皆さま投稿間隔があきまして申し訳ございませんでした。
生業の方がとんでもなくしんどい時期を迎えておりまして、とはいえストレス発散も兼ねましてスキマ時間でなんとか仕上げました。ちょっと粗が目立つかもしれませんが、ご笑納ください。
ウオッカの救出のために一旦コース上には赤旗が振られ、コースに出ていた面々はピットに戻ってくる。
ウオッカもオフィシャルの手によりすぐにカートごとクラッシュパッドから引き出され、自走で戻ってきた。
うまくパッドにハマったおかげで怪我もなく、マシンの損傷もないようだった。
「こら!遊びで怪我するようなことするんじゃない!」
沖野が幼い子供を躾けるような口調で叱る。
「すんませーん…ゴールドシップ先輩を追いかけようとしてスピンしちゃいました…」
「おうおう!ゴルシちゃんについて来ようとするなんて5年早いZE☆!」
「アンタなんでそんな無茶ばっかするのよ…こういうのは少しずつ慣らしていかないと怪我するわよ!」
「あぁぁぁん!オレだってカッコよくドリフトキメてえよぉ…ゴールドシップ先輩!コツ教えてくださいコツ!」
「ウマ娘は度胸だぁっ!」
コースを走った面々はテンションが上がってワイワイやっている。
リギルの面々はこれを期にドライバー交替とばかりに、早速次の番の娘が乗り込み始めていた。
こういうところにチーム色が出るなぁ…とヘルメットを脱ぎながら男は眺めていた。
「処理終わったんでコースあけますよ!」
オフィシャルがコントロールラインでグリーンフラッグを振り、ピットレーン出口の信号も青になる。
「沖野サン、出るっスよ~」
後輩が先ほどまでグダグダしていたスピカ陣から沖野を引っ張り出してカートに押し込み、軽く打ち合わせをしたあとピットアウトしていった。
ドライバー交替したウマ娘たちを、今度は後輩が引っ張って走行していく。
3周ほどすると後輩は後ろに合図を送り、装蹄師の男の時と同じように加速して皆が自由に走り出す。
装蹄師の男はそれをピットウォールから眺めていた。
それにしてもやはり、ウマ娘たちは現役のアスリート、しかも走ることを生業にしているだけのことはある。
程度の差はあれど、みるみるうちに乗りこなしてペースを上げ始める。
今走行している中ではマルゼンスキーが図抜けて上手いものの、ヒシアマゾンやグラスワンダー、サイレンススズカやダイワスカーレットなどもうまくリズムを掴んで鋭いコーナリングを見せたり、ラインの読みが今日初めて乗ったとは思えないほどに冴えだしている。
ただ、レース中に減速するということが基本的にないウマ娘たちだけに、ブレーキングだけは苦労しているようだった。
「…兄さん、ちょっといいかな」
気が付けばピットウォールでコースを見つめる男の隣にシンボリルドルフが来ていた。
「どうかしたか?」
「練習走行の時間中だが、今のうちに一度みんなを集めて、コース攻略を解説してくれないだろうか。どうにも皆、闘争心のほうが前に出てしまっていて、無茶をしがちに思える」
確かに、ブレーキングもバラバラ、後ろを見ているのかどうかもわからず、後ろから来ているのを譲るにも怪しげな動きが散見される。
「わかった。とりあえず一巡しただろうから一回皆に入ってもらおうか」
オフィシャルに話をし、一旦区切りのよさそうなところでチェッカーを出してもらい、皆がピットに戻ってきたところで全員を集めてもらう。
「よーし揃ったな。みんな一通り乗ってみたと思うけどどうにも危なっかしいから、基本的な解説をするぞー!」
男はコントロールタワー脇のコース図の横に立つと、一席ぶち上げた。
「まず、タイヤ。これが、君たちで言うところの蹄鉄! カートのフレーム、これが君たちでいうところの骨!」
彼女たち自身になぞらえて、各部の役割を簡単に整理させる。
「そんで、コーナー回るときの基本はアウトから入ってインをついてアウトに出る。だけどどこで一番インにつくかでアクセル全開にできるポイントが変わる。そこを頭使って考えられる奴が速くなる」
速くなる、という言葉に娘たちの耳がぴくん、と反応する。
