ひと葉 ~弐の巻~   作:亜空@UZUHA

43 / 69
歴史

 

「“うちは”の歴史を話してやろう」

 

 イタチはそう言った。

 もうすでに、ナナの五感は鈍重になっていた。

 万華鏡写輪眼の秘密。万華鏡写輪眼は九尾を操ることができる……という事実。

 それだけならまだ良かった。

 木ノ葉に九尾を呼んだのは、うちはマダラだった。

 九尾の襲来という“天災”を予知できなかったことで、和泉は負い目を背負い、ナナという『将来の保険』が産まれる由縁となった。

 が、天災と恐れられてきたそれは、実は人間のもたらした禍だった。

 己の存在の無意味さを突きつけられ、ナナは理を失いかけていた。

 ただ事実を知ったというのではなく、残酷なそれがあのイタチによって冷たく告げられた。

 そのことに対する衝撃で、目は眩み、呼吸は規則を失った。

 しかし、イタチはそれを無視して続ける。

 

「マダラにも、かつて弟がいた……」

 

 彼がそう言った瞬間、ナナとサスケの周囲は見覚えの無い古風な部屋の中に変わる。

 ひと呼吸おいて、サスケが進んだ。

 ナナの足はフラつきながらも立ち上がり、縋るように彼の背を追った。

 

『兄と弟は互いの力を高め合い、競い合ってきた』

 

 イタチの姿は無かった。やけに遠くから声だけが響いて来る。

 サスケが古びた木の柱を曲がると、その向こうで良く似た二人の男が組み手をしていた。

 ナナもサスケの肩越しにそれを見た。

 イタチとサスケに雰囲気がよく似ていて、ひと目で“うちは”の名を持つものだとわかった。

 

『二人は写輪眼を開眼し、一族の中でも中心的存在となっていった』

 

 イタチの言葉に合わせて周囲の風景は変わり、二人の男は成長していった。

 

『そしてついに、万華鏡写輪眼を開眼した』

 

 二人はイタチと同じ眼をしていた。

 冷たく、紅い眼……。

 ナナは無意識のうち、サスケの背に寄っていた。

 

『二人はうちは一族を束ね、マダラはそのリーダーとなった』

 

 淡々としたイタチの口調が、これから見せられる光景への怖れを抱かせた。

 

『しかし、やがてマダラの身にある異変が起き始めた』

 

 サスケとナナの前には、眼を手で抑えて苦しがるマダラが居た。

 先ほどのイタチの説明が蘇る。

 万華鏡写輪眼は、使えば使うほどに封印され、やがて闇をもたらす……と。

 強大な瞳力を得たがため、その代償を払わねばならなくなったマダラの苦しみが、サスケとナナの目の前にあった。

 

『マダラはあらゆる手段を試したが、光を取り戻すことはできなかった』

 

 もがき苦しむ兄。その傍には心配そうに寄り添う弟があった。

 ナナはいつしか震えだしていた手を握りしめた。

 

『マダラは絶望した……』

 

 光を求めて、哀れなマダラの手は彷徨った。

 そして、

 

「許せ……」

 

 まさに『絶望』だった。

 その手は傍に居た弟に伸び、その両目を抉り取った。

 悲鳴がサスケとナナの耳をつんざいた。

 血の飛沫がサスケにまで飛び散った。

 ナナは後ずさることさえできず、サスケの肩越しに在る光景を見続けた。

 

『マダラは新たな光を手に入れた』

 

 二度と絶えぬ光……。

 永遠の万華鏡写輪眼を手に入れたマダラの向こうには“鬼”が居た。

 四つの眼は、紅く光る。

 

『そしてそれは、二度と絶えることのない永遠の光だった』

 

 イタチは淡々と語り続けた。

 サスケも微動だにしなかった。

 

『その眼はさらに、特有の瞳術を生み出した』

 

 ナナに身構える術はなかった。

 

『だがこの瞳のやりとりは一族の間でしか行えない』

 

 呪われた事実が明かされても、今更ナナに“予感”を払いのける力などなかった。

 

『それに、誰もが力を手に入れることができたわけでなく……、多くの犠牲もあった』

 

