女帝が持つ賢者の杖《完結》   作:室賀小史郎

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大切な記念日を控えて

 

 世間は師走。

 今月末に行われる今年最後の大きなレース有馬記念には、デネボラメンバーの中でカワカミプリンセスとゴールドシチーが出走する上、元旦に行われるウィンタードリームトロフィーから1週間後にはURAファイナルズの決勝戦が行われる。

 セイウンスカイとマーベラスサンデーは共に距離は違えど決勝に駒を進めているため、それに向けたトレーニングも佳境に差し掛かっていた。

 あのセイウンスカイですら、URAファイナルズの決勝ということで並々ならぬやる気をキープしており、楽しみの釣りというおサボりも幸福に「暫くはおサボりをお休みします」とまで言ったほどだ。

 マーベラスサンデーに至っては相変わらずだが、連日楽しみ過ぎて眠れずに同室のナイスネイチャに注意されているのだとか。

 当然、有馬記念に出走するカワカミプリンセスとゴールドシチーも二人に負けじとトレーニングをこなす日々。ゴールドシチーに至っては有馬記念を最後にドリームシリーズに移籍することになっているため、有馬記念が終わるまではモデルの仕事も事務所と相談した上で休業中。

 

 そうしたことから、他のメンバーもその四人からいい刺激を貰い、この四人に負けてなるものかとトレーニングに身が入った。

 そんな中、エアグルーヴに至っては先月のジャパンカップを最後にトゥインクルシリーズからドリームシリーズに移籍することになっていたので、今は来年度から始まるドリームシリーズに向けての準備期間に入っている。

 

 ただエアグルーヴに至っては、この時期はそれよりも重要な時期であった。

 それは、

 

「トレーナーの誕生日プレゼントが決まらない?」

 

 愛する幸福の誕生日が近いからだ。

 よってエアグルーヴは連日、彼に渡すプレゼントのことで頭を悩ませ、まだ決まっていない。

 

 幸福の誕生日は元旦。今はまだ12月の初めなのでぶっちゃけまだ先なのだが、エアグルーヴは昨年も一昨年もプレゼント選びに1か月以上時間を費やした。

 それに今回は恋人になって初めて迎える彼の誕生日という大切な記念日。故にプレゼント選びはかなり重要。故に難航を極め、ああでもないこうでもないと日々頭の中がグッチャグチャになっていた。(それでも日頃の生徒会の仕事やトレーニング等は完璧にこなすというウマ娘の鑑)

 なのでエアグルーヴは素直にチームのメンバーたちに助けを求め、今に至る。

 

 今日は幸福がトレーナー会議でトレーニングもお休み。そしてトレーナー室の鍵はエアグルーヴが合鍵を預かっているため、みんなをトレーナー室に呼んで相談に乗ってもらうことにした。

 みんなも自分の予定があるのに快く集まってくれたので、エアグルーヴはそんなみんなに心から感謝し、相談をするのだった。

 

「前は何をプレゼントしたの?」

 

「確か去年はベルトだったよねー?」

「んで、その前は手帳だったな」

 

 ゴールドシチーが思ったままを訊ねれば、エアグルーヴではなくセイウンスカイとヒシアマゾンが答え、それに対しゴールドシチーは顎に手を当てて思案する。

 

「あたしとしては、トレーナーならエアグルーヴさんからのプレゼントなら何でも喜ぶと思うの」

「それは言えてるね。何だかんだエアグルーヴのことが一番だもんね、あのトレーナー」

 

 アイネスフウジンとナリタタイシンがそんなことを言うと、エアグルーヴは照れ隠しに紅茶を啜る。

 しかし二人の言ったことに対して誰も反論はない。

 何故なら、幸福のエアグルーヴに対する溺愛は恋人関係になったことで爆発したのだ。

 学園内外問わず、エアグルーヴの側にいれば何処へ行くにも必ずエスコートするし、仕事で学園外へ行けばその先で必ずエアグルーヴにだけは装飾品を買ってくるし、会う度に彼女への愛の言葉を囁く。

