ひと葉 ~弐の巻~   作:亜空@UZUHA

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 ノックがする前から、そこに誰がっているのかわかった。
 カカシはゆっくりと身を起こし、入るようにと答える。
 遠慮がちに開いた扉の向こうには、緩く笑う、ナナが居た。


哀傷

「はい、先生」

 

 ナナは器用な手つきでリンゴをむき、彼に渡した。

 ぎこちない空気は無かった。

 砂から木ノ葉へと還る道中、気がかりだったナナの心中も……。

 どうせ推し量ることはできないのだと思い知り、彼はあくまで何も聞かないことに決めた。

 

「サイって人が、カカシ班に入ったよ。嘘くさい人だけど……」

 

 ナナはあからさまに、『サイ』なる人物についての疑惑を口にする。

 

「ダンゾウ様の部下なんだって。綱手様も疑ってたけど、絶対に何か企んでると思う……。何も無ければいいけどね」

 

 少し、他人事のよう……。

 が、カカシはリンゴをほおばりながら、それすら気づかぬフリをする。

 主導権はナナに譲ろうと決めていた。

 

「先生……今回はだいぶ写輪眼を使ったんだね……大丈夫?」

 

 ナナは里に戻った後、髪を切った。

 出会った頃と、同じ長さに。

 あの頃よりほんの少しだけ大人びた顔で、ナナは彼を見ていた。

 

「……ナナ……」

 

 少し迷った。

 が、迷うことさえ、主導権を握らぬ彼には許されない気がした。

 全てはナナに……ナナに委ねる。

 そのために、彼は重い口を開いた。

 

「砂に向かう途中でさ、また『うちはイタチ』と戦ったんだよね」

「…………」

 

 案の定……ナナは黙った。

 驚いた顔もせず。

 長い忍生活で、カンは冴えるほうだった。

 だから……主導権を手放しつつも、試すようにそう告げた。

 

「うん……」

 

 ナナの瞳に、陰が篭もった。

 そんな彼女の瞳は、初めてじゃない気がした。

 が……かすかに手に汗が滲む。

 

「ナルトも戦ったんでしょう……?」

 

 どこか諦めたような声色。

 諦めがついたのは彼のほうだった。

 ナナは……、うちはイタチを知っている……。

 いや、そればかりか……。

 

「ナルトに聞いた?」

 

 ナナは首を振った。

 

「イタチに聞いた」

 

 驚くことは止めにしよう……そう思っても、声がかすれる。

 うつむくナナはそれでも、言葉を隠そうとはしなかった。

 

「あの時、私は……イタチのところにいた……」

「…………?!!」

 

 驚愕は久しかった。

 

「一緒……に……?」

 

 ナナの世界が……わからなかった。

 わかって良いものでないと知っていても、ここまでそれが歪み、霞んだことは無かった。

 

「デイダラにやられてフラフラ彷徨ってた私を助けてくれたの……」

「うちは……イタチが……?!」

 

 ナナは……どこで生きているのだろう……。

 すぐ側にいるくせに……果てしなく遠く感じる。

 ナナの過去も現在も……全てが陽炎のように思えた。

 

「うん。イタチが」

 

 イタチ……と、そう呼び慣れたように言うナナは……。

 

 

「私……イタチを知ってるの。……ずいぶん小さい頃から……」

 

 

 ついにそう告げた。

 

「先生に……いつも言おうとして言えなかった……ごめんなさい」

 

 そして困ったように笑う。

 泣きそう……だった。

 彼の脳裏にふと……何か言いかけて止めたナナの姿が蘇る。

 ずっと気になっていた。

 それこそイタチにやられて……ツナデのお陰で目覚めたとき、側には蒼白な顔で、泣くこともできずに立ち尽くすナナがいた。

 同じ頃に目覚めたはずのサスケじゃなく、自分のところに駆けつけたナナ。

 真新しい中忍ジャケットに身を包み、かすかに震えていたナナ。

 

  『先生に……まだ、言ってないことが……』

 

 揺れる瞳で、ナナはそう言った。

 あのナナと……今のナナが繋がった。

 

「サスケには……結局怖くて言えなかった……」

 

 ナナは穏やかに呟いた。

 そんな彼女を、誰が責められよう。

 

「でも……私……」

 

 それを抱えて、ここに立つナナを。

 

「木ノ葉の忍として……ココに戻ったから……」

 

 そうやって、笑うナナを。

 

「……ナナ……」

 

 手を、伸ばしたかった。

 その手にナナが、すがらないことは知っていても。

 それを必要としないと、知っていても。

 ただ、どうすることもできなくて……。

 

「だから、信じて。先生……」

 

 笑顔を残して去るナナを、見送ることしかできなくて……。

 

「ナナ……!」

 

 一片の勇気で彼はナナを呼び止めた。

 そして、

 

「オレは、いつでもお前の味方だよ」

 

 そんなありきたりな言葉を辛うじて贈った。

 ナナは笑って手を振り、静かに扉を閉めた。

 

 それはまるで、彼を慰めるような笑みだった。

 

 

 

 

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