ひと葉 ~弐の巻~   作:亜空@UZUHA

51 / 69
残像

 

 暁の衣の男が二人……、ナナとサスケ、そしてイタチの遺体を連れて去った後、其の場所にはようやく木ノ葉の小隊が辿り着いた。

 明らかに戦闘のために破壊された建物の残骸。

 先ほどまで激しい雨が降っていたにもかかわらず、周囲には黒い炎が消えずに燻っている。

 まだ新しいその爪痕を前に、彼らは立ち尽くしていた。

 捜し求めていた“うちは”の者たちの姿は、すでに無かった。

 

 

 少し前、彼らは暁の男と交戦中だった。

 見たことも無いその特異な術に、カカシやヤマトすら動揺を隠せない中、突然戦闘は中断された。

 

「終ワッタゾ」

 

 不意に、もう一人の暁の男が現れたのだ。

 そして仲間にこう告げた。

 

「サスケの勝ちだよ。イタチは死んだ」

 

 一瞬、木ノ葉の忍たちは引きつった。

 あまりに唐突に突きつけられた結末……。

 それが意味するものを、すぐには理解しようもなかった。

 が、暁の者たちがそんな暇を与えるわけもなく。

 

「思ったとおりの結末だったな」

「サスケも倒れちゃった……。結構ギリギリの状態かも」

 

 二人は淡々と言葉を交わし、彼らにとってさらに衝撃的な名を出した。

 

「和泉菜々葉はどうした?」

 

 その名が誰を意味するのか、皆知っていた。

 が、その名の持ち主が、“そこ”にいるのかはわからなかった。

 

 

 

「少しだけ匂いが残ってるけど……」

「この雨で流されたか……」

「これ以上の追跡は無理だな……」

 

 カカシと忍犬は、うな垂れる部下を見ながら呟いた。

 少し前まで確実にここに居たはずの“仲間”をまた見失い、誰も言葉を発せなかった。

 だが、沈黙は唐突に破られた。

 

「おい、これっ……!」

 

 キバと赤丸が、カカシにあるものを見せた。

 

「これは……」

 

 瓦礫の中で見つけたというそれは、

 

「……オレがナナに渡した物だ……」

 

 ひび割れた暗部の仮面と、焦げた忍刀だった。

 彼らの中に、先ほどの暁の二人の会話が甦る。

 

『和泉菜々葉はどうした?』

『……さすがの和泉の姫も、今度こそ壊れそうだ』

 

 ナナは何を見た……?

 何をしようとした……?

 何を抱えていた……?

 

「ナナは……なんで、なんでナナがここに……」

 

 やっと、ナルトがそう呟いた。

 ひび割れた面を手にとって、まるで泣いているように流れる雫をそっと拭う。

 

「ナナは……」

 

 カカシは焦げた刀を見下ろして告げた。

 

「ナナは、うちはイタチを知っていた……」

「え……?」

「知ってた……?」

「な、なんで……」

 

 湿った空気に動揺が走る。

 ヤマトさえ、カカシの右目を凝視した。

 

「“うちは”と“和泉”……、一族同士が秘密裏に決めた許婚だったらしい……」

 

 いち早く事情を飲み込んだヤマトとサクラは目を伏せた。

 カカシの『秘密裏に』という言葉が、重く圧し掛かる。

 彼らはもう、ナナの“姓”と“血”を知らないわけではなかった。

 伝説の一族が今も存在し、ナナがその末裔だったと知ったとき、ナナを理解できたつもりだった。

 それと共に、ナナが抱えるものがわからなくなっていた。

 なぜ、伝説の陰陽師一族の娘が、たった一人で忍里に来たのか……。

 なぜ、忍になったのか……。

 今また、新たにナナが背負わされたものの重さを知ることとなる。

 なぜ、“うちは”の男と許婚だったのか……。

 

「ま、まさか……ナナは、うちはイタチのこと……」

 

 キバが苦しげに呟いた。

 絶望の時、たいてい推測は全て悪い方へと向かうものだ。

 今回もその例に漏れず、彼らの推測は最悪の方向へ走っていた。

 

「……“大切な人間だ”と……ナナは言っていた……」

 

 そして、カカシの答えはそれを肯定した。

 あるいはその逆だったなら……。許婚とは名ばかりで、当人同士が疎遠な関係だったなら……。淡くそう思った。

 だが、現実は残酷だった。

 

「じゃあ……ナナはどんな気持ちでっ……!」

 

 想像できるはずなどなかった。

 ナナがどんな気持ちで、“大切な人間”であるイタチと、彼を殺そうとしたサスケの間に立ったのか。この修羅の地に、どんな闇を抱えて立っていたのか。何を見つめ、何をしたかったのか。

 誰も、わかるはずなどなかった。

 ナナが例えば、何処かで無事でいたとしても……イタチを殺したサスケと、サスケへの想いをどうするのか……。

 ナナが何を護って、何を始末するのか……。

 

 彼らが馳せる想いは、ただ湿った空気を虚しく彷徨うだけだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。