女帝が持つ賢者の杖《完結》   作:室賀小史郎

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ほのぼのメインでもやはりスパイス(恋敵)はあった方がいいかなって。
ドロドロ展開期待してる方はごめんなさい。
ドロドロ展開にはしないです。
エアグルーヴ視点となります。


女帝の自覚と恋敵

 

 最高だった。

 ああ、それはもう最高だった。

 最高としか言いようがないほどに。

 あそこが楽園なのだと思えるほどに。

 

 今日はファンに日頃の感謝を伝える大切な日、ファン感謝祭。

 相変わらずフラッシュライトを焚いて撮影してくるのには慣れないが、この程度女帝として耐えて見せよう。

 幸い、フジやファインなどの私の事情を知る友がそれとなく反らしてくれたので、助かった。

 今はそのこともあって持ち場を離れ、クラスでファンに提供する用の飲み水を専用タンクに汲むという名目で、人気のない第二校舎の厨房まで休憩しにやってきた。

 

 それにしても……

 

「ほぅ……」

 

 ……最高だった。

 

 今思い出しても、血が、細胞のひとつひとつが歓喜に沸き上がる。

 

 午後1時から始まったトレーナー陣による有志発表。

 会長のトレーナーは今年は何もせずに会長と仲睦まじくファン感謝祭を見回りと言う名目で逢い引きしていたが、私はそんなのどうでも良いほどの光景が脳裏に焼き付いた。

 幸い、タキオンが言うような副作用?の涙もそれほどではなく、最後まで視界が霞むことなく見届けることが可能だった。

 

 そして自覚してしまった。

 彼の投げキッスで……私がどれだけ彼を担当ウマ娘としてではなく、ひとりの女として愛しているのかを。

 不思議と認めてしまえば、恋をしていることに落ち着いている自分がいた。でもそれでいい。私はこれからも彼の愛バであり、私から彼の元を離れるなんてことはないのだからな。

 時間はある。浮ついてもいない。私には彼と築いてきた絆がある。ならば、それを永遠の物にしてみせよう。女帝として……ひとりの女として。

 

「おい」

 

「? なんだ、エアシャカールか。何か問題でも発生したのか?」

 

 私が恋の余韻に浸っているというのに、この友はどんな厄介事を持ってきたんだ?

 

「あ、ケンカ売ってんのか? 問題は現在進行形で起こってんだよ、オレの目の前でな」

 

「何……なっ!?」

 

 しまった。ついついタンクに水を汲んでいることを忘れて、盛大に溢れさせてしまっていた。

 

「す、すまない」

「別にどうでもいい。お前を探して来てみたら、そうなってただけだからな。で、こっからが本題だ」

「……なんだ?」

「コレ、お前もいるだろ? ん?」

「こ、これは!?」

 

 彼女がわざわざここまで足を運んで持ってきたファイルの中身を、私に見せつけるようにして差し出してくる。

 そこには彼の先程の有志が様々な角度から撮影されている写真の数々が収録されていた。

 おお、あのキス顔もしっかりあるではないか。なかなかにいいアングルで撮れているな……ではなく!

 

「な、何故こんなものがある!?」

「はぁ? んなもんその担当バ共に売れっからに決まってんだろ? 各トレーナー共の写真はオレとそのダチらで全員完璧に撮影済みよ。因みにお前には日頃世話になってるからアルバム代は全部オレの奢りにしといてやる」

「……言い値で買おう」

「へっ、毎度〜♪ やっぱ女帝サマも、惚れた男には弱いってことだなぁ♪」

「私にそんなことを言っていいのか? 貴様の弱みはこちらも握っているんだぞ?」

 

 貴様が密かに自分のトレーナーにストーカー紛いなことをしているのを私は知っている。

 しかしそれは彼女のトレーナーが庇護欲を唆られるような容姿と態度なのも災いして、押しの強いウマ娘たちから守るためだと分かっているから、こちらは理事長や会長には黙ってやっているのだからな。まあ会長は既に分かっていて黙認している節があるが。

 

「チッ、ほんのジョーダンだよ。真に受けんな」

「貴様の冗談は質が悪い」

「今に始まったことでもないだろ。んで、どの写真がほしいんだ?」

「……全て頂こう」

「毎度あり〜、代金は現物が揃ったらこっちからそっちにメッセで知らせるぜ♪」

「ああ、頼む。感謝するぞ」

 

 やはりエアシャカールは派手な見た目でもイイ友だ。

 しかし、本当にいい物だ。何より、私の勝負服をモチーフにした衣装を着用しているというのがまた素晴らしい。上着部分の大きく開いたところから見える彼の男らしい胸筋も、この笑顔も、流れる汗も……ああ、これが良くアグネスデジタルが呟いている『尊い』と言うものなのだろうか。

 

「あ、エアシャカール。やっと見つけた。ちょっといい?」

 

「あん?」

 

「……ゴールドシチー……」

 

