暁の衣の男が二人……、ナナとサスケ、そしてイタチの遺体を連れて去った後、其の場所にはようやく木ノ葉の小隊が辿り着いた。
明らかに戦闘のために破壊された建物の残骸。
先ほどまで激しい雨が降っていたにもかかわらず、周囲には黒い炎が消えずに燻っている。
まだ新しいその爪痕を前に、彼らは立ち尽くしていた。
捜し求めていた“うちは”の者たちの姿は、すでに無かった。
少し前、彼らは暁の男と交戦中だった。
見たことも無いその特異な術に、カカシやヤマトすら動揺を隠せない中、突然戦闘は中断された。
「終ワッタゾ」
不意に、もう一人の暁の男が現れたのだ。
そして仲間にこう告げた。
「サスケの勝ちだよ。イタチは死んだ」
一瞬、木ノ葉の忍たちは引きつった。
あまりに唐突に突きつけられた結末……。
それが意味するものを、すぐには理解しようもなかった。
が、暁の者たちがそんな暇を与えるわけもなく。
「思ったとおりの結末だったな」
「サスケも倒れちゃった……。結構ギリギリの状態かも」
二人は淡々と言葉を交わし、彼らにとってさらに衝撃的な名を出した。
「和泉菜々葉はどうした?」
その名が誰を意味するのか、皆知っていた。
が、その名の持ち主が、“そこ”にいるのかはわからなかった。
「少しだけ匂いが残ってるけど……」
「この雨で流されたか……」
「これ以上の追跡は無理だな……」
カカシと忍犬は、うな垂れる部下を見ながら呟いた。
少し前まで確実にここに居たはずの“仲間”をまた見失い、誰も言葉を発せなかった。
だが、沈黙は唐突に破られた。
「おい、これっ……!」
キバと赤丸が、カカシにあるものを見せた。
「これは……」
瓦礫の中で見つけたというそれは、
「……オレがナナに渡した物だ……」
ひび割れた暗部の仮面と、焦げた忍刀だった。
彼らの中に、先ほどの暁の二人の会話が甦る。
『和泉菜々葉はどうした?』
『……さすがの和泉の姫も、今度こそ壊れそうだ』
ナナは何を見た……?
何をしようとした……?
何を抱えていた……?
「ナナは……なんで、なんでナナがここに……」
やっと、ナルトがそう呟いた。
ひび割れた面を手にとって、まるで泣いているように流れる雫をそっと拭う。
「ナナは……」
カカシは焦げた刀を見下ろして告げた。
「ナナは、うちはイタチを知っていた……」
「え……?」
「知ってた……?」
「な、なんで……」
湿った空気に動揺が走る。
ヤマトさえ、カカシの右目を凝視した。
「“うちは”と“和泉”……、一族同士が秘密裏に決めた許婚だったらしい……」
いち早く事情を飲み込んだヤマトとサクラは目を伏せた。
カカシの『秘密裏に』という言葉が、重く圧し掛かる。
彼らはもう、ナナの“姓”と“血”を知らないわけではなかった。
伝説の一族が今も存在し、ナナがその末裔だったと知ったとき、ナナを理解できたつもりだった。
それと共に、ナナが抱えるものがわからなくなっていた。
なぜ、伝説の陰陽師一族の娘が、たった一人で忍里に来たのか……。
なぜ、忍になったのか……。
今また、新たにナナが背負わされたものの重さを知ることとなる。
なぜ、“うちは”の男と許婚だったのか……。
「ま、まさか……ナナは、うちはイタチのこと……」
キバが苦しげに呟いた。
絶望の時、たいてい推測は全て悪い方へと向かうものだ。
今回もその例に漏れず、彼らの推測は最悪の方向へ走っていた。
「……“大切な人間だ”と……ナナは言っていた……」
そして、カカシの答えはそれを肯定した。
あるいはその逆だったなら……。許婚とは名ばかりで、当人同士が疎遠な関係だったなら……。淡くそう思った。
だが、現実は残酷だった。
「じゃあ……ナナはどんな気持ちでっ……!」
想像できるはずなどなかった。
ナナがどんな気持ちで、“大切な人間”であるイタチと、彼を殺そうとしたサスケの間に立ったのか。この修羅の地に、どんな闇を抱えて立っていたのか。何を見つめ、何をしたかったのか。
誰も、わかるはずなどなかった。
ナナが例えば、何処かで無事でいたとしても……イタチを殺したサスケと、サスケへの想いをどうするのか……。
ナナが何を護って、何を始末するのか……。
彼らが馳せる想いは、ただ湿った空気を虚しく彷徨うだけだった。