次の話できちゃったんで、書いて出ししていきます。
書き散らしで恐縮です。
たづなさんと沖野トレーナーが立て続けに来た翌日。
基本的にウマ娘の足回りに関しての調整、修理、補修が生業の工房に、来客は多くない。
せいぜい、一日に数人来れば多いほうで、一人も来ないなんて日も珍しくはない。
ウマ娘のシューズや蹄鉄は、多くのメーカーから多種多様なモノが発売されている。入手についても他のスポーツ用品と同じく今は普通に店舗や通販で手に入る。
男は入学したてのウマ娘たちにシューズや蹄鉄に関する講義も受け持っているが、それもガイダンス的な講義を入学直後に3時限程度、行うだけだ。
トレーニングやレースを通して、足回りに問題を抱えるウマ娘は少なくないが、それはだいたいトレーナーの段階で解決され、男のところまでたどり着くことはあまりない。
トレセン学園に雇われ、敷地内に工房をかまえているといっても、今となってはそれはウマ娘たちのさまざまなものが手に入りづらかった過去から続く因習によるもの、という気がする。
そんな認識をもちながらも男は、市井の装蹄師として生業を立てることが難しい昨今において、今のように遇されることに感謝して、日々工房を開いている。
男は朝から、昨日打った蹄鉄の仕上げ磨き作業をし、概ね満足のいく仕上がりにするために午前中を費やした。
出来上がった代物を木箱におさめて一息ついていると、工房に今日初めての来客の声が響いた。
「鉄のおっちゃーん、いるー?」
入口に立っていたのはウマ娘の中でもひときわすらりとした長身が目を引くウマ娘だった。
「ん…ゴールドシップか。どうした?」
入り口から男のいる作業台までずかずかと入り込んだゴールドシップは、両手にひとつずつもった蹄鉄を差し出した。
「ちょっと蹄鉄がゴルシちゃんのパワーに負けちまってよー。このままじゃゴルシちゃんの熱い走りに差し支えるから直して欲しいんだZE!」
トレセン学園が今も男を雇い、工房を維持し続けているのは、こういったウマ娘たちの足元の不具合に迅速に対応する役割を期待されてのことだ。
ゴールドシップが差し出してきた蹄鉄を手に取る。
アルミ合金製の競技用蹄鉄だが、歪みと深めのキズが目立つ。
「んぁ…結構がっつり歪んでんな…お前どこ走ったんだ…?」
しっかり計算しつくされて製造・販売されている量産品の競技用蹄鉄だ。芝やダートを走った程度でこんなことになることはまずない。
「そりゃおめー、海辺の岩場だよ!」
「!?」
「昨日トレーナーが早く練習終わりにすっから、そのままひとっ走り行って海辺でお宝探ししてたんだよ!」
なるほど。
「夕暮れの岩場でワカメみてーなのと鯛をざくざく狩ってたらこうなっちまったんだよ。なぁおっちゃーん、直してくれよー」
なるほど。
ゴールドシップの珍行動は学園内でもつとに有名だ。
奇妙なことを言っているように聞こえるが、概ね事実なのだろう。
今更驚くこともない。
「競技用の蹄鉄だからな…岩場じゃあ蹄鉄が負けんだよ…ていうか、岩場じゃ滑りやすいんじゃないか?」
ただでさえパワフルなウマ娘、その中でも無尽蔵とも言われるスタミナを持つゴールドシップである。
蹄鉄メーカーが想定するとは思われない、凹凸の激しい硬い岩場での酷使に、競技用蹄鉄では耐えられなかったのだろう。
「歪みはとってやるけどキズは深すぎて無理だ。それに一度歪んだ金属は強度が落ちる。今日の練習くらいには耐えられるだろうが、そのあとはもう交換しかないぞ。あと海辺にこの蹄鉄はやめておけ。滑って怪我するぞ」
蹄鉄を金槌で軽くたたきながら、歪みを取っていく。
「わかったよーおっちゃん…今度から気を付けるからさぁ…あ、今度スゲェ頑丈な蹄鉄つくってくれよ!岩場でもガシガシいけるようなやつ!」
「遊び用じゃねぇか…」
「たまにはいいだろー!ゴルシちゃんスペシャル仕様の蹄鉄!なぁおっちゃーん…」
まぁ、たまにはいいか。
新しい要素に挑戦するのは、刺激にもなる。
「わかったよ。岩場でも滑りにくくて怪我しないようなやつ、考えておく。それまでは無茶すんなよ」
と、会話をしている間に修正が終わった。
「ほれ。できたぞ。早いうちに新しいのに変えるんだぞ」
「おっちゃんサンキューな!」
「あ、ちょっと待て」
修正した蹄鉄を受け取ってそのまま走り去りそうなゴールドシップを呼び止める。
「これ、おまえんとこのトレーナーに渡しておいてくれ」
さきほど蹄鉄をおさめた木箱を渡す。
「なんだぁ?コレ。お宝か??」
ゴールドシップは木箱を受け取ると、黙っていれば怜悧な美女に見える顔に幼子の好奇心の塊のような表情をつくり、中身を知りたがった。
「文鎮だよ文鎮。暇にあかせてつくったんだ」
「文鎮~?あれか?投げて投擲距離を競うやつか?」
「それは砲丸。これはペーパーウェイトだよ。誰かさんたちのための書類仕事が多いお前んとこのトレーナー様への献上品だ。丁重に運ぶんだぞ」
「おう!ゴルシちゃんまかされたZE!ゴルシちゃんのスペシャル蹄鉄も楽しみにしてっから、よろしく頼むぜ!んじゃな、鉄のおっちゃん!」
「おう。頼まれた」
つむじ風のような来襲となったゴールドシップを工房の入り口まで見送ると、外のふるぼけたベンチに腰掛け、煙草を一本取り出し、火をつけた。
「お遊びとはいえ、あいつが怪我しねぇもんつくってやんねーとなぁ…」
「鉄のおっちゃん」と呼ばれた男は、ゆっくりのぼっていく煙草の煙を目で追いながら、ゴールドシップから与えられた課題に思索を巡らせた。
なんかゴルシでてきちゃった…