女帝が持つ賢者の杖《完結》   作:室賀小史郎

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遊ぶこともトレーニング

 

「やりましたわー! わたくしが1着ですわー!」

 

 本日はオークス。

 チームデネボラで唯一のクラシック期間にいるカワカミプリンセスが、その大舞台を制した。

 チームのG1勝利二つ目。そしてカワカミプリンセスにとっては、エアグルーヴやメジロドーベルと同じタイトルを取れたことがとてもとても嬉しく、その後のウイニングライブでもウィナーズサークルでも満点の笑顔が咲き誇っていた。

 

 ――――――

 

 オークスが終わり、6月に入った。

 6月の前半には安田記念。後半には宝塚記念とG1レースが続く。

 

「はい、到着。自由に過ごしていいが、怪我だけはしないように」

 

 幸福の言葉にチームメンバーは揃って返事を返した。

 今日は休養日……というわけではなく、本日は土曜日だが座学がない、普通の学生であれば休日だ。

 こういう日は一日丸々トレーニングを行えるため、トレセン学園の各トレーニング施設に多くのウマ娘たちが集まる。

 しかしそうなるといくら広いトレセン学園でも混雑するため、事前に使いたい施設にはそのトレーナーが予約を入れているのだ。

 そしてチームデネボラも施設を使う時はあるが、大抵は学園の外へ繰り出してトレーニングを行う。

 トレーニングと言ってもリフレッシュも兼ねているので、ウマ娘たちからすれば遠足みたいなものだ。例えばテニスコートだったりボーリングだったり登山だったりと、幸福が担当バを連れて行く場所は様々。なのでチームのみんなはそうした日を毎回楽しみにしている。あのエアグルーヴでさえ、こうした時間が必要だと言うくらいだ。

 

 今回、幸福がこういう時のために使う大型バンを運転して、みんなを連れてきた場所は海。勿論、トレーニングということなのでみんな服装はジャージだ。

 6月なので海開きもまだ先だが、人気が少ない砂浜を走るなり、仲間とビーチバレーをしたり、海釣りをしたりとやれることはたくさんある。

 それに――

 

「ほら、カールも遊んでもらってこい」

「ワンッ!」

 

 ――こういう日は幸福が飼っている愛犬『カール』も一緒なのだ。

 

 カールは北海道犬によく似ているが、実際のところの犬種は分かっていない。

 何故ならカールは捨て犬で、カラスか何かに襲われて怪我をしていたのを、たまたまその日学園の外に出掛けていた幸福とエアグルーヴが見つけたのだ。

 幸い怪我は軽かったものの、診てくれた獣医が院のゲージがいっぱいで預かれないので、そちらで預かってほしいとお願いされたのが事の始まり。

 最初はエアグルーヴもどうしようかと考えたが、飼い主が見つかるまで特別に学園に許可を得て彼女が預かることにした。

 カールという名はエアグルーヴが授けたもの。預かるにしても名前がないと何かと困るからだ。因みに名前のカールはその子犬がメスだったのもあり、彼女の母『ダイナカール』から頂いたそう。

 そしてとうとう飼い主が現れなかったため、ならばと幸福が飼い主になることになったのだ。幸い彼が借りているマンションはペットを飼うことも可能だったし、カールも幸福に凄く懐いていたし、エアグルーヴも『まあ、貴様になら……』とカールを託した。

 

 今ではすっかりチームデネボラのアイドル犬。

 大きく健やかに成長し、エアグルーヴにも相変わらず凄く懐いている。

 

「よし、では走るか。カール」

「ワンワンッ」

「はは、ではついて来い!」

「ワンッ」

 

 エアグルーヴはカールと共に砂浜を駆け出した。

 セラピードッグがいるくらいなので、カールもウマ娘たちに安らぎを与えてくれる存在なのだろう。

 

「私は海釣り一択〜♪ 大物釣り上げるために、泳がせ釣りの魚も準備しといたしね〜♪」

 

 セイウンスカイはブレずに釣り竿やら諸々を持って、いいポイントへ向かった。

 

「よ〜しっ! 潮干狩りすっぞ〜!」

「マーベラスな貝をたくさん取ってネイチャやマヤノを驚かせよー!」

「今夜はアサリご飯なのー!」

「気合とど根性でハマグリをたくさんゲットしてみせますわ!」

 

 一方でヒシアマゾン、マーベラスサンデー、アイネスフウジン、カワカミプリンセスは幸福の奢りでたまたま開催していた潮干狩り大会に参加。

 そして、

 

