女帝が持つ賢者の杖《完結》   作:室賀小史郎

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新メンバー

 

「今日から新しくデネボラに加わるゴールドシチーだ。まあ俺が言わなくてもみんな知ってるだろうけどなぁ」

 

「どうもー、本日付けでデネボラに加入することになったゴールドシチーだよ。みんな知っての通り読モやってて、ちょいちょいそっちの仕事でトレーニングを休む時はあるけど、仲良くしてね」

 

 ファン感謝祭が終わってから一週間ほどが過ぎた頃、幸福がメンバー全員をトレーナー室に集め、ゴールドシチーを連れ立ってやってきた。

 

 チームの上限人数は7人。

 しかしチームを預かるトレーナーの力量が学園側から認められれば、上限人数を超えて担当バを持てる。

 

 多くのウマ娘にとって最も重要な時期はクラシック期間。中にはシニア期から出走可能になる春天や大阪杯を目標にしている者もいるが、ウマ娘の殆どが目指すのはやはり三冠とトリプルティアラ。

 

 皐月賞・東京優駿・菊花賞の三冠レース

 桜花賞・オークス・秋華賞のティアラレース

 

 他にもNHKマイルやジャパンダートダービーと言った多くのG1レースがこのクラシック期間にしか出走出来ない。

 またG1でなくてもスプリングS、弥生賞等々の様々レースがクラシック期限定で出走出来るため、重要度が高いのだ。

 

 故にその期間中のウマ娘が多くて指導の手が回らず、そのウマ娘のウマ生を台無しにすることは学園として見過ごせない。

 よってチームを作るにもトレーナーの能力が必要で、チームを作れるというのは学園に認められた名トレーナーの証でもある。ウマ娘的に言えば、称号とも言えるほどの名誉だ。

 そうしたことを加味し、チームを作るトレーナーには担当するウマ娘が最低3名……最高7名と定められている。

 

 ただ今回の場合のように、何故その上限が上げられたのか。

 それは幸福の能力が評価されているのも大きいが、チームに所属しているウマ娘たちの育成レベルも関わっている。

 幸福がチームを立ち上げたのはエアグルーヴを担当して2年目となり、トリプルティアラを獲得した秋の終盤。

 この時既に三年間のトゥインクルシリーズを終えていたヒシアマゾンとナリタタイシン、アイネスフウジンがチームに加入。

 この3名は元々同じトレーナーが担当していたが、彼の定年退職で担当を外れることになり、選抜レースでスカウトを募ろうとしていたところで幸福やエアグルーヴがスカウトした。

 よってこの3人はエアグルーヴより長くトゥインクルシリーズを走っているベテラン勢。

 セイウンスカイとマーベラスサンデーは昨年クラシック期間を終えて、今年からシニア。URAファイナルズの方でも中距離予選にマーベラスサンデー、長距離予選にセイウンスカイがそれぞれ出走することが決まっていて、この2人もベテラン勢として数えられる。

 そしてチームでは唯一カワカミプリンセスがクラシック期に入っている。ファン感謝祭が終わってすぐにあるティアラレースの一冠桜花賞があったが、それは幸福の判断と話し合いの結果出走していない。

 このことから、チームデネボラにはカワカミプリンセスを除いてベテランが多いことが分かるだろう。

 

 そうしたことを踏まえると、今回の場合はトレーナー伊藤幸福の力量は十分で、その担当バたちの育成レベルも申し分ない。

 8人目となるゴールドシチーも既にトゥインクルシリーズの三年間を終えており、ベテラン。

 彼女の場合は前担当トレーナーとウマが合わなかっただけで、学園側が調べても本人の素行や学園内外での生活態度に何も問題がない。加えて彼女たっての希望でもあることから、学園側が安心して幸福に任せた形だ。

 

 そもそもシニアに入ると、言い方は悪いがそのウマ娘がトゥインクルシリーズに在籍している限り、同じレースに何度でも出走させることが出来る。

 シニア期となれば、ウマ娘たちもトレーニングやレースに慣れ、あとは己の目標や夢の実現が走る理由となる。

 それから後、別の道に進むかドリームシリーズへ挑戦するかだ。

 

「それじゃあ、カワカミ以外は通常トレーニング。個別にトレーニングメニューを渡してあるメンバーはそっちのトレーニングを行ってくれ。ゴールドシチーは……」

「シチーでいいよ。もうアタシはトレーナーの担当バなんだから」

 

 ゴールドシチーが幸福の左腕に抱きついて、上目遣いでウインクしながら提案すると、幸福は「分かったよ、シチー」と微笑む。

 

