世間はクリスマス。
それはトレセン学園で過ごすウマ娘たちも同じで、冬期休業にも入ったこともあり生徒たちは余計に浮かれている。
ただ明日に有馬記念を控えているウマ娘たちは、夢のグランプリ前ということで浮かれ過ぎないようにしていた。
クリスマスにはトレセン学園のカフェテリアで関係者のみ参加することが可能なクリスマスパーティが開かれる。
帰省前ということもあり、多くの生徒やその担当トレーナーらが参加するが、パーティは夕方から。
なのでチームデネボラは揃ってクリスマスの街に繰り出している。
クリスマスパーティではプレゼント交換もあるので、そのプレゼントの用意と明日に有馬記念を控えているカワカミプリンセスとゴールドシチーの緊張を解すため、幸福がみんなを駅前の大きな雑貨屋へ連れ出したのだ。
ただエアグルーヴはパーティの準備があるので、それに遅れないようにする予定。
当然、幸福はしっかりとエアグルーヴをエスコートしており、それを見てマーベラスサンデーが真似っ子してカワカミプリンセスをエスコートしている。
「プレゼントはいくらまでだっけ?」
「1000円以内だ。高額のになってしまうと色々と問題があるからな」
セイウンスカイの質問にエアグルーヴが答えると、彼女は「了解でーす」と返してプレゼントになりそうな物を物色。
「俺は無難にペンにでもするかな」
「いいんじゃないか? 貰って困る物ではないし」
「エアグルーヴは何にする予定?」
「私は去年と同じくメモ帳だ。男性のトレーナーに当たっても使えるような物を選ぶ」
「そういうのもありだな」
共に意見交換をする二人を見て、メンバーは『何あの熟年夫婦』と内心思う。
それだけ二人の信頼関係が洗練されている証拠なのだが、エアグルーヴに至ってはしっかりと幸福の横顔を見つめて乙女顔。
「マベさんは何にしますの? わたくしはこのかわいいブタさんの絵が描かれているマグカップに決めましたわ」
「アタシはねぇ……あ、この気怠ねこの付箋にする! 可愛いけど男の人でも使えるからマーベラス!」
一方、天使組は仲良くプレゼントを見つけた様子。
カワカミプリンセスが言うブタのマグカップはゆるキャラっぽいが、可愛いかどうかは本人次第だろう。
「アタシはこれでいいや」
「タイシン、流石に適当過ぎない?」
「そういうシチーだって、適当に決めたっぽいじゃん」
「あ〜、このあぶらとり紙は安いけどアタシのおすすめ品だよ?」
「ふーん……ま、何でもいいじゃん。一応このキーホルダーだって、フィジェットトイ付いてるからいいかなって思ったし」
「へぇ、意外と考えてんだ?」
「……うっさい」
照れ隠しにそっぽを向くナリタタイシンに、ゴールドシチーは苦笑いで謝った。
なんだかんだちゃんと考えているのがナリタタイシンのいいところ。
因みにフィジェットトイとは単調な動作を延々と繰り返して遊ぶ種類の玩具を総称する言い方で、彼女が選んだキーホルダーにはフィジェットキューブが付いている。
こうして各々でプレゼントを選び、ショッピングを楽しんだ。
最終的に幸福は消しゴムで消せるボールペン。エアグルーヴが青いメモ帳。ヒシアマゾンは白と青のチェック柄ハンカチ。アイネスフウジンが小物入れ。セイウンスカイはマグロを模したストラップというラインナップになった。
◇
ショッピングが終わると、エアグルーヴが学園へ戻るのにいい時間だったので、みんなして学園へ戻ることに。
するとその途中で、何やらいい匂いが漂ってくる。
少し早いが14時を過ぎているのもあり、マーベラスサンデーとカワカミプリンセス、セイウンスカイがその匂いにつられた。
匂いの正体はたい焼きの移動販売車。公園に停まっていてマーベラスサンデーたちに『食べたい!』とおねだりされ、幸福は苦笑いで「奢ってやるよ」と承諾した。
「おじさん、こしあん一匹くーださい♪」
「わたくしはカスタードを一匹くださいな♪」
「私は……クリームチーズでお願いしまーす♪」
三人が我先にと注文すると、たい焼き屋の大将は「毎度!」と豪快に返してたい焼きを手渡す。
「アタシは小倉で!」
「アタシは……白あん」
「あたし抹茶白玉がいいのー!」
