夏季休業も残り僅か。
この時期になると、大きく分けて2つのグループが出来上がる。
先ずはグループF
「ぬがぁぁぁっ!? 社会科の宿題終わらないっ! 読書感想文も終わってないっ! 今夜は徹夜だっ! 寮長の仕事もあるってのにぃ!」
「アルバイトし過ぎて宿題全然終わってないのー!」
「モデルの仕事やってると、どうしてもコッチのことまで手が回らないんだよねー」
「マーベラスはマーベラスなのに、どうしてマーベラスな宿題がマーベラスにこなせないのかなー?」
ヒシアマゾン、アイネスフウジン、ゴールドシチー、マーベラスサンデーは夏季休業中の課題を貯めてしまうグループ。
それぞれ事情があるのは分かるが、彼女たちは学生。故にだからといって課題免除という慈悲はない。
一方のグループSS
「いやぁ、合宿前に全て終わらせておいたから、合宿が終わったあとはのんびりと釣り三昧でしたよ〜。にゃは〜♪」
「わたくしはキングさんに教わりながらコツコツとやってましたわ! あとは最後の読書感想文のみですの!」
「こういうのはさっさと終わらせるに限るよ。後々のこと考えるとダルいだけだし」
「全くだ。そもそも日頃から計画的にやっておけば、ああはならん」
セイウンスカイ、カワカミプリンセス、ナリタタイシン、エアグルーヴは夏季休業中の課題はほぼ終わっているグループ。
セイウンスカイやナリタタイシンは夏季休業前から貰った課題に手を付けているため、夏合宿前になるとほぼ終わっていて、エアグルーヴとカワカミプリンセスは毎日計画的にこなすことで、休業中でも勉強する時間をほぼ毎日確保している。
今はチームトレーニングが終わったあとで、みんなはエアコンがある快適なトレーナー室へとやって来た。
前者は課題をこなし、後者は優雅にトレーニング後のティータイム。
今日は前者たちのことも考慮して幸福が午後のトレーニングは休みにしたのだ。トレーニングは大切だが、学業に支障が出てはトレーナーも教師陣から注意されてしまう。レース競技ウマ娘とはいえ、彼女たちは学生の身なのだ。
「毎年思うが夏休みの課題とか懐かしいなぁ」
そんなメンバーの様子を幸福は己の仕事をしながら、思わずつぶやいてしまう。
「トレーナーがアタシたちと同じくらいの時はどうしてた?」
幸福のつぶやきに反応したナリタタイシンがウマホの画面から視線だけを外して、ふとそんな質問をすると、
「こやつの家は母親がそういうことには厳しかったらしくてな。何でも、7月中に全ての課題を終わらせないと何もさせてもらえなかったから、死ぬ気でやっていたらしい」
彼の代わりにエアグルーヴが愉快そうに答え、質問を受けた本人も『そうそう』と言うように頷いた。
ナリタタイシンは「へぇ、そうなんだ」と返したが、エアグルーヴが幸福の過去を把握していたことに内心驚いていた。
「(ねぇ、あれで本当に付き合ってないの?)」
「(みたいだよ? というか、トレーナーとその担当ってだけであそこまで相手のこと分かってるのって凄いよな)」
小声で訊ねるアイネスフウジンの疑問にヒシアマゾンは苦笑いしながら返す。
幸福には聞こえていないが、当然エアグルーヴには聞こえているので、ヒシアマゾンは思い切り睨まれ、即座に姿勢を正して課題に視線を落とした。
◇
「あ、そういえば……スペちゃんから聞いたんだけど、明日近くの神社でお祭りやるんだってー。屋台も結構出るみたいだから、みんなで行かない? スペちゃんもエルちゃんもグラスちゃんもキングもチームのみんなやトレーナーと行くみたいなんだよねー」
日が傾き始めた頃、まだまだ課題組が必死に手を動かしている中、ソファーに寝そべるセイウンスカイがふと思い出したことをみんなに告げる。
明日は夏季休業中最後の日曜日。チームトレーニングも休みなので、タイミング的にはバッチリだ。
「アタシは先約がある。チケットとハヤヒデに誘われてるんだ。まあでも結局向こうで会うことになるかも。特にチケットは『大勢で回った方が楽しいよー!』とか言い出すに決まってる」
心底面倒くさそうに言うナリタタイシンだが、耳はピコピコと震えている。何だかんだ言いながら楽しみにしている証拠だ。
「にゃはは〜、ならタイシン先輩は現地で落ち合いましょ〜。他の皆さんはどうです?」
