ネックレスを失くしたルドルフの話

うちのルドルフは四字熟語言いません。
ダジャレも言いません。ユルシテ



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嵐と涙とネックレスと

『初代URAチャンピオンに輝いたのはシンボリルドルフ!!シンボリルドルフだ!!』

 

激動の3年間を過ごした私とルドルフ。

生徒会長を務めながら必死に駆け抜け、振り返ればクラシック三冠に前人未到のG1七冠

 

トレーナー室に並べられたたくさんのトロフィーが手にした者を讃えよと輝く。そこにURAチャンピオンであることを証明するトロフィーが新たに加わった。

 

「さて…改めておめでとう、ルドルフ!」

「ああ!ここまで来れたのも君のおかげだ」

 

出会った頃から強い意志と成熟した思考には驚かされてきたが、やはり年頃のウマ娘。

尻尾は彼女の本心を訴えるようにエンジン全開で振り回されていて、耳もぴろぴろと忙しなく動いている。

 

あ、撫でて欲しいのね?

 

「トレーナー?…んっ」

 

不思議そうな表情のルドルフに近づいてふわりと頭を撫でれば、気持ちよさそうに身を振るわせた。

 

「ホントに甘えベタだよね」

「ふふっ。すまない」

 

ただの甘えベタならいいが、この娘はストレスを溜め込んでしまうタイプだ。

この前も幼児退行を起こしかけた事でエアグルーブが頭痛と胃痛で緊急搬送されたっけ

 

10分ほど撫で続けていると、満足したように身を起こした。その表情は先程までの甘えベタなウマ娘ではなく、凛々しさと力強さを持ちながら儚い美しさを併せ持った女性。

威風堂々が似合う『皇帝』の姿だった

 

「すまない。用事を思い出した」

「そっか…あ!ちょっと後ろ向いて?」

 

そう言って私は引き出しに隠しておいた箱からあるものを取り出して彼女の首にかける。

ルドルフは私より背が高いので、少し手間取ってしまったが、なんとかなった

 

「はい、いーよ」

「ん……これは!」

 

ルドルフの桃色の瞳が大きく開かれる

私が彼女の首にかけたのはネックレス。

金色のチェーンに、彼女の瞳に合わせた桃色の宝石。少し高級品だが、シンボリルドルフのトレーナーは小金持ちなのだ

 

「走っている時もつけられるって話題のウマ娘のためのネックレスだよ」

「トレーナー…こんな良いものを貰ってしまってもいいのか?」

「もちろん!三冠ウマ娘になった時にご飯連れて行くことしかできなかったからね?」

「そうか…そうか…ありがとう!」

 

感極まったルドルフの瞳から雫が一つ落ちる

 

「ルドルフにはもっと頑張ってもらわないといけないからね?」

「ああ!任せてくれ!」

 

抱擁を交わした後、涙を拭って皇帝に戻ったルドルフはトレーナー室を後にした。

 

***

 

所変わって生徒会室。

ルドルフは鼻歌を歌いながら普段よりも早いペースで山のような業務をこなしていた

 

「随分と上機嫌のようだな」

「ブライアン?ここに来るなんて珍しいな」

 

不意に生徒会室に入ってきたのはナリタブライアン。生徒会のサボり魔だが、トレーナーに告白してキスマークをつけたことがマヤノトップガンにバレたらしく、最近は大人しくしているらしい。

 

「丁度いい。この書類の整理を頼みたい」

「わかった」

「やはりダメか。無理を言ってすまない」

「…私は『わかった』と言ったんだぞ?」

「……んん?」

 

大人しいとは言ったが、こんな物分かりのいいブライアンを私は知らない。

慌てて彼女のおでこに手を当てる

 

「…何をしている」

「熱はない。タキオンに変な薬を飲まされていないか?」

「はぁ…まさか忘れた訳じゃないよな?」

「ん?」

「私との併走を提案したことを忘れたか」

「へいそう…ハッ!」

 

ブライアンが大きなため息をつく。うーん私の顔がみるみる赤くなるのがわかる

 

「すっ、すまない!忘れていた!」

「やはりか。皇帝ともあろうウマ娘が約束を忘れるか…そのネックレスのせいだな」

「うっ」

 

図星だ。

トレーナーから貰ったネックレスが嬉しくて生徒会や業務をすること意外のことが頭から抜け落ちてしまっていた。

 

呆れたブライアンは終わらせたら来いと言って生徒会室から出て行ってしまう

 

