「久しぶりね、サスケ君」
新たな隠れ家に着いて早々、サスケの部屋に気配無く現れた者があった。
気配無く……そう、“彼女”には気配などあるはずもない。
「何の用だ、琴葉……」
蝋燭が1本ともされただけの、薄暗い地下室。
そこに、琴葉はぼんやりとした光を纏って立っていた。
「ナルト君たちに会ったそうじゃない?」
楽しそうに口の端を上げる琴葉は、不気味な美しさを持っていた。
「菜々葉……『ナナ』は居なかったみたいだけど」
「わざわざそんなことを言いに来たのか?」
舌打ちを控えて睨みあげると、琴葉はクスリと笑って言った。
「あのコが生きているのを知って安心した?」
「………………」
もともと、ナナを殺そうとしたのは……殺しかけたのはこの女。
生き伸びたか死んだか確かめもせず、その結果も『ゲームの一環』だと言ったのもこの女。
「良かったな。ゲームとやらが続行できて」
サスケも口の端を上げた。
「フフ……そうね。とても嬉しいわ」
琴葉は足音も無く、サスケの座るベッドに並んで腰を下ろした。
「あのコには……もっともっと、楽しませてもらわないと」
どす黒い言葉。
思わずサスケは横顔を睨みつける。
「あら、怖い顔。もうあのコのことは関係なかったんじゃないの?」
「……ああ、関係ない……」
「額当ても……捨てちゃったんだものね」
サスケの反応を、面白そうに試す琴葉。
それに付き合う義理は無い。
「お前がアイツに何をしようが、オレには関係ない」
だからそう言い放つ。
嘘じゃない。本当に関係なかった。
もう……切り捨てたのだから。
「……じゃあ……もう一度あのコと遊んで来るわ」
しかし琴葉は、今までの皮肉めいた態度を突然引っ込めた。
「呼んでいるの、あのコが……」
薄ら笑いは影を潜め、琴葉は恐ろしく無表情で呟いた。
「もっと、もっと、もっと……ちゃんと苦しんでもらわなくちゃ。私を呼びつけるなんて高慢なあのコの鼻をへし折ってあげなくちゃならない」
サスケに言うのでもなく……独り言のように琴葉は言った。
「憎いのよ……あのコが……。憎くてたまらないのよ……」
そして、初めての……言葉を。
「誰より哀れな存在のクセに……、チカラも……“イタチ”も持っていたあのコが……!」
サスケさえも呑み込まれそうな憎しみの深さ……。
深すぎて覗けなかった。今まで見えなかった。存在に気づけなかった。
琴葉はそれを今、全てさらけ出す。
「お、お前…………」
冷えた汗が額を伝った。
霊気すら出して、琴葉は影をさらしている。
「菜々葉はもっと……堕ちるべきよ……」
呪いの言葉は、呟いただけでチカラを持っているようだった。
改めて、この女が“生”を捨てた存在だということを思い出す。
「アイツを自分より哀れな存在にすること……それがお前の『目的』か……」
努めて冷静に言うと、琴葉はゆっくりと彼を向いた。
黒い炎が揺らめく瞳。
「……お前こそ、哀れな女だな……」
「ええ、そうよ。私は自分が崇高な存在だなんて思っていないわ」
「アイツの“チカラ”にも“イタチとの繋がり”にも……ただ嫉妬しているだけだろ……」
「ええ……そうね。……結局、私はただの“嫉妬”に捕らわれているだけ……」
一番哀れなのは……。
「わかってる。私は醜いわ……。命を捨ててまでもチカラを欲し、妹を苦しめたかった。その動機がただの“嫉妬”だなんて。本当に哀れで醜くて無様よね」
琴葉は小さく嘲り笑った。
それが皮肉にも、彼が見た中で始めての高貴な笑み。
「だから……せめてもう一度、楽しんで来るわ……。そこへ堕ちてまで果たしたかった目的を……ね」
ひんやりとした空気を残し、琴葉は立ち上がった。
「……お前じゃ……ナナは堕とせない……」
低い声で言った後、サスケは奥歯をかみ締めた。
何故か……。
「あら、心配してくれるの? それとも、まだあのコを信じているのかしら?」
振り返った琴葉はもういつもの嫌味で高慢な笑みに戻っていた。
「じゃあ、私が目的を達成した証として、“ナナ”の死体を持って来るわね。今度こそ、額当てなんかじゃなくて、ちゃんと本体を持ってきてあげる。ぐちゃぐちゃに壊れちゃってるかもしれないけど。でももう『関係』ないからいいのよね? どんな姿でも。むしろ醜い姿を見た方が、あなたの気が晴れるかもしれないわよ?」
琴葉はかすかに興奮してまくしたてるように言うと、笑いながらドアをすり抜けて消えた。
哀れ……。
思ってサスケは、“何”に対してかわからぬままに舌打ちをした。
※半色(はしたいろ)=どの色とも呼べない、中途半端な色