「トレーナー、パラソル差して」

「トレーナー、日焼け止めクリーム項のとこに塗ってくれない?」

 

 ナリタタイシンはパラソルの下で音ゲー三昧で、ゴールドシチーは幸福に甘える。

 

「荷物は俺が見てるから、二人も遊んで来いよ」

「遊んでるじゃん。それにアタシそもそも今日はトレーニング休みだし」

 

 流石はナリタタイシン。どこに行ってもブレない眠れる獅子である。

 

「アタシはトレーナーが日焼け止めクリーム塗ってくれたらエアグルーヴたちと走ってくるよ」

 

 そしてゴールドシチーは相変わらずだ。

 

「ったく……ほら髪上げろ」

「ふふっ、サンキュ♪ ムラなく塗ってよね」

「人気モデルを日焼けさせちゃ俺にクレームが来るからな。しっかり塗ってやるよ」

 

 幸福が慣れた手付きでゴールドシチーの項にクレームを塗ってやる。

 すると流石のゴールドシチーでもくすぐったくて「ひゃあ」と小さな悲鳴をあげた。

 

「我慢しろ。頼んだのはシチーなんだからよ」

「分かってるけど、やっぱちょっとね……うひゃっ」

 

「読モがしちゃいけない声してない?」

 

「仕方ないじゃん。トレーナーの手冷たかったんだから……てか、今は読モ関係ないから」

 

 ナリタタイシンのツッコミにゴールドシチーはそう返しながらも、幸福から項を撫でられてご満悦である。

 

「貴様ら……何を戯れ合っている?」

「ワフッ」

 

 そこへエアグルーヴとカールがドス黒いオーラを纏って戻ってきた。

 エアグルーヴとカールからすれば、大好きな人が他の女と戯れているようにしか見えなのだ。

 

「何って日焼け止めクリーム塗ってもらってるだけだよ。エアグルーヴも塗ってもらえば?」

 

「な、わ、私の肌はそんな軟な肌ではない!」

 

 ゴールドシチーにエアグルーヴは顔を赤くして返す。

 因みにナリタタイシンはそんな二人のやり取りを気にすることなく、ウマ娘専用イヤホンを付けてノリノリに音ゲーをプレイ中。

 

「元々ウマ娘の肌は人間より焼けにくいからな。シチーみたいに見られる仕事をしてれば気ぃ使うだろうけどな……ほい出来た」

「ありがと、トレーナー♪ んじゃ、エアグルーヴ、カール。走ろうよ。アタシせっかく仕事もオフでチームのみんなと遊べる機会だしさ」

 

「……それもそうだな。ならついて来い」

「ワンッ!」

 

「へぇ、面白いじゃん!」

 

 そして走り出す美女二人と一匹の美獣(びじゅう)であった。

 

 ――――――

 

 お昼時になると、担当バたちはお腹を空かせて幸福がいるパラソルへと集まってくる。

 まるで腹を空かせた子どもが親の元へ集まるように。

 

 今年はゴールドシチーも増えたことから、レジャーシートは一回り大きな物にし、パラソルも大きめのを四本用意した。

 なので目立つ。しかも彼女たちは見目麗しい上にスターウマ娘だ。幸福も雑誌等に何度も載っているため二重三重の意味で目立っている。

 

「あの、ゴールドシチーさん握手してもらってもいいですか?」

「俺、ヒシアマゾンの大ファンなんです!」

「マーベラスサンデーちゃん尊い! マジマーベラス!」

 

 当然海に来ていたファンたちがわあっと押し寄せるが、幸福は自分の担当バたちがみんなから愛されてる光景を見て誇らしく思っている。

 しかし、

 

「あの……伊藤幸福トレーナーさんですよね?」

「はい、そうですが?」

「わぁっ! あのあの、私、伊藤幸福トレーナーさんの大ファンでして! 良かったら一緒に写真撮ってもらえませんか!?」

 

 幸福も幸福で彼の女性ファンに囲まれてしまった。

 彼はそんなことないと言うが、彼はそれなりに甘いマスクをしている。

 チームデネボラが注目を浴びた去年には、リギルトレーナー、スピカトレーナー、そして幸福というイケメントレーナー特集が組まれたくらいだ。

 硬派で強面ながら担当バたちのファンには微笑むリギルトレーナー。

 派手な見た目とは裏腹にレースや担当バたちのことになると真剣になるスピカトレーナー。

 そして誰に対してもいつも笑顔でたおやかで溢れる清潔感。なのに普段の口調はちょっと雑。しかしその雑さがまたいいという評価を受けた幸福。

 