「やってしまった。…よし!」

 

だが、こんなことでヘタれる皇帝ではない。

ペチペチと頬を叩いて気合を入れ直し、今日中に終わせるべき業務を片付けるべく椅子にかけなおした。

 

***

 

「すまない、遅れた」

「いや、予想より早いぞ」

 

私はいわゆるバクシン的速度で業務を終わらせてブライアンのいるターフへと向かう。

外は強風が吹いており、雨が降ったら大変だ

 

「天気が悪くなりそうだ。早くやろう」

「そうだな」

 

ブライアンが言いながら走り出す

 

芝2500m、良馬場、曇り空、強風。

 

どうやら途中から来たブライアンのトレーナーがタイムを測ってくれるらしい。

…ブライアン、尻尾が暴れているぞ

 

「いくよー!よーい…どん!」

 

トレーナーの掛け声で私たちは走り出す

 

 

序盤はお互いに探りを入れている状態。

そこから中盤に差し掛かる時、ブライアンが前に出た…私をブロックする気か?

 

彼女は確かににパワーアップしている。

コーナーの回り方や息の使い方など、技術も申し分ない。

 

「だがッ!」

 

第3カーブの時に僅かに生まれたテンポのズレを利用して執拗なブロックから抜け出す。

あとはゴール板を抜けるだけだ

 

「ー貰った」

 

最後の直線に入る寸前、ブライアンに差し返えされる……ハメられた。

どうやらわざと抜かさせて足を溜めたようだ

 

「くっ!」

「先に行くぞ!!」

 

ブライアンが更に加速を重ねる。

一馬身、二馬身と開いて行く私との距離。

 

 

 

だが、それがどうしたと言うんだ?

 

 

私は『皇帝 シンボリルドルフ』だ

 

 

『汝、皇帝の神威を見よ』

 

 

 

「なっ!?」

 

三馬身まで開いた差を存在しなかったものとするかのような、異常な加速力でブライアンを追い詰めて行く。

そして、ほぼ同時にゴール板を駆け抜けた。

 

 

「1着は…ルドルフちゃん!」

「ッ!!クソッ」

「ブライアン、惜しかったねー」

 

かなり悔しそうにしていたブライアンが、思いついたようにトレーナーの方を向く。

 

「この後、少し練習していいか?」

「もちろん!」

「…私を置いて惚気ないでほしいかな」

「「あっ!!」」

 

甘い雰囲気の2人は置いておいて、もう少し走ろうとした時、ぽつ、ぽつと雨が降り出してきた

 

「あ、これは強くなるよー」

「チッ。戻るか」

 

悪態をつきながらブライアンが寮の方を向いた瞬間、バケツをひっくり返したようなどしゃ降りになってしまった

 

私たちは逃げるようにトレセンへと戻る。

校内まではすぐだがあの雨ではその距離でも長く、3人ともずぶ濡れになってしまった。

 

「あちゃー」

「最悪だ」

「ルドルフさん!ブライアンさん!」

 

ずぶ濡れの私たちを見て、下級生のウマ娘がバスタオルを持ってきてくれた

 

「すまない!助かった!」

 

ここまで濡れたのならシャワーを浴びたほうがいいというトレーナーの提案に賛成し、私たちは近くにあるシャワールームへ向った

 

***

 

シャワーを浴びて汗と雨を流し、制服に着替えると元気な声で私を呼ぶ声がした。

 

「カイチョー!」

 

私を呼んだのはトウカイテイオー。

何やら機嫌がいいようだ

 

「おや、何かいいことがあったのかい?」

「あのね!カイチョーのトレーナーさんからチョコレート貰ったんだ!」

 

…決して、羨ましくなどないからな。

 

「あとね、カイチョーのトレーナーさん、やることがないのか暇そうにしてたよ?」

 

ほう?今日はこの後予定がない…か。

 

よし、ではトレーナーに会いに行こう。

私を栄光に導いてくれた笑顔を思い浮かべ、にやけそうになるのを抑えながら胸のネックレスに触れた……はずだった。

 

「…あれ?」

 

慌てて鏡を見るが、その首元には何もない

 

—しまった。どこかで落としたのか!

