ひと葉 ~弐の巻~   作:亜空@UZUHA

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償い

 

「あなたとイタチには礼を言うわ」

 

 ナナは身構えた。

 

「あなたたちのお陰で、私を抑えていたサスケ君のチャクラが消えたわ!!」

 

 大蛇丸にではなく、己の中の殺意に対して。

 

「これでサスケ君の体は私のモノ……!!」

 

 抑えなければ、吐きそうだった。

 それくらい強烈な殺意が、腹の奥から沸いていた。

 

「サスケは渡さない」

 

 自身の殺気で眼の奥が痛んだ。

 アレがサスケを闇に引きずり込んだ。サスケの傷に付け込んで、サスケの身体を付け狙って……。

 絶対に許せない相手だった。

 

「フフフ……」

 

 だが、

 

「『渡さない』ですって……?」

 

 大蛇丸は嘲笑した。

 

「よく言うわね……ナナ……」

 

 金色の目をナナに向け、嘲った。

 

「あなたが私にくれたのよ?」

 

 大蛇丸の長い髪から伝い落ちた気味の悪い液体が、ナナの足下に落ちた。

 

「“私”が……?」

「……あなたがこうしてサスケ君に向き合い、イタチに背を向けていることが……」

 

 嫌な臭いがした。

 

「それこそが、サスケ君の闇を濃くしたのよ?」

(サスケの……闇……)

 

 それでもナナは目を逸らさなかった。

 

「私は側でずっとあのコを見てきたわ……。あなたの存在こそが、サスケ君の闇なのよ!」

 

 また、ポタポタと水滴が落ちた。

 

「あるいはあなたが、イタチと関わりの無いただの小娘だったなら……、あのコは私の元へは来なかったかもしれないわね」

「……っ……」

 

 わかっていた。

 覚悟はあった。

 が、ナナはついにうつむいた。

 

「それ程に……」

 

 痛みで眼を瞑った。

 

「あのコのあなたへの想いは深かったわ」

 

 知っているような口調で語る大蛇丸に、反論する言葉は見つけられなかった。

 

「今この瞬間に、イタチを守ろうと立ちはだかるあなたを見て、サスケ君の心が闇に呑まれないはずないでしょう?」

 

 両手で強く、眼を抑えた。

 奥から来る痛みを誤魔化すかのように。

 

「本当に可哀想なコ……」

 

 サスケの想いは知っていた。

 なぜなら、自分の想いも同じモノだったから。

 それは、苦しみを伴う想いだった。

 だから怯えて、目を背けて、抗おうとした。

 だが、今はもう……。

 

「でも、そのお陰で私は……」

「サスケは闇から引きずり出す!!」

 

 その想いを誤魔化さなかった。

 

「今度こそ、私が……!」

「無駄よ。あのコはあなたに背を向けてるわ」

 

 償いは後にすると決めたから。

 

「それでもいい……!!」

 

 また、背を向けられてもいい。

 蔑むような視線を落とされてもいい。

 

「拒絶っ……されてもいい……!!」

 

 あれほど怖かったサスケの拒絶。

 それを受け止める覚悟ができた。

 だからナナは、足元に突き刺さったクナイを引き抜いて再び上を向く。

 

「憎まれてでも、引きずり出す!!」

 

 そしてベストを千切り、布を切り裂き、己の肌をさらけ出す。

 

「そんなモノで、今更どうしようというわけ?」

「私がアナタを、サスケから引き剥がす……!!」

 

 ようやく持てた覚悟。

 だがそこに、

 

「おとなしく、イタチに守ってもらったら?」

 

 大蛇丸は凶器を穿つ。

 それは鋭く突き刺さった。

 一番深く、一番脆い所まで。

 

「結局あなたはイタチを選んだ……そういうことでしょう?」

 

 その冷たさに、クナイを持つ手が震えた。

 

「あなたはイタチを信じ、サスケ君を否定した……そうでしょう?」

 

 大蛇丸の凶器は、サスケが放ったものとなんら変わりはない。

 

「あなたこそがサスケ君の闇よ! ナナ!!」

 

