葉のざわめきすら聞こえない静かな竹林で、小さな木ノ葉の暗部は突如として立ち止まる。
太身の竹の間を縫うようにして駆けていた黒い影は、まるで一瞬にして生気を吸われたかのように、二、三歩よろめいて青竹に手をついた。
竹は少しもしなりはしなかった。
ただ力を失っていく身体が、ずるずると墜ちて膝をつく。
震える手で、つけていた面をとった。
現れたいずみナナの顔は、死人のように蒼白だった。
あとからあとから溢れ出る涙を止めるすべも知らず、ナナは声も出さずにうずくまっていた。
膝にじんわりと熱い雫が染み込む。
やっと……。
初めて伝えた言葉に、後悔はない。
己自身に驚くほど、素直に出た言葉。
ずっと前から心の奥に居座っていたのに、今さら気付いた想い。
やっと心から言えたのに……。
『お前は初めからサスケにとって必要ないんだよ』
香燐というあの少女の言ったことを、少しも否定できない。
イタチを殺すために生きるサスケにとって、
むしろ、
『オレがアイツを殺すのを止めようとするなら……』
……そう……
『……お前も一緒に殺してやる……!!』
彼の憎しみの対象ですらある存在だったのだ。
イタチを大切に想い、護られ、“一族殺し”も信じようとしない自分が、サスケの隣で笑い、泣き……。ましてや“愛しい”と思うことなど、許されるはずもなかった。
想いを……持たなければよかった。
一緒に居なければよかった。
ナナは強く膝を抱える。
そして……。
(出逢わなければ……)
そう思いかけた瞬間、ぐっと奥歯をかみ締めた。
(意味はある……)
言い聞かせるように息を飲み込む。
(きっと、まだできる事はある……)
四代目火影と和泉成葉、そして幼いイタチ……。
彼らと
(意志を……!)
ナナは乱暴に涙を拭った。
カカシの暗部装束を身にまとって、木ノ葉を出たときに掲げた意志を……。
「私はっ……」
サスケの拒絶に心が引き裂かれそうになっても。
頭が割れそうに痛んでも。
息ができないほどのどが締め付けられても。
「二人を止めるっ……!!」
無理やりに意志を吐き出し、ナナは傍らに落ちた面をとった。
涙はまだ留まるところを知らなかった。
雫は面に落ち、流れた。
だが、歪んだ視界の端に瑠璃色の蝶を捕らえたナナは、血が滲むほど強く唇をかみ締めて立ち上がった。
そしてもう一度涙を拭い、面をつけた。
肺が細かく痙攣していた。相変わらず怖れに竦みそうだった。
が、ナナは指を伸ばし、蝶を止まらせる。
この意志を……、決して
全てを告げたカカシ、黙って認めてくれた綱手……、運命の連鎖に連なる四代目火影と和泉成葉、そして彼らに逢わせた姉。
彼らの想いに報いるためにも、醜くても、無様でも、無力でも、汚くても、進まねばならない。
足掻いてでも、生きねばならない。
敵わなくても、叶わなくても……。
「まっすぐ……」
チカラとなる、言葉を胸に。
「自分の言葉は曲げないっ……」
ナナは力の入らない足を無理矢理動かし、また竹林を駆け抜けた。