 私があの時の余韻にまた浸っていると、私たちのところへやってきたのはプラチナブロンドのウマ娘ゴールドシチー。マイル路線から始まり、中距離路線へ走る距離を広げ、最近では長距離路線にもレースの幅を広げつつある、実力者だ。私とはたまたまレースが被ったことはないが、強さは知っている。

 私は少し……いや正直、かなり苦手だ。

 その理由はただ一つ――

 

「読モサマがオレに何の用だよ?」

「他の子らが話してたのをたまたま聞いちゃったんだけどさ……アンタ、トレーナーたちの写真売り歩いてるんでしょ? アタシにも売ってよ」

「お前が? 珍しいもんだな。でもお前のトレーナーは何も出てねぇから写真なんてねぇぞ?」

「アタシの今のトレーナーのなんていらないしほしくもないから。てか、この感謝祭終わったらアタシはアイツの担当から外れるからね。アタシがほしいのは伊藤トレーナーの写真♪」

 

 ――こういう理由だ。

 

 ゴールドシチーとあやつは顔見知りだ。別に彼がうつつを抜かしたとかではなく、圧倒的にトレーナーの数が足りない中で、担当がいなかったり、担当と良好な関係が築けない者たちは、他のトレーナーたちに教えを乞う。当たり前のことだ。

 

 ただゴールドシチーの場合はきっかけがあり、何でも街でナンパに絡まれているのをあやつが助けたことから交流が始まったんだそうだ。

 ウマ娘が人間の男に力で負けることはない。しかし彼女はモデルという立場がある。よって所属事務所に責任が行かぬよう、問題を起こさないように穏便に事が済むようにしていたところで、あやつがたまたま通り掛かったということらしい。

 あやつは正しいことをした。話を聞いた時は私も鼻が高かった。

 しかし私が生徒会で忙しくしている間に、ゴールドシチーがちょくちょくあやつにアドバイスを乞うことが増えた。

 彼女を担当するトレーナーは完璧主義者として有名だ。故に彼女の誇りであるモデル業にも口を挟む上、彼女がレースに負けたらモデル業のせいにしてそれを辞めさせようとするらしい。

 そんな愚痴を彼女の口から聞いた時は私も呆れ、怒りを覚えたものだが――

 

『エアグルーヴのトレーナーって確か……伊藤さんだよね? 優しいし理解あってイイ人だよね。だからアタシ気に入ってるんだ♪』

 

 ――などと言われて、呆れも怒りも何処かへ吹き飛んでしまった。

 

 彼女はまだトゥインクルシリーズを辞すつもりはないらしい。まあそこは私も似たような立場であるから、とやかく言うつもりはない。

 ただ、この先トゥインクルシリーズに残っても、ドリームシリーズへ進むとしても、自分を担当するトレーナーがいなければレースには出走出来ないのが現実だ。

 そこで彼女は私のトレーナーに目をつけている。

 

 チームの上限人数は7人。今学園が定めている一人のトレーナーが本人の体調を崩すことなく責任を持って指導出来るウマ娘の人数だ。

 しかし学園側がトレーナーの力量を認めれば、その上限は上げられる。あやつは現在チームデネボラのトレーナーとして確かな実績がある。

 よってゴールドシチーならば十分に指導出来ると判断される可能性が高い。

 

 私の杖なのだから、それは当然であり、私の誇りだ。

 しかし――

 

「宣戦布告ならば受けて立つぞ、ゴールドシチー?」

 

 ――やっと自覚した恋とその相手を、やすやすとくれてやるものか。

 

「うわぁ、怖い怖い。そんな闘争心剥き出しでヤダなぁ。てかアンタ、やっと自分の気持ちに整理ついたんだ?」

 

「余計なお世話だ。それにこちらは真剣だ」

 

「フーン、燃えてくるじゃん。アタシ、そうやって向かってくるヤツ嫌いじゃないよ?」

 

「ぽっと出のウマ娘に私のトレーナーは靡かんぞ」

 

「知ってるよ。だから余計に燃えるの。レースでもそうでしょ? 一番人気、二番人気……そういう子たちを出し抜いて勝った時に浴びる歓声の気持ち良さって格別じゃない?」

 

「貴様……!」

 

「エアグルーヴは今、確実にあの人の一番人気……アタシは多分そういう段階にすらいない。だってまだ最近良く話し掛けてくる子だなぁ、くらいだもの」

 

 そこで言葉を一度区切ると、次の瞬間彼女が纏っていた圧が明らかに増した。

 

「でも、アタシは諦めない。モデルの仕事だってそう。必死になってレースと両立させてきたんだ。アタシには彼が必要。お人形扱いもしない、ただ結果だけを求めてきたりもしない……アタシそのものを見てくれて、的確なアドバイスをしてくれるあの人がね」

 

「……チームに加入するのであればチームのリーダーとして貴様を歓迎しよう。しかし、お目当ての物が側にあるからとつけあがらないことだ」

 