「じゃ、シチー。君とは後日に目標等を改めて決めるから、今日のところはチームに馴染むことを優先して、通常メニューをやってくれ。分からないことがあれば、メンバーの誰かに訊くといい」

「ん、リョーカイ♪」

「よし、今日も一日怪我なくやるように!」

 

 幸福がそう言って鼓舞すると、メンバーも揃って気合の乗った返事をするのだった。

 

 ◇

 

 チームの部室へ移動してきたカワカミプリンセスを除いたデネボラメンバー。

 カワカミプリンセスは来月に控えたオークスに向け、トレーナー室に残ってコースの構造や出走予定のウマ娘たちの脚質や性格、近々のレース映像等を観て幸福とミーティング。

 残りのメンバーはトレーニングウェアに着替えて、先ずは準備体操、柔軟、それからウォーミングアップの芝トレーニングコースを自身の脚の調子を確認しながら5周する。それから個別メニューがある者は個別メニューに向かい、そうでない者たちは並走トレーニングやタイヤを引いてダートコースを走るトレーニングを行う。

 

「チームっていいねー。アタシ、モデルのこともあるからチームに加入するのって初めてなんだけど、マンツーマンじゃない分、気が楽かも」

 

 着替えつつ、自分に割り当てられたロッカーに私物を入れていくゴールドシチー。

 

「あ〜、そういやゴルシチはそうだったね。まあなんかあったら遠慮なくこのヒシアマ姉さんを頼んなよ!」

 

「ゴルシチって……なんかそれボルシチみたいじゃん。まあいいけどさ」

 

「あとゴールドシップみたいなの〜♪」

「あ、それアタシも思った」

 

「あ、アイネスもタイシンも言うじゃん? 敢えてアタシそこは言わなかったのにさ〜」

 

 加入してすぐではあるが、ゴールドシチーはチームに溶け込み始めている。

 ヒシアマゾン、ナリタタイシン、アイネスフウジンは同じ高等部なのもあって、彼女とはそれなりに顔を合わせているし、元から顔を合わせれば軽く話くらいはする仲。

 ナリタタイシンに至っては先月の後半に大阪杯で対決しているのもあって、ビワハヤヒデやウイニングチケットほどてはないが仲はいい。

 

「気持ちは分かるが、もう外へ行くぞ。時間は待ってはくれないのだからな」

 

 エアグルーヴがメンバーの気持ちを引き締めると、みんなは『はーい』と明るく返してトレーニングコース脇へと繰り出した。

 

「しかし本当に来るとはな……。正直少し……いや、とても驚いている」

「アタシはこれでも行動派だからね。まあ、改めてよろしくね、チームリーダーさん」

「貴様なら問題ないとは思うが、チームの名に……あやつの顔に泥を塗るような行動は取るなよ?」

「大丈夫大丈夫。顔につけるなら、アタシの匂いだから♪」

「ほう……私がそれを許すとでも?」

「わざわざ許可が必要なことでもないでしょ? そうなっちゃう雰囲気になるかもだし?」

 

 フフフ……あはは……と柔軟をしながら火花散る両者。

 アイネスフウジンとマーベラスサンデーはその両者の空気に揃って小首を傾げるが、

 

「なんだい、ゴルシチもうちのトレ公狙ってんのかい?」

「というか、エアグルーヴ先輩……とうとう自覚したって感じ?」

「みたいだね。まあ感謝祭のあとからちょっと雰囲気が変わったのは知ってたけど……」

 

 ヒシアマゾンとセイウンスカイ、そしてナリタタイシンは両者の雰囲気で確かな物を感じ取った。

 

 そう、あれだけ幸福に好き好きオーラ全開だったのに、それを自覚してなかったエアグルーヴがハッキリと自覚しているのだ。

 しかもゴールドシチーはその恋敵なのだから、その驚きも増す。

 

「え〜! 先輩やっとトレーナーのこと好きって認めたの〜!? マァァァベラァァァスッ!」

「わぁ! それホントなの!? やきもきしてたから嬉しいのー!」

 

 分かってなかったマーベラスサンデーとアイネスフウジンも、ヒシアマゾンたちの話を聞いてその場で万歳する始末。

 これには流石のエアグルーヴも頬を赤らめて、「静かにしろ」と注意しつつこめかみを押さえた。

 

「……エアグルーヴ、アンタ……どんだけ周りにバレバレだったわけ?」

「……言うな」

「この分だとカワカミも知ってるだろうね」

「……だろうな」

 

 周りの反応とエアグルーヴの反応に思わず苦笑するゴールドシチー。

 しかしながらこうしたエアグルーヴの反応は素直に可愛いと思ったゴールドシチーであった。




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