学園お抱え装蹄師の日常    作:小松市古城

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次でまとめるといったな!


あれは嘘だ!




…すいません私の趣味丸出しで書いていたらとんでもなく長くなってしまっておりまして。
取り急ぎ、ご笑納ください。。。



閑話4:マルゼンスキーの権利行使(決勝レースその1)

 

 

 

 スタート10分前にはコースがオープンになり、グリッド上に各チームのマシンが並べられる。

 

 グリッドに揃うウマ娘たちは、彼女たちの競走本能に従い、遊びと言えども一様に真剣な表情を浮かべている。

 

「まったく、この娘たちは底知れないわね…」

 

 東条ハナは彼女たちのその表情を見て、呟く。

 

「いいじゃないか。まっすぐで、純真で、勝負に真剣。だからこそ、彼女たちのレースはヒトを惹きつけるんじゃないか?」

 

 装蹄師の男は普段、学園ではまず見ることのできない機嫌の良さで、東条ハナと並んでその光景を見ている。

 

 男の数少ない趣味である四輪での競技に、少年のように目を輝かせている、そのように東条ハナには映った。

 

「羨ましいわね。彼女たちを見ていると、私たちがどこかに置き忘れてきてしまったものを見せつけられている気分だわ」

 

 やや浮ついている男を尻目に、東条ハナは明日か明後日に出来するであろう筋肉痛を懸念する表情でため息をついた。

 

「…そういえば、俺らのペアだけ平均年齢が異様に高いもんなぁ…」

 

 男はそういうと、粘度の高い視線で東条ハナを頭の先からつま先まで、じっくりと舐めまわすように見つめた。

 

「…その視線だけで、本来であれば裁判したら勝てそうね」

 

 咎めるような言葉ではあったが、声音は柔らかい。

 

「へへっ…そういうなよ。似合ってるぜ、おハナさん」

 

 装蹄師の男は若返ったかのような溌剌とした笑顔でごまかす。東条ハナも他ならぬ男から似合っている、と言われれば悪い気はしない。

 

「…ま、いっちょ大人の力量ってやつを見せつけてやるとしようか。おハナさん、事前の打ち合わせ通りで」

 

「…わかったわ」

 

 ヘルメットを被ったおハナさんとレーシンググローブ越しにがっちりとした握手を交わすと、男はおハナさんを残しグリッドを離れた。

 

 

 

 

「…まったく、見せつけてくれるじゃないか」

 

 装蹄師の男の斜め後ろのグリッドについていたシンボリルドルフが耳をヒクつかせる。

 

「ええ…おハナさんといえども…あのポジションで居られるのは、その…複雑な気分になりますね」

 

 ヘルメットを被って用意を整えていたエアグルーヴも、シンボリルドルフに同意する。

 

「まぁ、兄さんが楽しそうなのは何よりだが、な…さすがにペアを狙うとしても予選順位まではコントロールしきれないな」

 

 シンボリルドルフはここのところの思うようにはいかない装蹄師の男との距離感、そして今日も今のように微妙に当てられているかのような光景を見せつけられてしまっていることに苦笑いをせざるを得ない。

 

「…我々は負けることには我慢なりませんからね。せめてこの鬱憤は、レースで晴らすほかないでしょう。たとえ先生が相手だとしても」

 

 エアグルーヴは諦観にも似た無表情ながらも、その瞳には静かな闘志を宿して応じた。

 

「ならばやはり、負けられないな。頼むぞ、エアグルーヴ」

 

 生徒会コンビは突き出した拳を合わせて、健闘を誓った。

 

 

  

 装蹄師の男がピットウォールに戻ると、スタートドライバーではないウマ娘たちが一様に並んでコースを見つめていた。

 

「あれ。先輩、スタートやらないんスか」

 

 後輩が話しかけてくる。

 

「あぁ。ってお前もかよ」

 

 後輩もヘルメットを被らずにこちら側にいるということは、セカンドドライバーになっているということだった。

 

「ゴールドシップさん、スタートのゴタゴタが楽しいんだろーって聞かなくて。まぁお遊びレースだし、譲ったっス」

 

 男はそれを聞いて苦笑する。

 いかにもゴールドシップらしい話ではあるが、男はひとつ懸念を思い出す。

 

「あいつのスタート、めっちゃ下手だぞ多分。なぁ、沖野」

 

 男はすぐ隣に居た沖野に水を向ける。

 沖野は聞こえぬふりをして明後日の方向を向いていた。

 

「えぇ…マジっすか…やらかしたかも…」

 

