ひと葉 ~弐の巻~   作:亜空@UZUHA

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「父ちゃん」

 

 ナルトはようやくそう呼んだ。

 やっと知った“父親”という存在。

 それがわかったという喜びは、言葉に表せるものではなかった。

 憧れてやまなかった四代目火影と、父子という深い絆で繋がっていたことが嬉しかった。

 何故、九尾をこの身に封印したのか……。当然、積年の疑問と怒りもこみ上げた。

 だがそれをぶつけてみて、受け止められたとき……、やはり喜びが勝ってしまった。

 

「お前に九尾のチャクラを半分残して封印したのは、お前がきっとこの力を使いこなすと信じていたからだ。()()()()()だからね」

 

 そんなふうに言われたから。

 そしてまた、そうせざるを得なかった然るべき理由も明かされた。

 16年前の九尾襲来。あれは天災などではなく、九尾を操った黒幕がいる……と。

 父は、それが暁の()()()で、彼はきっとまた木ノ葉を襲うだろうとも言った。そして、ペインは木ノ葉への恨みをその面の男に利用され、操られたのだろうと。

 混乱の中、父は自分に“答え”を託した。

 忍の世に産まれ続ける『争い』、そして『憎しみ』の連鎖。決して抜け出すことのできない『必然』。それを終わらせる“答え”とは……?

 ペインに投げかけられた問いにも答えることができなかった。

 本当の平和とは何なのか……どうすれば掴みとれるのか……。

 四代目火影の父ですら「わからない」と言い切る。

 

「エロ仙人や四代目にわかんなかったことが、オレにできるわけねーだろ!」

 

 が、父はナルトの頭に手をやってはっきりと言った。

 

「ナルト、お前ならその“答え”をみつけられる」

 

 まっすぐな瞳だった。

 

「オレはそう信じている……」

 

 その笑みに、ナルトは本当に彼が“父親”なのだと実感した。

 まぎれもなく、親が子に与える想いがあったから。知らなかったはずなのに、それがわかったから。

 チャクラが消えかけ、父の姿が霞み始めた。

 別れの時がもう訪れていた。

 父は最後のチャクラで封印を組み直し、そして全てを託すような強い視線をよこしてから、ふいに笑んで言った。

 

「ほら、“迎え”が来たよ、ナルト」

「え……?」

 

 その視線につられて後ろを振り返る。

 何もなかった空間に、白い袴姿の少女が立っていた。

 

「ナナ……?!」

 

 ナナは怯えたような顔をしていた。

 自身がどこにいるかわからないような戸惑いを、素直にかもし出していた。

 

「四代目さま……?」

 

 ナナは震えるような瞳で、すでに消えかかっている父を見上げた。

 

「木ノ葉はまだやりなおせる……頼んだよ、ナルト」

 

 いよいよ別れの時が迫っていた。もう、父の姿は陽炎のようになっている。

 

「ナナを護れよ」

 

 四代目は最後にナルトにそう言って笑った。

 

「任せろってばよ! 父ちゃん!」

 

 力いっぱいうなずいた瞬間、その姿は幻のように目の前から消えた。

 

「ナナ……」

 

 父を見送って、ナルトは再びナナを見た。

 

「ナルト……」

 

 その目はナルトを遠慮がちに見返した。

 ナルトは思わず、ナナの冷たい手を握っていた。

 ナナの目から涙がこぼれた……。

 

 その雫が落ちる瞬間、優しくて温かい空間は消え去った。

 

 

 

 

 ひとつ瞬きをした後、優しさと温かさの代わりに、怒りと冷たさに包まれていた。

 だが、もうそんな空気に侵されはしなかった。

 

(ありがとう、父ちゃん……!)

 

 ペインの造った巨大な土の塊が、木ノ葉近くの森の上に浮かんでいた。

 二人はその上に立っている。

 放せばすぐに遥か地上へと落ちて行きそうなナナをしっかり抱えて、ナルトはペインを見据えた。

 里の方から土煙が上がっているのが視界に入った。

 嫌な予感と焦りを抑えつけ、ナルトはナナを地上に降ろした。

 そして再びペインと対峙する。

 

「お前の“本体”のところへ連れて行け! 直接話したいことがある!」

 

 自身の中に強い芯を感じていた。

 

「ナルト……」

 

 と、ナナは不安気にこちらを見つめる。

 『ナナを護れ』という父の言葉も、その芯の一部になっている。

 

「ナナ、お前はここで待ってろ。心配すんな、オレがなんとかするってばよ!」

 

 そう言って、ナナの細い肩に上着をかけた。

 

「ナルト……!」

 

 壊れそうなくせに、ナナはまだ足を動かそうとする。

 

「もう、お前はなにもしなくていい……!」

 

 それを押し留めた。

 

「大丈夫だ!」

 

 そして、できるだけいつものようにそう言って、ペインの方へと走った。

 胸の中には『強さ』を感じた。さっきまでの迷いは消えた。『まっすぐ』な強さだった。

 父が信じてくれた。師からも託された。一番近くにナナがいる。彼女も仲間たちを護りたい。里も護りたい。

 想いは力になった。呆れるほど単純に。

 