「…もっといえば次のコーナーまで考えてクルマをどこにもっていくか、そのためにアクセルをどれだけあけられてどれだけブレーキ踏んで…とコースを順番に考えていくと、おのずと一番速く走れるラインは絞られてくる。君たちがレースで位置取り駆け引きしてるようなもんだ」
娘たちの瞳が鋭くなる。自分たちの経験と引き合わせて考えているようだ。
「そしてそれを正確に操作して実現できる体力と腕、冷静に周りの状況、路面、カートの状況を把握し適切な判断を下せる冴えた頭!これが大事だ」
「要は熱い心に冷たい頭脳!どれが欠けてもうまく走れないぞ!」
装蹄師の男は檄を飛ばすように強く言い放つ。
「あと、お前ら抜くのも抜かれるのも下手すぎ。抜かれるやつは進路を譲れ。じゃないとクラッシュだ。よく後ろを見ろ。抜く奴は無理に仕掛けないで安全に抜けるポイントを狙え。今から実演してやるからよく見とけ」
そういうと男は後輩とマルゼンスキーに声をかける。
「3周限定で模擬バトルやるぞ」
マルゼンスキーはうふふ、そうこなくっちゃ、と笑いながらヘルメットを被った。
マルゼンスキー、後輩、男のカートをホームストレートに並べる。
先頭にマルゼンスキーとし、男と後輩はハンデとばかりに15mほど後ろに並ぶ。
「お師匠さん、そんなにハンデくれちゃっていいのかしら♪」
「どうかな…そうだな、マルゼンは最後の1周まで逃がしてやる。それまではコイツと遊ぶさ」
「お、先輩言ってくれるっスね。マルゼンさんとバトるのはこの俺っスよ」
後輩もニヤニヤしながら乗ってくる。
コース全体が見渡せる場所で見ているウマ娘たちにも、やりとりは聞こえていた。
「コース取りと抜き方、抜かれ方をしっかり理解しなくちゃね…コレ、私たちのレースにも役立つんじゃない?」
ダイワスカーレットは隣のウオッカに話しかける。
「熱いハートだけじゃ速く走れねぇかぁ…」
ウオッカはさっきの男の話に、気合だけでは通用しないことを学んだようだ。
「レース勘ってやつだよな…センスだとかいってふわっと片付けるところもあるけど、紐解けばそういう状況判断力ってのは、お前らのレースでも変わらず必要なものだぞ」
沖野が二人のやりとりに補足を加える。
「沖野トレーナーの言う通り…だが、それらを踏まえた上で熱いハートが最終的に勝負を分ける…どれかひとつ欠けても、勝敗はついてしまうものさ」
シンボリルドルフがコース上に視線を定めたまま、呟いた。
「さっすが、カイチョーの言葉は重みが違うネ!」
トウカイテイオーが茶々を入れる。
「あ、そろそろスタートするみたいだよ」
フジキセキがシグナルに赤が灯ったのを見て、言った。
シグナルに青が点灯し、3台はエキゾーストノートを高まらせてスタートした。
マルゼンスキーが悠々と1コーナーに突入しコーナリングしていく中、後輩と装蹄師の男は互いに一歩も譲らないまま、インに後輩、アウトに男のままブレーキングに差し掛かる。
「アウトで粘っても無駄っすよ!」
後輩はインをキープしたまま器用にハンドブレーキをコントロールしコーナリングしていく。装蹄師の男はセオリーに従ってぴったりと後ろに付けてコーナーを立ち上がった。
「先輩はほっといてマルゼンスキーさん追いかけるっス!」
後輩は猛然とペースを上げる。
マルゼンスキーはさすがに慣れている、どころかカートの腕も磨いているため、メリハリのついたドライビングで2つ先のコーナーを悠々と駆け抜けていた。
「蹄鉄の先生、様子を伺ってるのかしら…」
サイレンススズカが呟く。
先ほどから装蹄師の男は後輩とはラインをずらし、常にコーナーでインに飛び込める体制を作りながらも差しに行かない、という走りをしている。
「…プレッシャーをかけながらも、後輩クンにマルゼンスキーを追わせてるんじゃないかしら…」
東条ハナがスズカに応じる。
「抜くに抜けない、ようにも見えるが…あのように先生に後ろから突かれながらもミスをせずにマルゼンを追い続けられるというのも、なかなか図太いな…」