 そんな彼の変わり様に、デネボラメンバーだけでなく、他にも多くのトレーナーやウマ娘が『よく今まで我慢してたな』と呆れ返ってしまうほど。

 だからこそエアグルーヴは日頃の彼に対する愛を込めたプレゼントがしたくて、悩みに悩んでいるということだ。

 

「あむあむあむ……ごくん。だったらお料理作ってあげたら? 何処かにデートしに行くとかより、トレーナーは誕生日は好きな人と二人っきりで甘々に過ごしたいってタイプだの思うもん!」

 

 今までエアグルーヴにおやつとして出してもらった人参プリンに夢中になっていたマーベラスサンデーがそんな提案をする。

 彼女は何も聞いていないように見えて、しっかりと相手の話は耳に入っているのだ。

 それにマーベラスサンデーはこれまで何度も幸福をお出掛けと言って、連れ回したじゃじゃウマ娘でもあるため、幸福のことはエアグルーヴの知らない部分まで意外と把握していたりいる。

 

「なるほど……確かに幸福さんはロマンチストだから、落ち着いた静かな雰囲気を好む傾向があるな」

 

 天啓を得たとばかりに頷き、席を立った。

 メンバーが揃って首を傾げると、

 

「そうと決まれば材料を買いに行って、どんな料理を幸福さんに食べてもらうか決めなくては。皆、すまないが手伝ってくれるか?」

 

 今度は料理の相談を持ち掛けられ、メンバーは快くそれに頷いた。

 

 ◇

 

 そんな訳でエアグルーヴたちがやって来たのは、寮の近くにある商店街。

 昔ながらのお店が並び、ウマ娘たちも良く訪れる場所なので活気がある。更に言えば幸福は商店街の雰囲気が好きなので、エアグルーヴもここで調達した食材で料理を提供したいと考えたのだ。

 

「何を作るとかもう浮かんでるのか?」

 

 ヒシアマゾンがそう訊くと、エアグルーヴは首を横に振って「いや、まだだ。まずは色々と見て回って決める」と返す。

 

「というか、誕生日もそうだけど、世間的には先にクリスマスが来るよね? そっちの方は考えなくていいの?」

 

 そこへナリタタイシンが疑問を投げると、

 

「そのことならばもう決めてある……というよりは、幸福さんに直接聞いて、クリスマスに二人で買いに行く予定だ」

 

 エアグルーヴは平然と返して来た。

 

「何を買う予定なんですの? もしかして指輪ですの!? そうですのね!? あ〜、トレーナーさんと先輩がついに……憧れますわ憧れますわ憧れますわ〜! お二人の挙式は是非ともお父さんの会社のグループがやっているチャペルで挙げてくださいまし! わたくしがお父さんに言えば無料になりますわ!」

「ウェディングのリングかぁ……いやぁ、女帝様は仕掛けが早いですなぁ♪ 学生結婚とは、ねぇ?」

 

「バッ、ち、違うぞ! 違うからな!? クリスマスに買うのはフォトブックだ! そこに恋人になってからの思い出を残そうと……だから決して指輪ではない! そもそもまだ早いだろう、たわけ!」

 

 カワカミプリンセスとセイウンスカイに言われ、顔を真っ赤にして否定するエアグルーヴ。

 因みにヒシアマゾン、ナリタタイシン、ゴールドシチーの三人は『フォトブックを買う理由が甘過ぎる』とエアグルーヴの無自覚惚気に内心苦笑いした。

 

「あっ、あそこの八百屋さんの大根、とっても安いのー!」

「あー、気怠ねこのガチャポン! まさかここにあるだなんて、マーベラス!」

 

 一方でアイネスフウジンとマーベラスサンデーは早くも目的が変わっている。因みにマーベラスサンデーが言った『気怠ねこ』は、猫が怠そうに地べたに寝そべっている様子を模したカプセルトイ限定のミニチュアフィギュア。ナイスネイチャやマヤノトップガンとハマって集めているそう。フィギュアのポーズはどれも同じだが、猫種が全25種類プラスシークレット1種類があるのだとか。

 

