女帝が持つ賢者の杖《完結》   作:室賀小史郎

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ちょっと変化球でカール視点です。


私は犬である

 

 私は犬である。名前はカール。

 ご主人様である伊藤幸福様の誇り高き愛犬だ。

 

 今日はご主人様が朝になってもずっとお家にいるから、一緒に過ごせる嬉しい日。

 過ごせない日もあるけど、お留守番は私のお仕事でもあるし、お留守番を頑張ったあとはいつもたくさん褒めてもらえる。

 私はそれがとっても嬉しい。

 

 それにこういう日は、

 

 ピンポーン

 

「ワンッ!」

 

 ガチャリ

 

「おう、エアグルーヴ。いらっしゃい」

「ああ、邪魔するぞ」

 

「ワンッ! ワンッ、ワンッ! ハッハッハッ!」

「カール……元気にしていたか?」

 

 前のご主人様エアグルーヴ様が来てくれる日でもある。たまに来てくれない日もあるけど。

 

 この方は私に名前をくれた最初のご主人様。今のご主人様も大好きだけど、前のご主人様も私は大好きだ。

 前はそんなにお家まで来てくれなかったけど、最近はよく来てくれる。

 やっとご主人様たちは番になったのかなって思ったけど、どうやら普通の番とは違うらしい。

 

「どうしたカール? そんなに私の顔を見つめて?」

「遊んでほしいんじゃないか? カールはエアグルーヴと遊ぶのが大好きだからな」

「ふふっ、そうか。では遊ぶとしよう」

 

 前のご主人様はそう言って私の黄色い首輪に青いリードを繋ぐ。これがないと遊びに連れてってもらえない。だからリードを繋いでもらうととっても嬉しくなって、自然と尻尾を振っちゃう!

 

「ほら、喜んでめっちゃ尻尾振ってる。振り過ぎてお尻も振ってるぞ」

「おい、カールも女の子なんだぞ? 女の子になんてことを言うんだたわけ」

「すんません」

 

 前のご主人様はよく今のご主人様を「たわけ」って言う。この言葉はいけないって意味。このやり取りを見たら今のご主人様の方が格下だと思っちゃうけど、実は違うんだ。

 

「んじゃ、行くか。ちゃんと用意はしてあるからな」

「そうか。感謝する」

 

 ほら、今のご主人様の方が毅然とした態度で主導権握ってる。だから今のご主人様の方が格上だから、私は今のご主人様が一番だと思ってる。

 

 ◇

 

 私はご主人様たちと近くの公園にやって来た。ここは噴水もあって私も大好きな場所。

 それにここは、

 

「よし、走るぞ! ついてこい、カール!」

「ワンッ!」

 

 リードを外してもらって前のご主人様と一緒にいっぱい遊べる場所なんだ!

 今のご主人様は一緒に掛けっ子するとすぐに疲れちゃって終わっちゃうけど、ボールを投げてくれたり、ビューンッて飛ぶ平なやつを投げてくれたりして遊んでくれる。それをキャッチしてご主人様のところへ持っていくと、いっぱいいっぱい褒めてくれるんだ!

 

「注意して走れよ! 遊んで怪我するとか勘弁だかんな!」

 

「分かっている! 誰に言っているのだ、たわけ!」

 

 前のご主人様とっても嬉しそう。私と一緒で尻尾ブンブンだもん。早くちゃんとした番にならないかな。そうすればずっと一緒にいられるし、ご主人様たちも幸せなはずなのに。早く家族になろうよ!

 

 ◇

 

「む……あんなものが出来たのか」

 

 前のご主人様が掛けっ子しながら別の方を見てる。

 なんだか、ご主人様が走るところに似てるし、ご主人様と同じウマ娘の小さい子たちが走って遊んでる。

 

「子ども用の模擬レース場……ふふっ、私もあれくらいの頃はお母様と一緒によく近くの模擬レース場で遊んでもらったな」

 

 ご主人様、優しいお顔をしてる。今のご主人様にする優しいお顔とはちょっと違うけど、私によくしてくれるお顔に似てるかな。

 

「あー! エアグルーヴだ!」

「エアグルーヴさんだ!」

「本物だー!」

 

 ご主人様のところに子どもたちが集まってきた。

 ご主人様大丈夫かな? 何かあったら私がご主人様守らなきゃ。

 

「ああ、私がエアグルーヴだ。レースの邪魔をしてすまないな」

 

『はわぁ〜〜っ☆』

 

 大丈夫そうだ。みんなご主人様が好きみたい。お目々キラキラしてるし、尻尾もブンブンしてるもん。

 

「あ、あの、良かったら早く走れる方法を教えてください!」

 

 茶色い毛の子がご主人様にお願いすると、他の子たちも次々にご主人様に詰め寄ってきた。私の出番かな?

