女帝が持つ賢者の杖《完結》   作:室賀小史郎

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グランプリ後の記念日

 

 有馬記念。

 年末に行われるグランプリ。

 夢の舞台に舞い降りた16名のウマ娘。

 夢を掴み取るのはどのウマ娘なのか。

 

「カワカミプリンセス! 先頭に躍り出たぞ! 後続のウマ娘たちが離されていく!」

 

 ワァァァァァッ!

 

「ゴールドシチー! ゴールドシチーです! 輝くプラチナブロンドを靡かせて! 後輩カワカミプリンセスと並んだぞ!」

 

 ◇

 

「はぁはぁ……くぅっ!!」

「やるじゃん、カワカミ……でも今回は勝たせてもらうから、恨まないでね!」

 

 また一つギアを上げるかのように加速するゴールドシチー。

 それに食らいつくカワカミプリンセスだが、徐々にその差は開いていく。

 

「プリンセスは……! 気合と……ど根性……! ですわぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 ワァァァァァッ!!!!

 

 歓声がまた大きく響いた。

 当然だ。

 一度千切られたはずのカワカミプリンセスが、またゴールドシチーと並んだのだから。

 

 両者一歩も譲らない。いや、譲れない。

 負け続け、諦めずに来た夢の舞台。

 勝ち続け、また勝つために来た夢の舞台。

 

 勝つのは―――

 

「アタシだーーーーーーーーーーっ!!!!」

「わたくしですわーーーーーーーっ!!!!」

 

 ―――三女神が微笑みを向けた者のみ。

 

 ◇

 

 ワァァァァァッ!!!!!!

 

「縺れるように両者ゴーーールインッ! 結果は……写真判定っ! 勝利はどちらが掴み取ったのでしょうかっ!?」

 

 レース場が静まり返る。

 どちらが勝ったのかと固唾を呑んで見守っている。

 

 素晴らしいレース運びを見せたゴールドシチーか、はたまた驚異の粘りを見せたカワカミプリンセスか。

 

 ワァァァァァッ!!!!!!!!

 

 今日一番の大歓声がレース場を揺らす。

 

「ゴールドシチー! ゴールドシチーです! 年末のグランプリを制したのはゴールドシチー! トゥインクルシリーズ最後となる夢の大舞台で大輪の花を咲かせ、ドリームシリーズに駒を進めますっ! そしてまさに今年はチームデネボラの年になりましたっ!」

 

 勝利はゴールドシチーがもぎ取った。

 スタンドに押し寄せたファンたちは彼女へ大きな拍手を送り、彼女がターフを去るまで「シチーコール」が鳴り響いた。

 

 ◇

 

「やった……やったーっ!」

 

 スタンドの声にはクールに振る舞っていたものの、控室に入るなりゴールドシチーはその喜びを爆発させ、カワカミプリンセスに抱きつく。

 カワカミプリンセスは惜しくも2着となったが、彼女はゴールドシチーがどんな思いでレースに臨んだのかを常に肌で感じてきた。

 故に今は負けた悔しさより、幼子のように無邪気に喜ぶ先輩を見れた嬉しさが溢れている。

 

「おめでとうございます、ゴールドシチー先輩。ドリームシリーズでもより一層のご活躍を祈っていますわ」

「アリガト、カワカミ!」

「ええ……それと――」

「?」

「ドリームシリーズへ行っても、またこれまでのように並走トレーニングとかしてくださいね? 一緒にトレーニング出来ないと寂しいですから……」

「……あはは、何それ? やるに決まってんじゃん!」

 

 カワカミプリンセスはゴールドシチーにとってはもうただの後輩ではない。

 同じチームのメンバーであり、かわいいかわいい、ちょっと世間とはズレた後輩ちゃんなのだ。

 

「おう、二人共。お疲れさん」

 

 そこへチームトレーナーの幸福が入ってくると、二人は満面の笑みを彼へと向け、ウイニングライブの声がスタッフから掛かるまでうんと褒めてもらうのだった。

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

 有馬記念を終え、日が経ち、時は大晦日。

 多くのウマ娘は帰省しているが、帰省せずに寮へ残って来年に向けてトレーニングに励む子もいる。

 チームデネボラのメンバーは今年は幸福とエアグルーヴがイチャイチャしやすいようにと、モデル業で年末年始は何かと忙しいゴールドシチー以外は皆有馬記念が終わった次の日には帰省した。それでもみんな元旦の夕方に帰ってくる予定。