「アタシはエアグルーヴと回るから、みんな自分の好きなとこ行きなよ。えっと今が15時半だから、17時にまたここの商店街の入口に集合ってことにしよ」

「あぁ、ならアタシがアイネスとマーベラスのこと見てるよ」

 

 ゴールドシチーの提案にヒシアマゾンが手を挙げると、アイネスフウジンもマーベラスサンデーも彼女の手を引いて一旦別れた。

 

「他のみんなも好きなとこ行っていいよ?」

「アタシは別に何も目的ないからこのまま付いてくよ。そもそもエアグルーヴのために付いて来ただけだし」

「わたくしもですわ。それに荷物持ちならお任せあれですわよ!」

「セイちゃんは一緒に回りながらフラフラさせて頂きますよ〜♪」

 

 こうして二手に別れ、それぞれ商店街を見て回った。

 

 ◇

 

「そう言えば、何でクリスマスプレゼントはトレーナーに聞けたのに、誕生日プレゼントは聞けないの?」

 

 ヒシアマゾンたちと別れて少しした頃、ゴールドシチーが思い出したようにエアグルーヴに訊く。

 

「ああ、それはあれだ……。クリスマスはみんなの記念日だが、幸福さんの誕生日は彼だけの記念日だ。だからクリスマスのように軽い気持ちでは聞けない。ただそれだけのことだ」

 

 彼女かそう返すと、それを聞いた誰もが『エアグルーヴらしいなぁ』と微笑んだ。

 当然ゴールドシチーに「乙女だねぇ」と茶化され、セイウンスカイからは「お熱いですなぁ」とからかわれ、エアグルーヴのたわけという叫びがこだました。

 

 ◇

 

「一通り見て回ったけど、何か思い付いた?」

 

 ゴールドシチーの問い掛けにエアグルーヴはしっかりと頷く。

 

「ああ、決めた。カニ料理と誕生日ケーキを作ることにする」

 

 エアグルーヴは商店街を見て回っている途中、ケーキ屋の前でアイデアが浮かんだ。

 幸福も甘いものは好きだし、誕生日ケーキならば喜んでもらえるだろうと思ったのだ。それと無類のカニ好きなので、今の時期のカニ料理はとても喜んでくれるだろうと。

 

「ん、いいんじゃない? 何ケーキにするの?」

「幸福さんはチーズケーキが好きなんだ。だからチーズケーキにしようかと思う」

「あ〜、確かにスイパラ行った時とか良くチーズケーキ持って来てたかも〜」

 

 セイウンスカイがふと思い出すと、他の面々も確かにと頷く。

 

「でしたらレアチーズケーキなんてどうですか? 色々とアレンジも出来ますし、それこそトレーナーさんの手作りジャムを使ってマーブルにも出来ますし!」

 

 カワカミプリンセスは自分が食べたい物を正直に提案すると、エアグルーヴが「いいな」と目を輝かせて頷いた。

 

「あはは、カワカミ〜、そう言えば試作ケーキ食べられると思って提案したな〜?」

「ギクゥッ!? そ、そんなこと……ありませんとも……」

 

 ゴールドシチーの指摘に目がこれでもかと泳いでしまうカワカミプリンセス。

 すると、

 

「マーベラスも先輩のレアチーズケーキ食べたーいっ!」

「あたしも食べたいのー!」

 

 マーベラスサンデーとアイネスフウジンが合流するなりエアグルーヴにお願いする。

 彼女らの後ろにはヒシアマゾンもいて、その手には何故かビニールに包まれたチャーシューの塊があった。

 当然、それはどうしたとエアグルーヴたちから訊ねられ、

 

「いや、1キロ千円だったし試食したら美味かったから、つい衝動買いしちまってね」

 

 苦笑いで答えた。

 すると何故かゴールドシチーが「千円チャーシュー……あはは♪」と笑い出したが、みんなはスルーする。ゴールドシチーの笑いのツボはちょっとズレているからだ。

 

