ひと葉 ~弐の巻~   作:亜空@UZUHA

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第三段階

 

 ただ本能のままに……そう、里を護るプログラムを遂行していた。

 何を想うわけでもなく、何かを感じることもせず、ただ脳に刻まれたこと、身体が覚えていることを実行するだけ……。

 そのはずだったのに、性懲りもなく涙が流れた。

 また、大切な人を失った。

 あれほど泣いたのに……もう心は砕けてしまって、形などないと思っていたのに……、胸の中で悲しみが暴れ出す。

 それでもナナは無理やり立ち上がった。

 この痛みに耐える気力はとっくに捨て去っていたから、また立ち上がった。

 さっきまでの自分に戻るために。

 『決意』や『想い』なんかじゃなく、ただ本能のままに使命を果たすだけの自分に戻るために。

 ナナは思い浮かぶカカシの姿を振り払った。

 そして血がついたままの手で涙を拭うと、一気に戦場へと駆け出した。

 

 

 

 裸足のまま揺れる地面に降り立つと、瓦礫の影から小さな白い生き物が寄って来た。

 綱手の口寄せ、『カツユ』だった。

 

「ナナ様!」

「カツユ?」

 

 ナナはそれを片手で拾い上げた。

 

「そんなお身体で戦うおつもりですか?」

「それが私の使命だから」

 

 カツユでさえも戸惑いを見せた。が、それ以上は何も言わなかった。

 

「では、私を()()()戦ってください。里のみなさんについた私の分身を通じて、情報を共有しますから」

「里のみんなについたの?」

「はい、ほぼ全員に。傷の治癒などを行っています」

 

 ナナは小さくうなずいて、カツユを肩に乗せた。

 

「一番近くの敵は?」

「あの壊れた建物の向こうです。忍が二名戦っていますが、危険な状況です」

「わかった」

 

 ナナはすぐさま走りだした。

 途中、カツユは現状をまとめて伝えた。

 里を襲う敵……ペインのことで、明かされたことを全て。そしてそのための犠牲も……。

 ナナは特に反応を返さず、敵の居場所まで走り切った。

 そこでは暁の衣をまとった男が木ノ葉の忍を捉えていた。両腕にそれぞれ一人ずつ、首根っこを捕まえ締め上げている。

 

「うずまきナルトはどこだ? この里にいるのか? いないのか?」

 

 忍は二人とも、苦しみながらこう答えた。

 

「知らねーよ!」

「さっさと失せろ!!」

 

 そこへ、ナナはサクラのクナイを飛ばした。

 クナイは暁の男の額にまっすぐ向かったが、男はそれを避けた。当たりはしなかったが、反動で手から力が抜け、忍たちは解放されて下に落ちた。

 

「ここから撤退してください」

 

 ナナは暁の男を見据えたまま彼らに言った。

 当然、忍たちは共に戦うことを主張するが、ナナはそれを黙らせた。

 

「ここは私がやります。負傷者を早く病院に運んでください」

 

 忍は口をつぐみ、負傷者と遺体を担いでその場を去った。

 暁の男は彼らを追わず、体勢を立て直してナナに向き合った。

 

「お前は知っているか?」

 

 少しずつ、近づいて来ながら。

 

「うずまきナルトはどこにいる?」

 

 そう問うた。

 

「ナルトを探してるの……?」

 

 ナナは冷ややかに笑った。

 

「“口で”聞かれても答えるわけないでしょう?」

 

 男は目つきを鋭くした。そして時間の無駄とでも言うように、すぐさま術を発動させた。

 男の手が伸びて、あっさりとナナの首を掴んだ。

 

「ナナ様っ?!」

 

 ナナの肩にいたカツユが払い落された。

 木ノ葉の忍たちを逃がしたからといって、ナナに男と戦う気はまったくなかった。今の状態で戦えると意気込むほど、うぬぼれてはいなかった。

 

「言え、うずまきナルトはどこだ?」

 

 と、ナナの目には男の背後に『王』の冠をつけた物体が現れるのが見えた。

 

「言わぬのなら、“判決”をくだしてやろう……」

 

 男がそう言うと、その物体の“口”のような部分がガバッと開き、中から手が現れた。

 それと同時に、ナナの体内からも何かが吐き出されるような感覚があった。

 

「なる……ほどね……」

 

 気道を抑えられ、呼吸は苦しかった。が、ナナは冷たく呟いた。

 その感覚は知っていた。彼女自身、よく“扱う”ものだったからだ。

 

()()で……魂を吸い取るっ……てこと……?」

 

 男の表情が一瞬強張った。奇妙な物体から伸びて来た手も、ナナの目の前で止まる。

 ナナは血が滲んだままの手で印を結んだ。

 それは目の前の男ではなく、その後ろの物体に対しての術だった。

 キィィンと耳をつんざくような高い音がして、それは一瞬でかき消えた。同時に、男も力を奪われたかのようにナナを放して尻もちをついた。

 

「お、お前は……」

 

 男は咳き込むナナに向かって叫んだ。

 

「お前は何者だっ?!」

 

 焦りを見せた男に対し、ナナは息を整えて答えた。

 

「あなたにとって私は“天敵”かもね……」

「なに……?!」

 

 ナナは再び立ち上がり、落ちていたサクラのクナイを拾った。

 

「その術は私には効かない。絶対に」

 

 そう言いながらその切っ先に術をかけた。もちろんそれも、忍の術ではないものだった。

 

「お前……和泉の人間か?」

 

 ナナはクナイを構えた。

 

「そう」

 

 そして短く答え、それを放った。

 しかし、クナイが男に突き刺さることはなかった。

 男が逃げたのではない。

 

「消えた……?」

 

 まるで分身が解けた時のように、男の姿が煙となって消えたのだった。

 

「…………?!」

 

 だが深く考える必要はなかった。はるか上空からただならぬ悪寒を感じ取ったのである。

 ナナは空を見上げた。

 暁の衣が、青い空にはためくのが見えた。

 

「あれは……?」

「ペインです……!!」

 

 カツユがナナの肩に飛び乗って伝えた。

 

「何かしようとしています!!」

 

 言われずともわかった。空の一点に、嫌な空気が集まっているようだ。

 ナナはそれに近づこうと走りだした。

 が、そうするにはあまりに力を使いすぎていた。

 

「ナナ様?!」

 

 力が入らなかった。

 瓦礫に手をついて息を整えるが、視界が狭くなり始めていた。

 

「ナナ様!」

 

 カツユの声が遠くから聞こえた。

 

(使命……を……)

 

 声に出す力は無かった。

 もどかしさに歯を食いしばることもできず、ナナはただ空を見上げた。

 暁の衣が風にはためいていた。

 ほんの一瞬……、なんだか懐かしい気持ちになった。

 

 

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