「アタシは問題ないよ! 今日中に宿題終わらせて、終わったら寝て、起きたらお祭り! 完璧だ!」
「マーベラスも行くー! でもマヤノとカレンとボーノと行く約束してるから、タイシンさんみたいに現地で合流した方がマーベラス!」
「あたしは大丈夫なのー! アルバイトももう終わったし、あとは宿題終わらせれば行けるの!」
「わたくしも大丈夫ですわ。感想文も今しがた終わりましたし」
「アタシも仕事の予定ないから行けるよ。宿題徹夜しないとだけど……」
「私も特に問題はない。生徒会の方で急な仕事がなければだが」
ナリタタイシンとマーベラスサンデー以外は最初から一緒に行動出来るようで、セイウンスカイは「じゃあ明日の12時にトレーナーさんのマンション前に集合で♪」と言う。
「え、俺の意見は?」
当然、ツッコミを入れる幸福だが、
「いやいや、トレーナーさ〜ん。引率ってのが必要でしょう? いいんですか〜? か弱きセイちゃんたちを街に放り出して〜?」
セイウンスカイにそう言われれば、幸福は「端からそのつもりだったのか」と苦笑いを浮かべる。
「別に嫌とは言わないが、素直に一緒に行こうって誘ってくれ」
「にゃは、トレーナーさんなら二つ返事で来てくれるとセイちゃんは思っていたので♪」
相変わらずのセイウンスカイに幸福は「んな態度してるとウンスには何も奢らないからな」と反撃を食らった。
当然セイウンスカイは「そりゃないよトレーナーさ〜ん」とわざとらしい泣き真似をしつつ、幸福の横にやってきてチラチラと盗み見し、そんな彼女に幸福は苦笑いで「お前って本当に調子いいよな」と返して結局許すのだった。
―――――――――
翌日。
幸福はセイウンスカイに言われた通り、引率者としてチームのメンバーたちとお祭りにやってきた。
そこまで大きい規模のお祭りではないが、商店街も協力しているので屋台はそれなりの数があり、学園の生徒たちの多くがお祭りに足を運んでいる様子。
ただ、
『はい』
『ずるっ』
『はい』
『ずるっ』
『はい』
『ふーふー……ずるるっ』
小さなイベント会場で行われている「わんこ蕎麦時々ラーメン」という謎大食いイベントに芦毛の怪物と日本総大将が果敢にチャレンジしていた。
その隣ではホットドッグの早食いをするタイキシャトルとタマモクロスがいるが、やはり見応えは前者に軍配が上がる。
お祭りなのでエアグルーヴもあまり目くじらを立てる気はないが、どうしても『貴様らはどうしてどこでもそうなのだ……』と特に前者二名に対して天を仰いでしまった。
「何か欲しいのがあった場合はその都度俺に言うように。各自三千円まで今までのご褒美ってことで奢ってやる。それと他の人の邪魔にならないように、二列になること」
引率者らしく幸福がそう言えば、みんなは返事をしてヒシアマゾンとセイウンスカイを先頭にして屋台エリアを歩く。幸福は彼女たちの最後尾。
「結構浴衣着てる人多いね。良かったね、レンタルしてきて♪」
「私はゴールドシチーに言われて付き合っただけだからな?」
幸福の前を歩くエアグルーヴとゴールドシチー。二人は昨日の解散後に駅前の呉服屋で浴衣のレンタルを頼み、集合時間前に着付けてもらった。
ゴールドシチーは黒地に赤や白の金魚柄の浴衣で、帯は涼し気な青。左に寄せたサイドテールを青と白の朝顔の髪飾りでまとめている。
一方のエアグルーヴは涼し気な薄水色地の白や赤の牡丹柄の浴衣に、柔らかい黄色の帯。右耳の付け根に白と赤のバラの髪飾りを装着。
これはゴールドシチーがエアグルーヴに提案したことで、普段しない格好をすることで幸福の視線を釘付けにする作戦らしい。
「(どう? トレーナー、見てる?)」
「(見てはいるが……多分引率者として見ているに過ぎないだろう。視線は感じてもずっとではない)」
二人は幸福に聞こえないように言葉を交わす。
ウマ娘の視界は人間とほぼ同じだが、真後ろ以外からであれば視界に入っていなくても相手を把握出来る。
実際レースで真後ろに付かれると厄介なので、どのウマ娘でも背後を気にして走っている。
彼女たちがコースを全力疾走するのに接触事故が少ないのは、そういう能力的なところが大きいのだ。
