今でも容易に、あの青い月を思い出せる。
下から吹き上げる冷たい風も、足元にざわつく下草も。
暗い瞳も、低い声も。
残酷なほどに優しかった、あの腕も……。
サスケが今でも何処かで生きている……
それがわかっただけで、力が抜けた。
彼が今、どれほど強くなっていようとも、どれほど狂っていようとも、……どうだってよかった。
ただ、生きていてくれた……。
それが、ナナにとってはただひとつ、重要なことだった。
彼を利用しようとしている大蛇丸が、彼をまだ殺す訳がないとわかっていても、……殺されていやしないかと不安だった。
彼の身体を奪うのが、まだ少し先とわかっていても、……もう彼は皮と成り果て、大蛇丸にその魂を譲っていやしないかと不安だった。
不安なんて曖昧なものじゃない。
きっと、恐れだった。
それは決して拭えるものではなかった。
外界から閉ざされた和泉の里で、いつもいつもその恐れをかき消そうとしてきた。
まるで呪縛のようにまとわりつくそれから逃れようと、修業に明け暮れ、身体を休めている時は式神たちが集めた『暁』の情報を分析した。
もう彼とは関わらないと……、彼への想いに捕らわれてはいないと、口にも出した。
我愛羅にもそう言った。
それでも結局、本心が彼を求めたのは、いい加減恐れを払いたかったからだろう。
木ノ葉に帰る選択をしても、何ひとつ変わりはしなかったのに。
だがようやく、振り払うことができた。
心も身体も軽くなった気がした。
本当に、サスケが生きていてよかった……。
もう二度と、あの頃の彼には会えないとしても。
次に会うときには、殺さねばならぬ相手だとしても。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今日はずいぶん……懐かしい顔を見た。
が、心は揺れてなどいなかった。
ただ……あそこに居なかった“ただ一人”が、ほんの少し……ほんの少しだけ心を震わせていた。
『ナナ……』
どうしても捨て切れなかった不安が、木ノ葉を出たあの日から“不快”のカタチで残っていた。
捨てたにもかかわらず、心にこびりつくモノの不快さを嫌というほどに思い知った。
ナナの姉という者に渡されたボロボロの額当て。
アレについていた血の匂いは、今も鼻をつく。
それを捨てても……不安は捨て切れなかった。
ずっと案じていた。捨てたはずなのに。
捨てても……死んでは欲しくなかったから。
傷つけても……どこかで誰かと、笑っていてほしかった。
ちゃんとどこかで……生きていて欲しかった。
大蛇丸も情報をくれなかった。
からかい半分で嫌味な情報を伝えて来てもおかしくはなかったのに。
自分から聞くことなどできなかった。
だが結局、一度もナナの行方について話題にしなかったのは、本当に何の情報も得ていないのだろうと確信していた。
琴葉は……、『力を取り戻す』と言ってしばらく姿を消した後、突然目の前に現れた。
ナナによく似た顔で不気味に笑いながらちょっかいをかけてきた。
イタチの話もした。
幼い頃のナナの話も……。
聞かないようにしていたが、勝手にしゃべってはどこかに去って行った。
だが琴葉も、ナナの案否については“答え”を知らないようだった。
いや、『“答え合わせ”はもう少し後』とか言っていた……。
だが今日……かつての仲間……、ナルトが言った一言で、その呪縛は解けたのだ。
『ナナはっ……何も言わないけど! 本当はっ……お前を待ってんだってばよっ!!』
ナナは……、生きている……。
ナナがまだどこかで生きている……。きっと木ノ葉で。彼らと一緒に。
それを知っただけで、確かに三年の間ずっと渦を巻いていた心は鎮まった。
本当に、ナナが生きていてよかった……。
もう二度と、あの頃のように会えないとしても。
次に会うときには、殺さねばならぬ相手にだとしても。
二藍(ふたあい)= 青の藍(藍)と赤の藍(紅)