ようやく仕事が少しだけ落ち着きましたので投稿再開いたします。
これまでで一番長いこと時間をあけてしまったので、若干内容・文体ともおかしな点があるかと思いますがリハビリにお付き合いください。
引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします。
装蹄師の男たちによる模擬バトルのあと、練習走行で走るウマ娘たちのスキルはみるみる向上した。
さすがというべきか現役アスリートであるウマ娘たちである。スピードに慣れ、理屈を体で理解してしまえば、習熟は早い。
練習走行後にほとんど間をあけずに行われた30分間の予選結果が、彼女たちのポテンシャルを示していた。
【予選結果】
PP:マルゼンスキー
2:後輩
3:トウカイテイオー
4:装蹄師の男
5:シンボリルドルフ
6:サイレンススズカ
7:グラスワンダー
8:フジキセキ
9:ウオッカ
10:ダイワスカーレット
11:ヒシアマゾン
12:エルコンドルパサー
13:沖野
14:エアグルーヴ
15:東条ハナ
16:メジロマックイーン
17:ゴールドシップ
18:スペシャルウィーク
1/1000秒まで測られる計測システムであるから、残酷なまでに順位の上下として表現されてしまうが、ポールポジションを獲得したマルゼンスキーがそこそこの経験者であるにもかかわらず、1周1分もかからないこのコースで、トップからドンケツまでのタイム差は3秒を切っていた。
「先輩、これレベル高ぇっすよ…この娘ら、ほんとにみんな初心者なんスか?」
後輩が掲示されているタイムを見ながら頭を抱えている。
「もうちょっとこう、速いとこ見せつけてカッコつけれると思ったのに、俺全然余裕ないっスよ。全力っスよ」
装蹄師の男もまさかこれほどまでに彼女たちが飲み込みが早いというのは想定外であった。
「やっぱすげーわ、ウマ娘…」
装蹄師の男もこの結果には脱帽であった。
予選順位がついたからには決勝レースのペアも決まってくる。
それを整理すると次のような組み合わせになった。
【決勝 ペア耐久60分レース 出走ペア】
PP:1/18 マルゼンスキー / スペシャルウィーク
2/17 後輩 / ゴールドシップ
3/16 トウカイテイオー / メジロマックイーン
4/15 装蹄師の男 / 東条ハナ
5/14 シンボリルドルフ / エアグルーヴ
6/13 サイレンススズカ / 沖野
7/12 グラスワンダー / エルコンドルパサー
8/11 フジキセキ / ヒシアマゾン
9/10 ウオッカ / ダイワスカーレット
「…なんか既視感のあるコンビがちらほらいるなぁ」
コントロールタワー下に張り出された組み合わせ表を見ながら沖野が呟く。
「ちょっと競バ新聞みたく短評つけてみてよ。トレーナー目線で、ネ♪」
マルゼンスキーが沖野に水を向けたところ、ウンウンと唸りながらもさらさらと書いていく。
PP:マルゼンスキー / スペシャルウィーク 組
卓抜した技量で逃げるマルゼンスキーに天性の素質で尻上りに調子を上げるであろうスペシャルウィーク。レース中盤以降にスペが感覚を掴み切った後の爆発力に期待。
2:後輩 / ゴールドシップ 組
速さと経験は折り紙付きの後輩氏と奇抜卓抜天才ウマ娘ゴールドシップ。ゴルシが予選タイムで振るわなかったのはドリフトして遊んでいたから。後輩氏が御しきれればペアでの速さはピカイチか。
3:トウカイテイオー / メジロマックイーン 組
天才的な順応性で予選上位に食い込んだトウカイテイオー。ステイヤー気質のマックイーンが安定した走りでラップを刻めば上位フィニッシュも見えてくる。
4:装蹄師の男 / 東条ハナ 組
まさかまさかのヒト同士の組み合わせ。並みいる強豪ウマ娘たちを知り尽くした東条ハナの冷徹な分析力でレースでも活路を見出せるか。
5:シンボリルドルフ / エアグルーヴ
生徒会コンビがサーキットでも神威を見せつける。普段からの息の合ったコンビネーションで耐久レースもお手のモノ?
6:サイレンススズカ / 沖野
今を時めくURAのスター&トレーナーコンビ。お互いを知り尽くした師弟コンビでサーキットでも先頭の景色は譲らない!?
7:グラスワンダー / エルコンドルパサー 組
同級生でライバルの二人がここではペアでレースに挑む。グラスの冷徹無比な一閃とエルのパワフルな攻めの走りでトゥインクルシリーズ世代交代の時を告げるか。
8:フジキセキ / ヒシアマゾン 組
期せずして寮長ペア結成。フジキセキの魔法のように洗練された走りと、情熱溢れる特攻姐さんヒシアマゾンのワイルドなまくりで寮生たちに威厳を見せるか。
9:ウオッカ / ダイワスカーレット 組
普段から競い合うライバル同士が手を組んだ!予選でも競り合って仲良くタイムが並んでしまう珍事発生。両者力量が揃っているのはペアレースでは有利!