 元旦は幸福の誕生日。いの一番はエアグルーヴに譲るが、みんなも幸福の誕生日を祝いたい気持ちは同じ。

 なので元旦の夕方には今度はみんなで幸福の誕生日パーティをするのだ。

 

 よって今、エアグルーヴは大晦日の夜を外泊届けを出してトレーナーがカールと暮らすマンションで過ごしている。

 当然誰にも憚られずに過ごしているのだが、

 

「…………」

「なんでそんな縮こまってんだ?」

「…………」

「おいおい、そんなに離れてちゃ寒いって」

「ひぅ……」

 

 エアグルーヴは先程から首まで真っ赤にして、あぐらをかく幸福に抱え込まれるように抱っこされて思考停止に陥っていた。

 幸福はエアコンの暖房の風が苦手なので、真冬でも滅多にエアコンを使わない。その代わり灯油ストーブやこたつを使って暖をとる。

 エアグルーヴはウマ娘であるため寒さに強く、人間と比べると体温も高い。なので幸福にいい湯たんぽにされているのだ。因みにウマ娘の平熱は37〜38度。レース直後だと43度になる子もいる。

 

 幸福から抱っこされている今の状態は彼女にとって嬉しいことこの上ないが、後ろからずっと……もう日が落ちてからずっとこの状態なので流石に恥ずかしさが勝ってきた。

 なのに飼い主に似たのか、エアグルーヴが伸ばしている脚の上にはカールがぐでーんと寝そべっているため、逃げることは不可能。

 

「な、なあ、今更だが、本当に今夜は泊まってもいいのか? 前に泊まるのはダメだと言っていたのは幸福さんなんだぞ……?」

「理事長とたづなさん、それとエアグルーヴのご両親にも話は通したから大丈夫だ。仮に俺がエアグルーヴに対して不埒な真似をすれば俺が物理的にも社会的にも抹殺されることになってるからな」

「それはそれでいいのか?」

「俺は構わないよ。恋人と誕生日を過ごしたいだけだし、過ごすだけで不埒な真似なんてする気起きねぇし」

「……幸福さん」

 

 幸福の誠実な言葉にエアグルーヴの胸の奥はトゥンクと跳ねる。

 

「ってことで、元旦になるまでエアグルーヴは俺とカールサンドの刑な♪」

「罰を受けているのか、私は?」

「そ。俺を夢中にさせた罪で」

「……そっくりそのまま返してやる……たわけ」

 

 こうしてエアグルーヴは幸福にされるがまま、ゆったりと甘い年越しをするのだった。

 

 ―――――――――

 

「はい……はい……はい、誓って娘さんには無体を働いたりはしません」

 

 0時を過ぎた元旦。

 幸福は電話の向こうにいる相手に誠心誠意の言葉を返す。

 電話の相手はエアグルーヴの父親で、妻から幸福のことは聞いているが、今回は状況が状況なだけに釘を刺しに娘に電話を掛けて電話口を代わってもらったのだ。

 

『もしも私たちの娘に何かあれば、私は私の持つ全てを利用して貴様を社会的に抹さ……始末することになる。娘は私の妻に似て美人だ。据え膳なんたらとか考えようものなら』

「大丈夫です。決してそのような真似はしません」

『私の娘はそんなに魅力がないというのか!? 娘が選んだ相手でも愚弄するならば容赦はせんぞ!?』

「いえ、そういうことではありません。彼女は学生の身ですし、私に至っては社会人です。今回はただ健全なお付き合いの内の外泊ですので」

『ペチャクチャと口が上手い男だな……そういうやつに限って―――』

 

 エアグルーヴの父親から放たれる言葉は刺々しいが、父親はもうとっくに幸福をエアグルーヴの伴侶に相応しいと認めている。

 そもそもウマ娘である以上、いくら親が反対したところで意味はないし、エアグルーヴもそこらのウマの骨を選んだりしない。

 初めてエアグルーヴの実家へ挨拶しに行った時なんかは言葉や態度は相変わらず刺々しくても、甲斐甲斐しく皿へ料理をてんこ盛りに取って「貴様のために妻が用意した料理だ。食え」とソワソワしながら押し付けてきたので、幸福も『このお父さんかわいいな』と思ってしまったほど。