エアグルーヴが意図を図りかねている間にも、後輩と男は鍔迫り合いをしながらマルゼンスキーとの差を詰めはじめている。さきほどまでコーナー2つあった差が、すでにコーナーひとつ分まで減った状態で、最終コーナーにさしかかってくる。
「もう、後ろ二人はベッタリ張り付いてますわね…」
メジロマックイーンは後輩と男のカートの連結されているかのような距離感での最終コーナーからの立ち上がりに釘付けになっている。
「センセイはスリップストリーム使ってストレートで並ぶつもりだなぁ」
ゴールドシップがさりげなく解説を繰り出す。
「なんですの?その…すりっぷ…?」
「スリップストリーム!タイキシャトルさんとのトレーニングで習いました!」
スペシャルウィークが天真爛漫な答えをしている間に、男がストレートを半分ほど来たところでイン側に振り出した。
「ブレーキング勝負だ!いっけぇぇぇ!」
ウオッカがテンション高めの声で叫んだ。
装蹄師の男はインに振りつつハードなブレーキングで姿勢を乱しそうになる車体を小刻みにカウンターを当てながら流して1コーナーに突っ込み、マルゼンスキーとの差まで詰めていく。
後輩は装蹄師の男の突っ込みをブロックすることなく行かせ、自分は無理なく1コーナーをアウトから切り込んでラインをクロスさせ、早めのアクセルオンで今度は装蹄師の男にぴったりと張り付いた。
「ギリギリの勝負…ですね…まるで、刀の切っ先で踊るような…」
じっと駆け引きを見守るグラスワンダー。
マルゼンスキーを先頭に、電車ごっこをするかのように連なってコースを行く3台のカートに、ウマ娘たちは釘付けだ。
「…これはマルゼンもちょっとプレッシャーかかってきちゃったね」
フジキセキが爽やかに微笑みながら隣のヒシアマゾンに囁く。
「マルゼンと先生のタイマン!だな」
しかし最後尾の後輩も装蹄師の男にぶつからないのが不思議なくらいの張り付き方でぴったりと追走していく。
結局1コーナーから最終コーナーまで、びたびたに張り付いたまま2周目のホームストレートに戻ってくる。
マルゼンスキーを先頭にスリップストリーム三重連となった一団がホームストレートを駆ける。
最初に動いたのは最後尾の後輩だった。
先ほどの男と同じようにイン側に振り出し、ブレーキングで前に出るのを狙う姿勢だ。
それに間髪入れずに装蹄師の男はアウト側に出て、マルゼンスキーを真ん中に3台並んでブレーキングに入っていく。
「エキサイティング!スリーワイドデース!」
エルコンドルパサーがこぶしを振り上げ、周りのウマ娘たちは一触即発、ステアリングの一振りで接触してしまうギリギリの勝負に息をのむ。
スリーワイドでのブレーキング勝負はイン側の後輩が競り勝ち先頭へ出、アウトから入った装蹄師の男はコーナー後半でマルゼンスキーとラインクロスして加速で前に出た。
観覧ウマ娘たちから思わず感嘆のため息が漏れる。
「あれ…マルゼンスキー先輩、怖くないのかしら」
ダイワスカーレットが冷静な声音で、それでも興奮を隠しきれずにひとりごちる。
「…信頼、してるんでしょうね…お互いの腕前を…」
東条ハナがバトルを見て熱くなっている娘たちを横目にため息まじりに応じた。
「はぁ~…もう、ヤになっちゃう!スリップの先頭なんて貧乏クジ引かせて…」
模擬バトルを終えたマルゼンスキーがヘルメットを脱ぎながら苦笑いをしている。
「すまんすまん…でもあのブレーキング勝負、真ん中で引かずに張り合ってくると思わなかったよ。ウデ上げたなぁ」
装蹄師の男が楽しそうに笑いながらマルゼンスキーに応じる。
「いや…先輩えぐいっスわ…最初のプレッシャーのかけ方、性格悪いっス…」
「みんな見てたか?要は無茶な動きはしない、抜きにかかられたら無理に競りかけたりブロックせずにいかせる、そして後ろから次の機会をうかがう、これを意識してるだけで無駄なクラッシュはだいぶ減るぞー」
模擬バトルというオーバーテイクショーを見せられたウマ娘たちは、一様にテンションを上げつつも、熱い心に冷たい頭脳、という男の言葉を胸に刻んだ。
今回はとりあえず一言でも全員しゃべらせてみる試みです笑
むずかしいですね…