと思われるだろう。それは防ぎたい。

 

 ハグリッドはウィーズリーにネズミを渡した。一瞬しか姿は見えず、すぐに彼のローブに隠れてしまった。だが間違いなく、その姿はペティグリューだった。ブラックが正しいわけだ。彼の冤罪を晴らすには、何としてもその正体を白日の元に晒さなければ。

 だが不用意に動くのはダメだ。まずはポッターに真実を教える。だがそれは僕の役割ではない。ブラックが『叫びの屋敷』でする事だ。今は知らないフリをするか。

 

「君らまでここにいるとは思わなかったよ。寮に篭っている方が良いんじゃないかな?」

「ハグリッドが落ち込んでるのにじっとしてるなんてできません」

 

 友人だからというポッターの眼には、処刑という行為への不満だけが読み取れた。それを見ることの覚悟がまるで無いようだった。僕はハグリッドに視線を送り、少年らを追い払うよう訴える。

 

「…スコープさんの言う通りだ。お前らはここに居ちゃいけねぇ」

「でも…」

「でももくそもねぇ。俺は()()()()()()()()()()として言ってんだ」

 

 ダンブルドアはハグリッドが教師を続けられるようにした。彼はその責務を彼なりに全うしようとしている。

 

「…それにどうやら…()()も来たみたいだよ」

 

 城の方からダンブルドアが処刑人を引き連れて歩いてくるのが見えた。

 

 ここからが僕の役割だ。彼らを長く小屋に留め、バックビークを逃す時間を稼ぐ。

 

 

「貴方の面の皮の厚さには感心するばかりですよ。ダンブルドア校長」

 

 とりあえず校長を煽る。

 

「ほほぅ。君がそこまでワシに苛立つとは珍しいの」

「よく言いますね。…全部仕組んでいるクセに」

 

 他人の掌の上で踊るのは嫌いではない。そもそも僕の人生はアレクサンドロスの戯れのようなものだ。だがそれを知らずに踊らされるのは誰かの駒になった気分がして非常に腹が立つ。

 

「僕は貴方の事を信頼していますが…」

「無理に従う必要はないぞ、ライアス。君が嫌だと言うのなら裏切ってくれても構わん」

 

 そういう言い方をされると裏切る気も無くなる。

 委員会の男がハグリッドに処刑について説明している間に、僕はダンブルドアに予言の事を尋ねた。やはり詳細は教えてくれなかったが、どうやら『彼』の復活に関わることらしい。

 

「それは…何としても変えなければなりませんね」

「その通りじゃ。そして君ならそれができると思うておる」

 

 何がその要因となるか分からない。ならば、自分のすべき事をするしかない。

 

「結果として変えられるかは分かりませんよ」

「それならば予言が真に正しいものと確信することができるのぉ」

 

 どう転んでも自分のためになるようにしているわけか。相変わらず食えない爺さんだ。

 

「貴方が僕に期待するのは『スコーピス』だからですか?」

「…それもある。…じゃがの、君がどこの生まれてであろうと信頼は変わらぬよ」

「…ご期待に添えるよう尽力しますよ」

 

 

 僕とダンブルドアはさりげなく処刑人らを小屋に引き留め、バックビークを逃す時間を稼いだ。おかげで外に出た時には、獣の姿は影も形も無かった。

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