 幸福は彼女の父親のそういうツンデレなところを見て、つくづく親子だなあと気持ちが萎縮するより逆にほっこりしたそうな。

 

「お父様、そろそろよろしいですか? それとも私が選んだ相手を信用出来ないとでも? それはお父様が私を信用してくれていないということになりますが?」

『わ、私はお前のためを思って……』

「そう思うのでしたら信用してください」

『エアグルーヴ……少々冷たくないか?』

「いつも通りです。どうせこのあとお母様とよろしくするのでしょう? いつも娘の前だというのにイチャイチャイチャイチャと」

『た、たわけ。今はそういうのは――』

「そっくりそのままお返しします。たわけ。それではお母様によろしくお伝えください。落ち着いたら実家に顔を出しますので」

『その時は相手も連れてくるんだろうな?』

「言われなくても連れていきますよ。ようやく出来た息子と酒を飲みたいのでしょう?」

『た、たた、たわけ! まだ息子じゃない! それと言うんじゃない!』

「ふっ……」

『今鼻で笑ったな? パパ泣いちゃうぞ? パパはエアグルーヴのパパぞ? 繊細ぞ?』

「電波のせいです。では」

『おい、話はまだ――』

 

 父親からの電話を強引に切ってしまったエアグルーヴ。

 対して父娘のやり取りを見聞きしていた幸福は可笑しそうに肩を揺らしている。

 

「……笑うな」

「ああ、ごめんな。でもさっきのやり取り聞いてると……ははっ、やっぱ親子なんだなって思えてな」

「それは当たり前だろう、たわけ」

 

 恥ずかしそうにふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまうエアグルーヴを、幸福は謝罪の意味でそっと抱きしめる。

 そうすればすぐにエアグルーヴも背中へ両手を回し、ご機嫌に尻尾を揺らした。

 

「……お父様の電話のせいで遅くなったが、誕生日おめでとう。これからも私が一番最初に幸福さんの誕生日を祝うから、覚悟しておけ」

「おう、ありがと。俺は幸せだよ」

「女帝を無礼るなよ?」

「愛していますよ、女帝様」

「このたわけめ……ふふっ」

 

 そして二人は今年初のキスをして、歯を磨き、床に広い布団を敷いて、カールを挟んで眠りに就いた。

 

 ◇

 

 元旦の早朝5時。エアグルーヴはまだ眠る幸福を起こさないように布団から出て、洗面と歯磨きを済ませてから料理を始める。

 ナリタタイシンのおかげで大きな毛ガニを二杯仕入れることが出来た。

 

 エアグルーヴは毛ガニを水でよく洗い、沸騰した鍋の中に塩を入れ、甲羅を下にして茹でていく。

 毛ガニが茹で上がったら、一杯を取り出し、粗熱を取る。

 粗熱が取れたら、身を取り出し、ボールに移し、みじん切りにした生姜とすり胡麻を用意。

 もう一つのボールにケチャップ、酒、醤油、水を入れてよく掻き混ぜておき、それが終わったら熱したフライパンに米油を入れ、生姜とすり胡麻を入れたあとで豆板醤を加えて火を通す。

 豆板醤が絡み、火が通ったところでカニの身を入れてボールに作っておいた調味料も加えて和えていく。

 最後に水溶き片栗粉を回し入れ、とろみが出て来たら皿に敷いたカットレタスの上に盛り付ければ完成。

 エアグルーヴ特製のエビチリならぬカニチリだ。毛ガニが大きいためパッと見は三人前くらいあるが、幸福ならばぺろりと食べられるだろう。

 

 それから冷蔵庫に入れておいた幸福のジャムを使ったマーブルレアチーズケーキをテーブルの中央に鎮座させ、チョコプレートにホワイトチョコペンで『Happy♡Birthday』と書き、その右隣に茹でた毛ガニをドドンと置き、反対にはカニチリ。ご飯が欲しい時のためにご飯も昨晩炊飯器でセットしておいた。

 取皿と箸。カニの殻を入れるボールを用意すれば、誕生日プレゼントの用意が見事に終わった。

 朝から重いかもしれないが、今日は重いくらいが丁度いい。それがエアグルーヴの愛だ。

 

「我ながら完璧な仕上がりだ」

 

 青いエプロン(紐の部分は黄色)を外し、満足げに頷くエアグルーヴ。

 幸福が起きてから作る手もあったが、幸福が猫舌なので作り終えてから起こした方がすぐに食べられるだろうとエアグルーヴならではの気配りも完璧である。

 