「アタシこの小倉&クリームチーズで♪」
「はい、毎度!」
ヒシアマゾン、ナリタタイシン、アイネスフウジン、ゴールドシチーとたい焼きを注文し、
「私はチョコレートを頂きたい」
「俺はこっちのホワイトチョコのやつをください」
「へい、毎度!」
エアグルーヴと幸福もそれぞれたい焼きを受け取り、幸福がちゃんと全額払った。
みんなお行儀よく、公園のベンチに座って『いただきます』と声を揃え、たい焼きを頬張る。
そんな中、幸福はたい焼きを見つめて「へぇ」と声を漏らした。
「幸福さん、どうしたんだ?」
「ん、このたい焼きメスだから、珍しいと思ってな」
「メス?」
エアグルーヴが聞き返すと、幸福は「そう、メス」と頷き、他のメンバーも『メスなんだ……』と驚いた様子。
「それとあのおっちゃんが使ってたのは一丁焼きだったから天然物だ」
「たい焼きに天然物があるということは、養殖物もあるのか?」
「あるぞ。養殖物は一度で多く焼けるやつで作ったたい焼きのことだ」
「なるほど、奥が深いんだな。それで、オスメスの見分け方はどうするんだ?」
「口を見れば分かるぞ」
幸福はそう言って、自分のたい焼きの口をみんなに見せる。
「一概にそうだとは言い切れないが、たい焼きの口のとこが円弧になってるだろ? こうなってるのはメスで、四角いのはオスなんだ。ただその店によってパリパリがオスでふっくらがメスだったり、中身ぎっしりがメスで、少なめがオスだったりあるって俺の叔父さんから教わったんだよ」
説明を聞くとみんなは揃って「へぇ」「ほう」と頷いた。
実際、口のところが円弧になっている型を使うのは関西に多い。
「というか、クリスマスにたい焼き食べてるなんて、アタシららしいよね」
「あはは、確かに!」
「普通はみんなケーキとかチキンだもんな!」
「まあうちらしくていいだろ。それにたい焼き美味いし」
ゴールドシチーの言葉にアイネスフウジンとヒシアマゾンがそう言って笑い、幸福の言葉にみんなして頷き、たい焼きを頬張った。
因みにこういう時によく出る頭と尻尾どちらから食べる論争は、頭派が勝利した。
ヒシアマゾン、アイネスフウジン、マーベラスサンデー、セイウンスカイが頭から。
ゴールドシチー、ナリタタイシンが尻尾から。
エアグルーヴは半分に割ってから。
そして幸福はエラからという結果。
エラからという理由は幸福曰く、エラをやらないと逃げてしまうからなのだとか。本人はたい焼きが動かないのは知っているが、父親と兄が某たい焼きくんの歌みたいに海に逃げたら大変だから、まずはエラからいけと教わったので今でもそうしているのだそう。
それを聞いてみんなは笑ったが、エアグルーヴだけは『私の恋人が可愛過ぎる……』と内心悶えていた。
―――――――――
それから時間が過ぎて、クリスマスパーティが始まる。
今年はオグリキャップとスペシャルウィークに加え、タイキシャトルがいるため、参加しているみんなはお目当ての料理がなくなる前に確保に走った。
当然、三人はそれぞれのトレーナーが他の食べ物で気を引いていたのでみんなは比較的ゆっくりと確保することが出来た。
「今年も去年とあんま変わんねぇ光景だな」
「……お馴染みということで良しとするしかあるまい」
幸福が愉快そうに言う隣で、エアグルーヴはこめかみを押さえながらそう返す。
料理はテーブルの上に乗り切らない量を用意したが、参加する者も年々増えているし皆良く食べるために満腹になるのは難しい。
だからといって全員が満足する量となるとそれだけで予算の確保が難しくなる。これは学園の予算ではなく、生徒会の予算で行っているのだから。
「まあでもパーティの雰囲気を楽しんでくれればいいんじゃねぇの? 足りなきゃ足りないでみんな他で食べるだろうし」
「ああ、そうだな」
「エアグルーヴもそんな難しい顔してないで、ほらスマイルスマイル」
「……たわけ」
幸福がへらりとした笑顔を浮べれば、エアグルーヴもそれにつられて笑顔になった。
そしてエアグルーヴは『ああ、私は本当に幸せ者なのだな』と彼の優しさに胸の奥が温かくなる。
いつの間にかエアグルーヴは周りの目があることを忘れ、そっと幸福の肩に頭を寄せて甘える仕草をみせていた。