「まあ取り敢えず、買う物は決まったね。魚屋のおっちゃんは知り合いだから、アタシがカニの予約しとくよ」

「いいのか、タイシン?」

「ん。エアグルーヴには世話になったからね。そのお礼」

「ありがとう、タイシン」

「いいって、別に。カニはこれがいいとかある?」

「毛ガニがいいな。今が旬だ」

「予算は?」

「1万円前後で頼む。高過ぎると幸福さんが遠慮してしまうからな」

「じゃあ今から行って当日に受け取れるように頼んでくるよ」

 

 ナリタタイシンはエアグルーヴから聞いたことをウマホのメモアプリに残し、そそくさと知り合いの魚屋へ向かった。

 

「タイシンって普段クールというか、ドライだけど友達のためなら喜んで動いてくれるよな」

「確かタイシンの親がやってる花屋ってここの商店街にあるよね? だから知り合いってことなんだね」

「ツンデレキャラの鑑ですなー♪」

 

 ヒシアマゾン、ゴールドシチー、セイウンスカイがそんな話をしていると、少し離れたところからナリタタイシンが「うっさい!」と叫び、みんなそれに思わず笑う。

 エアグルーヴは『本当に私は周りに恵まれているな』と思い、試作ケーキとはしないで感謝を込めてケーキをご馳走しようと心に決めた。




 おまけ

「これ、本当に頂いちゃっていいの?」
「なんだか、返って申し訳なくなるね」
「気にするな。普段からフジとファインには世話になっている。そのお礼だ」

 エアグルーヴはあれからケーキの材料を買い揃え、早速寮のキッチンで腕によりをかけてケーキを作った。
 メンバーにもご馳走したが、夕飯のあとで日頃から相談(惚気)を聞いてもらっているフジキセキとファインモーションにも同様にご馳走しようと用意したのだ。
 しかしご馳走する側だが、他の生徒たちが集まって来てしまうのを避けるために一人部屋であるフジキセキの部屋でご馳走している。

 幸福に渡す物と同じく、幸福のバラジャムを使ったマーブルレアチーズケーキ。
 白とピンクや赤のコントラストがとても美しく、既にご馳走したデネボラメンバーたちからはかなり好評だった。

「そっか、これグルーヴのトレーナーさんの誕生日に渡すケーキと同じなんだね」
「ああ。流石に食べ切れる量にする予定だがな」
「トレーナーさんは幸せだね。こんなことを誕生日にされたら、きっとトレーナーさんはより君の愛に溺れてしまうんじゃないかな? いや、君にとってはその方がいいのか」
「……煩い」
「おや、いつもの「たわけ」じゃないね?」

 クスクスと笑って指摘するフジキセキ。
 そんな彼女の視線から逃れるように、エアグルーヴは「いいから食べてみてくれ」と催促した。

「はぁ……これは美味しいね」
「美味しい〜♪ これならきっと喜んでくれるし、本当のデザート(意味深)も食べてくれるよ!」
「そうか。口に合ったのであれば良かった」

 ファインモーションが言った『本当のデザート』というワードにエアグルーヴは内心首を傾げるが、あまり気にしないことにする。
 今はそんなことより日頃の感謝を二人に伝える方が大切だから。

「おかわりもあるから好きなだけ食べてくれ」
「では遠慮なく頂こうか♪」
「そうだね♪」
「時にグルーヴ」
「なんだ、フジ?」
「外泊届けは何も聞かずに受理するから、ちゃんと提出してからお泊りするんだよ?」
「そんなことするかたわけがー!」
「あれれ、グルーヴってば何をするつもりなのー?」
「もう知らん!」

 エアグルーヴが完全に拗ねて二人に背を向ける。しかしそうするだけで部屋から出て行かないところが可愛くて、二人は思わず笑いながらも、ちゃんと謝るのだった。

 こうして夜ではあるが、フジキセキもファインモーションもエアグルーヴの美味しいケーキを堪能した―――

「そうだ、聞いてくれ。先程幸福さんが私の声を聞きたいという理由だけで電話をくれたんだ。それだけなのに私はとても嬉しくて――」

 ―――女帝の惚気話というガムシロップと共に。

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