ひと葉 ~弐の巻~   作:亜空@UZUHA

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空に舞う砂塵

 袴の裾で舞い上がる砂を気にも留めず、ナナは里の砦へと疾走していた。

 その姿は、『烈風』そのもの。

 追いつける砂の忍はほんの一握りだった。

 

(嫌な予感がする……)

 

 砂へ来てから、カンクロウらと警備体制を見回りつつ、里の周囲に張り巡らせておいた陰陽式の結界。

 それが破られた兆候を察知したのが、つい十五分前。

 ナナは風影に、周囲の警備を最高レベルにするように言って、“侵入者”の存在する方へ飛び出した。

 

「『烈風』だ!!」

 

 その姿を見止めた警備隊は、すぐさま砦の見晴台へと案内する。

 そこに居た者に、未だ“侵入者”の気配は察知できていなかった。

 

「来る……」

「……え……?」

 

 眉をひそめてキツネの面を凝視する彼らをよそに、ナナは手すりから身を乗り出した。

 案の定、真正面の砂漠から向かって来る、ふてぶてしい気配。

 

「正面を……」

 

 ナナは指差した。

 見張りの男が、望遠レンズを覗く。

 しばらくして……。

 

「何者かが二人……歩いて来ます!!」

 

 その姿が明らかになった。

 

「黒いマントに赤い雲の模様……『烈風』のおっしゃったとおり……!!」

「『暁』か……!!!」

 

 砂の忍が厳戒態勢を布く中、ナナは背にしていた弓矢を手にした。

 

「うかつに手を出さないで」

 

 周りに低い声でそう命じ、ナナは矢を放った。

 高い唸りを響かせて、矢は二人の足元へと瞬く間に到達する。

 矢が起こした風が砂ぼこりを散らし、二人の侵入者の姿が鮮明になった。

 ナナはもう一度、それぞれの足元へと矢を放った。

 

「なるほど……」

「忍の里にも、変わり者がいるってわけか……うん」

 

 暁の衣は、不気味に揺れた。

 そして、

 

「みんな、さがって!!」

 

 ナナが言い終わらぬうちに、一人が放った“小さな物体”が砦を襲った。

 

「…………?!」

 

 突然響き渡る爆音。

 

「起爆札……いや、爆弾か……?!」

 

 忍の一人がつぶやく間もなく、再び謎の物体が放たれる。

 

「打ち落とすまでだ!!!」

 

 忍は当然、クナイを構える。

 が、

 

「クナイはダメ!!」

 

 ナナは叫んだ。

 しかし、一人の放ったクナイがそれに命中する。

 当然、それは砦の砂壁に到達する前に爆発した。

 だが、それは彼らの予測を超える爆発の規模だった。

 爆風は、仕込んであった忍武器を雨のように降らせた。

 

「……っ……!!」

 

 ナナは背にしていた刀で、それらを弾く。

 そして、そのまま一気に壁を駆け下り、二人の侵入者へと斬りかかった。

 

(我愛羅……!)

 

 彼を護りたかった。

 だから夢中だった。

 それに、その黒いマントに浮かぶ紅い雲を目にした瞬間、身体はじっとしてなどいられなかった。

 『暁』の二人相手に一人で斬り込んで、敵う相手とは思わなかった。

 今は同じ組織に所属するというイタチの強さを、誰よりも知っていたから……。

 が、援護があった。

 この里へ来て強化した防衛隊。

 彼らが背後にいるはずだった。

 

 だが、悲鳴が上がったのは自分や目の前の敵じゃなく、その()()からで……。

 砦を振り返ると、最も信頼していた軍事参謀が薄く笑っていた。

 

(我愛羅……!!)

 

 信頼して任に就けたはずの彼を思った瞬間、身体に痛みが走った。

 そして、すぐに駆け巡る不快感。

 

(毒……)

 

 すぐにわかった。

 マントから不気味な“尾”さらけ出した男が、笑っていた……。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 それから間もなく、風影は侵入者の一人、『デイダラ』と対峙していた。

 奇妙な術で宙に浮く『鳥』を操るデイダラに対し、彼は砂を巧みに扱って乗っていられるだけの雲を造る。

 

 ナナは……?

