陽光のさす縁側で、ナナは成葉に髪を梳かれていた。
朝食の後ということと、ほとんど眠っていないせいで、ついまどろみがちになる。
成葉もそうだったのか、二人は同時にあくびをした。
「あれだけきつく結われていたのに、全然クセがついてないのね……」
成葉はナナの巫女風に結われていた髪を、三つ編みに結びなおしてから言った。
ナナはその毛先を振り回しながら笑う。
こんな髪型にしたのは初めてだった。
「似合ってるわよ、“おさげ”……!」
成葉はもうじき母となる女の、穏やかな笑みでナナを見ていた。
訪問者が現れたのは、そんな時だった。
「四代目がいらっしゃいましたよ、成葉」
静葉の言葉に反応する間もなく、拝殿の方から歩いて来る人影にナナは目を奪われていた。
(四代目……!)
首の皮がひきつった。
「いらっしゃいミナト。時間通りね」
成葉が縁から降りて親しげに迎える。
『ミナト』と彼女に呼ばれた四代目火影は、ナナの耳に初めての“声”を吹き込んだ。
「おはよう成葉、身体は大丈夫?」
眠たげな声だが、慈しむように成葉を見て、その腹を見る。
そして……。
「あれ、今日はかわいいお客さんがいるんだね」
その瞳がナナに向いた。
心の揺れを、表に出してはいけない……。
ここに来た時から心がけていたものの、今、この瞬間には無理な注文だった。
「かわいいでしょ? ウチの本家のコよ。はるばる時空を旅して“未来”から来たの」
成葉はあっさりとナナの正体を彼に明かしながら、縁に腰かけたままピクリとも動かなくなったナナに歩み寄る。
「へえ……そりゃ珍しいお客さんだね」
そしてミナトもまた、あっけなくその言葉を受け入れて感心する。
「“ホクト”って呼んであげて」
「ようこそ、ホクトちゃん」
次の瞬間、ナナは自分の身に何が起きたのかわからなかった。
四代目火影の、写真でしか見たことのない蒼い瞳が近づいたかと思うと、急に空が近くなった。
「それでオレにあんな
「そうよ。ちゃんと持って来てくれた?」
二人の会話など耳に入らなかった。
四代目に抱きあげられていると気づくことで精いっぱいだった。
「あとで持って来てもらうことになってるから大丈夫!」
「センスはいいんでしょうね……」
「バッチリだって!」
すぐ近くに、四代目の顔があった。
綺麗な金の髪。強い光を奥に秘めた蒼い瞳。
「かわいいなぁ……女のコもいいよね」
彼はナナを向いてつぶやいた。
「ミナトのところは男の子でしょ? クシナは元気なの?」
「うん、クシナは
まぶしい笑みは誰かに似ていた。
「どことなくナルに似てるよね」
彼はナナと成葉を見比べた。
ナナが産まれる由縁となった二人に見つめられ、ナナの胸は熱くなった。
こんな気持ちは初めてだった。
それをもてあまし、ナナはギュッと四代目火影の首にしがみついた。
なぜ自分は“この時代”に来たのだろう。
なぜ姉は、“ここ”に自分を飛ばしたのだろう。
同時にその疑問も強くなった。
“ここ”は、想うことが強すぎる……。
「ホクトちゃんは、ホクトちゃんの世界で頑張って生きてるんだね」
そんなナナの幼い背を抱きしめながら、四代目がそう言った。
「キミの瞳はそんな瞳をしてるよ」
なぜ……?
「こんな小さいのに、そんな瞳をしてるんだからさ……」
なぜ、そう言うのか……。
声を出しそうになりながら彼の目を探ると、すべてを見通した聡明な瞳がナナをなだめすかした。
「僕たちは、キミの世界を護るよ」
知っている。
彼も、すぐ先の未来を知っているのだとわかった。
成葉も悟ったような微笑を浮かべていた。
胸の熱さは少しだけ、無力感に変わった。
ナナはもう一度、遠慮がちに四代目にしがみついた。
「大丈夫だよ」
四代目はささやいた。
この声も、この髪も、目も、腕も、言葉も、何もかも……、忘れずに持って帰ろうと、心に強く思った。