 あ、でも大丈夫だ。こういう時はいつだって、

 

「お〜、相変わらずエアグルーヴは人気者だな〜」

 

 今のご主人様が駆け付けてくれるもん!

 いつも私たちのあとをゆっくりでも追い掛けて来てくれてるんだよね。流石私のご主人様!

 

「あっ、エアグルーヴのトレーナーだ!」

「本物だー!」

「男の人なのにお父さんと違ってお花のいい匂いするー!」

 

 今度は今のご主人様も囲まれちゃった。ご主人様たちは人気者なんだなぁ。私も鼻が高いや♪

 

「おーおー、元気なこって。まあ君らにとっては遊んでたとこにスター選手が来たようなもんだからなぁ」

「何を他人事のように言っている。貴様はそのスター選手を育てた名トレーナーなんだぞ?」

「おっ、エアグルーヴがそう言ってくれるなんて珍しい。思わず嬉しくなるじゃねぇか」

 

 今のご主人様とっても嬉しそう。私たちみたいに尻尾はないけど、嬉しい時の声と匂いだ!

 

「う、煩い……それより先程の質問は私より貴様の方が適任だろう。見てやったらどうだ?」

「え、マジか……」

「大マジだ。それに見ろ、この子たちの期待に満ちた眼差しを。貴様はそれを受けても尚拒むのか?」

 

『エアグルーヴのトレーナー(さん)! お願いしますっ!』

 

 おー、やっぱり今のご主人様の方が格上なんだな! みんなご主人様のことしか見てない! 前のご主人様も見つめてる眼差しが柔らかいし、嬉しいってのが伝わってくる。

 

「ん〜、じゃあ走り方見たいから、みんなあっちのゲートからこのコースを一周してくれ」

『はーい!』

 

 小さい子たちが走り出すと、ご主人様は顎に手をやって真剣にあの子たちの様子を見た。

 前のご主人様は今のご主人様の方ばっかり見てる。お顔がちょっと赤いし、心臓の音が掛けっ子してる時より早くて大きい。どうしたんだろう?

 

 ◇

 

「はぁ……オフだってのに、真面目にトレーナーっぽいことしちまったぜ」

「流石の手腕だったと思うぞ。私も鼻が高い。皆感謝していたし、いいではないか」

「まあなぁ。やっぱりウマ娘って走るのが好きだし、それをもっと好きにしてやれるように手助けするのがトレーナーだと思ってるからな。だから子どもといえど、こればっかはマジになっちまう。性分なんだろうな」

「貴様のことを誇らしく思うぞ」

 

 子どもたちとお別れして、私たちは屋根があって座るところ(ベンチ)で一休みしてる。

 今のご主人様がこういう時は毎回ご飯を用意してくれるんだ。

 最近は前のご主人様も今のご主人様から私みたいに食べさせてもらってることも増えたから、今のご主人様がリーダーだってのがよく分かる。

 

「あー……」

「なんか最近あーんするのがデフォになってる気がする」

「んぅ?」

「上目遣いで首傾げられても、俺が疑問に思ってるんだが?」

「ごくん……嫌なのか?」

「嫌っていうか、最近することが多いからさ。なんかあったのかなって」

「気にするな。してもらいたいだけだ」

「さいですか」

「ああ。次はそのトマトとツナのがいいな……あー」

「ほいほい」

 

 うーん。私から見ても二人は番で間違いないんだけどなぁ。でも一緒暮らしてないんだよなぁ。どうしてだろう? 番なら一緒に暮らして、子孫を残すために頑張らないといけないのに。ご主人様たちは子孫残さないのかな? 不思議だなぁ人って。

 

「ほら、カールも不思議そうに見てるぞ?」

「……だから、甘えたいだけだ。学園にいたら、私は女帝として皆の手本にならなくてはいけないだろう? しかし、ずっとそれだと疲れるから、俺の前では甘えていいと言ったのは貴様だ」