「“答え”を持たぬお前ごとき……! 諦めろ!」

 

 ペインは怒りや憎しみをぶつけて来た。

 だが、迷わず投げ返した。

 

「オレが諦めるのを諦めろ!!」

 

 渾身の螺旋丸が、ペインの感情を粉砕した。

 乾いた空気が土煙を巻き上げ、視界が霞む。

 息を整えながら、しばしの沈黙に浸った。

 と……。

 

「ナルト」

 

 背にひどく弱々しい声がかけられた。

 

「ナナ、オレは……ペインの本体のとこに行く」

 

 続けてナナが何か言う前にそう告げた。

 決意は必然だった。

 カツユが「今度こそ増援」をと言ったが、首を横に振った。

 決着をつけなければならない。自分が。

 信じてもらった自分が、託された自分が。

 だが。

 

「私も行く」

 

 ナナは折れそうな姿でまっすぐにそう言った。

 改めて彼女を見つめる。

 ただでさえ頼りない入院着は汚れてボロボロで、胸の辺りは赤黒い血に染まっている。むき出しの手足はあちこち擦り向けて、髪も乱れてボサボサだ。

 そしていつものように顔色が最悪で、目の下は窪み、唇も紫で、やっと呼吸しているようにも見える。涙の痕さえも埃で黒ずんでいる。

 が……。

 

「私も連れて行って」

 

 その目には光が在った。

 決して強くはない。だがまっすぐで……、悲しくて綺麗で哀れな光に見えた。

 

「私は……」

 

 ナナはその目を伏せた。

 

「私はナルトの“影”だから……」

 

 そしてそんなことを言う。

 

「アナタが確かめようとしてるなら、私は見届けたい」

 

 決意の言葉とは裏腹に、ナナの姿は儚げだった。

 

「私がさっき……あそこに居たわけを……ナルトはもう……知ってるでしょう……?」

 

 そう……ナルトは知っていた。

 九尾と対峙して、さらに父とまで出会った空間にナナが現れたことを、自分は少しも不思議に思わなかった。

 

「私は……」

 

 ナナは初めて口にする言葉を紡ぐ。

 きっと、決して告げることを許されなかった真実を。ずっと抱え込んできたモノを。

 

 

「アナタを殺すために作られた……」

 

 

 不思議と、衝撃も驚愕も無かった。

 あるのはただ、ナナがそれを面と向って告げたことへの戸惑いが少しだけ。

 

「アナタが九尾に喰われれば、私はアナタを殺して九尾の新たな器となる……。私はそのために産み出され、木ノ葉へ来た」

「ナナ……」

 

 ナナはひと息に全てを語った、

 

「もう……知ってたよね……?」

 

 ナナの“血”が明らかになった時、本当は気づいていた。

 何故“和泉”の少女が木ノ葉へ来て、忍になろうとしていたのか。何故“和泉”の少女がいつも自分の側にいたのか。

 

「九尾の封印が解ければ、私は九尾を封じる。そうすればアナタは死ぬ……。九尾を封じた私も、私じゃなくなる。だから……」

 

 風はまだきな臭かった。

 

「アナタが消えれば私も消えるってことだから……」

 

 それでも、ナナの周りに流れるのは冷涼な風だった。

 

「だから……私はアナタの“影”」

「ナナ……」

 

 ナルトは拳を握った。ナナの言葉を否定することなどできなかった。

 現に先刻、九尾の“棲みか”にナナが居たから。

 慰めなんて要らない。無駄なことだ。自分はそれを知っている。

 

「ナナ……」

 

 ナルトは腹に手をやった。

 

(こんなモノでも……)

 

 

「コイツのせいでも……お前とオレは繋がってたんだな」

 

 

 二人のその繋がりが“絆”という形であることを願って、ナルトは言った。

 

「ナルト……」

 

 ナナは驚いたように目を見開いた。

 彼女のうしろめたさはわかっていた。

 でも、ずっと前から自分に向けられた笑みが偽りなんかじゃないと、ナルトは言いきれた。

 

「そうだな……影っていうか、オレとお前は“運命共同体”ってヤツなんだな……」

 

 だから自然と笑えた。

 事実、悲しくなんかなかった。

 ナナもかすかに口元を揺らした。

 そう……どんな形でも、二人の間には確かな“絆”があったのだ。

 

「ナルト……アナタの“答え”を、私に見届けさせて」

 

 それをはっきりと確信して、ナルトは腹のあたりをギュッと抑えた。

 ナナも胸のあたりをギュッと抑えた。

 

「わかった……!」

 

 カツユは止めたが、聞き入れる気は無かった。

 二人は“運命共同体”……一蓮托生なのだから。

 

「一緒に行こう」

 

 ナルトはナナの手をとった。

 

「うん」

 

 ナナはその手をしっかりと握り返した。

 

 

 

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