 

「カイチョー?」

 

テイオーに声をかけられたが、答える余裕など今の私にはなかった。

 

 

 

シャワールーム、生徒会室、更衣室に玄関。

どこを見てもあの桃色の輝きはない

 

「まずい…まずいまずいまずい」

 

私の頭が不安や焦りなどの負の感情で満たされて行く…

 

ふと、外を見やる。

大雨と強風で嵐のようになっていて、私が走っていた芝はひどい有り様だった。

 

私が走った芝…そうか…あそこか

 

私は、傘もカッパも身につけずに制服のまま玄関を飛び出した。

 

ーーー

 

「ん〜…はぁ」

 

パソコンのエンターキーを弾くように押した後、軽く伸びをする。

 

今日はルドルフのいい顔が見れたからすこぶる調子が良かった。そのおかげで今日の業務はパパッと終わらせることができた。

 

パソコンの隣に置いておいたチョコレートのお菓子を一粒口に入れる。

さっきトウカイテイオーが来たので一つあげたけど、この銘柄が1番好きなんだ。

 

その時、ガラッと扉が開けられてテイオーが入ってきた

 

「トレーナーさん!!」

「こら。ノックしなさいって言ってるよね」

「あ、ごめんなさい。そんなことよりカイチョーきてませんか?」

「ルドルフ?まだ来てないよ」

「実は…」

 

テイオーが言うには、ルドルフに私が暇してると伝えたら、首元を触ったあと、慌ててどこかへ行ってしまったらしい。

 

たぶんネックレスを落としてしまったんだろうね。私は最後の一粒を食べて、トレーナー室から出ようとした。その時

 

「トレーナーさん…あれ…」

 

青ざめた表情のテイオーが雨と風が打ちつける外を指さす。雨のせいで外はかなり見づらいが、たしかに誰かがいるようだ。

…しかもカッパも着ないで制服のままなんて

 

何をしているんだろうと目を細めながら見ていると、髪色がわかった。…鹿毛だ。

 

「ルドルフ!!」

 

間違いない。あの嵐の中で外に出るなんてことをするのは彼女しかいなかった。

私はロッカーにあるカッパを引っ張り出してトレーナー室を飛び出した。

 

***

 

「ルドルフ!!ルドルフ!!」

 

この嵐ではウマ娘の耳を持ってしても名前を呼ぶ声が聞こえないのだろう。

しかも、吹き付ける強風のせいで私が吹き飛ばされそうになる。

しかし、こんなものに負けてはいられない。最近の運動不足な生活を恨みながら一歩ずつ彼女に近づき、名前を叫び続ける

 

「ルドルフ!!聞こえる!?」

 

私に背を向けている彼女の耳が動く。

声が届いたようだ。だが、こちらを向くことはなかった。

 

「ルドルフ!!しっかり!!」

 

私はそのままの勢いで彼女の両肩を掴む

 

「とれーな…」

「こんな濡れてちゃ風邪ひくよ?戻ろ?」

 

校内に戻ろうと促すが全く動く様子がない。

ゆすっても曖昧な反応しかしないルドルフに痺れを切らして顔を見る。

 

「ルドルフ!!いいかげんに—」

 

後悔と不安、それに怯え。いろんな感情がごちゃ混ぜになった彼女の表情に絶句してしまった。そして、その顔を流れているのは雨ではないのだろう。

 

「とれーなー…ごめんなさい…ごめんなさい!!ごめんなさいっ!!」

 

私の胸に顔を埋め、壊れた機械のように謝罪を繰り返すルドルフにかける声が見つからなかった。

 

「トレーナー!!早く来て!雷が来てる!」

 

その時、後ろから私を呼ぶ声がした。どうやらテイオーが来てくれたようで、トレセンの近くで雷が鳴っているそうだ。

 

テイオーと協力してルドルフを抱え上げ、なんとか校内に入れることができた。

その瞬間、落雷がトレセンの近くに落ちたので本当に危なかった。

 

 

 

雨に濡れたルドルフをタオルで拭く。

その時に私も彼女も一言も言葉を発することがなかった。いや、発せなかった。

テイオーは気を遣ってくれたのかどこかへ行ったようだ。

 

それから、ドライヤーを使って簡単に髪を乾かして着替えてもらい、トレーナー室へと連れて行った。

 

***

 

嫌な静寂が流れるトレーナールームにこぽこぽとコーヒーを淹れる音だけが響き、それがやけに大きく聞こえた。

 

「はい」

「…ありがとう」

 

彼女のコーヒー好きは豆のブランドとの契約の話が立ち上がったほど有名だ。

コーヒーを飲んだことで落ち着いたようで、一言ずつ、絞り出すように話出した

 