「さぁ、それは実際なってみたいと、ね? アタシこれでも尽くすタイプだからさ。アンタはどう? 日頃、あの人にたわけたわけ言ってばっかじゃん。そんなんじゃどんなに優しい人だって愛想尽かされるよ?」

 

「ふん……貴様と私とではあやつと築いてきた物事が違い過ぎる。現実を知り、その差を思い知るといい」

 

 それに二人きりの時は私の方が良く甘えているんだからな。

 

「……なぁ、ヒートアップしてること悪ぃけどよ。オレ帰っていいか?」

 

 やっと声を発したエアシャカールの声で私は我に返った。

 そうだった。まだ彼女も居たんだったな。申し訳ないことをした。

 

「すまない」

 

「別にいい。一人の男を取り合うのはここじゃ日常茶飯事だ。あとゴールドシチー」

 

「ん、何?」

 

「蹴り合いはご法度だかんな?」

 

「しないしない。モデル続けらんなくなるじゃん」

 

 ちょっと待て、私だってそもそも貴様を蹴るつもりなんてないぞ。

 

「ならいい。んじゃ、このファイル渡すからほしいヤツの番号と枚数をメッセに送っておいてくれ。オレは他にも回るとこがあるんでな。あとアルバム一冊につきプラス500円だかんな。見終わったらオレのクラスまで持ってこい」

 

 そう言い残してエアシャカールは去っていく。

 そして残されたのは私とゴールドシチー。

 ここが人気のない場所で良かった。こんな重たい空気を、他の生徒たちの前では見せられん。

 

「うわっ、どれも素敵だね。ねね、エアグルーヴはどれ頼んだの?」

「貴様……ふざけているのか?」

 

 先程宣戦布告したばかりの相手に何を訊いてきているのだ。

 

「別にふざけてないよ。恋敵ってだけじゃん。でも、それって一番の理解者同士ってことでしょ? 同じ男の人を好きになったってことだし」

「……それはまあ一理あるな」

「でしょ? だからほら、教えてよ。アタシ、このウインクしてるヤツお気になんだけど?」

「……いい趣味をしている」

「あ、やっぱそう? いいよね、この表情!」

「あ、ああ……私はこちらのも捨て難い」

「はぁぁっ、こんなレースははじめて〜の決めポーズのとこ! いい、いい! チョーカッコいい! 濡れる!」

 

 なんだ、こうして話してみれば意外と話の分かるヤツではないか。濡れるはどういう意味なのか理解し難いが。

 

「やっぱアタシらウマが合うね♪」

「そうかもな」

「これからよろしくね」

「ああ、掛かってくるといい」

 

 私たちは初めて握手を交わした。同じ愛する男を巡る恋敵(ライバル)として。

 

「因みに私は全て頼んだぞ」

「え」

「なんだ?」

「全部1枚ずつってことだよね?」

「何か問題が?」

「いや、1枚ずつって足りなくない?」

「…………は?」

「だってそうじゃん。考えてもみなよ。全部1枚ずつだと手帳とかに日替わりで入れたりしてたら、いつか破れたり、そうはならなくてもキズがついちゃうでしょ?」

「……確かに」

「まあそれでも保護フィルムに入れとけばキズとかの心配もいらないけどさ。でも持ち歩いてたら、何かの拍子に紛失することもあり得るワケじゃん? 掃除してて運悪く水場にポチャとか夕立にあってヨレちゃうとかさ」

「……そうだな」

「だから普通は持ち歩く用、替え用、保存用って最低3枚はいるの。アタシの場合はそれに加えて、部屋のロッカーに貼る用と部屋で眺める用とペロペロ用の6枚は必要なんだけど」

「なるほど、ペロp……なんだそれは!?」

「え、キスしたくならない?」

「しゃ、写真にか?」

「写真にしか出来ないでしょ。本人にしたいけど、流石にそれは……ね?」

「た、確かにそうだな……しかし、写真に……」

「このキス顔写真見ても、エアグルーヴは自分の衝動を耐えられるの?」

「うぐっ」

「まあ、あくまでもアタシの意見だけどね。エアグルーヴの好きにしたらいいよ」

「…………私もそれぞれ6枚買おう」

「やっぱアタシらいい友達になれるね♪」

「……誠に遺憾だが、同感だ」

「仲良くしようね」

「その前に貴様がチームに加入出来るかが問題だがな」

「それねー。ま、でも大丈夫っしょ。アタシいい子だし♪」

「自分でそれを言うのか……ふふっ」

 

 その後も私は暫くゴールドシチーと彼の写真について語り合った。

 水汲みを忘れている私をフジが呼びに来るまで……。

 

 ◇

 

「はっくしょん!」

 

「どうしたんだい、トレ公。風邪でも引いたか?」

「きっとエアグルーヴがトレーナーが来ないってイライラしてるんじゃない?」

 

「いや、そんなことは……早く行こ。またなアマゾン、タイシン!」




ってことで、アニメうまよんでかわいいなと思い、リアルのゴールドシチーもカッコイイと思ってたので恋敵キャラとして出しました。

読んで頂き本当にありがとうございました!
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