 後輩は心配そうにグリッドを見やる。

 レースのスタート手順は粛々と進んでいた。

 

 

 

 コース上では各車エンジンスタートの指示があり、スタート前に一周のフォーメーションラップが入る。

 

 ゆっくりとフィーリングを確かめるように各車1周回って戻ってくると再びグリッドに着く。

 最後尾がグリッドに着き、停止したことをオフィシャルが確認すると、最後尾でフラッグが振られる。

 

 ほどなくシグナルにひとつめの赤ランプが灯った。

 スタートシグナルはF1式だ。

 

 赤ランプがひとつひとつ灯るごとにエキゾーストノートが高まる。

 

 5つの赤ランプがすべて点灯し、消灯。

 

 各車一斉にスタートを切った。

 

「あぁ~っ!」

 

 後輩の叫び声が虚しく響く。

 2番グリッドのゴールドシップが派手にタイヤスモークを上げてホイールスピン、出遅れた。

 後ろはわかっていたかのように綺麗に避けていき、特に問題はないようだ。

 

 東条ハナも綺麗にアウト側に避けて1コーナーへ飛び込んでく。

 ポールショットを奪ったのは予想通り、マルゼンスキーだ。

 

 以下、トウカイテイオー、サイレンススズカ、エアグルーヴ、東条ハナ、グラスワンダー、フジキセキ…と続いていく。ゴールドシップは最後尾まで落ちた。

 

「さすが、サイレンススズカのスタートの集中力はピカイチだな」

 

 男は呟く。ゴールドシップのスタート失敗があって乱れたとはいえ、抜群の集中力で3つもポジションを上げている。

 

「おいおい、人のことよりそっちはいいのか?おハナさんズルズル下がってるぞ」

 

 沖野は相変わらずキャンディを加えながらコースを見つめている。

 

「まぁ、大人だからさ。じっくりいくよ」

 

 装蹄師の男は不敵に笑うだけだった。

 

 

 最終コーナーを回って1周目のストレートを駆けてくる。先頭はマルゼンスキーだが2位3位のトウカイテイオーとサイレンススズカは最終コーナーでサイレンススズカがインを突き、ホームストレートを2台で並んで駆けていく。

 

「スズカ、いけぇっ!」

 

 沖野はこの時ばかりはチームトレーナーとしての立場を忘れてスズカを推していた。

 

 その沖野の言葉に応えるように、サイレンススズカはストレートエンドのブレーキング勝負でテイオーに競り勝ち2位に浮上するのみならず、マルゼンスキーを猛追していく。

 

 東条ハナはスタートからポジションを落として、グラスワンダーの後ろにぴったりと付けていた。

 

「兄さん…手加減しているつもりかい?」

 

 シンボリルドルフが男に話しかける。

 

「まさか。おハナさんは言ってもヒトの女性だからね。身体的負担がデカいカートじゃ、なかなか厳しい。でも、ルナたちにあっさり負けるつもりはないよ」

 

 装蹄師の男は上機嫌に笑いながら、饒舌に語る。そして人差し指で自らの頭をトントン、と指し示して見せた。  

 

「…なるほど。頭で勝負という訳か。楽しみにさせてもらうよ」

 

 男の言葉にそう返すとルナではなく皇帝、シンボリルドルフの表情で余裕たっぷりに微笑んだ。    

 

 

 コース上で東条ハナは襲い来るGと格闘しながら、グラスワンダーの後ろにぴったりと付け、様子を伺っている。

 

 男からのオーダーはさして多くない。

 自分の力量でついていける相手を探して、引っ張ってもらえ。

 

 その打ち合わせの時に男が目安として挙げたのがグラスワンダーだった。

 

 男が言うにはグラスワンダーの走りには無駄がない。

 

 予選タイムも目立ちはしないがしっかり上位に食い込んでおり、走行ラインも安定していて練習走行時からタイムのブレ幅が少ないというのがその理由だった。

 

 そして何よりも、彼女はエネルギー効率がいい走りをしているらしい。

 

 すなわちそれは、無駄にブレーキを踏まず、無駄にアクセルを踏んでいない。

 

 それこそがこのレースの肝になる部分だ、と男は言っていた。

 

 上位陣は抜きつ抜かれつのバトルを繰り広げていることが、ホームストレートを通るたびにかわる順位表示から知れる。

 

 ことモータースポーツ初心者である東条ハナは、男の指示を信じて淡々とこなしていくことに徹していた。

 

 

 