「トレーナーが付けてくれたのが嬉しくて、途中でチェーンが緩んでいたことに気が付かなかったんだ…」

 

私は俯いた彼女の変化を逃さないようにしながら相槌を打つだけにした。

 

「…貰ったその日に無くすなんて、私はとんだ大間抜け者だ」

 

ルドルフがこちらを見る。負の感情に支配されて、濁った瞳だ。

 

「トレーナー…私を叩いてくれないか?」

「…は?」

 

聞き返せば同じ提案が返ってくる。

正直言って、呆れた。

 

「ルドルフ。私は全然気にしてないよ?」

「そうか…怒ってないのかい?」

「なんでよ」

 

どうやらルドルフは私に怒られると思っていたようだ。確かに値は張るし、渡したその日に失くされるのはアレだけど、あの嵐に飛び込んで探しに行ったんだ…それで充分。

 

「私は怒ってないし、失くしたとしてもまた明日探したら見つかるかもしれない。だからそんな悲しい顔をしないで。ね?」

「トレーナー…」

 

桃色の瞳に輝きが戻り、濁りが涙となって落ちてゆく。私が無言で手を広げ、こちらへ来るように促すと文字通り飛びついてきた。

 

「トレーナー…トレーナー!!」

「よしよし。もう泣かないの」

 

泣かないと言ったが、流石に心に相当なダメージが来ているのだろう。私はもう少し胸を貸すことにした。

 

 

 

少し時間が経ち、ようやく泣き止んだルドルフがこちらと目を合わせた。私は泣き腫らして赤くなった目元に指を這わせる

 

「目の周り、真っ赤になっちゃったね」

「ん…トレーナー」

「ただ、お咎めなしにするのは癪だなぁ」

「え?…んむっ!?」

 

この3年間で、彼女に対してLOVEの感情を持ったことを自覚していた。ただ相手は同性。

しかも学生とトレーナーの関係で、友人に相談しても冷やかされるか、手を引くように促されるだけだった。

 

まぁ、家族に打ち明けた時にすごく喜ばれたのは救いだったけど…

 

だから覚悟を決めた。ルドルフ…ルナのあんなに悲しそうな顔をもう見たくないから。

彼女の唇を奪ったのだ。

 

「トレーナー?いまのって」

「ルドルフ…いいえ、ルナ。あなたが好き。この好きの意味は、わかるよね?」

「うん、わかる。私もトレーナーが好き」

 

もう一度、啄むような口づけを交わし、軽く吸うように重ねて唇を合わせる。

 

「ルナがもう泣かないようにするから」

「トレーナー…うん。私もトレーナーがずっと笑顔でいられるように頑張る」

 

そして、少しずつキスが深くなり、湿った音がトレーナー室を甘く染め上げる

 

「ネックレスがなくたって私がいるからね」

「うん…ありがと」

 

ルナの瞳の輪郭がぼやけだす。

嬉し泣きなら、何回でもさせてあげよう。

 

そう思いながら彼女を押し倒す

 

「トレーナー?」

 

ルナはこの意味を理解できてないみたい

…可愛い。

 

「ネックレスは失くしたりしちゃうから、絶対なくならないものを、ルナにあげる」

「—ッ!!」

 

これからすることを理解したようだ。

理解した上で抵抗しないので、いいよね?

 

顔を赤く染めた彼女に覆い被さる…

 

 

この夜は、人生で一番長く、深かった

 

 

***

 

<後日、テイオー視点>

 

昨日のカイチョーの顔は凄かったなぁ

 

え?何が凄かったって?…トレーナーはボク以外のウマ娘のことは知らなくていいよ?

 

それより、重馬場の練習って言ってもさ?

普通嵐の次の日の芝なんて使わないでしょ!

 

え?…はちみー?やります!やりまーす!!

 

 

ん?あの光ってるのなんだろう?

 

あっ!ネックレスだ!ちょっと汚れてるけどものすごく高そうなやつだ!

 

ピンクの宝石がカイチョーの瞳みたいでキレーだね!

 

どしたのトレーナー?そんなに慌てて。

 

ええ!?カイチョーが嵐の中探してたのってこのネックレスだったの!?

 

今すぐ届けに行かなきゃ!…え?ダメ?

 

お昼になるまで待つの?…なんで?

 

 

その後、ネックレスを見つけてくれた嬉しさのあまりテイオーにハグをしたルドルフだったが、トレーナーの濃すぎる匂いのせいで昨夜の情事がバレてしまうのだった。

 

おわり



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