焚き火がパチパチと音を立てていた。
このどこかよくわからない静かな場所で、思いがけずに“父”との再会を果たした。
今さらだったが、“父”に思っていたことを伝えられた。別れた当初はとても言えなかった言葉を、今なら素直に言えた。
やっと、胸のつかえがひとつとれた。
父も穏やかな顔をしている。
少しだけ気恥ずかしくて、心からほっとしたその時、
『カカシ先生……!』
どこからか、自分を呼ぶ声が聞こえた。
「…………?!」
“こんな場所”に、何故……?
辺りを見回すが、暗いだけで何も無い。
『カカシ先生……!!』
声は何故だか悲痛だった。
「まさか……」
その声に、確かに聞き覚えがあった。
「迎えが来たようだな」
父が言った。
「迎え?」
「お前がこっちに来るにはまだ早すぎたようだ。お前にはまだやるべきことがある」
「父さん……!」
父の姿が霞み始めた。
「お前と話せてよかったよ、カカシ。オレを許してくれて本当にありがとう」
父は安堵の笑みを浮かべていた。
「これでやっと、母さんに会える」
父はその言葉を残して消えてしまった。
「…………!?」
声が途切れた瞬間に、焚き火も消えた。
辺りは上も下もわからぬほどの暗闇になった。
「カカシ先生!!」
が、惑う暇はなかった。
すぐにまた、か細い声が聞こえた。
「ナナ?!」
瞬間、覚えのある細い腕が思い切りしがみついて来た。
「……ナナ……?!」
恐る恐る、その身体に手を沿える。
「カカシ先生……」
ナナはゆっくりとこちらを見上げた。
次第に、周囲は明るくなり始めた。
「よかった……見つけられた……」
ナナは、安堵したような困ったような、複雑な顔をしていた。
この場所がどこで、ナナが何をしに来たのか、カカシはやっとわかった。
「先生……まだ逝っちゃダメだよ」
「ナナ……」
「勝手にいなくなるなんて……」
「ごめんね……」
ナナは弱々しく笑んだ。
纏う純白の袴に溶けそうなほど、青白い頬で。
「先生、帰ろ」
そして、そう言ってカカシの腕にしがみついたまま、闇の奥へ視線を向けた。
「みんな! こっち……!!」
ナナは暗闇に向かって声をかけた。
カカシの感覚では、何の気配もないただの暗闇だった。
が、ナナの声に呼応するように、次々と人の姿が浮かび上がっていく。
「みんな……! 私の声を聞いて……! 私を見つけて……!」
ナナの声色は決して強くはなかった。だが、抗うことができない不思議な響だった。
そろり、そろり……、と、人々はナナの方へ近づいて来た。
年をとった者、働き盛りの若者、中年の男女、そして忍装束の者。子供もいた。
「大丈夫、みんなで帰ろう……!」
その誰もが、木ノ葉の人間だった。
「木ノ葉に帰ろう……!」
知っている顔もあった。
「シズネさん! こっち!」
「え、ええ……」
皆、少しずつナナの声に反応し、徐々に表情を取り戻していく。
すると、ひとりの子供が大声で泣き出した。
「大丈夫だよ」
ナナはカカシの腕を掴んだまま、子供に手を差し伸べた。
「一緒に帰ろう」
「おうち、帰れる?」
子供はしゃっくり上げながら、ナナにしがみついて来た。
「大丈夫だよ、もうすぐおうちに帰れるから」
ナナは優しくその子の頭を抱いた。
そして、
「ちゃんとついて来てね」
里の者たちにもそう言って、最後にカカシを見上げた。
カカシが小さくうなずくと、ナナは後ろを振り返った。
いつの間にか、そこには白い光の塊があった。
「ほら……木ノ葉に帰ろ」
ナナはまるで自分に言い聞かせるようにつぶやいて、光に向かって一歩踏み出した。
カカシも、子供も、つられて一歩……里の者たちも、足を一歩進めた……。
そうして突然、強い光に包まれ目が眩んだ。
次に目を開けると、もうナナはいなかった。
そして、見覚えのある青い空が広がっていた。
「カカシ先生?!」
自分を呼ぶ声がして反射的に起き上がると、チョウジとチョウザが驚いた顔で駆け寄って来た。
「カカシ! やはりお前もか!」
傍にいたカツユが全てを語ってくれた。
ナルトのとった行動と、長門の術……そして、
「ナナ……」
ナナの“技”を。
ナナの“導き”は夢でなかった。
彼女が今、ナルトと一緒にいると聞いて安心はした。
が、やけに強くしがみついて来たナナの手の感触がまだ、腕にしっかりと残っていた。