そんな二人を―――
「うわぁ、エアグルーヴ先輩とそのトレーナー……ラブラブ過ぎでしょ……」
「あの二人からステータス『ラブラブ相思相愛』を確認。それにより、私にも『高揚』が与えられました。眼福です」
「いいなぁ、エアグルーヴ……あたしもトレーナーさんと……って、何考えてるんだ、あたしぃ!」
「ディ・モールト(非常に)、ディ・モールト良いぞ」
―――お馴染みの同盟員たちは食い入るように見ている。ナリタブライアンが少々何キャラなのか分からなくなっているが、雰囲気や二人の甘さでハイになっているということだけは理解してほしい。
「エアグルーヴとそのトレーナー君は仲睦まじいな」
「こうして人間とウマ娘の歴史がまた未来へと繋がるんだろうな」
「ああ、美しいな……私も君とそうありたいが」
一方でシンボリルドルフは岡部トレーナーの隣で人参ジュースを嗜みながら、エアグルーヴたちを羨ましそうに見ている。
「ん、最後は何だって?」
「い、いや、いつものジョークだ。気にしないでくれ」
「そうか。グラスが空いているな。おかわりいるか?」
「ああ、お願いしよう」
しかしながら、なんだかんだ言ってシンボリルドルフも岡部と恋仲ではないにしても、とても落ち着いた甘い雰囲気であった。
故に―――
「生徒会長さんも、凄いなぁ」
「あの二人からはステータス『信頼』を確認。これは是非とも恋愛へ発展してほしいところです」
「会長も頑張ってるんだなぁ……あたしも頑張らないと……とりあえず、有馬記念が終わったらお祖母様に紹介して……ブツブツ」
「あちらもあちらで実に良い。頑張れよ、会長」
―――同盟員たちはシンボリルドルフたちのこともしっかりと観察するのだった。
「あ、デジたん、こんなとこで寝てたら踏まれちゃうよー?」
「尊みパーリナイ……ぐへへへ♪」
「ボーノちゃーん、デジたんが踏まれないようにあそこのデジたん専用物干し竿に掛けてあげてー」
「はーい♪」
こうしてパーティは甘い雰囲気を撒き散らし、尊みの犠牲を一人だけ出して無事に終えた。
おまけ
クリスマスパーティが終わり、あと片付けも終えた頃。
エアグルーヴは幸福と共に、寮までの道程を歩いていた。
「…………♪」
エアグルーヴはとてもご機嫌。何故なら写真部の子たちに幸福とのツーショット写真を撮って貰ったからだ。
写真のデータは明日自分のウマホへ送信されてくるが、それが今から楽しみで仕方ない。
「早速、アルバムに入れる写真が出来たな」
「ああ、そうだな……ふふっ」
「エアグルーヴが嬉しいと、俺も嬉しい」
「たわけ……嬉しいのは私の方だ、全く」
幸福の左腕に絡めた両手にきゅっと力を入れ、少し体重を彼の方へと傾ける。当然頭を押し付ける形になるが、幸福は歩き難いと拒んだりはしない。
「……幸せだ、私は」
「おい、まだ何もしてないのに勝手に幸せになるなよ」
「なんだ、その変な文句は」
エアグルーヴがツッコミを入れると、幸福が立ち止まる。
どうしたのかとエアグルーヴが見上げると、
「愛してる、エアグルーヴ……んっ」
「……んぅ♪」
キスをされた。
少し前ならこんな風に突然キスをされたら固まってしまうエアグルーヴだったが、今はいきなりされても自然体で受け入れられるようになった。
キスをしてくれたと理解すると、自然とその吐息も弾んでしまう。
周りからは他の生徒たちのざわめきが聞こえるが、エアグルーヴは気にしない。
今は愛する彼とのキスが最優先だから。
「んぁ……たわけ。他の者の目があるんだぞ?」
唇を離して開口一番は文句。それでもエアグルーヴの表情はトロトロに蕩けているので、いつものたわけ砲もそよ風程度にしか威力がない。
「これでちゃんと幸せになったろ?」
「ぅ……」
「はは、俺もそんなエアグルーヴが見れて幸せだ」
「今度は私が幸せにする番だ」
そしてエアグルーヴも負けじと幸福にキスをし、互いに互いを幸せにし、冬だというのに周りを南国の暖かさにしたバカップルであった。
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ということで此度も読んで頂き本当にありがとうございました!