 ◇

 

「幸福さん、起きてくれ。誕生日プレゼントが出来上がったぞ」

「ん……おお、おはよう」

「おはよう……何かいいな、こういうの」

「俺も同じこと思った」

 

 幸福が同意しながら体を起こし、エアグルーヴを抱きしめると、彼女は「くすぐったいな」と返しながら抱きしめ返した。

 今は朝の6時だが、普段はこれより早くから活動を開始する幸福なので、寝起きはバッチリ。それでいてエアグルーヴが起こしてくれたのだから、調子は絶好調。

 そして―――

 

「カニチリうまぁぁぁぁぁいっ!」

「存分に味わうといい。まだまだあるからな」

 

「ケーキもうまぁぁぁぁぁいっ!」

「そう言ってくれて嬉しい。もっと食べてくれ」

 

「エアグルーヴ愛してるぅぅぅぅぅっ!」

「たわけ……私も愛しているぞ」

 

 ―――エアグルーヴが心を込めて作ってくれた料理と愛を心から堪能するのだった。

 

 




 おまけ

 元旦の夕方、幸福のマンションにデネボラメンバーが勢揃いする。
 予定通り、みんなで幸福の誕生日パーティをするのだ。
 ただ今回からはメンバーでプレゼントを渡す代わりに、みんなでそれぞれ料理を持参してきた。
 プレゼントを渡すのはもう恋人のエアグルーヴの役目だ、とゴールドシチーとヒシアマゾンが言ったので料理になったそう。

「正月太り確定だな……ありがとうな、みんな」
「ふっ、私がそうさせるはずないだろうがたわけ。明日からキッチリとカロリーコントロールしてやる」
「頼もしいこって」
「ふふん♪」

 こんな二人のやり取りにメンバーは『熟年夫婦だ』といつもの感想を抱く。

「カロリーコントロールまでするとか、もうすっかり奥さん面だねぇ、エアグルーヴは」
「結婚して今年で何年目でしたっけー?」
「何千年も前から愛してたんじゃない?」

 ヒシアマゾン、セイウンスカイ、ゴールドシチーの茶化し隊がそんなことを言って煽るも、

「生まれ変わっても愛していることだろうな」

 エアグルーヴが惚気たことで、これは只事ではないと三人に電流が走った。
 一方でマーベラスサンデーとカワカミプリンセスの天使組は、

「これアタシのオススメのかに玉だよ! とってもマーベラスだから!」
「わたくしはキングさんに教えてもらったレストランの人参ハンバーグキングサイズを持って来ましたわ! 好きなだけ食べてくださいね!」

 幸福に自分が持ってきた料理を皿にマシマシで乗っけている。

「エアグルーヴ」
「なんだ、タイシン?」
「うまぴょいしたの?」
「……は?」
「お泊りしたってことはうまぴょいしたのー?」
「……うまぴょい言うな。悪いがお前たちが考えているようなことはしていないぞ。私は学生の身なのだからな」

 ナリタタイシンとアイネスフウジンはエアグルーヴからそう言われて『なぁんだ』とつまらそうにした。
 しかし、

「……幸福さんと同じ布団で寝れたのは、至福のひとときだった」

 ほぅと頬を赤らめてエアグルーヴが惚気れば、流石のナリタタイシンも「へぇ」と眼をギラつかせる。
 ただ惚気話はナリタタイシン的にはもうお腹いっぱいなので、変に踏み込まずに幸福へ自分が用意したお手製ドライカレーを勧めるのであった。

「エアグルーヴ、ちょっとアンタはアタシらのとこへ来な!」
「詳しく聞かせてもらわないとじゃん?」
「セイちゃんはこのために激辛ポテチ持ってきたんで聞く気満々ですよ〜♪」
「あたしもちょっと聞きたいのー!」
「仕方ないな……ふふっ♪」

 ヒシアマゾンたちは当然エアグルーヴから甘い話を聞くことにし、誕生日パーティなのかシュガーパーティなのか分からないことになる。
 しかしながら幸福は名前の通り、幸福感に包まれた誕生日となり、みんなを寮へ送ったあとはカールの頬を無限にわさわさしていた。カールはそれはそれは喜んだそう。

―――――――――――――――

ということで読んで頂き本当にありがとうございました!
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