 わかっている。

 自分がサスケを傷つけた。

 『二人を戦わせたくない』という願いを抱き続けてきたことこそが、サスケに対する罪。

 サスケがいっそ、自分を憎んでくれればよかった。

 サスケと自分が関わらなければ良かった。

 でも、そうするには自分の想いが強すぎた。

 闇に引かれるほど……深い深い想いだった。

 そしてサスケと自分のそれが同じ深さであると知った時、向き合うほどに互いの闇を濃くすることも知ってしまっていた。

 だが。

 

「アナタに……」

 

 言葉はもっとも。

 でも、

 

「アナタに何がわかるの?!!」

 

 サスケとイタチと自分の何がわかるというのか。

 自分でさえ、今になってようやく知ったというのに。

 

「私の願いはっ……」

 

 大蛇丸などにわかるはずもない。

 

「私はっ……」

 

 もうずっと前から傍にあったその願いは、

 

「サスケの闇を消し去りたかった……!!!」

 

 そんな単純なコト。

 『二人を戦わせたくない』。

 ずっとそう願ってきた。

 和泉でイタチに去られ、木ノ葉でサスケの闇を知り、それを願った。

 大切な二人が敵対し合う現実が、何より悔しかった。

 でも、サスケに拒絶されるのが怖くて、願いを口にする勇気は無かった。

 

 私はイタチを信じている。

 だから復讐なんか止めて。

 イタチを殺すために命を奉げないで。

 

 サスケを想っているくせに、サスケの全てを否定する願い。

 それこそが罪だと、確かにそう思った。

 だが、本当はもっと単純なコトだった。

 『二人を戦わせたくない』。

 それは、

 

「イタチを止めてサスケを護りたいとか……、サスケを止めてイタチを護りたいんじゃなくて……」

 

 初めから、二人の間に割って入りたかったわけではなく。

 

「そんなことじゃなくて……」

 

 止めるとか、護るとか、そんな叶い難いことではなく。

 本当は、

 

 

「私はただ、イタチに負わされたサスケの闇を消したかっただけ」

 

 

 そんな単純な願いだった。

 

「……それだけだった……!!」

 

 ナナは大蛇丸を見据えたまま、クナイを胸に突き刺した。

 

「フフ……何をするつもりかしら」

 

 そこは、あの刻印が在った場所。姉につけられた傷の痕が、禍々しく残る場所。

 ナナは醜い皮膚に、また赤い印をつける。

 

「こんな私の命でも……」

 

 クナイの先は、奪われる前と同じ星の形を其処に描いた。

 

「アナタを葬る代償にはなる」

 

 星の刻印は青白く浮かび上がった。

 赤い血は、その光に溶かされた。

 

「まさか……其処に私を……!!?」

 

 ようやくその禍々しさを見止めた金の目が、大きく見開いた。

 

「無駄よ! 琴葉にその刻印を潰されたはずでしょう?」

 

 ナナは小さく笑った。

 

「アレが無いと、この私が力を使えないとでも思った?」

 

 大蛇丸の顔が引き攣った。

 人外の存在となったからこそ、ナナの身に集まるチカラの強大さがわかったのか、心底初めて心底怯えた様子を露わにした。

 

「や……やめなさい……」

 

 哀れだとも思わなかった。

 

「あ、 あなたも無事じゃすまないんでしょ?!」

 

 醜いとすら思わなかった。

 

「たとえ私をサスケ君から引き剥がしても、サスケ君とイタチは止まらないわよ?!」

 

 ただ……。

 

「サスケ……」

 

 ナナはフッと笑って呟いた。

 最期……サスケを守れることが嬉しかった。

 うまくいくかはわからない。

 が、闇の中でも、もう一度サスケの心を見つけられる自信はあった。

 

「サスケ……」

 

 今度は迷わず、彼の手を取ろうと思った。

 ナナは血まみれのクナイを捨て、印を結んだ。

 

「ここに……来て……」

 

 呟いて、唱えた。

 幼いころから何万回も暗唱させられた、九尾を封じるための呪文を。

 だが、最後の一節を唱えようとした時、

 

 

「許せ……ナナ……」

 

 

 後ろから声がして、

 

「……えっ……?!」

 

 ナナの身体に鈍い痛みが走った。

 

 

 

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