「トレーナー、アタシとエアグルーヴの浴衣姿どう?」
「お、おい」
こういう場面で臆さず相手に感想を求めることが出来るゴールドシチーに対して、エアグルーヴは『やめろ』とアイコンタクトする。
しかし、
「おう、綺麗だぞ。後ろ姿でも二人共美人って直ぐ分かるしな。役得って感じだなぁ」
幸福も幸福で素直に感想を述べてしまう。
当然、エアグルーヴは顔を真っ赤にして俯き、そんな彼女をゴールドシチーは口笛を吹きながら肘で小突いた。
「おや、チームデネボラもお祭り見物かな?」
そこに声をかけてきたのはシンボリルドルフ。
彼女の隣には岡部の姿もあり、この二人もお祭りの見物に来ている。因みにシンボリルドルフは深緑地の柄のない浴衣を身につけ、帯は赤地に黄や白の花喰鳥文。岡部に至ってはブレずに今日もいつものスーツ姿で汗一つ掻いていない。
「岡部さん、ルドルフ会長、お疲れ様です。そちらは二人ですか?」
幸福が礼儀正しくお辞儀して質問すると、
「いや、チームで来たんだが、みんな何故か散り散りになってな。まあ幼い子どもでもないから好きにさせてるんだ。何かあればこちらの匂いを辿って来るだろう」
岡部が苦笑いで返した。
チームリギルのメンバーは学園内でもかなり個性派揃い。シンボリルドルフとナリタブライアンを始め、タイキシャトルやマルゼンスキーにフジキセキ、エルコンドルパサーとグラスワンダー、テイエムオペラオーと皆癖が強い。
現にタイキシャトルは既に早食い競争に参加していたし、マルゼンスキーとフジキセキ、テイエムオペラオーは二人の後ろでファンに囲まれ、エルコンドルパサーは何故かグラスワンダーに首根っこを掴まれて引きずられている。きっとまた辛い物の食べ過ぎでグラスワンダーに怒られたのだろう。唯一姿が見えないナリタブライアンは多分どこかで肉を食べていることだろう。
「まあそちらも大変だろうが、楽しむといい」
「はい。それでは失礼します」
こうしてトレーナー同士は軽い挨拶で終わったが、
「(エアグルーヴ、頑張ってくれ)」
「(は、はい……ありがとう、ございます)」
シンボリルドルフはしっかりとエアグルーヴを鼓舞するのであった。
―――――――――
お祭りを堪能した一行は、門限を考慮して帰路につく。ナリタタイシンのグループやマーベラスサンデーのグループも合流したので、行きよりもかなり賑やかだ。
セイウンスカイとアイネスフウジンはヨーヨー釣りで釣り上げたヨーヨーを両手それぞれの五本指に垂らしてパチンパチンしていて、ヒシアマゾンとカワカミプリンセスはくじ引きで当てた50センチほどの大きなテディベアを抱っこしてニッコニコ。
ゴールドシチーは人参アメを幸せそうに頬張り、マーベラスサンデーは綿飴を食べ過ぎたとかでお腹がちょっと出ている。ナリタタイシンは相変わらず手ぶらだ。何でもウイニングチケットとビワハヤヒデが型抜きにハマり過ぎて特に屋台を回らなかったそう。悪戦苦闘する二人を見ているのはそれなりに面白かったらしい。
「そういや、その浴衣ってお店に返すんじゃないのか?」
「そうだが、返却するのは翌日だ。今日中だったらもっと早くに帰るだろう。たわけ」
そんなみんなの最後尾を幸福とエアグルーヴが並んで歩く。
エアグルーヴは相変わらずの調子だが、実際はかなりお祭りを楽しんだ。
幸福が射的で当ててくれたお菓子の詰め合わせやたこ焼きを食べさせてもらったりと、それはもう嬉しいこと尽くしだったから。
「それもそうだな」
「にしても貴様……殆ど奢っていたが、ちゃんと大丈夫なんだろうな? 奢ってもらっておいて今更だが……」
「大丈夫大丈夫。俺、あんま金使うような趣味ないし、貯まってく一方なんだよ」
「それはそれでどうなんだ……全く」
「仕方ねぇだろ? 俺は仕事が趣味みたいなもんだからな。エアグルーヴたちのトレーニングとか考えてるの楽しいし、エアグルーヴたちがレースで走ってるの見ると嬉しいし誇らしい」
「…………たわけ」
今そういうことを言うのは反則だろう!とエアグルーヴは心の中で叫んで、高鳴る胸の鼓動を必死に制御する。
(落ち着け私……狙ってもいないのに格好良過ぎだろう。ドキがムネムネしたではないか! これ以上私を惚れさせてどうしたいのだこの男は!)
