ただ本能のままに……そう、里を護るプログラムを遂行していた。
何を想うわけでもなく、何かを感じることもせず、ただ脳に刻まれたこと、身体が覚えていることを実行するだけ……。
そのはずだったのに、性懲りもなく涙が流れた。
また、大切な人を失った。
あれほど泣いたのに……もう心は砕けてしまって、形などないと思っていたのに……、胸の中で悲しみが暴れ出す。
それでもナナは無理やり立ち上がった。
この痛みに耐える気力はとっくに捨て去っていたから、また立ち上がった。
さっきまでの自分に戻るために。
『決意』や『想い』なんかじゃなく、ただ本能のままに使命を果たすだけの自分に戻るために。
ナナは思い浮かぶカカシの姿を振り払った。
そして血がついたままの手で涙を拭うと、一気に戦場へと駆け出した。
裸足のまま揺れる地面に降り立つと、瓦礫の影から小さな白い生き物が寄って来た。
綱手の口寄せ、『カツユ』だった。
「ナナ様!」
「カツユ?」
ナナはそれを片手で拾い上げた。
「そんなお身体で戦うおつもりですか?」
「それが私の使命だから」
カツユでさえも戸惑いを見せた。が、それ以上は何も言わなかった。
「では、私を
「里のみんなについたの?」
「はい、ほぼ全員に。傷の治癒などを行っています」
ナナは小さくうなずいて、カツユを肩に乗せた。
「一番近くの敵は?」
「あの壊れた建物の向こうです。忍が二名戦っていますが、危険な状況です」
「わかった」
ナナはすぐさま走りだした。
途中、カツユは現状をまとめて伝えた。
里を襲う敵……ペインのことで、明かされたことを全て。そしてそのための犠牲も……。
ナナは特に反応を返さず、敵の居場所まで走り切った。
そこでは暁の衣をまとった男が木ノ葉の忍を捉えていた。両腕にそれぞれ一人ずつ、首根っこを捕まえ締め上げている。
「うずまきナルトはどこだ? この里にいるのか? いないのか?」
忍は二人とも、苦しみながらこう答えた。
「知らねーよ!」
「さっさと失せろ!!」
そこへ、ナナはサクラのクナイを飛ばした。
クナイは暁の男の額にまっすぐ向かったが、男はそれを避けた。当たりはしなかったが、反動で手から力が抜け、忍たちは解放されて下に落ちた。
「ここから撤退してください」
ナナは暁の男を見据えたまま彼らに言った。
当然、忍たちは共に戦うことを主張するが、ナナはそれを黙らせた。
「ここは私がやります。負傷者を早く病院に運んでください」
忍は口をつぐみ、負傷者と遺体を担いでその場を去った。
暁の男は彼らを追わず、体勢を立て直してナナに向き合った。
「お前は知っているか?」
少しずつ、近づいて来ながら。
「うずまきナルトはどこにいる?」
そう問うた。
「ナルトを探してるの……?」
ナナは冷ややかに笑った。
「“口で”聞かれても答えるわけないでしょう?」
男は目つきを鋭くした。そして時間の無駄とでも言うように、すぐさま術を発動させた。
男の手が伸びて、あっさりとナナの首を掴んだ。
「ナナ様っ?!」
ナナの肩にいたカツユが払い落された。
木ノ葉の忍たちを逃がしたからといって、ナナに男と戦う気はまったくなかった。今の状態で戦えると意気込むほど、うぬぼれてはいなかった。
「言え、うずまきナルトはどこだ?」
と、ナナの目には男の背後に『王』の冠をつけた物体が現れるのが見えた。
「言わぬのなら、“判決”をくだしてやろう……」
男がそう言うと、その物体の“口”のような部分がガバッと開き、中から手が現れた。
それと同時に、ナナの体内からも何かが吐き出されるような感覚があった。
「なる……ほどね……」
気道を抑えられ、呼吸は苦しかった。が、ナナは冷たく呟いた。
その感覚は知っていた。彼女自身、よく“扱う”ものだったからだ。
「
男の表情が一瞬強張った。奇妙な物体から伸びて来た手も、ナナの目の前で止まる。
ナナは血が滲んだままの手で印を結んだ。
それは目の前の男ではなく、その後ろの物体に対しての術だった。
キィィンと耳をつんざくような高い音がして、それは一瞬でかき消えた。同時に、男も力を奪われたかのようにナナを放して尻もちをついた。
「お、お前は……」
男は咳き込むナナに向かって叫んだ。
「お前は何者だっ?!」
焦りを見せた男に対し、ナナは息を整えて答えた。
「あなたにとって私は“天敵”かもね……」
「なに……?!」
ナナは再び立ち上がり、落ちていたサクラのクナイを拾った。
「その術は私には効かない。絶対に」
そう言いながらその切っ先に術をかけた。もちろんそれも、忍の術ではないものだった。
「お前……和泉の人間か?」
ナナはクナイを構えた。
「そう」
そして短く答え、それを放った。
しかし、クナイが男に突き刺さることはなかった。
男が逃げたのではない。
「消えた……?」
まるで分身が解けた時のように、男の姿が煙となって消えたのだった。
「…………?!」
だが深く考える必要はなかった。はるか上空からただならぬ悪寒を感じ取ったのである。
ナナは空を見上げた。
暁の衣が、青い空にはためくのが見えた。
「あれは……?」
「ペインです……!!」
カツユがナナの肩に飛び乗って伝えた。
「何かしようとしています!!」
言われずともわかった。空の一点に、嫌な空気が集まっているようだ。
ナナはそれに近づこうと走りだした。
が、そうするにはあまりに力を使いすぎていた。
「ナナ様?!」
力が入らなかった。
瓦礫に手をついて息を整えるが、視界が狭くなり始めていた。
「ナナ様!」
カツユの声が遠くから聞こえた。
(使命……を……)
声に出す力は無かった。
もどかしさに歯を食いしばることもできず、ナナはただ空を見上げた。
暁の衣が風にはためいていた。
ほんの一瞬……、なんだか懐かしい気持ちになった。