割れた仮面の残骸が、パラパラと空から降ってきた。
今、目にした光景がにわかには信じられず……、カンクロウはただ、後から堕ちて来た白い袴の少女を、夢中で受け止めた。
「……お、おい……」
仮面を破られた『烈風』の顔は、蒼白だった。
遠ざかる我愛羅を視界に入れたまま、彼が抱きとめなければ地に落ちてもその状態でいただろう。
「…………!」
彼は思わず呼びかけた本当の名を、後ろから砂の忍が駆けつけるのを気取り、慌ててひっこめた。
「カンクロウ……! 『烈風』は……?!」
しかし、その中にバキがいた。
カンクロウはとっさに『烈風』の顔を体で隠したが、バキの目はその顔を捉えていた。
そして、彼はその顔を知っていた。
「お前は……木ノ葉のいずみナナ……!?」
カンクロウの腕の中、なかば放心状態だった『烈風』が身じろいだ。
その青ざめた絶望的な表情は、この状況を如実に表していた。
「くそっ……!」
彼はナナを下ろすと、我愛羅を追った。
バキが引き止めたが、その言葉を聞き入れる余裕や道理など彼には無かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ナナの視界から我愛羅が消えた時、ようやく我に返った。
そして知った。
護るべき者に護られたということを。
「我愛羅……!」
小さく叫んだ。
声を出したことによって体に痛みが走り、逆にそれがナナを正気にさせた。
「行かなくちゃ……」
喘ぐようにそう呟き、自由の利かない体を起こす。
集まってきた砂の忍の視線には目もくれず、ナナは外壁に向かう最後の風となった。
爆風で所々が引きちぎられた白い布が、うざったいくらいにはためいた。
もっとタチの悪いのが、体を駆け巡る毒。
それはもう、視覚や聴覚にまで支障をきたしていた。
それでもナナは走った。
走ることができたのは、“恐怖”でしかなかった。
自分が我愛羅を救えなかったこと。
その事実への恐怖だ。
だから、カンクロウともう一人の『暁』の忍を残して去ろうとするデイダラの姿を視界に捉えると、何の躊躇も無く、ふところから『和泉』の紋の入った“
「ナナ……?!」
背後から突然風のごとくに現れ、飛び去ろうとしているデイダラに向かっていくその姿に、カンクロウは思わず叫んだ。
「じゃ、先にいってるよ、ダンナ」
それには目もくれず、デイダラを乗せた『鳥』は我愛羅を連れて飛び立つ。
「ま、待て!」
追おうとするカンクロウを止めたのは、立ちはだかるサソリではなかった。
「待って、カンクロウ!」
「ナナ?!」
ナナは前方上空を睨んだまま言った。
「私が追う!」
そして、手にした札を放り投げ、短く印を結び
「…………?!!」
すると、札は一畳ほどの大きさに広がり、砂地の上に水平に浮き上がった。
カンクロウだけでなく、サソリもその様を凝視する。
「私が追う。追跡部隊が来るまでカンクロウは無理をしないで……!」
ナナはその札に飛び乗りながら言った。
「ナナ……?!」
「何者だ……?!」
そして、カンクロウとサソリの視線などお構いなしに、札はナナを乗せて舞い上がった。
「あれを追え……!」
ナナは前だけ見据えて、自分を乗せた札にそう命じた。
振り返ったデイダラは一瞬驚きを隠さなかったが、ニヤリと笑ってそのまま飛び続けた。
ナナは懐から再び紙切れを取り出し、デイダラに向かって投げつけた。
「何だか知らないけど……」
それが“何”であるかはどうでもいいというように、デイダラは残った片手でそれを捕らえる。
「……っ……!?」
しかしその紙切れは、クナイのように鋭く深く、彼の手に突き刺さった。
「へぇ、面白い術だな……うん」
デイダラはかすかに興味を覚えたようにそれを眺めたが、すぐに手から引き抜いて地上に捨てた。
ナナは何度もそれを繰り返した。
だが、デイダラの逃亡を止めるほどの効果を得ることはなかった。
「あまり無理すんな……すでにサソリのダンナの毒で死にかけてんだろ……うん」
彼の言うとおり、強力な毒であることは間違いないと実感していた。
がナナは毒に耐性がある。
常人なら死に至るほどの毒でも、持ちこたえられるはずだった。
かつての『毒受け』の儀式に感謝せざるを得なかった。
「……くっ……!」
だが毒に侵された体では、強力な術を扱うのは難しかった。
体力も尽きかけている。
ナナはフラリとよろめき、ついに札の上で膝をついた。
同時に札の浮力が奪われる。
「……我愛羅っ……」
叫ぶほどの力すら、ナナには残されていなかった。
「面白いヤツだったが……、そろそろダンナも追いついて来る頃だ、追いかけっこは終わりだな……うん」
デイダラは面白そうにそう呟き、フワリと飛び上がった。
着地した先は、ナナの目の前だった。
ナナの乗る札の端で、彼は笑った。
「じゃあ、『一尾』はもらって行く。お前ももう楽になりな……うん」
そして、ナナを遥か地上へと蹴り落とした。
同時に消えた足元の札から『鳥』の背に戻ると、我愛羅を連れたまま飛び去って行ってしまった。