「ふむ…上手いものだな」
沖野が書き上げた短評をシンボリルドルフが読んでいる。
「は…恐縮です」
「おおぉ!トレーナーやめても記者で食っていけそうな切れ味だなぁ?」
ゴールドシップは軽く沖野を揶揄う。
「…カンベンしてくれよぉ。この仕事を取り上げられるくらいなら、一切この世界から足を洗うさ」
そう沖野は返すと、サイレンススズカとレースの打ち合わせをするべく、その場を離れた。
「さてエアグルーヴ、レース運びはどうしたものかな」
シンボリルドルフは傍らに控えていたエアグルーヴに問いかけた。
「そうですね、ルールでは連続走行は15分まで、と定められていますから、最低でも3回は交代が必要ですし…」
エアグルーヴはレギュレーションに定められた内容を考慮し、常識的な作戦を立てる。
レギュレーションは至って簡易なものであった。
・ドライバー1人の連続走行時間は15分まで。15分以上連続走行した場合は1分につき1周減算のペナルティ。
・ドライバー交替はオフィシャルに申告、確認の上安全に行う。
・ピットアウト指示は他車との接触など偶発事故を避けるため、オフィシャルが行う。
・給油は指定された場所でオフィシャルが行う。
・給油できるカートは2台まで。それ以上に指定場所に並んだ場合は待たなくてはいけない。
・給油量は指定することができるが、事前申告が必要。申告なき場合は満タンまで給油される。
・タイヤ交換等必要な場合はオフィシャルに申告、作業を依頼することができる。
簡易なルールで、1台に1人付けられるメカニックが各チーム付のオフィシャルを兼務することになっているため、タイヤ交換以外の不意のトラブルにも対応できるような仕組みになっていた。
「…走るペースはともかく、ピットでのドライバーチェンジと給油でタイムロスすることは避けたいですね。仮にドライバーチェンジが1分のロスタイムと仮定して考えると…」
エアグルーヴが簡易に走行時間を書き出す。
スタート→15分+1分→31分+1分→47分+1分→ゴール
「ここに、給油が入るのかもしれませんが、それが必要になるタイミングがわかりませんので…仮に30分経過時に入れるとすると、以降がそのロスタイム分後ろに倒れることになりますから…」
「…最終ドライバーの走行時間が減るな」
エアグルーヴの滔々とした説明を聞きながら、シンボリルドルフは整った顔に知性を宿らせている。
「はい。二人ペアで交互交代ですから、予選タイムに優れる会長でスタートしていただければ、3回交代ならば会長に30分の走行時間をフルに使っていただくことができます」
「ふむ…スタートドライバーを10分にして、変則にしてみると…ピットが混む前に交代していけるのでは?」
エアグルーヴは打てば響く頭脳の持ち主だ。シンボリルドルフの意図を汲み早速戦略を練り直す。
スタートまで少し間のあるこの時間帯、あちこちでどのように走るかの打ち合わせがそれぞれのペア同士で行われていた。
「…で、私たちはどうするわけ?」
男は積載車から降ろした自分のクルマにもたれかかりながら、少し離れたところでそれぞれに打ち合わせをするウマ娘たちを眺めていた。
そして煙草を吸いつつペアとなった東条ハナと向かい合っている。
おハナさんは着慣れているはずのないレーシングスーツ姿でも、些かメリハリの付き過ぎた肢体を惜しげもなく披露していた。
「どうもこうも、ねぇ…勝ちたい?おハナさん」
男は煙草を吸い込みながら横目で東条ハナを見る。
彼女はどこか思いつめたような表情に見えた。
「身体能力で及ばないのは仕方ないけど…トレーナーとして情けない順位にはなりたくないわね」
東条ハナはこのメンバー唯一のヒトの女性であり、走行シーンを見るとやはり体力的に華奢であった。
それでも予選でビリとはならないあたり、物事に順応する能力はかなりのものと言えた。
そして今はトレーナーとしてのプライドか、教え子たちに無様な姿を見せたくない、という思いからくる不安で表情を曇らせていた。
「…勝ちたい、とは言わないんだねぇ」
男はゆっくり煙を吐きだす。
「…これでもリギルを率いているのよ。遊びとはいえ勝てない戦いで勝つなんていうほど、無責任でもないわ。彼女たちの走るレースなら、それを実現するためのトレーニングやレース戦略のノウハウもあるけれど…ここでは私も初心者よ」
東条ハナはそう言うと、はぁ、とため息をついた。
「おハナさんが勝ちたいっていうんなら、勝たせるけど」
東条ハナは男のその言葉に厳しい視線を向けた。
「…どう考えても私が足を引っ張ってしまうわ。無責任なこと言わないで頂戴」
装蹄師の男はため息をつくと、クルマからノートとペンを取り出しておハナさんに説明し始めた。
「ルールはこうだろ。だからドライバーチェンジをこういうふうに回していって…」
男は頭の中で組み立てていたプランを図にして説明して見せる。もちろんペアが東条ハナであることを要素に加えたプランだ。
「…まぁ正直綱渡りだし、ギャンブル性が高い。それでもこれをこなせれば、勝機はあると思うんだけどね」
男は一通り説明すると、新たな煙草に火を点けた。
「あなた…大人げないわね…」
東条ハナの言葉に、男はにやりと笑って答えなかった。
閑話がなかなか終わらず大変申し訳ございません。
次くらいでまとめ切りたいところです。