晴れて任務再開……という知らせを受けて集まったというのに、ナルト、サクラは不機嫌だった。
それもそのはず、欠員の補充メンバーとして彼らの『カカシ班』に加わった人物が、つくり笑いを浮かべた毒舌の少年だったからである。
「とりあえず自己紹介から始めようか」
カカシの代理で隊長を務めることになったヤマトが、苦笑いをしながら命ずる。
「うずまきナルト……」
「春野サクラです……」
「サイです」
「いずみナナです。今回の任務からは外れたけど、よろしくお願いします」
ナナはサイにニコリと笑いかけた。
が、ナルトとサクラは不満げな顔で彼を見ている。
「懇親会を開いてる時間はないよ。早速任務に向かわなくちゃならないんでね」
ヤマトは彼らに任務の難度と重要性を説くが、だからといって急に結束力など芽生えるはずもない。
「じゃあ、一時間後に正門前に集合!」
不穏な空気の中でひとまず彼らは解散した。
「ナナ、今回の任務は一緒に行かないって本当なのか?」
「うん、ごめんね。謹慎処分になっちゃって……」
「きんしん~?! なんでだよ!」
「『暁』の砂隠れ襲撃を木ノ葉に報告しないで勝手に介入したから……」
ナルトはさらに不満げに言う。
「べつに悪いことしてねぇってばよ! オレが綱手のバァちゃんに言って……」
「ちがうのナルト! 綱手様は許してくれたんだけど、一応決まりだし……」
「師匠だって色々と考えたうえでのことよね?」
「うん。私なんかに気を使ってもらっちゃって……」
ナルトはまだ憤慨していたが、サクラもフォローに回ったため、どうにか収まった。
「戻って来るまで、シカマルと中忍試験の仕事してるから」
頑張ってね、と言って、ナナは二人の前から去った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
タイトルの無い絵が壁にかけられた自室で、サイは出立の仕度を再会した。
たった今去ったばかりの『根』の先輩格である男の言葉を、もう一度心に刻む。
『木ノ葉と言う大木を目に見えぬ地中から支えるのが、我々“根”の意志だ。それを忘れるな……』
『根』には、名前は無い、感情は無い、過去は無い、未来は無い、あるのは任務……。
そう教えられてきた。そうやって生きてきた。
今回も、己に課せられた“真の任務”を完遂するまでだ。
「名前も無い……か……」
『根』の掟の一部を何気なく呟いて、彼はテーブルの上の本を見下ろした。
一冊の、そう新しくもない絵本だった。
もちろん、表紙にタイトルはついてない……。
「そんなところからじゃなくて、玄関から来れば良かったのに」
そして彼は唐突に窓の外を向いて言った。
屋根に居たのは、
「来るような気がしてたよ、いずみナナさん」
カカシ班のメンバーのひとりである、いずみナナだった。
「あ、バレちゃってた?」
「君と別れてから、変な蝶が後ろにくっついて来てたからね」
「ごめん、アナタと話したいことがあって」
「どうぞ、入って」
「あ、じゃあ、おじゃまします」
二人はにこやかに会話を交わす。
「僕のことが気になる? いずみナナさん」
「ナナでいいよ。サイ」
その笑みが意図的につくられたものだということは、互いに分かっていた。
「気になるっていうか……」
「何?」
同じような“つくり笑い”。
どちらも、当たり前のように浮かべている。
「何をするつもりなの……?」
「何って……?」
二人の表情とは正反対の、どす黒い空気があたりに漂った。
「『うそくさい笑い』って、わりと見破る自信あるから」
「君もそうやって生きてきたんだものね」
沈黙……。
互いに相手の次の言葉、次の仕草を待つ。
先に動いたのはサイだった。
「殺すはずの相手と『仲間面』するのって、どんな気分なんですか?」
ナナの表情は少しも変化無かった。
「……べつに、もう慣れた……」
「へえ、残酷だなぁ」
サイはさらに続けた。
「サスケ君を助けられるかもしれない任務から外されたっていうのに、ずいぶんのん気なんですね」
「しょうがないよ」
「一緒に行きたいとは思わないんですか?」
「仕方ない。里の意向はわかってるから。アナタの上司、ダンゾウ様も含めてね」
「へぇ……、ずいぶん物分かりがいい」
そのまま、不適に笑むナナに近づいた。
そして耳元でささやく……。
「君のサスケ君に対する感情って、その程度のものなんですね」
ナナはようやく、わずかに身じろいだ。
そして小さく言う。
「アナタが誰に何を聞いたのか知らないけど、
ひどくつまらなそうな声。
サイは体を離して向き直った。
「私はアナタに忠告しに来ただけ。言い争うつもりじゃない」
「忠告って、何をです?」
ナナの顔に、先程までのつくり笑いはもう無かった。
「ダンゾウって人がアナタに何を指示したのか知らないけど……ナルトとサクラちゃんを傷つけようとするなら私が許さない」
冷たい瞳。
「『仲間』だからですか?」
「アナタにはわからないかもしれないけど」
「わからないな。なぜ君がそれほどまでに彼らに固執するのか」
「『仲間』だから」
「君のことを理解し得ない存在でも『仲間』だと……?」
ナナは答える代わりに息をつき、瞳を伏せた。
そして、再びサイと視線を合せた時、
「…………?」
サイはわずかに息をのんだ。
もう彼も、作った笑みなど浮かべてはいられなかった。
「サイ、あなたも気をつけてね」
「えっ……?」
「きっと、何かを企みながらこなせるほど、簡単な任務じゃないから」
「心配……してくれるんですか?」
「あたりまえじゃない」
ナナは柔らかく微笑んだ。
それが作られたものかどうか……サイにはもう判断できなかった。
それを知ってか、ナナは軽く首を傾けてますます笑い、静かに彼の目の前から消え去った。