ひと葉 ~弐の巻~   作:亜空@UZUHA

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 葉のざわめきすら聞こえない静かな竹林で、小さな木ノ葉の暗部は突如として立ち止まる。
 太身の竹の間を縫うようにして駆けていた黒い影は、まるで一瞬にして生気を吸われたかのように、二、三歩よろめいて青竹に手をついた。
 竹は少しもしなりはしなかった。
 ただ力を失っていく身体が、ずるずると墜ちて膝をつく。
 震える手で、つけていた面をとった。
 現れたいずみナナの顔は、死人のように蒼白だった。



忍道

 

 あとからあとから溢れ出る涙を止めるすべも知らず、ナナは声も出さずにうずくまっていた。

 膝にじんわりと熱い雫が染み込む。

 

 やっと……。

 

 初めて伝えた言葉に、後悔はない。

 己自身に驚くほど、素直に出た言葉。

 ずっと前から心の奥に居座っていたのに、今さら気付いた想い。

 やっと心から言えたのに……。

 

 

『お前は初めからサスケにとって必要ないんだよ』

 

 

 香燐というあの少女の言ったことを、少しも否定できない。

 イタチを殺すために生きるサスケにとって、()()()()自分の存在など必要なかったのだ。

 むしろ、

 

『オレがアイツを殺すのを止めようとするなら……』

 

 ……そう……

 

『……お前も一緒に殺してやる……!!』

 

 彼の憎しみの対象ですらある存在だったのだ。

 イタチを大切に想い、護られ、“一族殺し”も信じようとしない自分が、サスケの隣で笑い、泣き……。ましてや“愛しい”と思うことなど、許されるはずもなかった。

 想いを……持たなければよかった。

 一緒に居なければよかった。

 ナナは強く膝を抱える。

 そして……。

 

(出逢わなければ……)

 

 そう思いかけた瞬間、ぐっと奥歯をかみ締めた。

 

(意味はある……)

 

 言い聞かせるように息を飲み込む。

 

(きっと、まだできる事はある……)

 

 四代目火影と和泉成葉、そして幼いイタチ……。

 彼らと()()()()ことの意味を糧に。

 

(意志を……!)

 

 ナナは乱暴に涙を拭った。

 カカシの暗部装束を身にまとって、木ノ葉を出たときに掲げた意志を……。

 

「私はっ……」

 

 サスケの拒絶に心が引き裂かれそうになっても。

 頭が割れそうに痛んでも。

 息ができないほどのどが締め付けられても。

 

「二人を止めるっ……!!」

 

 無理やりに意志を吐き出し、ナナは傍らに落ちた面をとった。

 涙はまだ留まるところを知らなかった。

 雫は面に落ち、流れた。

 だが、歪んだ視界の端に瑠璃色の蝶を捕らえたナナは、血が滲むほど強く唇をかみ締めて立ち上がった。

 そしてもう一度涙を拭い、面をつけた。

 肺が細かく痙攣していた。相変わらず怖れに竦みそうだった。

 が、ナナは指を伸ばし、蝶を止まらせる。

 この意志を……、決して()()()()()()()()()()()()この意志を、口にしたからには貫かねばならない。

 全てを告げたカカシ、黙って認めてくれた綱手……、運命の連鎖に連なる四代目火影と和泉成葉、そして彼らに逢わせた姉。

 彼らの想いに報いるためにも、醜くても、無様でも、無力でも、汚くても、進まねばならない。

 足掻いてでも、生きねばならない。

 敵わなくても、叶わなくても……。

 

「まっすぐ……」

 

 チカラとなる、言葉を胸に。

 

「自分の言葉は曲げないっ……」

 

 ナナは力の入らない足を無理矢理動かし、また竹林を駆け抜けた。

 

 

 

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