 レーススタートから数分。

 ホームストレートの電光掲示板は5周の経過を示し、現在の順位は以下のように表示していた。

 

1:サイレンススズカ

2:マルゼンスキー

3:トウカイテイオー

4:エアグルーヴ

5:ゴールドシップ

6:グラスワンダー

7:東条ハナ

8:ウオッカ

9:フジキセキ

 

 1位から3位までは常にバトルを繰り広げており、周回するごとに習熟度を増すウマ娘たちの能力がフルに発揮されていた。

 

 4位以下は最下位から猛チャージで順位を上げていくゴールドシップ以外は比較的淡々と走っていたが、各車先頭とのタイム差を見ながら離されないようにしているようだ。

 

「さて、そろそろかな…」

 

 男は備え付けのサインボードを準備し、ヘルメットをかぶる。

 

「HANA PIT ←」

 

 その動きに気づいた後輩が寄ってくる。

 

「え、先輩、もう交代っすか?」

 

「まぁな。おハナさんじゃスタートの緊張感から15分はキツいだろ」

 

「はぁ…そういうもんすかねぇ…捨てレースにしてももうちょっと作戦あるもんじゃないですか?」

 

 男はヘルメットの中でにやりと笑う。

 

「誰がレース捨てたって言ったよ。まぁ見とけ」

 

 男はホームストレートを通過するおハナさんにサインボードを出す。

 

 東条ハナは手を軽く上げて了解の合図を示した。

 

 男はオフィシャルに次の周でのドライバー交替を告げ、待機に入る。

 

 

 まだレース開始から5、6分でピットに入ってきたカートを見た一同はざわついた。

 

 男が東条ハナの手を引いて立ち上がらせ、お疲れさん、とばかりに背中を軽くたたく。

 

「トップは熱くなってやりあってるみたいね。コース上は今のところ異常なしよ」

 

「了解。しっかり水分とって休んで。一応コース上の経過タイム見てるけど、15分経つ前にサインは出して」

 

「わかったわ。気を付けてね」

 

 ヘルメットをぶつけんばかりの近さでコミュニケーションを取っている二人に周囲の好奇の視線が集まっている。

 

 しかしそれには気づかず男はさっとカートに乗り込むとオフィシャルの指示に従いカートを発進させた。

 

 それを見送って東条ハナはヘルメットを脱ぐ。

 

 いつもはポニーテールでまとめられている後ろ髪が艶めいておろされ、中から滅多にみることのできない大量の汗を流している東条ハナが現れる。

 

 オフィシャルから手渡されたよく冷えた水のペットボトルをごくりと一口飲み込むと、唖然と彼女たちを見ていたウマ娘たちの存在を認識した。

 

 シンボリルドルフが耳をひくつかせていることに気づく。

 

 自らの今しがた行われた男との極近距離のやりとりを客観的に思い出し、走行により赤らんでいた顔がさらに上気する思いがした。

 

 

 

 男はピットアウトし本コースに合流しながら後ろを見た。

 

 ロスタイムはほぼ事前の予想と違わないようで、合流加速をする横をトップ争いをしている3台と、その後ろで少し間を取っていたエアグルーヴが追い越していく。

 

 ちょうどトップから1周差となり、ピットインの段階で半周少し差を付けられていたことからするとほぼ計算通りのポジションとなった。

 

 もちろん順位としては最下位だ。

 

「よしよし。競り合え競り合え」

 

 上位の競り合いを後ろから見ながら、男は半周ほどでマシンの感覚を掴みなおすと、ストレートでキャブレターのノブを少しだけ回して調整を施し、前を走るエアグルーヴと間合いを図りだした。

 

 

 レーススタートから13分を経過した頃、ピットはにわかに騒がしくなる。

 

 連続走行は15分までの規定に則り、皆が交代の準備に入ったのだ。

 

 各ペア、ピットインのサインを出し、あわただしくヘルメットとグローブを装着し、ピットインを待つ。

 

 皆が同じように動いた結果、上位4台が連なったままピットになだれ込んでくる。

 

 そしてそれぞれのピットで交代をしているときに、さらに後続がピットイン。

 

 ピットインとピットアウトが交錯し、オフィシャルが発進を制止するマシンまで出る。

 

 混乱しながらもドライバー交替を終えたマシンたちがコース上に復帰していく。

 

 各車ピットインでクリアになっているコース上を駆ける装蹄師の男。

 

 全車がピットインを終えた時、最後尾にいたはずの男の順位は4位まで回復していた。

 

 

 

「これはまずいかもしれないぞ…」

 