 その特集記事が掲載された増刊号は女性を中心にかなりの部数を売り上げたので、今シーズンから春と秋にはイケメントレーナー特集が組まれ、夏と冬には美女トレーナー特集が組まれる予定なのだそう。ご贔屓記者・乙名史悦子談。

 

『っ!!』

 

 当然、幸福に群がる女性ファンを黙って見ていられるエアグルーヴとゴールドシチーではない。

 すかさず目配せし、

 

「トレーナー! マーベラスお腹減ったー! ご飯ー!」

「お恥ずかしながら、わたくしもお腹が空きましたわぁ……」

 

「おぉ、了解。すみません皆さん、そろそろお開きということで。これからも彼女たちのこと応援よろしくお願いします」

 

 無邪気なマーベラスサンデーとカワカミプリンセスという刺客を送り、幸福の奪還に成功。

 

「女帝と人気読モは自分の手を汚さない」

「汚い、流石恋する乙女きたない」

 

 ヒシアマゾンとセイウンスカイがコソコソとそう話していたが、女帝と人気読モの耳はバッチリキャッチしている。

 

「コホン……ほら、手洗いに行くぞ。特にアマゾンたちは入念に手を洗え」

『はーい』

 

 ◇

 

 みんなが手を洗って戻ると、幸福が大風呂敷を解いてお重の準備をしていた。

 それは全て幸福が前の日から下ごしらえをして早朝に仕上げた手料理ばかり。

 ソフトボールサイズのおにぎり(ナリタタイシンには普通サイズ)に、骨付き唐揚げ、アスパラベーコン巻き、つくねハンバーグ、甘い厚焼き玉子と普通の出汁巻き玉子。レタスと人参を入れたツナサラダに切り干し人参。そしてデザートにはスーパーで安く仕入れた大粒のブドウがいくつも用意されていた。

 

『おおー!』

 

「ほい、じゃあ手を合わせて……頂きます!」

 

『頂きまーす!』

 

 ここで我先にとはならない。最初は必ず幸福とエアグルーヴが共にそれぞれの紙皿へ各々がほしい物を取ってやるのだ。こうした秩序正しいところがチームデネボラである。

 

「んー、マーベラス! とっても美味しー!」

「ほっぺたが落ちてしまいますわ〜♪」

 

 おにぎりを頬張り、満面の笑みを浮かべるマーベラスサンデーとカワカミプリンセス。

 おにぎりの中はおかかや昆布で、わかめのふりかけを混ぜ込んだものもある。

 

「トレーナーさんって本当に料理上手だよね〜」

「そうなの。だから毎回楽しみなの♪」

「アタシも負けてらんないな!」

「出たよ、アマゾンさんのタイマン魂」

 

 他の面々も思い思いの物を口に運んでその味を堪能。

 

「カールはいつものカリカリと骨な」

「ワンッ♪」

 

「うわ、トレーナーの手料理とか最高なんだけど……」

「早く食わんとなくなるぞ」

 

 こちらもこちらでほのぼの。ゴールドシチーに至っては今日が初なので、とても感動していて幸福の手料理をウマホのカメラで撮影中。後にウマッターやウマスタに上げるのだろう。

 

「毎回余ってもいいくらい作ってくるが、不思議と余らねぇんだよなぁ」

「ふっ、これだけ美味しいんだ。余るわけがないだろう」

「嬉しいねぇ……作った甲斐があるよ」

「トレーナー、今度アタシが仕事行く時にお弁当作ってよ♪」

「ゴールドシチー、こやつの仕事を増やすな」

「だってロケ弁って外れ多いんだもん〜」

「フードロス減らすためにも我慢して食ってくれ」

「ちぇ〜、残念♪」

 

 そうは言うゴールドシチーだが、幸福に頭を撫でられたのでご機嫌である。当然、エアグルーヴとカールは物凄い顔で睨んでいるのだが、幸福は知らない。

 

 その後も夕方までみんなは一足早い海を満喫した。

 因みに潮干狩りは大漁だったらしく、夜は夜でみんなしてアサリチャーハンやハマグリ焼きを部室で堪能したそう。




カワカミプリンセスのことがサラッとしててごめんなさい。
今後もエアグルーヴ以外のキャラのレースのことはサラッと書くので、加えてご了承を。

ということで読んで頂き本当にありがとうございました!
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