 

 絶えず渦巻く感情を抑え、砂を操っていた。

 いち早く里外の異変を感じ取り、烈風のごとく飛び出していったナナの安否が気にかかる。

 彼女は、今目の前にしている者を里へ()()()()()()ために出て行ったはずだ……。

 が、ここに敵は()()

 

「……ちっ……」

 

 狙われているのが自分自身だとしても、ナナの身が気にかかった。

 だが、『暁』の者が集中を欠いた状態でやり合えるほどの敵であるはずもなく……。

 彼の扱う奇妙な起爆物は、彼の周囲で爆音を響かせる。

 彼は見慣れぬその術に眉をひそめた。

 手元から次々と繰り出される爆発物。

 そして、彼を乗せる鳥のカタチを成した物体。

 いったい何を元にして生成しているのか。

 

 が、その時。

 彼が睨み据えていた『鳥』が、下から現れた一筋の閃光によって貫かれ、泡のように消えた。

 

「なんだぁっ?!」

 

 デイダラは空に投げ出される。

 すると今度はその身体を狙い、再び下方から閃光が放たれた。

 デイダラのみならず、我愛羅の眼もくらんだ。

 と、すぐに彼の後ろに浮いていた砂の塊に、軽い足音がたった。

 

「……ゴメン……我愛羅……」

 

 少々息を切らして現れたのは、ナナだった。

 左手にはまだ、今使ったばかりの弓を持っている。

 

「……侵入……させちゃった……」

 

 ナナは面越しに、デイダラを睨んだ。

 

「もう一人は……結界術で……足止めしたから……」

 

 そう言いながら、ナナは顎から滴る汗を片手で拭った。

 

「ナナ、怪我をしているのか……?」

「平気……ただちょっと……」

「何だ?」

「『内通者』が……計算外だったから……」

「内通者……?」

 

 ナナは、軍事参謀の名を口にした。

 

「……ユウラが……?」

 

 こめかみがズキンと痛んだ。

 が、感傷に浸っている間などない。

 新たな『鳥』を生んだデイダラが目の前まで来て笑った。

 

「さっきのヘンなヤツだな。コイツを貫くとは、面白い矢を射るな……うん」

 

 我愛羅は不敵に笑うデイダラに身構えた。

 砂の里上空での戦闘は、再び激しく展開した。

 忍らしからぬ術を使うデイダラと、忍の力を超えた術を繰り出す我愛羅と、そして忍でない術を扱うナナ。

 三人の戦いは、地上で見守る者たちの想像の範疇を超えていた。

 しかし、どんな戦いにも“オワリ”は訪れるもので……。

 

「我愛羅っ!!」

 

 我愛羅は、ナナが爆発物を刀でなぎ払ったスキに、砂でデイダラの片腕をもぎ取った。

 しかし、デイダラは一瞬のひるみも見せず、『とっておき』の術を放つ。

 それは、二人にではなく……。

 

「里へ……?!」

 

 “下”に向けられた。

 

「……くっ……」

 

 我愛羅はとっさにチャクラを全開にし、砂を傘のようにして里を覆う。

 この瞬間、デイダラが主導権を握った。

 

「これでオワリだよ……うん」

 

 小さな『鳥』が、大量のチャクラを放出した我愛羅の元へと飛んだ。

 

「我愛羅っ!!」

 

 が、一陣の烈風が吹き、白い布が我愛羅の身体を包んだ。

 

「……ナナっ……?!」

 

 今度はデイダラの放った閃光が、砂隠れの里の空に煌めいた。

 

「我愛羅……」

 

 デイダラの放った爆発物は、確かに自分に当たるはずだった。

 この身で確かに、我愛羅を包み込んだはずだった。大切に。

 が、その衝撃は無く、ナナの視界は何かに塞がれていた。

 

「我愛羅……?」

 

 顔を上げると……、汗を流し、息を乱した我愛羅の顔が暗闇に浮かんでいた。

 周囲は真昼の空だというのに暗かった。

 

(砂の……防御……)

 

 その空間が、『彼の砂の中』と知るのはたやすかった。

 だが、『彼の腕の中』ということは信じがたかった。

 が、自覚すると同時に胸がズキリと痛んだ。

 

「我愛羅……ゴメン……」

 

 せめて、涙は我慢した。

 

「ナナ……無茶は……ヤメロ……」

 

 彼は怒ったように言い、少し笑った。

 

「我愛羅……」

 

 ナナはつられて、小さく笑った。

 

「待っててね……、私がケリつけるから」

 

 護りたい……。

 また、そう強く思って、ナナは陰陽の印を結んだ。

 毒の回った身体で、練り上げられるだけの霊力を。

 片腕の忍一人くらいなら、倒すことが可能な術を。

 

 だが、それが発動されることはなかった。

 小さな羽音がナナと我愛羅の耳元で鳴り、気づいた瞬間、ナナは我愛羅によって思い切り突き飛ばされていた。

 

「…………?!」

 

 放り出された空中で、爆発音を聞いた。砂の絶対防御が崩壊するのを見た。

 そして、自分と反対側に投げ出されていく、力を失った我愛羅の姿を見た。

 

「ガア……ラ……?」

 

 彼女が護ろうとした者は、最後の力で砂の傘を里の外へ出し、彼女が倒すはずだった者の手に捕らわれた。

 

 ゆっくりと下降しながら、ナナはなすすべも無くその光景を見ていた。

 

 

 

 

 

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