完全に掛かってしまっているエアグルーヴ。
「そう言うなよ。んなことエアグルーヴなら知ってるだろ? 俺ら何年の付き合いよ?」
「……たわけ」
「んだよー。俺の愛バなのに薄情だなぁ」
「っ……うるさい」
「はいよ。それじゃあ静かに歩きますよぉっと」
相変わらず軽口を叩く幸福だが、エアグルーヴは彼に対して『うるさい』と言ったのではない。
(愛バだと……言ってくれた……。いや、前から言ってくれてはいるが、何度聞いても心臓に悪い。心臓の音が周りに聞こえているのではないかと思うくらいに……うるさい)
ときめきで自分の鼓動の音がうるさかったのだ。
そんな二人の前を歩く大勢は、
『(なんであそこまでの雰囲気が出てるのに、付き合ってないのこの二人……)』
と口の中が思わず甘ったるく感じてしまうのだった。
おまけ
別行動していたデネボラメンバーの様子。
「ねぇねぇねぇねぇ、マヤノ、カレン、ボーノ! どこから攻めるー?」
「やっぱりー、人参アメは外せないよねー!」
「最近流行りのスフレパンケーキのお店も出店してるってー! これは行かなきゃだよねー! ウマスタにも写真アップしなきゃ!」
「ボーノ! どれもいこいこー!」
ワイワイキャッキャウフフのマーベラスサンデー。
マーベラスサンデーは遊びの達人。あれもこれもと無尽蔵のスタミナで屋台エリアを縦横無尽に練り歩く。それについて行けるメンバーも流石の一言。
彼女たちがスルーした一つの屋台のところでは、
「ゔぁぁぁぁぁっ! まーたーわーれーたー!」
「何故だ……力の入れ具合に板の厚さと溝の深さと画鋲の強度を計算した結果に基づく完璧な力加減で攻略していたというのに……何故割れる? そしてタイシン! 君は何故、そんな高難易度の型をいとも容易く攻略出来るんだ!?」
「いや、普通にやったら出来ただけだし。というか、二人共真剣にやり過ぎなんだよ。気楽にやればいいのに」
ナリタタイシンが普段から仲良しのウイニングチケットとビワハヤヒデと共に型抜きの屋台にいた。
ナリタタイシンもそうだが、二人も相当な負けず嫌い。故に何度失敗してもこの有様なのだ。
「でもでも難しいの出来たらヒーローになれるじゃん! なんかカッコイイ!」
「私は単にこれくらい出来なくてはいけないと定めたレベルで勝負しているだけだ」
「まあいいけど。あ、また出来た。おじさん、これいくら……やった500円だって」
『ぬぁぁぁぁっ!!!!』
別に二人は賞金が欲しいのではない。ライバルが容易くクリアすることが悔しくて仕方ないのである。
ナリタタイシンは元々手先が器用で、実家に帰れば花の剪定や花束作りもやることでそのスキルは更に強化されてきた。故に型抜きのちょっとした型を抜くくらいお茶の子さいさい。彼女にとっては普段やっているゲーム感覚。
「おじちゃん! もう一回!」
「店主! 私にもだ!」
「まいどー♪」
「アンタたち、ホントいいお客さんだね……アハハ♪」
ナリタタイシンが可笑しそうに笑っていると、
「あー! タイシンさん発見! マーベラス!」
「あ、マーベラスじゃん。アンタも型抜きやりに来たの? てかアンタも友達と屋台回ってたんじゃないの?」
「型抜き? アタシはただタイシンさんを見つけたから来ただけだよー?」
「そ……型抜きはランダムに配られる板にある絵柄に沿ってその型にすればいいだけの遊び。難易度によって賞金くれるよ。割れても食べられるから、マーベラスもやってみたら?」
「マーベラス! みんな呼んでくるー!」
その後、マーベラスサンデーが一発で高難易度をクリアし店主も文句なしで5000円獲得したことで、ウイニングチケットとビワハヤヒデが軽く発狂し、ナリタタイシンは珍しくお腹を抱えて笑ったそうな。
―――――――――――――――
おまけも合わせ、読んで頂き本当にありがとうございました!
一応、エアグルーヴとゴールドシチーの浴衣や髪飾りの花はその花言葉を考慮して、その花にしました。
朝顔の花言葉
青が儚い恋、短い愛
白があふれる喜び、固い絆
牡丹の花言葉
恥じらい、風格
薔薇の花言葉
赤は愛情、情熱、あなたを愛してます、熱烈な恋
白はあなたは私に相応しい、純潔