「確かにそうだが……最近になって急に頻度が増したからさ。悩みがあるなら言ってほしいんだよ」

「……悩み、か。では一つ聞きたいことがある」

「お、なんだ?」

「貴様のご家族はその……ウマ娘をどう思っている?」

「俺の家族が? いや、普通だろ。実家の店にもウマ娘を結構雇ってるし、叔父さんとこはウマ娘専門の料理屋だし……そもそも兄貴は店でアルバイトしてたウマ娘と結婚してるからな」

「そ、そうなのか……なるほど」

「そんなの聞いて何になるんだ?」

「い、いや、級友に……そう、級友に好きな相手がいてな! それが担当してくれているトレーナーらしく、その想いを告げるか悩んでいたんだ!」

「ああ、なるほどね。よくある青春時代の壁か」

 

 ご主人様たちが何を話しているか分からないけど、前のご主人様はとても真剣だ。お耳もずっと今のご主人様の方に向いてる。

 

「その子のトレーナーはどんなやつなの?」

「その、普段から頼り甲斐があり、わた……その者を長く支え、いつもその者を第一に考えてくれている、らしい」

「ああ、んでそれが担当としてなのかどうなのかって感じか」

「あ、ああ……」

「んー、スキンシップとかは?」

「よく首筋を撫でてくれる、そうだ。尻尾のケアも任せている、らしい。あとよく二人で出掛けたり、相手の家にお邪魔もする、みたいだ」

 

 それ、ご主人様たちのことじゃないの?

 

「なら相手も少なからず担当の子を信頼してるってことだな。あとは年齢差とかが問題だろうが、ちゃんとその子が恋に恋をしてるんじゃなくて、真剣にそのトレーナーとの将来を考えてることを告げればいいと思うぞ。俺は当人らが幸せならそれでいいと思うしな。それこそ外野がとやかく言うことじゃねぇだろ。まあエアグルーヴもそうだが、学生ってのは多感な時期で、年上に対する憧れってもあるしな」

「だ、だが、ウマ娘はこの人と決めたら決して裏切ることはない!」

「それは分かってる。寧ろウマ娘と人間のカップルで浮気するのいつも男側だからな。気持ちが重いとか束縛がとか理由は様々っぽいけど」

「き、貴様もそうなのか?」

「おい、俺はそんな輩じゃねぇよ。俺は俺のことを想ってくれる相手にはそれ以上の想いを返すつもりで接する! 親父とお袋がそうだからな! というか重いくらいの方がいい!」

「な、なるほど……」

 

 今のご主人様のお話を聞いて、前のご主人様は安心したみたい。変なの。番ならそんなこと気にしなくていいのに。

 でも私もいつかご主人様たちの子どもの面倒みたいなぁ。だから早く子孫作ってくれないかなぁ。そのために早くご主人様たちには一緒に暮らしてほしいんだけど……。

 

「エアグルーヴは相変わらず優しいな。友達のためにそこまで悩むなんて。あれ? でもその悩みと俺に甘えるっていうのはどう繋がってくるんだ?」

「た、たわけ! きゅ、級友の悩みに私も同じように悩んで、それで気が滅入って甘えてるだけだ!」

「あ、なるほどなるほど。なら早くその子に想いを告げちまえって言っといて。悩んでてトレーニングに身が入らなくなったりすると、余計に想いを告げるとか出来ないってなりそうだし」

「他人事だと思って、貴様は……」

「だって俺からしたら他人だもん。なのに俺のエアグルーヴが悩んでるなら、早くその悩みを解消させてやりたいってだけだ」

「……くぅ」

「?????」

「っのぉ〜……たわけがー!」

「ワッツ!?」

 

 どうして今のご主人様怒られてるんだろ? 今のご主人様は前のご主人様のことを思って言ったのに。意味は分からないけど、今のご主人様が前のご主人様をどれだけ考えてるのは分かるもん。変なの。

 

 それからはなんか前のご主人様はぎこちなかったけど、それでもずっと今のご主人様からご飯を食べさせてもらってた。

 ご飯のあとはまた前のご主人様とたくさん掛けっ子したり、噴水で水浴びしたけど、掛けっ子は早過ぎて置いてかれちゃった。でもとっても楽しかった! だから早く毎日こうなるように、番としてご主人様たちには一緒に暮らしてほしいな!




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