 最初に気づいたのは沖野だった。

 

 セオリー通りに15分刻みの交代を計画しているが、先ほどのピットの混乱でのタイムロスは無視できない。

 

 しかもこの先、残燃料も気にしながら、必要があれば残る2回の交代タイミングのどちらかで給油しなければならない。

 

 ドライバーチェンジのタイミングだけでなく、給油タイミングでも混雑してしまえば、最初からセオリーのタイムスケジュールから外してきた装蹄師の男と東条ハナのペアをその間悠々と走らせてしまう。

 

 この事実を踏まえて作戦を組み立てなおさないと負けるかもしれない。

 

 そこまで気付いたまではよかったが、今現在、沖野はセカンドドライバーとしてコースを走らせていた。

 

 スズカも当然、次のピットタイミングは15分後として休憩と準備をするだろうし、戦略の変更をするにしても伝達手段がなかった。

 

 つまり計画をいじるとしてもレース後半の30分に入ってから。

 

「これはちょっとナメてかかり過ぎたかもしれんぞ…」

 

 沖野はステアリングを握り、アクセルを踏みつけながら焦り始めていた。

 

 

 

 装蹄師の男は淡々と周回を続けている。

 

 ホームストレートエンドに設置された電光掲示板ではコントロールラインを通過したタイムが表示される仕組みになっており、前の周回のタイムを確認しながら走ることができる。

 

 男のペースは決して速いわけではなかったが、遅いとも言えない、トップから約1秒落ちのラップを刻んでいる。

 

 そしてそのタイムが、男が毎周コントロールラインを通過してもほとんど狂わないことに気づいたのはゴールドシップだった。

 

「おっちゃんやべえよ!これで5周も1/10秒単位で同じタイムで走ってるぜ!アイツ腹ん中に時計でも埋め込んでんのか?」

 

 いつも通りルービックキューブをこねくり回しながらピットウォールで騒ぎ立てる。

 

 絶対的天才美ウマ娘ゴールドシップはせわしなく指先を動かしながら思考を巡らせる。

 瞬時、脳内である予測が組み上がる。

 

「…やっべ!このままじゃ絶対負けんじゃねーか!」

 

 組み上がらないルービックキューブを放り出したゴールドシップはサインボード代わりのホワイトボードに大書きして、ストレートを走る後輩に迫力たっぷりに提示した。

 

 

[ 死ぬ気で飛ばせ! ↑ じゃないと負ける! ] 

 

  

 サインを見た後輩は一瞬戸惑ったが、前周でチェックしていた装蹄師の男のラップタイムが変わっていないことにストレートエンドで気づく。しかし周回数カウントだけは、ひとつ増えている。

 

「…くぁ~…先輩、いきなり乗ったクルマでもこの芸当、できるんすか…まっずいなぁ…ゴールドシップさんもよく気付いたなぁ」

 

 後輩はゴールドシップからのサインを誤解せずに理解し、猛然とペースを上げた。

 

 

 ピットではゴールドシップのところにウマ娘たちが集まっている。

 

「だからぁ!おっちゃん完全に計算ずくでレースしてんだよ!おハナさんのラップタイムもピットロスもぜーんぶ計算にいれて、自分は時計みたいに正確にラップ刻んで!このままだと負けるぜ!そうなんだろ!東条トレーナー!」

 

 ゴールドシップの元に集まっていたウマ娘の視線が一斉に東条ハナに集中する。

 

「…私にはわからないわ。私は、あの人の指示に従って走るだけよ」

 

 東条ハナは無表情に返す。

 

「…つまり、ウサギとカメ、というわけか…」

 

 エアグルーヴがぼそりと呟いた。

 

「…なら、全力で走り続けるウサギの方が速いって証明しなくちゃね♪」

 

 マルゼンスキーがペースアップ指示のサインボードを用意しだす。

 

「ウマ娘が速さで負けちゃあ、ダメだよね!」

 

 トウカイテイオーもそれに応じる。

 

 瞬く間にピットウォールからのサインは、一様にコース上を走る娘たちに対してペースアップ指示一色となった。

 

(…どうするの…あなたの計画はレースの三分の一でバレちゃったわよ…)

 

 東条ハナは動揺しながらも、それを悟られまいと振舞いながら近づく交代のタイミングに備えてヘルメットとグローブを装着し、その時に備えた。

 

 




レース書いてると辻褄合ってるのか不安になりまくりで大変難しく…
たぶん気付かぬ粗もあるかと思いますが、まぁそんなもんかの精神でよろしくお願い致したく…。
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