ひと葉 ~弐の巻~   作:亜空@UZUHA

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「外傷は大したことない。サイが持ち帰った資料のおかげで、投与されていた薬品もだいたい判明した。臓器も傷つけられてはいない。だが……」

 

 火影は苛立ったようにカルテをパンパンと叩きながら告げた。

 

「血を抜かれ過ぎている」

「血……」

 

 病室のベッドに寝かされたナナは、弱々しくもちゃんと自分で呼吸していた。

 いや、呼吸しかしていなかった……という表現が正しい。カカシにはそう思えた。

 

「出血性ショックを起こさないギリギリの量だ……」

「“和泉の血”について研究しようとしていたんでしょう」

 

 カカシは反射的にそう言った。

 ヤマトもサイも口にしなかったことだ。が、二人もとっくに気づいていた。

 火影も何も答えない。

 ナナは……“和泉の血”は、いかにもダンゾウが好みそうな秘めた力を持つ血……。

 ナナが単独で里を出た絶好のタイミングで、あの男はそれを手に入れようとしたのだろう。きっともうずっと前から、いや、()()()()それを狙っていたに違いない。

 部下に命じてついにナナの捕獲に成功したが、その部下が何故か最後まで役目を果たせなかったのだ。

 

「“あの方”を締め上げたところで、そんな施設は知らないとシラを切りとおすに決まっていますが」

 

 ヤマトとサイの存在があったおかげでどうにか今まで冷静さを保っていたが、火影の前でつい棘のある口調になってしまう。

 

「あの場にいた“根”の者や“博士”と呼ばれていた者たちを捕まえようにも、とっくに“あの方”に報告した後で姿を消しているはずですしね」

「消しているか、消されているか……」

 

 火影は同調するように吐き捨てた。

 カカシはため息をつきながらナナに視線を戻した。

 懸命に戦って、抗って、傷つき果てたナナ。その敵は決して自分から産み出したものでなく、理不尽に降りかかっていた厄災であるのに……。

 あの時と同じだった。カカシの脳裏に、あの時の光景が自然と浮かび上がる。

 サスケの奪還に失敗し、実の姉に呪印を奪われ、ボロボロの状態でこんなふうにベッドに横たわっていたときの光景が……。目を覚ましても、生気を失って蝋人形のようだったナナの姿が。

 

「ナナを行かせた結果がこれだ……私は自分の判断を呪うよ」

 

 火影も同じものを見たのだろうか。低い声でそうつぶやいた。

 

「ナナにその意志をもたせたのはオレです」

 

 里の長としての立場も、長く里に貢献する忍の立場も忘れ、二人して弱い言葉を呟く。

 今さら何を話しても少しも慰めにならないことは、互いに良くわかっているはずなのに。

 

「ナナは……」

 

 それでもカカシは真実を明かした。

 

「イタチの許婚だったそうです……」

 

 ナナがイタチとサスケの争いを止めたかった訳を。

 

「あんな使命を背負わされて、和泉の里での孤独な暮らしを強いられた中で、たったひとり、心を許せる相手だったと……」

 

 ナナにとってイタチという存在がいかに大切だったかを。

 

「だから、ナナはイタチがしたことを信じていなかった」

 

 それを失ったナナ……。そして、失わせたのは……。

 

「……サスケとすれ違うわけだ……」

 

 火影はその事実が今更明らかにされたことでなく、その“結果”に対して擦り切れた言葉をこぼした。

 ナナの想いを知らないわけじゃなかった。

カカシも火影も、それなりに内容の濃い人生を歩んできている。

 人より辛いことも経験し、人の心の深いところを見てきてもいた。

 だからこそ、まだ幼さの残るナナが負った傷の痛みがわかってしまう。

 

「そんなところを狙いやがってっ……ダンゾウめっ!」

 

 火影の方から歯が軋む音が聞こえた。

 

「“あの方”は鼻が利く……。すでに地下に隠れているでしょうが、次に見かけたらオレも平静でいる自信はないですね」

 

 カカシも憚らずそんなことを口にした。

 怒りと悲壮感が空気に溶け込んだ。

 

「とにかく、医療班総出でナナの回復に努める」

 

 それに染まってしまいそうになる前に、火影はすっかりよれたカルテをめくりながら言った。

 

「……と言っても、お前も知っているだろうがナナに輸血はできない。自己血輸血で貯血はあるが……、ナナはもともと貧血体質だからな。今あるストックではとても足りない。造血薬が必要になる」

「しばらくは安静が必要ですね……」

「ああ。回復には時間がかかるだろうが……。病室は私の手の者に警護させる」

 

 『私の手の者』を強調し、火影はカルテを閉じた。

 

「もうすぐナルトが駆け込んでくるだろう……」

 

 そしてため息をついた。

 

「アイツがダンゾウを探しに飛び出して行かないようにだけ注意してくれ」

「わかってます」

 

 少しだけ苦笑した。

 血相を変えて飛んで来るナナの仲間たちが想像できた。

 彼らの悲しみ、怒りに共感できることは、ほんの少しだけ救いだった。

 

「それと、お前もな」

 

 火影は念を押すように鋭い視線を向けた。

 

「はい」

 

 それを受け止め、自身にも念を押した。

 今動いても、恐らく成果は得られない。ダンゾウという人を見くびってはいけない。だからこそ火影は何も命じなかった……。

 

「警護の者を手配するまでお前がついててやれ」

 

 火影はそう言って病室を去った。

 カカシはサイから事情を聞いたナルトが飛び込んで来るまでずっと、死人のようなナナの顔を見つめていた。

 

 

 

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