 これが、万華鏡写輪眼のもう一つの秘密……。

 繰り返されてきた“うちは”の悲劇。

 サスケとナナの前に黒い炎が燃え上がった。

 マダラはその力によって忍たちを次々と束ね、最強と言われていた『千手一族』と手を組み、木ノ葉隠れの土台となる組織を設立した。

 彼はその後、千手一族のリーダーであった後の初代火影と対立し、主導権争いに敗れた。

 イタチによって展開されるその歴史は、何一つサスケとナナの知らないものだった。

 だが、隠された真実はその意味が大きすぎだ。

 

『マダラは木ノ葉を追われてからも、“暁”を組織し、その陰に姿を隠して存在し続けている』

 

 ナナが無理やりサスケの背に意識を集中させようとした時、二人は現実の場に帰った。

 

 

「マダラは千手に負けた……」

 

 イタチがすぐそこに居た。

 彼を向いたサスケにつられ、ナナも彼を見上げる。

 

「“うちは”の真の高みに行きつくのは、負け犬のマダラなどではない」

 

 イタチはかつてなく高揚していた。

 

「マダラを超え、本当の高みを手にするのはこのオレだ」

 

 “予感”に、ナナは抗えない。

 脳に入り込む聞き覚えのないイタチの声を、ただ受け入れることしかできない。

 

「そして今、オレはマダラを超える力をようやく手にする!」

 

 迫り来る“予感”は、ナナの膝を震わせた。

 そして、イタチは言った。

 

 

「サスケ! お前はオレにとっての新たな光だ!!」

 

 

 “予感”は裏切られなかった。

 さらけ出されたイタチの意志……。

 聞きたくて聞けなかった、イタチの願い。

 それが……、

 

「お前の眼で、オレは永遠の光を手にする!!」

 

 目の前で、こんな風に剥き出しになる。

 イタチの後ろに、マダラの背後にも在った“鬼”のようなものが浮かび上がる。

 

「今見てきたとおり、うちは一族は万華鏡写輪眼を手に入れるために友と殺し合い、永遠の瞳力を得るために肉親と殺し合い……、そうやって力を固辞し続けてきた汚れた一族なのだ!!」

 

 いつもの静かな口調ではなく、もはや威圧的な声で叫ぶイタチ。

 

「その一族に生まれ落ちた瞬間から、お前もこの血塗られた運命に巻き込まれている!!」

 

 そして鬼は、彼の勢いに乗って手を伸ばす。

 サスケの身体は、ナナの目の前で鬼の手に握られた。

 

「弟よ!!」

 

 鬼の手が彷徨いながらも、サスケの左目に伸びる。

 

「オレはお前を殺して一族の汚れた宿命から解放される。そして本当の力を手にする!!」

 

 サスケを助けるどころか、ナナは身動きひとつ……、呼吸ひとつすらできずに突っ立っていた。

 

「オレは己の器から己を解き放つ……!!」

 

 イタチの言葉も目的も、サスケの身に起こることも、目の前で展開されているはずなのに、ナナにとっては飲み込めぬ現実だった。

 いや、理解などしたくなかった。

 受け入れたくないという意識が、その目を閉じることすら不可能にしていた。

 

「オレたちは互いのスペアだ!!」

 

 サスケの眼を抉らんと、鬼の鋭い爪が彼の皮膚に食い込む。

 何もできなかった。

 後に来る後悔は予測できるはずなのに、サスケの名を呼ぶことさえできずにいる。

 

「それこそが、“うちは”に生まれた兄弟の絆なのだ!!」

 

 だが、悲しい宣告の後……闇に引きずり込まれるナナとは逆に、サスケはしかと眼を見開いた。

 すると……鬼の姿は一瞬にして嘘のように消えた。

 

「……サス……ケ……?」

 

 サスケは先ほどと同じように、ちゃんと立っていた。

 ナナは解放されたサスケと、そして少し離れた所に立つイタチを見た。

 イタチはいつもの冷たい表情で二人を見ていた。

 

「ちゃんと……心の中のオレが見えたようだな」

 

 イタチは淡々と言った。

 そこに、先ほどの彼らしからぬ昂揚は欠片もなかった。

 

「全ては……このためか……」

 

 サスケもまた、イタチを見据えて静かに立っていた。

 過去の残像、記憶、思い出……全てを現在へ結びつけ、彼は言った。

 

「やっと……辿り着いた……」

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。